幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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幸夜ストーリーの続きです。


この後は風魔ストーリーに戻ります。


ゆっくりご覧ください。


第百十四話 操作人形➁

幽夜が復活した時、もう滅茶苦茶だった。

 

 

「ヒャッハー!!やーっと出れたぜ幻夜ァ!!」

 

 

世紀末を彷彿とさせる奇声と共に幻夜の口から血とともに流れ出てきた上に、形がなかった。

 

 

まるでカマキリに寄生していたハリガネムシのようだった。

 

 

俺はその瞬間幻夜に別人にされた。幻夜の人格でもクローンでもない人間に。それと共に膨大な幻夜の記憶が流れ込んで来た。俺を作った動機も。俺を見ているうちに戦わせるのを嫌になり始めた事も。

 

 

幻夜は俺に逃げて龍一に伝えろ。とでも言いたかったのだろうが、俺は後々の幽夜を糸で絡めて切断した。

 

 

「ゴホッ!・・・幻夜?」

 

 

「うぜえんだよ本体!人格から離反させてはい終わりか!なら、どうしようが俺の勝手だろうが!!」

 

 

俺は氷で幻夜と幽香を外に押し出すと、幽夜に向いた。足が相当震えた。幽夜を見て死んだと思った。

 

 

だが何故か・・・幻夜と幽香の事を考えると笑えた。

 

 

「幻夜はやらせねえぞ化け物。・・・数秒だけでも足止めしてやる。来いよ!!」

 

 

幽夜は幻夜の姿になると、俺に向いた。

 

 

「・・・うぜえ、うぜえぞてめえ!!」

 

 

結果は言わずもがな死んだ。秒殺。右腕にぶち抜かれて糸ごと砕け散った。一旦ここの記憶だけリセットされ、幻夜に再度召喚された。ここで完全に俺は人間になった。

 

 

「チッ!待ってろよ!!」

 

 

リセットされていた俺は龍一に報告した。途中幽夜に追い回されたが、今度は軽傷で済んだ。

 

 

そして色々あって・・・全員で幽夜に勝った。

 

 

記憶が直ぐに戻った俺は弱さに失望し、アシストに回ろうと思った。

 

 

戦闘は幻夜と幽夜に全部回す。そう考えた。

 

 

そして幽香と幻夜にかけられた冤罪の時も俺はアシストだけをこなした。

 

 

そこまでは良かった。

 

 

俺はその後始末の魂の回収の手伝いに回っていた時、ある魂を見つけた。

 

 

・・・なんと言ったか・・・ウォルター、だったか。その人は俺の中に入った。というか無理矢理入られた。その人の記憶を全部見せられた。ウォルターさんは爺になってもライバルと言える男と勝負し、若返るというインチキのせいで負けた。そして死んだ。楽しかったらしい。

俺はその人に糸の操り方を捻じ込まれた。

そのおかげで俺は糸操作に制限がなくなった。

龍一達には話していただけのように見えていたようだが、俺にとっては最大の転機かつ強烈な記憶だ。

 

俺はウォルターさんから片方だけの眼鏡を貰った。いつか着けるのだろうか?

 

 

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そこからアリスに会うまで、数か月を要した。アリスが全然人里に来なかったこともあるし、俺もマスター達にばれるのが嫌でマスター達がどこかに行くまであまり会おうとしなかった。

 

 

実際に会えたのはマスター達が外に行く!とかで消え去った時だった。幻夜には寺子屋の遠足と称してアリスの家に行った。遠足は上里のために降りた。・・・まさか先生が好きだったとはな。

 

 

俺はアリスの家の前に来た。ノックしようか迷っていると、雨が降り始めた。すぐさまノックした。アリスが出た。

 

 

「・・・あ、幻夜・・・久しぶり。」

 

 

「・・・ああ、久しぶり・・・だな。」

 

 

何をどう話したらいいか分からずに二人揃って微妙な空気になっていると、案の定、

 

 

「・・・やめろ上海!久しぶりで嬉しいのか怒ってるのか知らんがな?まつ毛を抜こうとするな!ランクアップしてんじゃねえよ!」

 

 

上海に毛を抜かれそうになった。俺が上海をつまみ上げてデコピンをしていると、アリスは笑った。

 

 

「・・・あはは、全然変わってないわね。・・・上がって?」

 

 

俺もつられて笑い、上海を肩に乗せて上がった。

 

 

俺はいつも通り椅子に座ると、アリスの方を眺めた。

 

 

アリスは眺めている俺が不思議なのか、こてんと首を傾げている。

 

 

・・・やべえ、こんなに可愛かったか?

 

 

「・・・?何か私の顔についてる?」

 

 

「いや、ついて・・・ねえよ。」

 

 

俺はアリスに好きだと言うつもりだったのだが何も言えず、ただの世間話しか出来なかった。正直ここで嫌われても文句は言えなかった。そのまま日は暮れた。

 

 

「・・・もう、こんな時間か。ごめんなアリス。急に押しかけて。」

 

 

「ううん、気にしないで。・・・楽しかったわ。ありがとう。」

 

 

相変わらず後ろ髪を引く上海を剥がして、夕日が薄く見える雨の中、家から出ようとした時だった。

 

 

「待って!」

 

 

俺はアリスに後ろ袖を引っ張られた。困惑したものの、アリスに向き直った。

 

 

「・・・あの、その・・・ごめんなさい。」

 

 

アリスは視線を右往左往させた後、涙を流し、こう言った。

 

 

「・・・また、ね?」

 

 

