テイルズオブフェイシア ―己が神を信ずるRPG―   作:澄々紀行

26 / 28
Chapter24 旅路に転がる巡りの環

 

「嘘だあ」

 

 

 “フォルセは男”宣言から復活したシドの第一声は、疑心に満ち満ちたものだった。

 

 

「だってよお、こんな美人なのに女じゃない筈ねえ。オレの見立てに間違いはねえよお」

 

「間違いだらけです、悔い改めなさい!」

 

「いいやこれだけは譲れないな。確かめないと気が済まないぜ。……よっ」

 

 

 そう言うと、シドは大真面目な顔つきでスッと手を伸ばした。――むにっ。法衣に隠された臀部を掴む。あまりに普通に触ったものだから誰も反応できず、遺跡内に妙な空気が流れる。慣れた手つきが形を確かめ、全体をそろりと撫で上げたその瞬間、フォルセが声無き悲鳴をあげて飛び退いた。

 

 

「なっ……な、なっ! 何するんですかぁっ!‍?」

 

 

 顔を真っ赤にして怒鳴るフォルセを尻目に、シドは己の手を信じられないと言いたげに凝視した。

 

 

「……お、男のケツだ……!」

 

「当たり前でしょう!!」

 

「へーどれどれ……」

 

「真似するんじゃありません!」

 

 

 えー、とミレイは本気で残念がった。大きな眼を好奇心で光らせ、自分も触りたいと視線を向ける――見るな触るなと隠された。ちぇっと半分本気で舌打ちし、一体どんな触り心地だったのかと触った男に視線を向ける。

 

 

「マジか……本当に男なのか……」

 

「いつまで惚けてんのよ」

 

「いやあオレ、これでもヒトを見る目はあるんだ。取材にもナンパにも、観察力ってのは必要だろう? 個人的に男や“そういうの”を狙う時もあるが、このオレがマジで間違えるなんて……嬢さん、いや神父君。イイもん持ってる、自信持ってイイぜ」

 

「……何の自信ですか……」

 

 

 シドがグッと親指を立てて笑う。急にヒトの尻を触ったとは思えないほど、穏やかで真っ直ぐで澄んだ瞳だ。フォルセは力無く肩を落とした。目の前の記者にはことごとくトラブルを起こされている。いい加減地上へ戻ってお別れしたいが、本人の言った通りどこまでも着いてきそうな気がしてならない。

 

 

『あっははは! 大丈夫だ〈神の愛し子の剣〉。お前が女顔でも、試練は滞りなく進むから。……ぷぷぷ』

 

 

 肩で寛ぐあみぐるみ――ハーヴェスタが耳元で子供っぽく笑ってきた。馬鹿にされている。フォルセはしかめっ面を浮かべ、彼をじろりと睨んだ。

 

 ――ここに、とある事実がある。

 

 教団の神父フォルセ・ティティス。彼はどうしようもなく中性的な美人さんだった。

 

 常の微笑みは女神の愛を纏うかのよう、誰もに差し伸べられる手は白く滑らか。神父服を着ているからこそ男とわかる。それっぽい服装をしていたら誰もわからない。憂いを浮かべて酒を飲む金髪美人がいたら、それはもしかしたら神父のプライベートモードかもしれない。柔らかな雰囲気も相まって、十人いれば五人が性別で悩む、そんな微妙な面をしているのがフォルセであった。

 

 

「……誰が女顔ですか、そんなの不名誉なだけです……まったくっ!」

 

 

 柳眉をきりりとつり上げ、フォルセは首にかけたストールをぎゅうと握り締めてプイと踵を返した。ドスドスと彼らしからぬ足音をたてながら遺跡を突き進む様は、まるでちょっかいを出された猪のよう。そんな彼を嘲笑った罪人ハーヴェスタは、振り落とされないようわーわー言いながらしがみついている。

 

 二人と二人、それぞれ若干距離が開きつつも、一行は地上へ戻るべく遺跡を進む。

 

 

『気にするなよー〈神の愛し子の剣〉。お前の顔はあいつ譲りだし、気質も今のところは……あいつ譲りだし』

 

「……あいつ、というのは二千年前の勇者のことですか?」

 

『おう、見てて懐かしいくらい似てる。今度ゲイグスに来たら写真見せてやんよ。……あいつも、女扱いすると怒ってた』

 

 

 ハーヴェスタは花の形をしたビーズを飛ばして笑い、フォルセの肩の上で器用に寝転んだ。当然のように居座るつもりの彼を見て、フォルセの心が僅かに鎮まる。

 

 

「そんなに、似ているのですか……」

 

 

 孤児ゆえに血縁の顔を知らないフォルセにとって、その情報はとても気になるものだった。顔の似ている古の勇者――名も伝わっていない存在と同じように在ることができるだろうかと、見えない明日に思いを馳せる。

 

