カヨコとケイの交友関係があるようにカヨコの祖母の地元を長崎と本作では設定ていますが、シン・ゴジラでは長崎なのか広島なのかははっきりは出ていないです。
西住まほは愛車と言えるティーガーⅠ重戦車から外を眺めていた。
その光景は無限のように広がる街並みだった。
「これが東京か」
みほは黒森峰の戦車道履修者達を率いて東京に来ていた。
文科省の要請で東京での配置に就くべく熊本から黒森峰女学園の戦車道履修者は向かった。戦車に乗るまほ達が熊本空港から羽田空港まで民間機で移動し、戦車はトレーラーで高速道路で向かった。
東京都内にトレーラー隊が合流するとまほ達は合流した。まだトレーラーに積まれた戦車に乗り込み戦車を動かして降車させる為だ。
降ろす場所である新宿御苑まで黒森峰の面々は戦車の上から東京を見物する。
見物とはいえ夜だ。よく見渡せるとは言い難いが煌々と光る街の灯りは熊本とは大違いで黒森峰の皆は楽しんでいた。
夜間の移動は重量物の移動が夜間に定められている道路交通法に従った為だ。巨大不明生物が襲来している非常時なら昼間でも移動できたが、襲来していない今は平時の法律に従っている。
「隊長、10時に東京タワーが見えますよ」
副隊長の逸見エリカがティーガーⅡ重戦車から無線でまほへ教える。
「初めての東京だからってあまり浮かれるなよ」
まほは隊長として釘を刺す。エリカは恐縮して「すいません」と小さく答えた。
(あれが東京タワーか。綺麗なものだな)
しかしまほも大都会東京の夜景に心が少し浮かれ赤くライトアップされた東京タワーを眺める。
思わず持っている携帯電話に手を伸ばし撮影してメールでみほへ送ろうかと思ったがエリカを諫めたばかりなのを思い出した。
まほは手をティーガーⅠの砲塔の上に乗せ東京タワーをまたしばし眺めた。
在日米軍横田基地にはサンダース高校の戦車が集結していた。
輸送機でここまで運び降ろしてから展開地域が決まるまで待機となっていた。
「ケイ!久しぶりね」
サンダースの隊長であるケイは自分の戦車であるM4シャーマン戦車を整備していた。そこへ誰かが呼ぶ。
「カヨコ!久しぶり!」
ケイは振り返ると大きな笑顔で迎えた。その人はカヨコ・アン・パタースンだ。彼女はアメリカ人だが祖母が日本人なので一見日本人見える容姿をしている。
そんなカヨコとケイの縁は祖母の地元が長崎であり、ケイの親戚とカヨコが仲が良くカヨコが祖母の墓参りに来た時にケイと出会い縁が続いていた。
「こんなところで会えるとはね」
「本当に、日本へ来たのは仕事?」
ケイはカヨコがアメリカ議会の議員である事を知っている。
「そう。聞いてよ、ドレスのままパーティ会場から仕事へ行けって言うのよ。酷くない?」
「酷いわ。しかもドレスのままって余裕無さ過ぎだよね」
「でしょう。着替えようと思って日本の役人にZARAが無いか聞いても分かって無いし」
「そうとうストレス溜まっているわね」
カヨコは溜まった愚痴をケイへぶつける。
「そうだ。ケイ、大洗の戦車乗っている子と知り合いかしら?」
「お姉ちゃんが東京に着いたってメールがあった。困ったら連絡しなさいって」
みほは姉からメールがあった事を昼食を食べながらあんこうチームの皆へ語る。
「優しいお姉さんですね」
華は普通に連絡し合えている西住姉妹を嬉しく思っていた。みほが熊本から大洗へ来てから溝が出来ていた事に華も戦車道を続ける為に母親との仲が悪くなった事で理解があった。
「困った事ですか。火力向上にティーガーⅠかティーガーⅡ、欲を言えばヤークトティーガーを借りたいですね」
優花里が冗談で言う。
「あんな重過ぎる戦車の操縦は難しいんだぞお。どこを通るか気遣いがなあ」
あんこうチームでは操縦を担当する麻子が優華里へいつもの気だるい調子で言う。まだ寝起きなので尚更低い声だ。
「ティーガーの操縦は車と同じハンドルですしパワーステアリングもありますから重い戦車の割には動かしやすいですよ」
優花里はティーガーの操縦に関して明るく答える。ティーガーは自動車の走向装置を導入しているのでⅣ号のようなレバーによる操縦とは違うと優花里は言っているのだ。
「じゃあ私は生徒会に呼ばれているから行くね」
談笑に花が咲く中でみほは昼飯を食べ終えると生徒会室へ行く。
「西住ちゃん来たね。じゃあ始めようか」
生徒会の部屋に入ると杏が会議の開始を告げる。メンバーは柚子・桃にアンチョビと蝶野が居る。
「西住さんの言うアメリカ政府関係者が会いたいと米軍経由で防衛省から連絡が届いたわ」
蝶野が言う。
「何で私なんでしょう。アメリカ政府の人と会った事はないのに」
みほは困惑していた。
昨夜、ケイからカヨコに会って欲しいとメールがあった。メールにはカヨコがアメリカ大統領の特使だとも書かれていた。
