銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第10話

[蠢動]

 

イゼルローン要塞の陥落。

それは先のカストロプの乱が曖昧な形で終結し、私が暫しの休暇を

実家で過ごしていた、ある日。

軍上層部からの通信が届き、開くと一言だけ、イゼルローン要塞陥落。

よって貴官の休暇は本日1200をもって終了とするとだけあった。

茫然とし、ロイエンタール中将、そう予測どおり少将は中将に昇進し、

私も中尉に昇進したいた…に連絡を入れる。

 

「卿もご苦労だな。俺の所にもまだ情報は降りていない。ただ、あのお方、

ローエングラム元帥には正確な情報が降りていると思う。俺はこれから元帥府に

出かける所だが…そうだな、卿の顔見せもある、同行出来るか?」

「は、はい。急ぎ支度をします」

 

 

ロイエンタール中将が所属する、ローエングラム元帥府、そこには綺羅星のような

将官の熱気で満ちていた。

ロイエンタール中将を探し、思わずきょろきょろとしてしまう。

「誰をお探しですか」

静かな声が響く。

赤毛のあの若者、キルヒアイス少将であった。

「ほう…貴方はそうですか、軍の道に進まれましたか」

「今はロイエンタール中将の元で副官補佐としてお世話になっております」

「そうでしたか。どうやらロイエンタール提督をお探しのようですね、こちらです」

態々キルヒアイス少将は自ら案内して下さり、ロイエンタール提督の元へとたどり着いた。

 

「マークス中尉、来たか」

「今参りました」

「今さっき公の方より下命が下った、どうやら叛徒はこれを機に帝国への大攻勢を

予定しているらしく、それを辺境ヨツンヘイム行政府で迎え撃つ予定だが、逐次軍は

後退させ、帝国内奥のヴァルキュリア行政府までは退く予定らしい」

私は嫌な思いに囚われる。

「消耗戦ですか」

眼光鋭く、ロイエンタール提督は頷く。

「その通り。だが卿は浮かない顔だな」

「あ、いえ、ただ巻き込まれる臣民の事を思うと」

「大丈夫だ。叛徒のプロパガンダもある。必ず生活物質は配るという予測が立てられて

いるからな。向こうは選挙という茶番で指導者を決めている故にな」

「はい。今は生きて帰る事だけを考えます」

「それが良かろう。今回は厳しい戦いになる…まだ日は2~3日は余裕がある。卿も兄

上とでも今後を語らうが良かろう」

「ローエングラム公に提出したい議が御座います。少しお時間を宜しいでしょうか」

 

 

そして3日後。

 

「どうしたマークス?」

「兄さん、先日はありがとう御座いました」

「何の。ブラウンシュバイク公も懐が温まったたようで、二等兵まで臨時ボーナスが

支給され、俺がお前に感謝したいくらいだ、今度奢るぞ」

「いや、それは良いんですが、また一つお願いしたいこともありまして」

「何だ? またブラウンシュバイク公への頼みごとか?」

私は先日、ロイエンタール提督を通し、ラインハルト元帥の承認を取った、一つの

案のデータをそこで電送する。

それに目を通し兄は呟く。

「これは…嬉しい事を言ってくれるじゃないか、よし今回も頼まれるぞ」

 

コード・ヴァルキュリア

 

対同盟防衛戦争の名だが、その遂行はローエングラム元帥府が受け、他の戦力は一切

動かないのが当初の予定である。

貴族連は寧ろ、同士討ちを狙い、戦力を温存させている。

だが、対外的な名声を全てローエングラム伯爵のものとなっても困る。

そんな貴族連の考えに付けこんで、ブラウンシュバイク・リッテンハイム枢軸から、

2個艦隊26000隻を貴族側の責任者と共に、参加させる案をローエングラム伯爵に上梓し、

何とか私の考えを受けれて頂く事が出来た。

ローエングラム伯爵側の利としては、その軍勢に余する軍資金。

そして、貴族連の利としては、名声。

 

何とか少しでも、民衆の苦しみが減るよう、私はしたかった。

そして、それは極めて利己的な面もある…兄アンスバッハ少将の栄達である。

兄の栄達は私の栄達でもあった。


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