 落ち着きを取り戻し始めたフォルセを他所に、後ろの二人もまた会話を始めていた。

 

 

「……なあなあミレイ嬢、神父君と仲良くしてるあのあみにんの彼は何者だあ? ……試練とか、黙示録とかってのに関係してるのか?」

 

 

 メモ帳片手に、シドは遺跡内で響かない程度の声で尋ねた。フォルセに聞かれたらまただんまりを決められてしまう、ならばもう一人に聞くまでだと、期待を眼の裏に隠して聞く。

 

 

「あのヒトはハーヴェスタ。あんな姿してるけど、〈神の愛し子の剣〉の試練の審判者よ」

 

 

 ミレイは特に気にすることなく答えた。これは良い、とシドの顔がパッと明るくなり、メモする手付きも軽やかになる。

 

 

「〈神の愛し子の剣〉?」

 

「聖職者サマのことよ。黙示録に呼ばれた、勇者の力を持つ特別なヒト」

 

「勇者の力‍、ねえ。スケールのでかい話になってきたじゃねえの。……けどよ、国同士のいざこざが続いてるとはいえ、勇者が必要な御時世か?」

 

「……そういう世界になるのよ、これから」

 

 

 口の軽いミレイも、流石に魔王云々をどう伝えるべきか言いあぐねていた。思わせぶりな言い方がシドの好奇心を余計に煽る。シドは愛用のペンをくるくる回し、好物を見つけた肉食動物のように笑った。

 

 

「なんで勇者が必要になるんだ? 教えてくれよお」

 

「……千年前の魔王が復活したのよ。魔王ノックスっていうんだけど、あなた知ってる?」

 

「魔王ノックス? 〈魔王戦記〉に出てくる“夜の魔王”のことかあ?」

 

「‍? 〈魔王戦記〉って何?」

 

「おっと、嬢さんは劇とか興味ないクチ……っと、記憶喪失だったなあ。悪いことをした、ごめんなあ。

 〈魔王戦記〉ってのは、千年前、世界を混乱に陥れた“夜の魔王”と“四人の聖人達”の戦いのことさあ。聖人の一人グライアルドは我がサン=グリアード王国の建国者、リモーレはお隣セント=ルモルエ帝国の建国者だから、おとぎ話や劇で有名な話だぜ。

 ……で、その魔王が復活したんだって? 信じられねえなあ」

 

「信じられなくてもホントの話なのよ。魔王を倒すために、勇者の力が必要なの。あたし達はそのために……」

 

「ミレイ」

 

 

 いつの間にか二人の目前に控えていたフォルセが、彼らの口を縫うように呼び止めた。

 

 

「それ以上は、秘密です」

 

 

 「と言っても、殆ど話してしまったようですが」口止めしていなかったことを反省しつつ、フォルセはぽつりと呟いた。

 

 

「聖職者サマ……ご、ごめんなさい。つい」

 

「何だあ、イイじゃないか……言っただろう? 機密なら口外しない、時が来るまで記事にしないって」

 

 

 にこやかに笑うフォルセに対し、シドは不満を顕に言った。不機嫌ぶりがペンの振れ具合に表れている。が、口を閉じたままのフォルセを見て諦めたのか、今度は懇願するように弱々しい顔つきになった。

 

 

「頼むよう、神父君。スクープ持って帰らないと、編集長に廃棄されちまうんだよう……」

 

「先程も言いましたが、事はそう単純ではない。貴方のような立場の方に語っていいのか、私では判断できないのです」

 

「……千年前の魔王が復活したんだろう? 事は世界に及ぶじゃないか。オレはすぐにでも世界に発信すべきだと思うね。我が偉大なるサン=グリアード王国とセント=ルモルエ帝国、認めたくはないがクローシア皇国、世界は今この三国でできてる。昔とは違う」

 

 

 シドの言葉を聞いて、フォルセは困ったように目を細めた。彼の言う“昔”とは、まさに魔王ノックスの現れた千年前を指しているのだろう。当時はまだ王国も帝国もなく、小国同士のいざこざを教団が見守っていた。教団の力は強かった。だからこそ当時の魔王との戦いは教団主導で行われ、それをきっかけとして小国同士が纏まり、後のサン=グリアード王国、セント=ルモルエ帝国が生まれた。

 

 当時と違い、今は各国の影響力は強く、教団は逆に自治を認められている立場にある。シドの言う通り、此度の騒動は積極的に発信していくべきかもしれない。とはいえ、当事者であるフォルセがどう考えようと、決めるのは教団の上層部だ。秘密裏に行動しろと言われたら、そうする他ない。

 

 

「貴方の言うことも尤もですが、私の一存で決められるものではないので……」

 

「……くそう、口が硬いなあ。でもオレは諦めないぜ神父君。アンタの尻を鷲掴んだ勢いで、必ずスクープを掴んでやるぜ」

 

「はあ……」

 

 

