ゴジラ・ウォー!   作:葛城マサカズ

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第4話「連絡は大事です!」

 ひたちなか市に巨大不明生物が上陸して立ち向かったのは警察と消防であった。

 「とにかく追い出すんだ」

 という県警の方針で警察の放水車と消防車が高圧の放水で巨大不明生物を追い出しにかかる。

 「あんな不気味な奴でも環境保護とか動物愛護団体がうるさいからな」

 トカゲが大きくなったような姿で見開いた状態のように丸い目は不気味さを感じさせていた。だが不気味な姿であろうと無闇に殺してしまうと動物愛護や環境保護の団体から「貴重な命を奪った」「生態系の破壊」と言われかねない。

 そんな事情から放水による追い出しが行われている。 

 「効いているみたいだ。嫌がっている」

 高圧放水が腹や顔に当たると巨大不明生物は首を多く振ったり身をよじる反応をした。放水をしている警官と消防士は撃退できると確信を持ちはじめた。

 「政府が自衛隊の出動を認めず大洗女子学園に駆除を要請しました」

 茨城県警本部で大洗女子の出動要請を聞いても県警本部長である三宅警視監はあまり関心を抱かなかった。

 「女子高生が来る前に追い出せるだろう。それより住民避難は順調か?」

 放水での撃退に自信を持つ三宅が気になるのは住民避難の進捗であった。警察は放水作戦と同時に住民避難の誘導を県や市の職員と共に行っている。

 放水による撃退に見込みがあり、残る懸案は住民に死傷者を出さないように避難させる事だけだと三宅は考えていた。

 「なかなか海に行ってくれんな」

 三宅はTVの中継や報告される巨大不明生物の位置を見ていた。だが巨大不明生物は放水により歩みが鈍って進路を変えられても陸地が続く南へと進んでいる。

 「やはり駆除か」

 三宅は県の公安委員会から「駆除を要請するが、できる限り追い出すようにせよ」と要請を受けていた。50メートルのk巨体が市街地を進み被害を拡大させるようでは追い出しができないのであれば駆除するしかない。猪や熊とはスケールが違う。

 「警備課長、銃器対策部隊は配置に就いているか?」

 三宅は警備部長へ尋ねる。銃器対策部隊は狙撃手や短機関銃を持つ隊員が居る部隊だ。銃による犯罪に対抗する部隊でもあるが対テロでの警備の役割もある。

 「狙撃班は配置に就きいつでも撃てます。他の隊もひたちなか市にあり車輛で待機しています」

 ここで言う他の隊とはMPー5短機関銃を持つ隊員の事だ。避難の邪魔にならないように輸送車で待機しているのだ。

 「市と県に連絡、これより駆除作戦を行う」

 こうして警察による駆除作戦が開始される。

 「狙いを定めました。射撃許可をください」

 狙撃手は巨大不明生物の東部、眉間の辺りに狙いを定めた。

 「少し待て住民避難が完了していない。待機だ」

 狙撃手はM24狙撃銃を構え引き金を引くだけの姿勢のまま待たされる。

 「やはり徒歩での避難は早くとはいかんか」

 突如出現した巨大不明生物にひたちなか市はパニック状態になる。道路は逃れようとする車で渋滞した。渋滞は進まず事故も起きた。渋滞が進まないと見て県警は車を捨てて徒歩での避難を指示する。