「・・・ッッッ!」

 

 

 

笑うつもりだったようだが、笑えずアリスは泣き始めた。俺は気が付くとアリスを抱きしめていた。アリスもしばらくは掴むもののない両手を泳がせていた。

 

 

「・・・あ、え?幻夜・・・?」

 

 

小さい涙声を出しながらアリスが困惑していた。そこに俺は

 

 

「・・・アリス・・・俺さぁ・・・」

 

 

アリスにそっと口付けをした。

 

 

「・・・お前の事、好きだぜ。」

 

 

アリスが、大声で泣いた。

 

 

「・・・え?ちょ・・・ごめん!?嫌だったよな!?」

 

 

慌てる俺をアリスが掴んだ。

 

 

「ううん、・・・幻夜、私も、」

 

 

大好き。そうアリスは笑って言った。

 

 

「・・・え?マジで?」

 

 

アリスは頷いた。

 

 

「うん、・・・七年ぐらい前から・・・好きだったよ?」

 

 

俺はそう言われ、顔が赤くなった。

 

 

「マジ・・・かよ・・・俺もだ・・・」

 

 

うん、とアリスは笑い、俺に抱きついた。

 

 

「そうか・・・良かった・・・」

 

 

俺はアリスを一度剥がし、ポケットに入れていた小さな箱を開いた。

 

 

「じゃあこれ。・・・俺と付き合ってくれるか?」

 

 

俺はアリスに水色の鉱石だけで作ったネックレスを渡した。

 

 

アリスはしばらくポカンとしていたが、俺のネックレスを着けた。

 

 

「・・・私こそ、宜しくお願いします。・・・似合ってる?」

 

 

雨が晴れた。夕日がネックレスに当たり、青とオレンジに輝いていた。

 

 

「・・・ああ、ああ、似合ってるよ・・・こんなに似合うもんかよ・・・痛っ!」

 

 

髪の毛が痛んだので肩を見ると、不機嫌そうに上海が自分を指差していた。

 

 

「あら、上海、あなたも欲しいの?」

 

 

アリスが面白そうに言う。上海は頷いた。

 

 

「・・・言うと思った。ほれ。」

 

 

俺は上海に人形サイズの水色と金色の糸で作ったカチューシャを渡した。

 

 

「糸の練習で出来た最高傑作品。やる。」

 

 

上海は嬉しかったのか俺の頬にキスをした。

 

 

「あ!こら!」

 

 

上海はしてやったと言うように俺の頭の上に乗った。アリスは悔しいのか上海を睨んでいた。人形だろ・・・

 

 

「ハハハ、まあよろしく。アリス?」

 

 

俺がそう言うと、パッとアリスの顔が夕陽に照らされて輝いた。

 

 

「うん、よろしく、幻夜!」

 

 

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・・・とかいう事があった。今思い返すと相当恥ずかしい。絶対にマスター達には言えねえ。

 

 

俺は結果としてアリスと付き合い、もう数か月は過ぎた。最高の生活だ。が、俺は人間だ。残念ながら幻夜のあらゆる術を持っていながら、スペックは低く、七人衆ではすぐに死ぬだろう。まあ術に関しては一番精巧だという自負はある。それに戦う理由も負けていない。

 

 

きっと俺は他の野郎と違って、彼女より先に死んでしまうだろう。だから俺は自分の身体にあるものを埋め込んだ。

 

 

アリスの作る人形のように、俺特製の人形用コアを心臓に埋めた。

 

 

だから俺は死んだ場合、人形として再燃する。アリスが望まずとも俺は人形として在り続ける。心臓から放出された糸で再度動く。

 

 

ある時、幽夜に言われた事がある。

 

 

操作人形(マリオネット)使い。糸を操る俺は、いずれ糸で操られる。いかにも俺に似合った名前だ。

 

 

将来は分からない。老いることも分からない。だがウォルターさんは老いることも人間だと言った。

 

 

俺は、俺だけは七人衆の中で人間であり続ける。化け物を止めるのは人間。ウォルターさんも言った。

 

 

俺はアリスと、上海と、生みの親の幻夜にも、受け入れてくれた慧音先生と上里にも、トリガーになった幽夜も龍一にも、全部に感謝している。

 

 

だから止める時は俺がやる。

 

 

人としてもまだ不完全な俺に出来ることはこれだ。

 

 

馬鹿野郎と言われても止まらない。

 

 

「・・・なあ、アリス。」

 

 

「何?」

 

 

「お前は俺が死んでも守るからな。」

 

 

「・・・何?いきなりそんなこと言って。」

 

 

「・・・なんでもねえよ。」

 

 

「ふふっ、変な人・・・」

 

俺は動く人形。自分で自分を動かす人形師。

 

 

だが・・・今は、マスター達と一緒に暴れてやろうと思う。

 

 

 

次回へ続く

 

 




ありがとうございました。


幸夜は自己犠牲精神が龍一に次いで高いです。特にアリスに関わると見境が無くなります。ところが上海に毒抜きされています。上海は良い子。癖はアリス以外に懐いた人の毛を引っ張ること。勿論幸夜とアリスが大好き。現在はアリス<幸夜で、ちょっとアリスが妬き気味。上海は幽夜と付き合うアリスに妬き気味。原因は幸夜が上海に渡した赤い菊(幻夜原産)。



次回もお楽しみに・・・と言いたいのですが、どうもpcの調子が悪いので相当の遅れが予想されます。と言うかアクセスすら出来ません。


確実に長くなりますが、次回もお楽しみに。






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