 真っ直ぐすぎる瞳で言ってのけたシドに、フォルセは遠い目を浮かべるのだった。

 

 

 

***

 

 

 一行が進む道は正しかった。幾つ目かの石版を開けた先は地上の光が届く洞穴となっており、出口はコンフォ山脈の脇の森へと繋がっていた。

 

 日はすっかり暮れ、夕焼けが木々の隙間、地平の彼方より垣間見える。一行は急いで分断門のある御許の区へと戻り、そのまま騎士団の駐屯場所へと向かった。

 

 

「聞いてねえよお……いや聞いてたけどよお……」

 

 

 意気消沈するシドに、フォルセは堪らず苦笑した。向かった先にいたのは、フォルセとミレイの二人を心配し、一方で彼らを巻き込んだシドを叱咤しようと待ち構えていた騎士達だったのだから、シドが落ち込むのも当然であった。自業自得とも言える。こってりと絞られた彼の背は、どこか哀愁漂うように丸くなっている。

 

 

「まあまあ、あなたが巻き込んでくれたおかげで早くハーヴィに会えたんだし、落ち込むことないわよ」

 

「ミ、ミレイ嬢……うう、優しいなあ、ありがてえなあ」

 

「それにしても驚きました。まさかエイルー様がグラツィオを出立しているとは……」

 

 

 遺跡の騎士達に“地下にヘレティックがいた”ことを報せた際、フォルセは大司教エイルーからの言伝を受け取っていた。大司教曰く「異変が解決したらニクスヘイムに来るように。我はそこで待っている」とのこと。報告のためにグラツィオへ戻るつもりでいたフォルセは、思わぬ命令に戸惑いを隠せない。

 

 

「ニクスヘイムって、この先にある港町でしょ? いいじゃない、どうせ大陸を出るには港に行かなきゃいけないんだし。早く大司教サマに知らせて、黙示録の所持者だって認めてもらわなくちゃ」

 

 

 意気揚々と歩き出すミレイに引きずられるように、フォルセはニクスヘイム行きの馬車へと乗った。何も言わず、シドもちゃっかり着いてきている。熱心にメモ取りする姿からは先ほどまでの反省の色は見えず、フォルセは思わず厄介だな、と考えてしまった。

 

 

 

 夕暮れ時、ニクスヘイム行きの馬車に乗って半刻。一行はアリアン大陸の出入口――ギルド拠点ニクスヘイムへと辿り着いた。

 

 白亜の建物はグラツィオと同じだが、加えて色とりどりの旗が飾られており、それらを照らす人工灯は奇抜な――港町だからか、船のデザインをしていた。港へ続く道中には商人ギルドをはじめとする多くのギルド拠点、世界中の品々を扱う店が点在しており、夕暮れにも関わらず多くの人々が行き交っている。

 

 

「なあ頼むよ神父君……」

 

「駄目です」

 

「いれさせてくれよおっ!」

 

「色々と世話になりました、またどこかで」

 

 

 商店通りを過ぎ、騎士団駐屯地に辿り着いて――フォルセは心を鬼とし、シドに別れを告げた。シドが捨てられた子犬のような顔で抱きついてきても引き剥がし、にこやかに手を振り続ける。

 

 結局、見兼ねた騎士らによってシドは押さえられ、その間に二人は駐屯地へと入った。可哀想なことしちゃったわね、とミレイが呟く。フォルセは苦笑しつつ、エイルーの待つという一階のとある部屋に向かった。

 

 

「何やら騒がしかったな、司祭フォルセ」

 

 

 部屋に入った途端、優雅に茶を嗜んでいたエイルーからそう言われ、フォルセは渇いた笑いを浮かべた。彼女の足元には何やら古びた箱やら書物やらが沢山積まれている。何だろうかと密かに疑問を抱きながら、招かれるままに歩み寄る。

 

 

「エイルー様……我々が異変を解決すると、始めからわかっていらしたのですか?」

 

「異変は黙示録所持者と選ばれし者にしか解決できぬ――教皇ヘイムダルのお言葉だ。(ぬし)らがそうであるなら、すぐに解決できると思ったまで。……それで? 異変の正体は何だったのだ?」

 

「異変はこれよ。大司教サマ」

 

 

 『これって言うな!』ミレイに指さされ、ハーヴェスタはフォルセの肩の上から不機嫌そうに唇を尖らせた。

 

 

「……。喋る編みぐるみ、とな?」

 

「彼はハーヴェスタ。ゲイグスの世界で、あたし達を助けてくれた試練の審判者よ」

 

「……ハーヴェスタ、というのか」

 

「遺跡の奥にあった棺に閉じ込められておりました。恐らくは、伝説のあみにんなのではないかと……」

 

「ほう。あみにん……」

 

 

 エイルーの紫色の双眸が、ハーヴェスタを上から下までじっくりと見つめる。なんだよー、とたじろいだ彼に、エイルーはわざわざ立ち上がって手を伸ばし、柔らかく笑んだ。

 

