ゴジラ・ウォー!   作:葛城マサカズ

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第29話 学園艦に隠された真実です!

 ヤシオリ作戦前日の学園艦内

 杏は矢口に呼ばれて艦内の奥を歩いていた。

 「こうして大人の皆さんと歩いていると、何か悪い事をしたような気分ですよ」

 杏は矢口へ声をかける。

 何故、自分が呼ばれた分からないまま蝶野も合わせて三人で学園艦の艦内を歩く。

 「悪い事ですか。それは私の方ですね」

 矢口は苦笑する。

 「どういう事です?」

 「それはすぐに分かるわ」

 杏の問いに蝶野が答える。

 「ここよ」

 蝶野の指す部屋は学園艦の倉庫で使っている区画の一つだ。

 区画の出入り口の前には、小銃持つ隊員が警備に立っている。

 「かなり重要な物を置いるようですね」

 杏は物々しい様子に少し物怖じする。

 「今回の作戦に必要な物です。警備は必要ですからね」

 矢口はそう言いながら警備の隊員に許可証を見せる。

 許可証を確認した隊員が出入り口の鍵を解除し、ドアを開けた。

 内部はほんとど何もない。内部を警備する隊員と一つの長方形の箱だけがあった。

 「あれが重要な物ですか?」

 「あの箱の中身が重要なのです。中身は牧悟朗教授です」

 矢口が言った名前に杏は聞き覚えがある。カヨコが独自に公開したゴジラを作ったと思われる科学者の名前だ。

 「まさか、ご遺体ですか?」

 「そうです。最初は大洗の病院に収容されていました。ゴジラの襲来で水戸市の病院に移されていたのをここに持って来たのです」

 矢口は説明をするが牧教授の遺体を何故、学園艦に運び入れたのか杏は疑問に思う。

 「その牧教授の遺体が何故重要なのです?」

 「蝶野一尉、データーを角谷さんに」

 蝶野は持っているカバンからクリップで止めた書類を取り出した。それを杏へ渡す。

 「これは、ゴジラが大洗へ上陸をした時のデータです。ゴジラが上陸してどう動いた分析したものよ」

 蝶野の説明を聞きながら杏は書類に目を通す。

 その中には大洗の地図の上に赤色のいびつな線が引かれている。天気予報で見た台風が実際に通った進路みたいだ。

 「この赤い線がゴジラが通ったルート、注目して欲しいのは二度目の上陸の時よ」

 杏は二度目の大洗上陸時のゴジラのルートが描かれた項を見る。

 「この部分、ゴジラは進路を変えているんです」

 蝶野が指したのは那珂川でゴジラが西へ向きを変えた時だった。

 「そういえば、急に川の中で向きを変えましたね」

 杏にとっては、那珂川の南岸で戦車道の面々とでゴジラへ射撃を加えていた時だった。

 「私は気まぐれかと思いましたが」

 「理由があったのよ。あの向きを変えた方向に牧教授の遺体があったの、いや運ばれていた。大洗の病院から病院の職員によって車に乗ってね」

 「まさか、ゴジラが牧教授の遺体を追って?」

 「そうよ。牧教授を運んだ病院職員への聞き取りと、職員が持っている携帯電話の位置情報を確認したらゴジラが向きを変えた時と牧教授の位置が合うのよ」

 「しかし、ゴジラはどうやって牧教授の位置が分かるんですか?」

 杏は資料に書かれていない根拠について尋ねる。

 「それは分からない。巨災対でも確証を得るまでには至ってないわ。でも、牧教授の遺体があった大洗に二度も上陸した事は偶然とは言い切れない」

 「つまり、可能性を試す訳ですね」

 杏がそう理解すると蝶野は「そうよ」と肯定する。

 「遺体を利用するのは倫理的に問題がある。だが、そこまでしなければゴジラを日本列島から離して戦う事が出来ないんです」

 矢口が牧教授の遺体を利用する事の意義を語る。

 「理解できます。あの化け物をどうにか出来るなら、何でも利用しないと」

 杏は矢口の思いは理解できた。

 砲弾もミサイルをもってしても倒せない怪物と戦うには普通の方法だけでは足りないのだ。

 

 「ゴジラ近づく!」

 「近くに来てくれるのは良いんだが、さすがにおっかないな」

 ゴジラが接近を続けている事は無線から何度も伝わって来る。杏は学園艦内に置かれた作戦指揮所に居て、双眼鏡でゴジラを見つめる。

 血液凝固剤で少しは弱くなっているとはいえ、まだ恐ろしさは大きい。

 (学園艦に牧教授の遺体があるから離れたくてもゴジラは寄って来るなんて、言えないなあ)

 杏は数少ない真相を知る者である事をすまいないと思っていた。

 だが、必要な秘密だと理解してもいた。

 

 「タイガーより、あんこうへ」

 まほがみほを呼ぶ。

 「あんこう受信」

 「そろそろ各車は砲弾を撃ち尽くす頃だ。補給はどうする?」

 まほが指摘するように血液凝固剤入りの砲弾は撃ち尽くされようとしていた。撃ち出す砲弾はゴジラの口に全て命中している訳ではなかった。

 幸いなのは砲弾が補充できるほどに余分がある事だ。

 「砲弾が無くなった戦車から補給をしましょう。射撃再開までに補給を済ませておこうと思います」

 「それが良いな」

 まほは妹の案を良しとした。

 ゴジラが尻尾から光線を放つようになって血液凝固剤の射撃は一時中断していた。

 学園艦にゴジラが光線や火炎を向けないように、米軍の無人機部隊や海自の潜水艦がゴジラを攻撃して牽制している。

 「大隊長車より各車へ、砲弾の残りを報告してください」

 みほが呼びかけ、返る報告からノンナが乗るスターリン重戦車の砲弾が少ないと分かる。積める砲弾が一番少ない戦車だからだ。

 「ではノンナさんから補給をして下さい。次に補給する戦車は―」

 みほは血液凝固剤入り砲弾の補給作業に入るよう指示する。

 

