俺は永琳さんに言われた通り大人しく後ろにくっついて永遠亭に入って行った。しかしそこには思いもよらぬ光景が広がっていた。
廊下が長すぎるのだ。向こう側が見えない。
先が真っ暗闇に見えるという共通点から、さっきの落とし穴のこと思い出して体が震えている。
なにかの間違いではないだろうかと永琳さんに質問をぶつけてみる。
「あの~永琳さん。この廊下は一体どこまで続くんで……?」
「あ、ちょっと待ってちょうだいね」
すると俺の質問には答えず、永琳さんが何かを始めた。
なにをしているのだろう。永琳さんが何かを手元でやっているのはわかるのだが俺のところからは角度の問題で丁度見えない。
そう思った直後、廊下が一気に縮んだ。
「は?」
「ふふ。そういう反応をしてくれる人は最近いなかったから、ちょっと嬉しいわね」
「あの、今一体なにをされたんですか?」
「そもそも廊下が永遠に続いていたのは私の術なの。」
永琳さんが少しドヤ顔になりながらそういった。とても可愛いが今それよりも大事なことをサラッと言っていた気がする。
「永遠だったんですか?」
「ええ、そうよ。先が見えなかったでしょ?」
永遠亭ってのはそこから名前を取っているのだろうか。
もしかしてさっきの鈴仙の落とし穴も?いや、永琳さんはそんなことに手を貸すようには見えない。多分鈴仙が必死に掘り続けたのだろう。
「はぁ、なんだかすごいですね。でも、なんでそんなことを?」
「まぁここには貴重な物がたくさんあるから、それを盗む泥棒とか魔理沙とかに対する防犯システムみたいなものよ。普段はしてないんだけど今日は診察もお休みだったからね」
「魔理沙?」
「いえ、こちらの話よ。気にしないで」
俺の前にいる妹紅が吹き出していたところを見る感じ笑うところだったみたいだな。
俺としたことが……
てか今日診察お休みだったのか。鈴仙のやったことのお詫びに診てくれるって感じなのかな?運が良かったのか悪かったのか。
「さぁ、こっちよ」
そう言いながら永琳さんは金がふんだんに使われている襖を開けて、奥へと入っていった。
それに続いて部屋に入った瞬間俺は言葉を失った。
「……は?」
中には見たこともないような機械でいっぱいだった。
「ふふふふ。そこまで驚かなくてもいいじゃない。あなた、本当に面白いわね」
永琳さんは本当に愉快そうに笑ったが、俺は未だに空いた口が塞がらない。
「こんなものがあったら誰でも驚きません?」
「いいえ、ここに初めて来た患者さんでもそんなに驚きはしないわ」
「そんなもんなんですか?」
「そんなもんなのよ。」
俺のリアクションが大袈裟なのか、ほかの患者のリアクションが薄いのか。
できれば後者であってほしいが。
「さ、座って」
そう言って指差された丸い椅子に俺は腰かけた。
「永琳、わたしは~?」
「付き添いに椅子なんか出さないわよ」
「ちぇー。」
答えが見えているのに聞く妹紅がかわいらしくて少しにやけてしまった。
「じゃあ、いくつか質問していくわね」
「はい」
どんとこい。
と言ってもほとんど何も憶えていないのだが。
「名前は?」
「黒露夢幻です」
「名前は憶えていたのね?」
「ええ」
「じゃあ、どこで目を覚ましたの?」
「えっと、確か……霧の湖周辺らしいです」
「らしい?」
「地名がわからなかったので霊夢に聞いたらそう言われたので」
「霊夢には会っているのね?」
「はい」
あー、あとで霊夢に謝りに行かなきゃならないんだった。胃が痛くなってくる。
「ところで霊夢は来てないのよね?」
「はい?」
「霊夢はなんだかんだ言って優しい子だから、あなたみたいな人がいたら一緒に来てると思ったんだけど……」
うっ、永琳さんが俺の胃を痛めつけてくる。なにせ霊夢が帰ってしまった原因の一つは俺にあるのだから。
もう一つは勿論妹紅だ。
「夢幻さん?」
「あー永琳、それは私が答えるよ」
俺が返事に困っているところで妹紅が助け舟を出してくれた。
「なんで?」
「夢幻にその質問はちょっとかわいそうだからね」
「?」
「えーとね。確かに霊夢も途中までは一緒に来てたんだよ。だけど、夢幻が霊夢のことを考えず発言しちゃってそれに怒って帰っちゃったんだよ」
「ああ、そういうことね」
妹紅に対しての感謝の気持ちは一気に消え失せた。その通りなんだけれども言い方を少し考えてくれても良かったのではないかと思う。
「なるほどね。確かに夢幻さんならやりそうね」
「永琳さんあなたには俺がどんな風に見えてるんですか」
「ふふ、ごめんなさい。冗談よ」
意外とお茶目なんだなこの人。
しかし話してて頭が良いんだろうなってことがすごく伝わって来た。医者をやっているくらいだから実際頭は良いのだろう。
「話が逸れちゃったわね。それで、どこか痛いところはあったりしない?」
「てゐに仕掛けられた落とし穴のせいでケツが痛いです。あと、ずっと歩いて来たので足が痛いです」
「てゐ?」
「ええ、てゐ」
「あの子……」
てゐには悪いが自業自得だ。やられっぱなしでは俺の気は収まらない。
「まぁそれは後でキッチリ処理するとして、頭とかは?」
「特に」