 

「よろしく頼む、……ハーヴィ」

 

『! お、おー……よろしく……』

 

 

 無表情だった美貌に微笑まれたゆえか、ハーヴェスタは小さく縮こまりながら返事した。

 

 

「異変は解決した。……約束だ。我ら司教団、及び枢機卿団は、(ぬし)を黙示録の所持者と認めよう」

 

「! やった!」

 

 

 ミレイは小さく拳を掲げて喜んだ。フォルセもまた安堵したように息を吐く。

 

 

「これでやっと六聖地に向けて出発できるわね!」

 

『……? なんだ、六聖地って』

 

聖霊(ファスパリエ)の住む聖地のことよ! 知らないの、ハーヴィ」

 

『いや知ってるが……どうして六聖地に行くことになってんだ?』

 

「どうしてって……聖職者サマが言ったのよ。試練があと六つなら、試練は六聖地で行われるだろうって」

 

 

 「ねぇ?」ミレイに呼びかけられ、フォルセは苦笑ぎみに首を振った。確信しているわけではないのだと告げれば、ハーヴェスタはうーんと小さな身体で唸り出した。

 

 

『確かに試練はあと六つ、六つなら六聖地が一番怪しいと考えるのもわかる。……けどなー、黙示録が言えばバッチリなんだけどなー。おい異端、レムの黙示録は何も応えないのか?』

 

「そういえば、何にも無いわねぇ」

 

『……。黙示録に嫌われてるんじゃねーの?』

 

「むっ、そんな筈ないじゃない! あたしは黙示録の正当な所持者よ!」

 

 

 ミレイが眼をきりりとつり上げ、手に持っていた黙示録をぐいと振りかぶった。ハーヴェスタは慌てて逃げ、フォルセの上半身を小動物のように駆け、ついには胸元にしがみついた。

 

 ミレイの目には生意気なあみにんの姿しか映っていない。巻き添えを食らいかねないフォルセは不味い、と頬をひくつかせ、胸元からよじ登ってきた元凶を引っ掴んだ。が、離れない。ハーヴェスタの腕はしかとフォルセの法衣を掴んでいる。

 

 

「ハーヴィ!」

 

『やだっ、離れない! 異端こわい!』

 

「退いて聖職者サマ……そのあみにん殴れない!」

 

「ちょ、もっと穏便に……っ!?」

 

 

 振りかぶられた黙示録を見つめたその時、フォルセは驚きに息を呑んだ。

 

 ――光っている。音沙汰無かったレムの黙示録が、ここに来て漸く、ある意味タイミング良く反応した。

 

 

「ミ、ミレイっ、黙示録が応えてます! 早く開いて!」

 

「へ? ……きゃあっホントだ! もう待ちくたびれたわよもうもうもうっ」

 

 

 怒りの表情から一転、喜々として黙示録を開くミレイを見遣り、フォルセとハーヴェスタは揃って肩を落とした。

 

 

「……聖職者サマ」

 

「はい」

 

「読めない!」

 

 

 そう言って、ミレイが黙示録を差し出してきた。以前彼女がグラツィオに来るきっかけとなった文章に続き、新たに二つの文章が刻まれている。勿論ヴィーグリック言語だ。最初のは読めたのに、と悔しがるミレイから、フォルセは黙示録を受け取った。

 

 

「『不浄の王歩む世界、巡りの環が道開く。

 遺されし従僕に祝福捧げし時、神の愛し子の剣、不浄を払うべく試練へ向かう』……これは、」

 

「やっぱり、試練のための文章ね。でも意味はさっぱりだわ。記憶を失くす前の“わたし”だったら、意味が理解できたのかしら……」

 

 

 ミレイは顔をしかめて呟いた。胸の辺りがざわついてならず、けれど記憶はこれっぽっちも戻る気配がない。

 

 そんな彼女を他所に、教団組は記された文章の意味を考え始める。

 

 

「“不浄の王”とは、魔王ノックスのことでしょう。そして“遺されし従僕”……やはり、女神の遺した聖霊(ファスパリエ)と不死鳥フェニルスのことでは……?」

 

「うむ、我もそう考える。六聖地巡礼が試練に続くという(ぬし)の考えは、正しかったようだな」

 

「はい。ですが……この“巡りの環”とは何でしょう? これもマナの循環地点である六聖地を指すのでしょうか……?」

 

「……、待て。“巡りの環”なら心当たりがある」

 

 

 そう言ってエイルーは足元に築かれた物々を避け、小さな箱を一つ取り出した。手のひらサイズのそれをテーブルの上へと置き、開ける。中には虹色の水晶玉が嵌った指輪が一つ入っていた。

 

 

「エイルー様、この指輪は?」

 

「黙示録に関わるとされる聖道具だ。時が来れば役目を担うと言い伝えられ、長らく保管されてきた。“巡りを解き放つ”と言われているゆえ、もしやと思ったのだが……」

 