 だが歩きで避難させると足腰の強さで差出る。年齢が若く健康であれば走ってでも行けるが高齢者や病弱な者の足は当然遅い。

 思うような避難は望むべくもない。

 「必ず命中させます。むしろ外すなんて無理です。射撃許可をください」

 狙撃班は自分の腕に自信があった。外す事は無い。流れ弾で市民を巻き添えなんてしないと。

 「あの図体が倒れたら何人か巻き添えになる。射撃は待て」

 しかし県警本部は待てと命じた。

 「このままでは那珂川を越えて大洗町に入るな」

 三宅は巨大不明生物の動きをそう読む。ひたちなか市を南下すれば那珂川の向こうにある大洗町がある。巨大不明生物はその大洗に向かっている。

 「巨大不明生物が那珂川に入ったら射撃だ。河の中なら倒れても大丈夫だろう」

 ひたちなか市内の避難は進まず混乱するばかりだ。誰も居ない河の中で倒しても巨大不明生物に潰される事はない。

 「自衛隊から連絡です。大洗女子の戦車を大洗町の那珂川南岸に展開したいと言っています」

 三宅に大洗女子学園の動向が入る。連絡担当は蝶野が行っていたので自衛隊からの連絡となっている。

 「警備部長、大洗女子の戦車と連絡はしているか?」

 三宅はが訊く。

 「これからです」

 放水作戦に効果がある事から大洗女子に関して警備部長はそこまで注意を払ってなかった。

 「自衛隊に連絡して大洗女子の作戦行動が防衛省や自衛隊の管轄なのか尋ねろ」

 この巨大不明生物が上陸する事件でまとまった指揮系統は市や県の下に参集した警察と消防ぐらいだ。

 「文科省と自衛隊が監督や指導をしていると言っています」

 「よく分からんな」

 三宅は大洗女子が文部科学省の監督下で自衛隊の指導下で動いている奇妙さに呆れた。

 平素の行政と教育の二元的な部分がそのまま出ているとはいえ有事では厄介としか言いようがない。

 「防衛省や自衛隊の作戦でないなら県警の指示で駆除作戦を遂行して貰いたいと要請すると伝えてくれ」

 三宅はとにかく指揮系統を纏めたかった。市民の巻き添えを回避する為の避難誘導や那珂川で巨大不明生物迎撃作戦を一つの指揮系統で行い手違いが起きるのを防ぐためだ。

 「茨城県警の指示に従えと?」

 現場に急行中の軽装甲機動車の車中で蝶野から三宅の要請を役人もとい辻は聞いた。その反応は複雑そうであった。

 「自衛隊で何か通知はあったか?」

 辻は蝶野に尋ねる。

 「防衛省も自衛隊もどこの指揮下に入るとは聞いていません」

 政府が文科省へ戦車道履修者による駆除を要請した時に一元指揮を誰にさせるか決めていなかった。ただ出せばすぐに駆除するだろうと思っていたせいである。

 「こっちも何も聞いてない。まったく」

 辻は自分の携帯電話を取り出し文科省へ尋ねる。

 蝶野は今更そんな事をしてい辻に苛立ちを感じた。いや、無理矢理あんな化け物に戦車に乗れるからと女子高生に立ち向かわせる政府にも苛立ちが収まらない。

 「どうした?大洗女子か自衛隊から連絡は?」

 「ありません」 

 辻が文科省へ問い合わせをしているので蝶野から返答が無く三宅は困ってしまった。

 「警察庁に文科省の戦車道履修者を指揮していいか尋ねろ」

 三宅は独自に問い合わせをする事にした。全国の警察本部を統括する役所である警察庁へ尋ねたのだ。

 「どうなりましたか?」

 一方で辻は文科省への問い合わせが続いている。蝶野は途中経過を訊く。

 「政府内で協議中らしい。事務次官も警察庁と国家公安委員会と話し合っている」

 「今からそれでは間に合いません!」

 蝶野は思わず声を荒げた。

 そんな時に辻の携帯電話が鳴り、軽装甲機動車に積んでいる無線機が蝶野を呼ぶ。

 「当面は茨城県警の指揮下で作戦を行うように」

 二人が聞いたのはそういう指示だった。

 「県警本部より大洗女子の戦車隊へ。これより駆除作戦を県警の指示に従うように、要請のあった那珂川南岸の展開を承認する」

 三宅は無線で指揮権発動を宣言した。

 

 


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