銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第12話

[幕間]

 

連携会議は荒れに荒れた。

私は事前にお互いの折衷案を提出し、兄からはメルカッツ提督に上奏して

貰う約束をしていたのだが、ライザ提督側からは強烈な抵抗があった。

事前に提出した折衷案は以下になる。

 

枢軸軍総司令部総司令官はメルカッツ提督が当たり、隷下艦隊司令として

アンスバッハ少将、ライザ提督がこれに辺り、軍監としてグリルパルッアー中佐

と私がメルカッツ提督の幕僚に当たる。

尚、艦隊構成が不均質で、又、私兵という観点から、練度も低い事があり、

正規艦隊では中将が当たる艦隊司令に少将と無任所提督がこれに当たる事になる。

 

ライザ提督はこれを不服とし、まったくのフリーハンド、無任所提督の無任所艦隊

として、叛徒勢力の撃滅に当たりたいと主張、だがメルカッツ提督はこれに強く

反対した。

理由は一つ。

一定の軍としての形を持っていた私兵勢力だが、ここ最近、ブラウンシュバイク・リ

ッテンハイム枢軸軍として再編成されてからはより、その私兵としての性質が強くな

り、もはや軍では無い、何かになろうとしており、それをこの老練な提督は危惧していた。

 

「ライザ提督。ブラウンシュバイク公から最終的な許諾採否権は儂に任せられて

いる。ここを譲るつもりは無い」

ライザ提督は激したように、いやこの女性は激するというよりも、その驕慢な性質こそ

が本来の本質なのかもしれない、自然に激した。

「馬鹿な!? 私は軍の人間じゃない、あくまでアドヴァイザーという形さね、軍人

のようにかちかちに縛られるつもりはないよ!」

「枢軸軍は軍隊であり、そこに規律がなければ存在自体が無に等しい…いや悪そのもの

だろうな…したがって貰いますぞ…たとえ貴族の令嬢と言えども」

ふんと鼻をならし、ライザ提督は数事反論したが、諦めたのか、席に着く。

「仕方が無いね…だが、軍人軍人規律規律言うけれど、何が規律と軍隊がそんなに

偉いのかい。私達貴族の存在こそが帝国の精髄そのもの。軍隊なんて飾りさ、覚えてお

きなさい」

 

兄はじっと口を閉ざし、二言三言確認の後、ようやく会議が終わった。

ようやく、私の折衷案が通ったようだ。

 

皆が退出した後、最後まで残り、座しながら瞑目していたメルカッツ提督に礼を言う。

「提督お骨折りありがとうございました。まさかここまで荒れるとは思っておりませんで

した」

目をあけ、メルカッツはその眠そうな視線を私に向ける。

「何、負けるにしても精々、犠牲を少なくするように算段するのも儂の仕事でからな」

「負け…ますか?」

「マークス中尉だったな…。病じゃいじゃよ…病んでいる階層が帝国には存在する、そ

してそんな病んだ柱がこの帝国は土台にしているんじゃ…救われ無い話だとは思わんかね?」

「提督は貴族の出と聞きましたが?」

メルカッツは首を傾げる。

「貴族とは名ばかりの、貧乏貴族だったな。そして食うために軍に入り、下のものにも多く

接した…そこで知ったわけだ」

しかし、何故、ライザ提督があそこまでフリーハンドを求めたか、私は知っている。

ロイエンタール提督への反目、そして操を奪われた恨みが、彼女を突き動かしていると、

思った。

むろん、口に出して話して良い事では無い。

 

その後、メルカッツ提督の場を辞した後、兄の元に向う。

「逞しくなったな、お前さんも」

兄は開口一番、そう口にした。

「兄さんは相変わらずです」

面白そうに、笑う兄アンスバッハ。

「先ほどはありがとうな。俺がもう少ししっかりしていればな…ライザ提督にはあまり恨ま

れたく無いんだ」

「どうしてですか?」

「下手をしたらメルカッツ提督を凌いで、枢軸軍の上に行くかもしれないからだ」

「メルカッツ提督は如何に上手に負けるかが肝要と言ってましたが」

「あの方としてはそうとしか言えないだろう。少なくとも俺はむざむざやられるつもりは

無いし、ライザ提督としても同じだろう、無能ものには無能もののやり様がある」

「兄さんは無能ではありませんよ」

「艦隊運動には自信が無いがな…。ライザ提督とて先の乱では敗れたが、あれで正規の士官

教育を受けていたら、中々良い所まで行った人材だと俺は思うがね」

その後、兄とは久しぶりに痛飲し、楽しい時を過ごすことが出来た。

 

そして艦隊編成も終え、ローエングラム元帥府隷下戦力8個艦隊12万8000隻、ブラウ

ンシュバイク・リッテンハイム枢軸軍2個艦隊26000隻が作戦行動に移った。

 

既に同盟軍はイゼルローン回廊から破竹の進軍を続け、帝国中枢部ヴァルキュリア行政区

に進行を開始している。

機は熟した。

帝国防衛作戦、コード・ヴァルキュリアのプレリュードとなる。


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