『おっ、ソーサラーリングじゃん。懐かしいなぁ』

 

 

 取り出された指輪に、ハーヴェスタが懐かしげに反応した。フォルセの胸元から飛び降り、指輪をつんつんと突っつき始める。

 

 

「ソーサラーリングというのですか、この指輪は」

 

『二千年前、あいつ……勇者も使ってた便利アイテムだよ。特殊な環境下でマナを打ち出すことができるんだ。けど……このままじゃ、使えねぇなぁ』

 

「どうすれば、使えるようになるのです?」

 

『……はは、そう簡単に教えると思うか?』

 

 

 ハーヴェスタは元の顔を思わせる皮肉げな笑みを浮かべた。フォルセは思わず眉を下げる。黄金のボタンで作られた瞳を、懇願するようにじっと見つめる。

 

 

「どうしても……教えてくれませんか?」

 

『……うっ』

 

「ハーヴィ……」

 

『うっ。うっ。……わかったよぉ、わかったからその顔止めろ。苦手なんだよその顔』

 

「! ありがとうございます、ハーヴィ」

 

 

 にっこり笑うフォルセに対し、ハーヴェスタはがっくりと項垂れた。『あいつもたまーに見せてたなぁその顔……』ぶつぶつ言いながら、ソーサラーリングを一撫でする。

 

 

『このリングには、四元素のマナが必要なんだ。四元素ってのは、地水火風の四属性が均等に揃ったマナのことで、こっちの世界だと確か……』

 

「……四元魔法素(マクスウェル)のことか?」

 

 

 ハーヴェスタの言葉に、エイルーがぽそりと答えた。その言葉に、黙って聞いていたミレイが興味深げに眼を瞬かせる。

 

 

「聖職者サマ、四元魔法素(マクスウェル)って?」

 

「お二人の言った通り……四属性が均等に揃ったマナ、そしてそのマナを持つ生命のことです。

 通常、体内マナには四属性の偏りがあり、その偏りが弱点や耐性属性を生み出します。しかし四元魔法素(マクスウェル)にはその偏りが無く、常人の数十倍もの魔力を持つと言われています。

 しかし、百万に一人とされる希少な存在です、そう簡単に見つかるとは思えませんね……」

 

『ふん、そりゃそうだ。そう簡単に試練が進むわけ……』

 

「……あてはある」

 

 

 エイルーが小さく口を開いた。なにぃ、と振り向くハーヴェスタをポンと撫で、しかし眉を僅かに寄せて話し出す。

 

 

「我が知る限り、最も腕の立つ魔術師でな。しかし、行方が知れんのだ……」

 

「魔術師……その方が、四元魔法素(マクスウェル)なのですか?」

 

「うむ。名を……今はヴァーナディと名乗っているのだったか」

 

 

 何処にいるのか、とエイルーが頭を悩ませたその時――

 

 

「……ヴァーナディ? “魔力喰いの魔女”ヴァーナディのことかあ?」

 

 

 空耳などとは到底言えぬ大きな独り言が、窓の外から聞こえてきた。

 

 

「……」

 

 

 失礼、とフォルセは一言告げ、怪訝な表情で窓辺に向かった。窓を開け放ち、身を乗り出す。

 

 

「イイこと聞いたぜ。あの魔女のとこに先回りすれば、神父君と合流できるかも……いや、居場所の情報と交換で取材させてもらうってのも手かあ?」

 

「……その魔女殿はどこにいらっしゃるのです?」

 

「王国領土のフェンサリル大樹海さあ。噂の絶えない魔女で、森にやってきた人間の魔力を喰うだの、古代魔導機構を収集してるだの……奇妙な噂ばかり聞こえてくるんだあ。

 オレも昔取材しようとしたんだが、結局森で迷子になっただけ……」

 

 

 「あ」外壁に耳を押しつけていた不審者――もといシドが、青ざめた顔で振り向いた。

 

 

 

***

 

 

「い、いやあ……騎士団駐屯地に窓から入るなんざ、イイ経験させてもらったぜえ」

 

 

 言葉通り窓を乗り越えて入ったシドが、言葉とは裏腹に焦りの表情で宣った。

 

 

「ごめんなさい聖職者サマ。あたしが迂闊にもべらべら喋っちゃったから……」

 

「いえ、私も事前に注意していませんでしたからね」

 

「それで、(ぬし)は一体何者だ?」

 

「自分はシド・ガードライナス。シルバレット・ポストの記者です。此度の件、神父君から話を伺い……是非、彼の専属記者にさせていただきたく!」

 

 

 緊張で渇いた喉を酷使して、シドはやけくそ気味に言った。

 

 エイルーが無言でフォルセを見遣る。フォルセもまた緊張気味に、シドとの関わりや経緯を話した。

 

 

「……なるほど。異変解決に一役買ったと」

 

