「あれはCH-47チヌークですかね。自衛隊と米軍どちらでしょうか」
学園艦の上空に2機のヘリが現れた。優花里は双眼鏡でその形を見て特定した。ローターを直列した機体はチヌークという大型輸送ヘリしかない。
「ここに自衛隊の飛行機で来るのは蝶野教官ぐらいだ」
桃は以前、自衛隊の輸送機から10式戦車で空挺降下し校長の車を破壊した事がある。
チヌークは学園艦の上空に来ると旋回をはじめ、学園の上空へ進むとグラウンドへ着陸を始めた。
「みんな集まっているわね」
チヌークから降りたのは大洗女子学園で戦車道の指導をした陸自戦車教導隊の蝶野亜美一等陸尉だ。格好は迷彩の戦闘服である。
「たった今、全員が出動に志願で決まりました」
「そう、覚悟したのね」
蝶野は陰りのある顔をした。
「本当なら私達自衛隊が対処すべき事態なのに、ごめんなさい」
蝶野はみほや杏など大洗で戦車道をしている皆へ頭を下げた。
「そんな蝶野さんが謝る必要は無いですよ」
みほは慌てるように言った。
「ホント政府とか何考えているか分からないから現場が苦労しますね」
杏が蝶野の苦しい思いを察したように労う。
二人の気遣いに蝶野は「ありがとう」と答えた。しかし自衛官として大人としての責務から来る苦々しさは晴れる事はなかった。
「私は戦車道の教官としてこの駆除作戦での指導をやる事になりました。以後、私からの発言は指導です」
戦車道の特殊事例には害獣駆除や治安出動・災害救援では教育指導をしている自衛隊の隊員による指導を受けながら行動を行うとある。
「それは実質指揮権を発動するという事では?」
杏が咎める。
「君達が指揮能力が無くなれば蝶野一尉に指揮させるがね」
チヌークから眼鏡をかけたスーツの男が現れた。杏の眉と頬が一瞬はねた。また皆も「またアイツだ」と騒ぎ出す。
「まったく随分な歓迎ぶりだね」
彼こそ文科省学園艦教育局長である役人もとい辻廉太だ。大洗の町でエキシビジョンマッチの後で学園の廃校を告げに来たので大洗の皆は顔を知っている。
「この駆除作戦では私が君達の監督をする。だが現場の指揮は君達に任せるよ」
辻の言葉にまず蝶野が不機嫌な顔を一瞬見せた。
学園艦を行政上監督しているとはいえ戦車や戦車道が何か分からない役人が作戦に介入できる権利がある言うのだ。作戦や戦闘の本職である蝶野にとっては面白くないだろう。
「蝶野二等陸尉、大洗女子学園の戦車道履修者へ実弾の支給を要請します」
辻が言うと蝶野は「要請を受理しました。ただちに実弾を支給します」と答えた。
競技用の弾薬とは違い殺傷能力がある実弾は学園艦それぞれにある。これは防衛省が管理している。だから文科省の役人は自衛官の蝶野に要請したのだ。既に大洗学園で保管している弾薬の支給は防衛大臣の認可を受け蝶野により支給される手はずになっていた。
「これより実弾を支給します。慎重に扱うように」
学園艦の戦車道用の倉庫から蝶野が連れて来た自衛隊員達により実弾である砲弾が運び出されみほ達に渡される。
いつも競技用の砲弾を扱う彼女らもさすがに顔は緊張気味に砲弾や機銃弾を持ち自分達の戦車へ入れる。
「実弾の支給終わりました」
みほが報告する。
「では出発しましょう。警察のパトカーと私の乗る軽装甲機動車が先導します」
大洗港に接岸していた学園艦から茨城県警のパトカーを先頭に蝶野が乗る軽装甲機動車が引き連れる大洗戦車道の戦車が続く。
「ここは大洗港です。巨大不明生物の駆除作戦に大洗女子学園の学園艦からパトカーに先導されて学園の生徒が乗る戦車が出動しています」
大洗港ではマスコミが大洗女子学園の出動を生中継している。
「全国戦車道大会での優勝校とはいえ巨大不明生物との戦いを女子高生ですよ。彼女たちで駆除作戦ができるか大きな疑問がありますね」
中継を見ていたニュース番組のコメンテーターをしている中年の女性が不安げに言った。
「おいおい本当にあの子らが行くのか?」
出動する大洗女子の面々を大洗町の人々が心配して見ている。大洗の町で縦横無尽に戦う大洗女子の姿に驚喜したものだが巨大不明生物と言う得体の知れないモノを相手に向かうのだ。地元の子たちとあれば尚更心配になる。
「おおい、無茶すんじゃねーぞ」
老人達は戦車へ向かいそう大声で呼びかけずにはいられなかった。