前の君と今の君   作:おもちゃん

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タイトル思いつかねぇよ…

※2016/12/16 内容いろいろ削ったりその分の埋め合わせとかしました


第二話 赤い彼女

 俺はは道に迷っていた。

 四人の妖精たちから逃げ出したはいいが、ただ逃げることだけを考えて走っていたからだ。木々が生い茂っているせいで真っすぐ走ることも出来ず、ただ適当に走っていたので元居た場所に戻ることも出来ない。

 俺が解決策を考えようと岩に腰を下ろしたその直後なにか違和感を感じて顔を上げる。

 その違和感の正体は一目でわかった。前から謎の真っ黒な物体がこちらへ向かってきているのだ。

 その正体を確かめようとしてせっかく下ろした腰をまた上げそちらへ向かった。

 

「ちょっとあんたなにしてんの!」

 

 その瞬間上から赤い少女が飛んで来て大声で怒鳴られた。その少女は何故か顔を真っ赤にして今にも食いかかってきそうなほど怒っている。

 

「なにしてんのって言われましても……なんか前から黒いものが近づいてきたのでなにか確かめようと……」

「あんたばっかじゃないの!?」

 

 初対面の人間に馬鹿と言われたことに傷つきながら少しイラついている俺のことはお構いなしに少女は怒鳴り続ける。

 

「あんた人間よね!?一昨日文が人間の里で妖怪が狂暴化してるから気をつけろって新聞ばらまいてたでしょ!?読んでないの!?」

 

 何を言っているのかわからない。

 文という人物、人間の里という場所、ばら撒かれた新聞。

 どれも俺の知らないものだ。

 

「いえ、読んでないです」

「はぁ……あんた人間なんだからもう少し危機管理能力しっかりしなさいよ……」

 

 理解が出来ていないのに話を進められても何にもならない。

 俺は理解することを諦め、先ほどの違和感の正体であった真っ黒な物体についてこの少女に尋ねることにした。

 

「はぁ。何言ってるかわかんないです。ところであれは一体なんなんですか?」

「あれはルーミアっていう人喰い妖怪よ。まぁ妖怪って言ったら普通人を食べるんだけどね」

「え?人喰い妖怪……?」

「ええ、人喰い妖怪」

「ちなみにもしあの暗闇の中に入っていた場合……?」

「運が悪かったら食べられていたでしょうね」

「oh...危ないところを助けていただきありがとうございました」

 

 この少女は俺の命の恩人だったという事を知り感謝すると共に、迂闊な行動はしないように気を付けようと自分を窘めた。

 しかし俺は少女の言葉に一つの違和感を感じた。

 

「運が悪かったら?」

「ええ」

 

 その言葉に疑問を感じる。

 人喰い妖怪と言うのならば人を襲うのが仕事であり存在意義であるはずだ。

 それなのに運が悪ければ。と言うことは襲わないことがあるということであり、それはつまり自分の存在意義を自分で消しているということなのだ。

 

「あの黒いのって妖怪なんですよね? 近づいたらがぶりといかれちゃうんじゃ? そこに運要素なんか存在するのはおかしい気がするんですけど」

「ああ、あの黒いのはルーミアの能力で暗闇が発生してるだけであれが本体なわけじゃないからあれに近づいただけで食べられるなんてことはないわ」

「あ、そうなんですか。……でもあれはその妖怪の能力なんですよね? センサー的な役割持ってたりするんじゃないですか?」

 

 そういうものが無ければあの暗闇には存在意義は無いということになってしまう。

 

「私も最初ルーミアに会ったときはそういうことも考えたんだけどね? 阿求に話を聞いてみたらルーミア自身あの暗闇の中ではなにも見えてないらしくて木にぶつかったりもしてるみたい」

「ああ、そうなんですか・・・」

 

 あの暗闇に存在意義はなかったようだ。

 逆にあの暗闇の本体であるルーミアという妖怪の足手まといにすらなっている。

 自分の中でのルーミアに関しての考察が一通り済んだその次の瞬間、俺のすぐ後ろから声が聞こえてきた。

 

