テイルズオブフェイシア ―己が神を信ずるRPG―   作:澄々紀行

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第0章 ―神父フォルセの日常―
Prologue  〈始祖ユーミルの軌跡〉


 

 勇者が勇者となった後、女神は世界を救われた。

 

 悪しき瘴気を、大地の腐食を連れて、勇者の嘆きを聞きながら、女神は命を落とされた。

 

 愛ゆえに。目の前の者、隣の者、何処かの彼方に生きる知らぬ者への愛ゆえに。ただ世界に生きる、あらゆる全てを愛したがゆえに。

 

 

 それこそが――女神が女神である証。

 

 

 

 勇者は嘆きの中で、女神の愛を受け取った。だからこそ勇者は勇者を捨て、己が名すらも捨て去って、女神の亡骸に寄り添った。

 

 

 女神を――愛したがゆえに。

 

 

 

 “勇者であった者”は独りではなかった。“勇者であった者”と共に勇者となった者――ユーミルがいた。愛ゆえに、ユーミルが受け継いだ女神の愛があったゆえに、勇者は捨てられ、“勇者であった者”が生まれた。

 

 

 

 世界の中心――女神の墓に寄り添う“勇者であった者”に、ユーミルは愛を以て告ぐ。

 

 

『我が友よ。愛する友よ。勇者であった勇敢なる者よ。我が言葉は女神の言葉、我が心は女神の心。世界のために、愛する隣人達のために、我が存在は女神となろう』

 

『我が最愛の隣人ユーミルよ。我は願おう、その愛を。此処から、我らが愛おしき女神の傍で、世界に愛が満ちることを願い続けよう』

 

 

 “勇者であった者”の祝福を受けながら、ユーミルは女神の言葉を携えて、荒れ果てた世界へ旅立った。

 

 “勇者であった者”が女神の亡骸を守る“墓守りの君”ならば、ユーミルは女神の想いを守る人だった。

 

 

『誰もを赦しましょう。誰もを信じましょう、愛ゆえに。目の前の者を、隣人を、何処かの彼方の知らぬ者さえも等しく愛しましょう』

 

 

 ユーミルは告ぐ、女神の言葉を。

 

 ユーミルは悟る、女神の願いを。

 

 ユーミルは祈る、女神の慈愛を。

 

 

 

 ――世界への、愛ゆえに。

 

 

 荒廃した大地に、ユーミルの愛は流れゆく。目の前の者、その目の前の者、その隣人、その先の隣人、隣人の隣人、知らぬ者の隣人、知らぬ者の隣に生きる、名も無き誰かにさえも。

 

 

『告げましょう、女神の言葉を。悟りましょう、女神の願いを。祈りましょう、女神の慈愛を。それが世界を照らす光と信じて、何処かの彼方の隣人と共に愛しましょう』

 

 

 ユーミルの言葉は女神の言葉。ユーミルの心は女神の心。ユーミルは女神であり、愛は女神であった。

 

 

『世界が等しく愛するように』

 

 

 祈るユーミルに続く者達が、愛を繋ぐ軌跡となっていく。

 

 

 何処かの彼方の誰かから、その隣人、隣人の隣人へ。続き、流れ、貴方の目の前の者へと繋がっていく。

 

 

 

 愛しましょう。友を、隣人を、知らぬ者を、彼方まで続くこの世界を。

 

 

 ――女神フレイヤへの、愛ゆえに。

 

 

 




2013/12/01
2014/04/09:加筆
2014/05/01:加筆
2016/11/13:ハーメルン引越し

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