前の君と今の君   作:おもちゃん

18 / 21
シリアス展開って書いてて結構辛いですねぇ……



第十八話 やっと会えた初めまして

 俺たちは何か普通ではないことが起こっている状況に慌てつつ全速力で寺子屋へ向かった。そのお陰で前回歩いた時の三分の一程度の時間で着くことが出来た。

 

「ここだよな?」

「うんあってるよ」

 

 寺子屋の前で心を落ち着かせるためにもと、呼吸をゆっくりと整えながら最後の確認をしていた。

 俺の質問に答えた妹紅は俺と霊夢の呼吸も整ってきているのを確認すると一歩前に出た。

 

「けぇぇぇぇぇねぇぇぇぇぇぇ!」

 

 妹紅の大声が人間の里に響き渡る。周りの人たちが異常者を見るような目でこちらを見ていたが霊夢が睨みつけるとすぐにどこかへと走って行った。

 ちなみに妹紅が大声を出す理由は全く無い。強いていうなら三人ともそういう気分だったからと言った感じか。勿論霊夢が周りの人たちを睨みつける理由もなかった。霊夢が若干イラついていたというだけだ。正直自分達でも何がしたいのかよくわかっていない。ただなんとなく気分に任せて行動している。大筋だけはしっかりしているがそれ以外の行動は異常者のそれだ。周りの人たちの反応は何も間違っていなかった。

 そして三人がようやく落ち着いて来たところで慧音先生が慌てた様子で出てきた。

 

「どうした!? なにかあったのか!?」

 

 俺は心の中で必死に祈る。

 頼む、慧音先生は憶えていてくれ。藍さんが忘れていただけであってくれ。大声で叫んで迷惑をかけた罰としてヘッドバットを思いっきりしてくれ。そしてまた前みたいに長ったらしい説教をしてくれ。

 横目で霊夢を見ると霊夢もまた何かを祈るような顔をしている。一歩前に出ているせいでわからないが妹紅も同じはずだ。頼む俺たち三人の願いを叶えてくれ……!

 

 しかし俺達の願いも虚しく希望は慧音先生の言葉によって打ち砕かれた。

 

「その霊夢の横にいる男に関連しているのか?」

「あ……」

 

 妹紅が小さく声を発する。俺は既に地面を見つめただひたすら歯をくいしばっていた。

 

 (やっぱりか。慧音先生も……憶えてなかったか……)

 

 正直なところこんな結果になるのはわかっていた。ここに走ってくるまでに出会い、声を掛けてきた人たちの中には以前霊夢と2人で人間の里を歩いていた時に出会った人たちもいた。だがその誰もが俺のことは憶えていなかった。

 涙がこぼれてくる。

 

「なんで……なんで俺のことを憶えてないんだよ……」

 

 小さく、嗚咽を交えながら呟く。その呟きは恐らく霊夢と妹紅にしか聞こえていない。霊夢は俺の背中に手を添えてきた。

 

「私たちがいるから……いつか絶対になんとかしてみせるから……」

 

 霊夢の声にも嗚咽が混じっている。

 霊夢はなんだかんだいって責任感が強く仲間想いの奴だ。多分俺が槍に貫かれるのを防げなかったことでこうなったと思い、責任を感じているのだろう。だが霊夢は何も悪くない。強いていうならば運が悪かっただけだ。俺と出会ってしまいあの場に出くわしてしまっただけなのだ。責任を感じる必要なんてどこにもない。

 妹紅はと言うと背中が少し震えている。恐らく呼吸を整えているのだと思う。妹紅にはこの後もう一つだけ仕事を頼んでいる。だがその仕事は声を発することになるから泣きながら、呼吸が整っていない状態で喋っても仕事を果たしたとは言えない。妹紅はそれをわかっているからこうして呼吸を整えているのだろう。

 

「な、なぁ妹紅? どうしたんだ?」

 

 慧音先生がこの重い雰囲気に耐えられなくなったのか妹紅に話しかける。妹紅は呼吸が落ち着いて来たらしく慧音先生の問いかけに答える。

 

「慧音さ……こいつのこと、憶えてない?」

 

 妹紅が俺をことを指しながらそう慧音に問いかける。

 妹紅に頼んでいたもう一つの仕事は慧音先生が俺のことを憶えていなかった場合、もう一度慧音先生に確かめることだった。文面だけではそこまで大した仕事に見えないかもしれないが希望を潰され、絶望の渦に叩き込まれている所で言葉を紡ぐというのは案外難しい。それでも妹紅が自分からこの仕事をやると言ったのは妹紅も責任を感じているからだろう。

 本来これは俺がやるべき仕事であり俺がやるはずだった。だが妹紅が自分がやると言って聞かなかったので妹紅の優しさに甘えることにしたのだ。男として情けない。

 妹紅の質問に困惑した様子の慧音先生はしばらく考え込んだのち、俺の目の前まで来て俺の顔をよく眺めしっかりと確認した。だが慧音先生の顔は申し訳なさそうにしている。それだけでこの後の展開は察することが出来た。

 1分ほど俺の顔を確認した慧音先生は申し訳なさそうな顔をしたまま俺に頭をペコリと下げてから妹紅の元へと戻って行った。

 もう俺たちは3人共覚悟を決めた。そして妹紅の問いに対する慧音先生の答えは俺たちの考えていた通りだった。

 

「申し訳ないが見覚えはない。名前を教えてはくれないか?」

 

 そう言うと慧音先生は俺のほうへと目線を向ける。霊夢と妹紅も俯いたままこちらを向く。

 