「そーなのかー」

「危ない!」

 

 そーなのかーと声がしたほうを振り向いた瞬間すぐ近くに口を開けながらこっちに飛んでくる女の子を見た。

 恐らくその女の子は暗闇を解除したルーミアの本体なのだろうが、そんなことを考えている余裕は俺にはない。

 ルーミアは人喰い妖怪なのだ。その人喰い妖怪がこちらに口を開けながら飛んでくるということは俺は食べようとしていることに他ならない。

 先ほどまで話していた赤い少女が危ないと叫んでなんとかしようとしているみたいだが、ルーミアにここまでの接近を許してしまったのだ。まず間に合わないだろう。

 つまり俺は食われてしまう。

 警戒を怠った自分を恨みながら、覚悟を決め目を瞑ろうとした。

 しかしその瞬間赤い少女がなにかを投げ、それはルーミアに直撃し、意識を失った。 

 

「ごめんなさい、話に夢中になってルーミアへの注意を怠っていたわ」

「いえいえ、こちらこそ二度も助けていただきありがとうございます」

 

 この少女が謝ることはなにもない。むしろ二回も命を助けてもらったのだ。注意を怠っていたのは俺もなのだし。

 

「とりあえず逃げるわよ」

「わかりました」

「ついてきて」

 

 そう言った直後凄いスピードで赤い少女が走り出した。

 そのスピードに俺は驚愕した。

 俺の二倍以上は早いのではないのだろうか。いや間違いなく早い。

 やはりこれが若さというものだろうか…

 自分の年齢のことを考えると嫌になる。がしかしそこまで考えて一つのことに気が付きボソッと呟いた。

 

「俺、年齢いくつだ?」

 

 そう、なんとなく自分は若くは無いだろうと思っていたが自分の正確な年齢がわからないのだ。

 自分がまだ若いかもしれないという希望を見つけると共にもし20代前半程度でこの体力なのかもしれないということを考え絶望した。

 俺が勝手に天国と地獄を行き来している間に赤い少女は相当先に行っていた。

 ただでさえ走力が違うのにスタートで差をつけられすぎると見失いかねない。

 そうなるとせっかくの無事に帰れるチャンスを失ってしまうことになる。そうならないように俺も全速力で赤い彼女追いかけ走り始めた。

 

 

「はぁ、はぁ…」

「あんた、体力無いわねぇ」

 

 700m以上全力疾走した上でそのセリフが出てきたことに驚かされた。

 普通は100mも全力疾走したら疲れ始めるだろう、その七倍だ。死にかけないやつなんかいない。

 そう指摘しようと少女の顔を見てもう一度驚かされた。

 少女は汗を少し搔いている程度で息を切らしてすらいなかった。死にかけないやつはここにいた。

 

「君が体力ありすぎなんだと思うけど」

「こんくらい普通よ」

 

 俺が異常だと言いたいのだろうか。

 まぁ確かに体力はほかの人より少ないかもしれないが。

 

「ところでなんで私のことを君って呼ぶの?」

「え、だって君の名前聞いてないし」

 

 俺は当然のようにそう返した。というか名前を聞いてないのだから当然だ。

 しかし少女は信じられないというような顔でこちらを見ていた。

 

「え?私を知らないの? 幻想郷では一番有名と言っても過言じゃないと思ってたんだけど……。私は博麗霊夢(はくれいれいむ)。霊夢って呼んでくれていいわ」

 

 こいつもサチコと同じように自分が有名なのが当たり前だと思い込んでいるナルシストなのかと思ったが今までの会話でそんなところは見られなかった。

 なので冗談のつもりかと思ったが少女の顔は嘘をついているようには見えなかった。

 俺は困惑したが別にどうであろうと俺に関係はないことに気づき会話を続けた。

 