「! そ、そうです。神父君とはもう切っても切れない仲で……」

 

(ぬし)がいたことで危険が倍増したようにも聞こえるが」

 

「そんなことないですよ! ねえ神父君、いや勇者フォルセ様!」

 

 

 なんとか飼ってもらおうと必死な子犬のごとき言動だ。が、実際はただの大男ゆえ、抱きつかれたフォルセはんぐぅ、と呻く以外無い。

 

 それをどう受け止めたのか。エイルーはまぁよい、と一言呟き、出したままのソーサラーリングを見つめた。

 

 

「記者の話が本当なら……あやつは王国にいるということか。今更……我の言葉を聞くかどうか、いや致し方あるまい」

 

 

 エイルーが悩ましげな表情で頭を抱えた。暫し考えた後、少し待て、と彼女は言い、懐からシンプルなレターセットを取り出した。数枚に渡り書き連ね、一息ついて封をする。封は大司教としてではなく個人としての物であり、見ていたフォルセは首を傾げた。

 

 

「司祭、これを」

 

「……魔女殿宛、ですか?」

 

「そうだ。長年手紙すら交わしておらぬゆえ、読むかどうかもわからぬが……他の四元魔法素(マクスウェル)を捜すよりは良いだろう。これも女神の導きだ。六聖地へ行く前に、会ってくるといい」

 

 

 差し出された手紙を受け取り、フォルセは戸惑いながらも頷いた。

 

 

「六聖地巡礼の最初は、王国領南にある地の遺跡。どちらにせよ、向かう先はサン=グリアード王国ということになりますね……しかしエイルー様。王国、いえ各国への通達もなく、勝手をしても良いのでしょうか……」

 

「問題ない。三国には教皇ヘイムダルの親書を届ける予定だ。(ぬし)らは気にせず、六聖地巡礼を進めるとよい。ただし、事の公表は各国との連携を進めてからになる。よいな」

 

「わかりました。……ミレイも良いですね?」

 

「へ、何が?」

 

「勇者や魔王のこと、むやみやたらと話してはならないということです」

 

「うぅ、りょーかい……もう既に一人話しちゃったけど……」

 

 

 ミレイが気まずげな表情でシドを見た。シドは何故かビクリと肩を揺らして彼女を見返す。

 

 

「ま、待ってくれ。神父君はイイとして……その旅、そこの嬢さんも行くのか? まさかな、そんな筈ないよなあ?」

 

「? 当たり前でしょ? あたしは黙示録の所持者なんだから」

 

「けど嬢さん、異端なんだろう?」

 

「……そうだけど、よくわかったわね」

 

 

 「あみにん君が異端って呼んでたからな」相変わらず耳の良いことをアピールしつつ、シドは一転して険しい表情となり、震える手つきでペンを持った。

 

 

「異端が、世界に関わる旅に加わるって?」

 

「そうよ」

 

「異端が、我が偉大なる王国に足を踏み入れるって?」

 

「……そうよ! なによ、言いたいことがあるならハッキリ言ってちょうだい!」

 

 

 眼をつり上げるミレイに対し、シドもまた垂れ目がちの目を鋭くして、ペンが軋むほど拳を握り締めた。

 

 

「じょ、冗談じゃないぜ! 平和な王国に、異端なんか入れてたまるかよお」

 

「……え」

 

「危険な異端が王国に来るなんて、賛成できないと言ってるんだ!」

 

 

 シドの叫びが、静寂に響く。ミレイは思いもよらぬことを言われた、と眼を見開く。

 

 

「聞くに黙示録ってのは、大事な未来を予言するものなんだろう? 異端なんかが持ってるより、勇者の力を継ぐっていう神父君が持ってたほうが安心じゃないか?」

 

「なっ、」

 

「事が機密で進むってのは理解した。けど王国に異端が侵入するってのは聞き捨てならないねえ。神父君に黙示録を明け渡すか、嬢さんが浄化を受けるかしてもらわないと、王国民としては安心が……」

 

「! あたしは異端であることも、黙示録も手放すつもりは無いわ!」

 

「ひ、ひええっ、異端が怒った! 暴走するっ……神父君! どうにかしてくれえっ!」

 

「シド。……少し黙ってください」

 

 

 フォルセは溜め息混じりに言い放った。両手を上げて騒いでいたシドがピタリと止まる。それを確認することなく、憤然とするミレイを見遣った。

 

 ミレイの視線がフォルセに向く。以前なら不信が垣間見えていただろうその眼には、しかし今は助けを求めるような水面が浮かんでいた。

 

 

「落ち着いてミレイ。私も、貴女を手放すつもりはありませんから」

 

 

 「……へ‍?」ミレイは惚けた顔を上げ、次いでかあぁっ……と頬を赤らめた。怒りなんぞ吹き飛び、現れたのは訳のわからぬ羞恥心。その中心からふつふつと歓喜が溢れていることに、いっぱいいっぱいの彼女は気付いていない。

