ゴジラ・ウォー!   作:葛城マサカズ

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第9話「ゴジラと命名です!」

 「巨大不明生物に名前がついたわ。ゴジラと言うそうよ」

 一方で大洗では夕食を前に蝶野がみほ達へ伝えた。

 「こんな時に名前なんて全くどうでもいい」

 桃が苛立つように言う。

 「まあ、言い易くはなったね。巨大不明生物なんて長過ぎ」

 杏が言う。

 「そう言えば大洗に上陸したから大洗君なんて言われてますよ」

 柚子がタブレットを皆に見せながら言う。そこにはネット上で巨大不明生物と言う名前は長いから大洗に現れたので大洗君にしようと書かれた記事が出ている。

 「まず上陸したのはひたちなか市だろ?」

 アンチョビが柚子のタブレットを覗きながら言う。

 「ひたちなか君は長くスギ」

 杏が干し芋を揺らしながら言う。

 「それもそうだ」とアンチョビは合点する。

 「でも愛着は湧かないな」

 みほがそう言うと皆は「確かに」「だよねー」と同意する。

 あくまで巨大不明生物もといゴジラは倒す相手なのだから。

 

 

 「ふう。陸で移動するのは結構しんどいわね」

 停車させたT-34/85中戦車から降りるとカチューシャは一息する。

 カチューシャは青森県のプラウダ高校で戦車道の隊長をしている。

 「お疲れでしょう。さあ」

 カチューシャの前でしゃがみカチューシャをおんぶしようとするのは副隊長のノンナだ。

 「それはいいわ。みんなに晩御飯を食べさせないと」

 ノンナのどこか自分を子ども扱いする態度を断りカチューシャは隊長として指示する。

 青森県から鉄道で茨城県の宇都宮まで移動し、そこから千葉県の陸上自衛隊習志野駐屯地へ自走してやって来た。

 長距離の自走をほぼ1日中ずっと行いカチューシャもノンナもさすがにくたびれている。

 それはプラウダの生徒皆もそうだ。

 「お~いみんな。肉入りのシチー作ってあるから食堂へ来てくんろ」

 先行して習志野駐屯地へ来ているプラウダの生徒がカチューシャ達へ訛りのある声で呼びかける。彼女達は受け入れ準備と晩飯を作って待っていたのだ。

 その呼び声にクタクタの彼女達も目を輝かせて食堂へ歩き出す。

 「ノンナ、ここから大洗は近いんだっけ?」

 歩きながらカチューシャはノンナへ尋ねる。

 「近くはないですね。80km以上はあるかと」

 「遠いわね」

 「みほさんが気になりますか?」

 「あんな化け物相手にしているんだし気にはなるわ」

 やはりカチューシャは素直ではない。いつも通りだとノンナは思った。

 

 

 日本近海の太平洋では海上自衛隊が護衛艦と哨戒機により捜索を続けていた。

 何度もアクティブソナーによる音波を放ち海中と海底を調べた。だがなかなかゴジラの影も捉えられない。

 それは日本近海各地も同じだった。

 もう遠くへ行ったのではないかと捜索にあたる隊員達が思っていた時だった。

 「不明の音源を捉えました」

 日の出にはまだ時間がある未明

 護衛艦「むらさめ」のソナーを担当する水測員が当直に立つ艦橋の副長へ報告する。

 「潜水艦か?」

 「いえ、スクリューの音は無し。しかし海の底で何か動いています」

 報告を受ける副長は休んでいる艦長と水測長を起こし探知した事を告げる。

 「また外れかもしれんが。そちらへ行く」

 艦長も水測長も今まで潜水艦以外の不明な音源を探知しては陸地からの反響音、水棲生物の動く音など外れを当てていた。

 そのせいか探知報告を聞いてものんびりしたものだった。

 「さて、クジラかな?ゴジラかな?」

 寝起きの水測長は冗談を言いながら保存した音のデータを聴く。

 ヘッドフォンを耳に当て水測長が聞き入ると顔は寝ぼけまなこから険しくなる。

 「艦長、魚やクジラでも陸の音でもありません。聞いた事が無い音です」

 「ゴジラか?」

 「可能性は大きいですね。ゴジラの音紋データが無いので可能性としか言えませんが」

 「分かった。水測長はそのまま配置に就き音源に異変がないか観測せよ」

 艦長は次にゴジラらしきものを探知したと第1護衛隊司令部へ通達する。

 その報告は次に第1護衛隊群司令部へ届き自衛艦隊司令部と続き海上幕僚監部を経て自衛隊のトップである統合幕僚長へ届く。

 統幕長から防衛大臣へ届き内閣官房長官や内閣危機管理監にまで届いたが「むらさめ」が探知したのがゴジラなのか見極める為に総理大臣や他の閣僚にはまだ伝えていない。

 「不明の目標が浮上中!」

 「むらさめ」は探知した不明の音を放つ物体が浮上しているのを察知した。

 「対水上対潜戦闘用意、これは実戦だ!」

 艦長は既に配置に就かせていた艦内の総員へ告げる。

 ゴジラに対しての武力行使は自衛隊の最高司令官である総理の許可が必要だが、浮上した時にゴジラと確認され許可が下りれば主砲や魚雷で攻撃するつもりであった。

 「不明の目標は震度50のまま西へ向かっています」

 水測長の報告に艦長は忌々しく感じた。

 海中に潜るナニモノかがゴジラだと分かれば許可を貰い実弾を撃てる。

 だが潜ったままではゴジラか否か分からない。

 「艦長、このままの進路だと大洗へ向かいます」

 航海長が海図でゴジラらしい目標が向かう進路を指した。

 「すぐに報告だ。ゴジラらしきものが大洗へ向かうと」

 

 「はあ、ゴジラらしきものですか。大洗に」

 辻は寝ているところを携帯電話で起こされた。

 「分かりました。すぐに大洗へ警戒するように指示をします。では」

 携帯電話を切ると今度は大洗に居る蝶野の電話番号へかける。

 「起きたかね。ゴジラらしいのを海自が発見した。どうやらそちらへ向かっているらしい。いつでも出動できるようにして警戒態勢にしておくように」

 辻は早口に言うと電話を切りベッドから降りる。

 「まだ4時か。やれやれ早出出勤か」

 


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