「黒露……夢幻……です」

「黒露夢幻……」

 

 慧音先生は何度か俺の名前を繰り返していたがやはり思い当たるものは無かったらしい。

 

「すまない、記憶に無い。以前どこかで出会っているのかな?」

「ええ、まぁ……」

 

 もうこれ以上何かを聞かれても答えられる自信がない。顔を伏せたまま会話をするのが失礼に当たるのは重々承知だ。だが泣いた顔を見せて心配させたくもない。

 俺の涙が地面へと落ちシミを作る。それを慌てて靴で踏んで隠す。なにもわかっていない慧音先生にこれ以上心配や迷惑を掛けたくない。

 

「それじゃあ……行きますね……時間を取らせて申し訳ございませんでした……」

「ああ……憶えていなくてすまなかったな。また思い出せたら連絡するよ。もし良かったらまた来てくれ。ゆっくり話がしたい」

「え、でも……」

 

 この慧音先生は前の慧音先生とは違う。今の慧音先生と話しても混乱させてしまうし俺自身も混乱してしまう。そう思い断ろうとしたが慧音先生が先に声を出した。

 

「嫌だとは言わせんぞ? 霊夢、悪いが一段落ついたらまたここに連れてきてくれ」

 

 慧音先生がニヤリとしながらそう言った。そして俺と霊夢は顔を見合わせた。

 

(そうかそうか、そんなに頭突きが気に入ったのか。霊夢、悪いが永遠亭で診てもらったらもう一回ここに連れてきてくれ)

 

 前の慧音先生と別れる間際に慧音先生が言った言葉が頭の中に蘇ってきたのだ。恐らく霊夢もそうなのだろう。

 そんなに前の事じゃないはずなのにとても懐かしく感じる。

 霊夢が慧音先生の頼みに答える。

 

「ええ、今度こそは必ず」

 

 霊夢の今度こそという言葉の意味に疑問を感じたようだが何かを察してくれたようだ。

 

「……そうか前はこの約束は果たしてくれなかったみたいだな霊夢? あとでお説教だ」

「ちょっと!? なんで私が!?」

 

 霊夢の慌てている様子を見て俺と妹紅と慧音先生は一緒に笑い出した。霊夢は慌てていてそれどころじゃ無さそうだが。

 そうだ、この慧音先生は前の慧音先生ではない。だけどこの慧音先生も慧音先生なんだ。そのことをしっかり理解できた。

 

「それじゃあそろそろ行くわね」

「ああ。この後はどこに行くつもりなんだ?」

「永遠亭かな」

「ふむ。妹紅、道案内はしっかりな」

「言われなくてもわかってるよー」

 

 最後に慧音先生とそんな会話をし俺たちは寺子屋から永遠亭へと向かい始めた。

 

「これで夢って説は無くなっちゃったわね」

「そうだな。いよいよ別の世界に飛んできた説が濃厚になって来たな」

「そんな物語みたいなことある?」

「不老不死のやつが何言ってるんだよ」

 

 不老不死なんか異世界に並ぶレベルであり得ない話だろうが。

 

「それもそうだね。ところでさ夢幻」

「どうした?」

「ナナたちに会う?」

「……」

 

 ナナと言えば槍に貫かれる前に迷いの竹林で仲良くなった兎だ。たちと付けたのはナナと比べれば関りがまだ浅いがそれでもとても仲良くなった夏樹、みく、李衣菜の3人のことがあるからだろう。

 ナナたちが俺のことを憶えてないかどうかを調べて憶えていなければこの3人しか前の記憶は持っていないことがほぼ確定となる。今後のためにも会っておいたほうがいいだろう。

 だが妹紅が会うか聞いたのは俺のことを気遣ってくれたのだろう。関りが槍に貫かれる前一番薄かった慧音先生や藍さんの記憶から俺が抜けていただけであそこまで傷ついたのだ。言い方は悪いがあの二人よりよっぽど仲の良かったナナたちに忘れられていれば立ち直れなくなる可能性もある。

 

「うん、会いに行こう」

 

 だが既に俺のことを憶えているのは霊夢と妹紅だけだと覚悟している。ナナたちに忘れられていてもああやっぱりなで済ませることが出来るはず。もし憶えてくれていたらそれは俺にとって、俺たちにとって最高の喜びになる。

 

「大丈夫なの?」

「おう!」

 

 元気よくそう答える。だが妹紅がジト目になってこちらを見ている。

 あれ?おかしいな。

 

「……ほんとに?」

「……多分」

 

 正直威勢を張っていた。――恋愛的な意味ではなく友達としてだが――大好きなやつにこんなやつ知らないと言われて傷つくなというのは無理がある話だ。だがそれでも行かなければならない気がするのだ。例えどんな結果が待っていようと。




これから数話の間こんな感じのシリアスが続くかと思いますがよければお付き合いお願いします。
全くもってどうでもいい話になるのですがこの話、特に終わりの方の大好きだったやつに嫌いと言われて傷つかないはずがないというあたりなんですが、私自身も執筆時現実で同じ様な状況になっておりまして(流石に槍で貫かれたりはしてないです)夢幻に感情移入(というか自身を投影してしまってる部分もあるかもしれませぬが)しすぎてしまってキーボード叩きながらちょっと涙をこぼしてたり……
まぁそんなどうでもいい話は置いといてですね、実は私の好みで出しているように見える(かもしれない)346アイドル達なんですがこの物語において結構大事な役割を持ってたりします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。