 

 

「私に〈神の愛し子の剣〉を望んだのは貴女です。“皆を救いたい”と願った異端の貴女です。だからこそ、私は貴女と旅がしたい。私がちゃんと〈神の愛し子の剣〉となれるかどうか、異端の貴女に見極めてもらわねばならないから」

 

「聖職者サマ、」

 

「諦めずにいれば得られるものがある……ゲイグスの世界での貴女の言葉です。それを、この世界でも実行しましょう。たとえ異端であろうとも、貴女が貴女らしくある限り……きっと女神は、暖かく見守ってくださる」

 

「諦めずに、か……そう、そうよね!」

 

 

 ミレイの双眸に光が戻った。抱え込んでいた黙示録を掲げ、異端である己がこそ所有者なのだと、他ならぬ己自身に告げる。

 

 

「あたしは黙示録の正当な所持者。聖職者サマと一緒に、世界も“皆”も救うのよ!」

 

 

 元気と余裕を取り戻したミレイを――フォルセは安堵を浮かべて見つめ、エイルーは二人纏めて見定めるように窺っている。不満げに見つめているのはシドだけだった。なんで、異端がどうして……ぶつぶつ呟きながら、苛立ちを顕にペンを握る。

 

 

「さて」

 

 

 空気を一新するようにエイルーが手を叩いた。

 

 

「あとは(ぬし)だけだ、王国の記者よ。……ここまで機密を知ったのだ、ただで帰れるとは思わぬことだ」

 

 

 無表情で言われ、シドはぎょっと肩を揺らした。窓からの侵入すら許されたために、このままついていくことも許可されるのではないかと甘い期待を抱いていた――が、事はそう上手くもいかないとエイルーの表情から窺い知れた。しかも自分は、彼らが受け入れている異端を貶し、蔑んだ。彼女への侮蔑を理由として、取材どころか帰国すらも許されないかもしれない。シドの顔が蒼褪めていく。向けられた視線の鋭さに気圧され、怯え、たじろいでしまう。

 

 とはいえ、ここで引き下がるつもりもシドにはない。異端が許されるならとミレイを一瞥し、緊張で喉を鳴らしながら口を開く。

 

 

「じ、自分は最初に言ったように、二人……いや神父君の専属記者として認めてもらいたいだけです」

 

「時が来るまで報道は禁ずる、と言ってもか?」

 

「……ここまで知って引き下がるなんて、シルトト新聞の人間にはできませんよ。……千年前の魔王復活、それと戦う勇者の旅。世界の命運がかかってるってのに、教団が異端の自由を認めるんだ。尚更、オレのような“目”は必要な筈だ」

 

 

 「信用無いわねぇ」ミレイがぽつりと呟いた。それを見返すシドの目は、騎士団駐屯地に来るまで彼女と親しげに会話していたとは思えないほどに辛辣で、親の仇を見るかのような色をしていた。これが異端と知れた者の反応の一つなのかと、ミレイはふん、と胸を張りながら考える。

 

 

「いいじゃない、ついてくれば」

 

 

 睨まれていることなど物ともせず、ミレイは何でもないかのように言った。それに一番驚いたのはシドだ。何を言っているのかと、ペンをぽとりと落として呆然とする。

 

 

「機密って言われてることを喋ったのはあたしだし……それにあたしは、かっこいい異端だって行動で示さなきゃならない。それなら、異端だって知ってるヒトが一人でも多くいたほうが、旅のしがいがあるってものよ」

 

「……」

 

「それにあなたは聖職者サマと違って、あたしに優しくないみたいだから。……あたし自身のためにも、あなたみたいな“目”は必要かもしれないわ」

 

「……いつ暴走するともしれない異端なのに、よく言う」

 

「もう暴走しないわ。ね、聖職者サマ」

 

 

 フォルセは何も言わず、微笑んだまま頷いた。「暴走経験ありかよ……」シドの顔が余計に険しくなったことに気付きながらも、彼女を信じているからこそ首を縦に振るだけで終わる。

 

 

「司祭、(ぬし)は異存ないか?」

 

「一般人を巻き込むのはどうかと思いますが……」

 

「神父君は秘密裏に行動するんだろう? だったら何も気にすることないさあ。……どうしても困るっていうなら、表向きは神父君の六聖地巡礼を取材するって形で、どうだ」

 

「あたしからもお願いよ、聖職者サマ。ここまで言われて許さないんじゃ、あたしが引き下がったみたいで悔しいもの」

 

「……、わかりました。ですが、その前に一つ尋ねておきたいことがあります」

 

 

 ミレイによって、シドの同行が決まった。それなら、とフォルセは微笑みを深くする。

 

 

「このままではクビになるとおっしゃっていましたね。理由をお聞かせください」

 

「え」

 