「そうかじゃあ霊夢。いろいろ教えて欲しいんだけど」

「一気にフランクになったわね……別にいいけど。で、なにについて教えてほしいの?」

「えっと、とりあえずここってどこ?」

「ここは霧の湖のすぐ近くにある森だけど……」

「霧の湖?」

 

 またもや全く知識の中にない単語が出てきて俺は頭を抱えてしまった。

 

「えっと……本当にわからないの? えーと名前なんだっけ」

 

 その俺の様子に霊夢も困惑し始めてしまった。

 そして最後の言葉でまだ名乗ってないことに気づき名乗ることにした。

 

「ああ俺は黒露夢幻。夢幻でいい」

「夢幻ねぇ……そんな奴人間の里に居たかしら。まぁいいわ。で、本当に霧の湖がわからないの?」

「本当にわからないの?って言われてもわからないもんはわからないしなぁ」

「え、もしかして今私の口調真似した?」

「うん。似てた?」

 

 思い付きでやったがなかなか似てた気がしていたので褒めてもらおうとそう聞いたのだが返ってきた言葉は俺の期待に反し辛いものだった。

 

「全然。てか寒気がしたからやめてちょうだい」

「グフッ。なかなか辛辣・・・」

 

 似てないと言われるのはまだしも寒気がしたと言われたのには流石の俺も傷ついてしまった。

 

「まぁいいわ。で、本当に霧の湖がわからないの?」

 

 霊夢は本日三回目のその質問をしてきた。

 何回質問されようと返事は同じだ。

 

「だからわかんないんだって。気が付いたらあそこにいて。なんのためになにがしたくてあんなところにいたのかもわからないんだ」

「……あんたもしかして記憶喪失ってやつかもね。腕のいい医者知ってるから一回診てもらいに行かない?」

 

 自分でも薄々感づいてはいたがやはりそうなのだろうか。まぁそれしか可能性は無さそうだが。

 

「記憶喪失ねぇ……まぁ記憶がないってことはそういうことなんだろうな。うん、診てもらいに行きたい。案内頼んでいいか?」

「……」

 

 俺の質問に霊夢は黙りこくってしまった。

 なにか都合が悪かったのだろうか。

 

「あ、忙しかった?なら場所を教えて貰えれば」

「あ、いや違うわ。その医者がいるところはやけに迷いづらい場所にあってね? 安全に迷わず行くために一人案内人みたいなのがいるんだけど、どうやってそいつに頼もうかなって思って考えてただけ」

 

 ただ考え事をしていただけのようだ。ビビらせるのはやめてもらいたい。

 

「ほーん」

「ほーんってあんた……あぁそうだ、人間の里にそいつと仲がいい人がいるからその人を通じて頼みましょう」

 

 俺にはその辺の知識は一切ないのだから言われるがままにするしかない。

 

「うーい」

「じゃぁついてきて。絶対にはぐれないようにね」

 

 その言葉を聞き、俺の中に一つの妙案が浮かんできたのでそれを口に出してみる。どんな言葉が返ってくるかは何となく予想はつくが。

 

「手繋いだらはぐれないと思うんで手繋ぎましょう!」

「は?」

 

 予想以上に重く冷たい霊夢の一言により俺の心はボロボロになってしまった。

 これはもう頭を撫でて慰めてもらわないと…

 

「キモイ。」

 

 追い打ちを喰らって俺の心は砕け散った。

 

「今あんたの顔最高に気持ち悪かったわよ」

 

 それは聞き捨てならない。そんなわけが無いだろう。

 

「失礼な。俺はいつでもダンディーだろ?」

「はいはい」

「流すなよ!」

「変なこと言ってないで早く行くわよ」

「はーい」

 

 謎のコントをしながら俺たちは人間の里と言われる場所に向かうのであった。




 夢幻の性格がよくわかりましたね!
 ちなみにこれ時系列的には紺珠伝とか吹っ飛ばして先くらいにあります。
というか別次元的な感じです。ifの世界と考えてください。

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