みほは用件は何か尋ねると「カヨコは会うまで話せないと言っている。嫌なら私から断るよ」と返事が来た。みほは意を決して会うと決めた。
だが事が政治絡みだとみほも分かっていた。なので杏と蝶野に朝一番で相談し今に至る。
「防衛省からの連絡だと現地訪問の一環で西住さんに会いたいと言っているけどそれなら外務省か文科省から話が来るのに変よねえ」
蝶野もカヨコの訪問に疑念を持っていた。
「アメリカも巨大不明生物を私達で倒せと言いたいからかねえ」
杏が言う。彼女も今度ばかりは何も読めない。
「彼の国は無茶を言いますからね」
桃もこれから過大な要求をされるのでは?と警戒をしている。
「だけど何か支援をしてくれるならありがたいけどね」
柚子はそう希望を持つように言うが彼女も不安だった。
「だけど、会ってみないと分からないぞ」
アンチョビが言う。
「西住ちゃん会うのが嫌なら私と蝶野さんで会うよ」
杏はみほへ助け舟を出す。
「いいえ。私は会います」
みほは会うと言う部分では決心していた。
カヨコは米陸軍のUH-60で旧小学校の校庭に着陸して来た。
サングラスをかけたスキンヘッドのいかついSPらしきスーツの男を連れて待っていたみほと杏に挨拶をする。
「会ってくれて嬉しいわ。私はアメリカ大統領特使のカヨコ・アン・パタースンです」
「はじめまして。私が大洗女子学園の戦車道隊長の西住みほです」
みもはカヨコの目をまっすぐ見ながら挨拶をする。
「私は大洗女子学園生徒会の角谷杏です。政治の話なら私が受けますよ」
杏がカヨコへ進んで挨拶をする。
「あなたが母校を廃校にしないように官僚と渡り合ったミスカドタニね。政治なら貴方に話すわ」
カヨコは杏が廃校を回避しようと文科省や戦車道連盟と折衝を重ねていた事を知っていた。それは事前に会う人物のプロフィールを知るいつもの事に過ぎない。
「さすがアメリカさんだ。何でも知っている」
「そうよ。だから貴方達に教えに来たの」
「日本政府にあの怪物の対策本部が出来たのは知ってる?」
生徒会室に場所を移すとカヨコが尋ねる。
「巨災対ですか?」
蝶野が答える。巨災対は巨大不明生物災害特設対策本部の略称だ。
「そう、その巨災対の情報を私は教えに来た。どうも貴方達を管理している文部科学省は融通が利かないから軍を通じて連絡して会っているわけ」
カヨコは日本政府が巨大不明生物に軍事力を使わずスポーツの戦車に実弾を撃たせて倒す方針のままだと聞いて呆れた。ならば巨災対の情報を教えて少しでも有効な対策を立てさせようとしたが「国家機密を外部には教えられない」と対策本部長の矢口蘭堂は断る。
「だがアメリカから情報が伝わったのなら私は止めようが無い」
矢口のアドバイスからカヨコは行動に出た。
「非公式な情報ですね?」
蝶野は確認するとカヨコは「そうよ」と答える。
「あの怪物はある科学者に関係している。名前は牧悟郎。城南大学で統合生物学の教授をしていた。その牧は学会から追放されてアメリカでエネルギー省の仕事をしていた」
カヨコは連れて来た男から書類を受け取ると資料を広げる。そこには眼鏡をかけた老人の写真、牧悟郎の写真もあった。
「牧は生物の専門家でありながら放射性物質の研究機関で働いていた。牧は自分の研究が終る直前に日本へ来て行方不明になった。日本の警察に捜索を頼んだら大洗の病院で亡くなっていた。大洗で何をやっていたかは分からないわ」
資料とカヨコの説明を受けある老人が巨大不明生物と何か関係があるとまでみほ達には分かった。
「まさかあの化け物をこの老人が作ったとか?」
アンチョビがカヨコへ訊く。
「その可能性が高いわ。だから政府以外にこの情報を出したくないみたいよ」
「文部科学省も牧教授の属していた大学の面子を守るためで秘密にしたかったのかもしれないですね」
杏がそう推測すると「貴方本当に政治は得意ね」と感心した。
「パタースンさん。この情報を他の戦車道履修者にも伝えるんですか?」
みほが尋ねる。
「必要ならそうするけど、今はこの情報は貴方達が一番必要だから教えたの」
カヨコが答えると「どういう事でしょう?」と今度は蝶野が訊く。
「あの怪物がここへ来る可能性が高いからよ」
みほと柚子・桃が「ええ!」とどよめく。
「根拠はあるんですね?」
蝶野が尋ねるとカヨコは少しかぶりを振る。
「確証とは言えない。だけど牧教授が大洗であの怪物を呼び寄せる仕掛けを残していたら再上陸はありえるわ」
カヨコの言葉に杏もみほも信じて良いのかと思う不安が沸く。
「つまり、パタースン議員は大洗の私達にまた戦う可能性が高いと言いたいのですね」
蝶野が言うと「ええそうよ」とカヨコは肯定する。
「だけど心配しないで、水面下で日本政府を動かす働きかけは色んな人がしているわ」
カヨコは不安げな大洗の面々に自信に満ちた顔で言った。