「共に旅をするのです、私と貴方の間に信頼を結びましょう。貴方の困りごとを、私にも共有させてください……力になれるやもしれません」

 

 

 フォルセが聞いた途端、シドはしゅんとしょぼくれた。大の男ながら、その様子は何となく同情を誘う。先ほどまで異端を糾弾していたとは思えぬその姿に、フォルセの笑みが更に深くなった。

 

 

(懺悔を強要したようで、なんだからしくないことをしてしまったな。けれど、彼ばかり誰かを責めるのはずるい……あぁ、やっぱりらしくない)

 

 

 己の内心に苦笑しつつ、フォルセは視線を彷徨わせるシドの言葉を待つ。

 

 

「へ、編集長の怒りを買った……」

 

「何故?」

 

「その、ええとだな…………編集長の奥方をナンパして、離婚にまで発展させた」

 

 

 ……。――シドの渾身の告白に、場が一気に白けきった。

 

 

「……不埒(ふらち)な」

 

 

 フォルセの顔面が凶悪なまでに歪んだ。とても深くまで笑んでいたのに消し飛んだ。シドはますます小さくなる。

 

 

「し、仕方なかったんだ。すっごい美人でよお、話も合うし、こりゃあ運命の人だと思って口説いちまったんだよお……」

 

「編集長の奥さんって知らなかったのよね? 知っててやったなら相当な、」

 

「知ってました」

 

「バカじゃないの」

 

 

 ミレイにまで吐き捨てるように言われ、シドは悔し気に眼鏡を上げ直した。

 

 

「そんな問題を、酒一つ買って収めようとしたのですか……」

 

「二人とも教団産の酒が好きって聞いたんだよお。だからそれ持っていけば仲直りできるかなあと……」

 

「元凶が持っていっては、どんな銘酒も火に油です」

 

「っていうか、そんなことしたくせにあたしのこと責めたわけ?」

 

「! 異端よりマシだろう!? オレはただ青春に、純情に生きただけだあ!」

 

「……同行許したの、すっごい後悔したくなってきた」

 

 

 ミレイが心底嫌そうに顔をしかめた。フォルセも同調するように渇いた笑みを浮かべ、哀れな子羊を見る目でシドを見つめる。二人から似たような視線で見られ、シドは唇をわなわなと震わせた。

 

 

「くそうくそう。なんで神父と異端なのに、そんな仲いいんだよう……」

 

「なんでって言われても……聖職者サマとは危機を乗り越えてきた仲だもの。神父と異端だからって全然おかしくなんてないんだから」

 

「なんだよ、まるで深い付き合いみたいな反応を……っ! そ、そうか!」

 

 

 訳がわからないと言いたげに考え込んでいたシドは、突如閃いたとばかりに目を見開き、蔑まれているとは思えぬほど満面の笑みを浮かべた。

 

 

「アンタら、好き合ってるんだな!?」

 

 

 水を得た魚のように、シドは生き生きとした顔でカメラを手に取った。そのままはいチーズ、と何の了承もなくシャッターを切る。――パシャリ。撮られたミレイはハァ? と口を開けたまま、同じく撮られたフォルセに視線を向けた。唖然とした顔が視界に入る。好き合ってるなどと言われたのだから仕方ない。好き合ってる。好き。好き。言われた内容を咀嚼した結果、冷めきっていた頬に熱が上る。

 

 

「お二人さん、付き合いはどれくらいだ? 交際期間は? 浄化についてはどう考えてる? 出会ってからこれまで、互いに意識し合うような出来事はどんなものがあった? 二人の初デートは……」

 

「な……なんで熱愛前提なのよ! あたしと聖職者サマは旅の仲間! な、か、ま!! そんな関係じゃないから!」

 

「んな隠さなくてもいいって。神父と異端。交差するはずの無い男と女。熱い愛がなきゃ、一緒にいるはずがねえ。オレにはわかる。わかるんだあ。

 ……運命の糸に導かれし二人は見事本当の愛を育むことができるのか!? いやあオレ、王国紀行書くのと同じくらい、他人の恋愛追うのが好きなんだあ。アンタが異端で良かった、イイ絵が撮れそうだぜ。記事を書くのが楽しみだあ……ははははは」

 

「だからちげーってのぉおおお!」

 

 

 本気で否定するミレイにポカポカと叩かれながら、シドはあれやこれやと妄想を滾らせる。異端を毛嫌いしておきながら随分と調子のいいことだ。浮気で痛い目にあっていながら全く懲りぬ様子の彼に、フォルセの瞳が自然とじっとり絞られる。

 

 

「……エイルー様」

 

「うむ、頑張れ司祭」

 

「……、ハーヴィ……」

 

『クソ面倒くさそうなのが仲間になったなー。どうなるか見物だぜ、〈神の愛し子の剣〉。……ぷぷぷぷぷ』

 

 

 笑いを堪えながらの激励に、フォルセは疲労を湛えて肩を下ろした。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。