「わかったわ。そうねぇ、一旦CT撮ってみましょうか」
「しーてぃー……?」
「簡単に言えば脳を透かして撮るってことよ。」
「なにそれこわい」
「怖くないわよ」
脳を透かして撮るとかどんなだよ。こえぇよ。
「そこの部屋に入って、その中に置いてある機械に寝て頂戴」
CTなる謎の単語に怯えるが医者である永琳さんの指示に逆らって良いことは何もないので諦めて指示に従う。
「はい」
「私はどうすれば?」
「もう用済みと言えば用済みだけど外に行く間に輝夜に遭遇して面倒起こされても困るし私についてきて頂戴」
「はーい」
二人のそんな話を聞きながら永琳に言われた部屋の襖を開けると、非常にごつい機械が置いてあった。
畳の上に置いてあり、雰囲気的にあってない気がするのだがまぁ俺がとやかく言うことでもないだろう。
そう一人で納得しながら言われた通りに機械の上に寝っ転がる。
すると驚くことが起きた。
「あーあー。聞こえる?」
この場にいない永琳さんの声が聞こえたのだ。
「その反応は聞こえてるってことでいいのよね?今はスピーカーを通して話かけてるのよ。」
スピーカーとかいうまたもや出てきた聞いたことのない単語に頭を抱えつつ心を落ち着かせた。
「ところで永琳。あの機械で検査する人って変な服着てなかった?」
「よく知ってるのね。まぁ大丈夫でしょ」
まぁ大丈夫でしょという医者からあまり聞きたくない言葉が出てきてしまった。非常に怖い。
「じゃあそのままじっとしてて頂戴ね」
そうスピーカーから流れた直後プチッという音がしてなにも聞こえなくなった。
代わりに俺が寝っ転がっている機会がウィーンという音を立てながら動き出した。
なにをされるんだろうとビクビクしているとスピーカーからまたぶちっという音が聞こえてきてその直後に永琳さんは言った。
「はい、終わりよ」
その言葉を聞いてなにも返答出来なかった俺に対して永琳は続けてこう言った。
「もう出てきていいわよ」
「え?」
なにもしていないし、なにもされてないのにもう終わったと言われてもどう反応したらいいのだろうか。
とりあえず永琳さんに言われた通りに部屋を出て先ほどの診察室へ戻った。
「お疲れ様」
「疲れるようなことなにもしてないです」
「まぁ、それもそうよね。ふふ」
「夢幻が困惑してるのを見てるの、楽しかったよ」
「うるせぇ」
「それで、これを見てちょうだい」
永琳さんが持っている棒の先には変な似たような写真が並べられていた。
「これは?」
「あなたの脳の写真よ」
「ああ、さっき撮ったという」
「ええ。それで、これを見ても特になにも異常は見当たらないわ」
「そうですか」
「そうですか。って…まぁいいわ。とりあえず私に出来ることはなさそうね」
あんなごっつい機械を使ってもわからないのなら異常は無いと思うのだが。
というか医者にわからなかったら俺にもわからないだろう。
「あ、そうだ。あなたのこと気に入ったからこれ渡しておくわね」
そう言って永琳さんはカードを渡してきた。
「これは?」
「まぁ永遠亭に診察とか関係なく遊びに来ることを許可するパスポートみたいなものよ」
「へー」
「もうちょっと喜んでくれてもいいんじゃないかしら? これを渡すなんて滅多にないんだから。まぁいいわ、これを永遠亭の玄関のところにある機械にスキャンしてもらえば診察してる途中じゃなかったら私が会いに行くわ」
最後の一文は勿論俺は聞き逃さなかった。毎日妹紅に連れてきてもらって毎日使おう。
「永琳、夢幻のこと本当に気に入ったんだね。それ、永遠亭に住んでる兎たちと依姫さんと豊姫さんくらいにしかまだ渡したことないでしょ」
永遠亭に住んでる兎は業務的に必要だろうから除くと俺入れて三人だけなのか。特別扱いされるのはとても嬉しい。
「ええ、夢幻さん面白いじゃない?」
「確かに」
永琳さんに特別扱いされたお返しとは言ってはなんだが一つ提案してみる。
「永琳さん良かったら俺のことは夢幻って呼び捨てで呼んでいただけませんか?ちょっとさん付けで呼ばれると違和感が……」
相手はお医者さんという立場なので一歩引いて喋っていたがここまで特別扱いされたら大丈夫だろう。
「いいわよ。そういうことだったら夢幻も私のこと永琳って呼んでちょうだい。そっちのほうが仲良さそうじゃない? あと、敬語じゃなくていいわよ」
「ん、わかった。じゃあ永琳な」
「ふふ、少しも躊躇わないのね。そういうとこも好きよ」
一気に永琳からの好感度が上がった気がする。恐らく前からこの程度の好感度だったんだろうが、敬語じゃ無くなったからだろうか。タメ口というのは偉大だと思った。
「さてと」
永琳が立ち上がった。
「どこ行くの?」
「てゐを懲らしめにね」
なるほどそのイベントが残っていたか。
遂に仕返しが出来るとなると不思議と口角が上がってきてしまう。
「俺も付いて行っていい?」
「私もー」
「別に構わないわよ。じゃ、行きましょう」
そう言って俺らは部屋を出た。
夢幻の知識はあくまで中の世界での知識という設定になっております。
でもまぁじゃあなんでそれ知ってるんだよ。みたいな矛盾が出てきてしまいますがその辺は見逃してもらえればと…