 みほが砲弾補給を始めたと同じ頃に自衛隊の戦車も順次砲弾補給を始めていた。

 「持ち込んだ砲弾で間に合えば良いが」

 袖原がゴジラに血液凝固剤の効果が出るのが先か、砲弾が尽きるのが先かが気になり出した。

 指揮所では丹波ら部隊の指揮官が補給と射撃をする戦車の入れ替えを指示している。また砲弾の命中した数から血液凝固剤の投入量を測る安田は黙って静かだが、眼は数字の情報を睨んでいる。

 矢口はそうした光景を目にしながら作戦の推移を見つめる。

 ゴジラは尻尾を振り飛んで来る米軍の無人機部隊と戦っている。血液凝固剤の効果が出てゴジラが光線や火炎を出せなくなるのはいつだろうか?もしかすると、人智を越えたゴジラは血液凝固剤を克服して回復しているかもしれない。

 矢口はまだ動くゴジラに憶測を巡らす。

 「計算上では現在の投与量は47パーセントです」

 安田が矢口に話しかける。

 「まだ足りないですね」

 「そうです。最低限度まで28パーセントは投入しなければなりません」

 矢口は安田の観測に「何か無いか」とゴジラに血液凝固剤を再び投与できる状況を作れないかと渇望する。

 「米軍が巡航ミサイルによる遠距離からの攻撃を提案しています」

 丹波に米軍からの連絡が入る。

 「許可する」

 丹波の許可を得て、グアムから発進した4機のB-52爆撃機はゴジラから1000kmの海域で、合わせて80発のAGM-86巡航ミサイルを放つ。

 この80発の巡航ミサイルはゴジラの尻尾に背ビレからも放つようになった光線により全てが撃墜された。

 「まだあんなに力が残っているのか」と誰もがゴジラを畏怖する。

 「続けて、米原潜より巡航ミサイルが発射されます」

 丹波にしろ矢口にしろ、ぶつけられる物なら何でもぶつけると言う心境だった。

 米軍は原潜「シャイアン」と「コロンビア」からトマホーク巡航ミサイルを2000km離れた海域から発射した。

 合わせて24発のトマホークがゴジラに向かう。

 「命中!ゴジラ熱線を発射せず!」

 ゴジラが何処からも光線も火炎も出さず、その身体にトマホークが命中した。

 「好機だ!血液凝固剤の撃ち込みを再開せよ!ゴジラが何も出さない今の内に!」

 丹波はすぐに命じる。

 「全戦車へ、射撃再開!」

 この指示はみほの耳に入る。丁度あんこうチームのⅣ号が砲弾を補給している最中の時だった。

 「大隊長車から全車へ、補給が済んだ戦車からゴジラへ射撃を再開してください」

 みほ以外で補給中は愛里寿が率いる大学選抜のパーシング4両だった。

 「あんこう復帰までタイガーが指揮を執る!」

 まほが指揮権を発動した。

 「こちらタイガー、射撃ができる戦車から撃ち方はじめ!」

 まほがそう命じるとノンナのスターリン重戦車、カチューシャのT-34、カバさんチームと継続のⅢ号突撃砲が射撃を開始する。

 「どんどん撃ち込んで、海に沈めてやる!」

 カチューシャは血気盛んにT-34の砲を撃ち込む。ノンナはあまり多くない砲弾を確実に命中させようと照準を正確に合わせてから撃つ。

 「戦車で八岐大蛇伝説をしている気分だ」

 エルヴィンは砲隊鏡でゴジラを見ながら言う。

 「同じ事を考えていたぜよ」

 おりょうが同感だと応える。

 「でも、ゴジラは好きで血液凝固剤を飲んでいる訳じゃないけどな」

 左衛門佐が言う。伝説では八岐大蛇は須佐之男命が用意した桶の酒に自ら首を突っ込んで飲んでいた。

 だが、ゴジラは人類によって無理矢理、血液凝固剤を飲まされている。

 「でも、しっかり飲んで貰わないとね」

 カエサルが砲弾を装填しながら言った。

 「あと何発撃てば良いのかな?」

 砲を照準しながらアキはぼやく。

 「たとえどんなに巨大で強くても、崩れる時は来るさ」

 ミカは砲弾を装填しながら、いつものように胡乱な事を言う。

 「それがいつなのかって話だよ」

 「そう、遠くない。でもすぐじゃない」

 「もう」

 ミカは相変わらずだと呆れるアキであった。

 「さて、私達も始めましょうか」

 オレンジペコから射撃準備が出来たとダージリンは聞き行動を始める。

 「果たしてこの攻撃は効いているのでしょうか?」

 オレンジペコは不安を述べる。

 「アッサム、確率はどうかしら?」

 ダージリンは戦車道の試合を計算により勝つ可能性を見出すアッサムに尋ねた。

 「ゴジラが相手ではデータが足りませ。、正直分かりかねます」

 アッサムは正直に答えた。

 「倒せるかどうか分からないのですね」

 オレンジペコがより不安を募らせる。

 「こんな時に相応しい言葉があるわね。<幸運の女神は勇者に微笑む>だからゴジラが倒れるまで撃ち続けるのよ。幸運の女神を引き寄せる為にね」

 いつもの格言披露をするダージリンに呆れながらも、実感がある言葉だともオレンジペコには感じ取れた。

 




久しぶりの投稿になります。
お待ちしていた方にはすみませんでした。
次回の第30話で最終話にする予定です。

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