ゴジラ・ウォー!   作:葛城マサカズ

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第24話「譲れない気持ちがあります!」

 千葉県館山の港に陸上自衛隊の戦車が続々と集まっていた。

 どれも射撃で高い技能を持つ砲手が乗る戦車ばかりだ。なので全国の各部隊から74式戦車から90式・10式と集まっている。

 「こうして見ると頼もしいですね戦車と言うのは」

 辻は学園艦の上から集結する戦車を眺めていた。

 「戦車が好きになりましたか?」

 蝶野が少しからかうように言う。

 「嫌いじゃないですよ。ただ最近は戦車で泣かされてばかりでね」

 辻の答えに蝶野はクスリと笑う。

 「ところで最近はずっとここですね。文科省に帰らなくていいんですか?」

 辻は矢口と尾頭を連れて来てから現場の監督や指導と称して辻は大洗の学園艦に残っている。

 「本省の方針に逆らっているんです。帰れませんよ」

 反逆を覚悟した辻の胸中を蝶野は察した。

 「それにここに残った方が我々の作戦の準備がしやすい。何より気になる事もありますからね」

 「気になること?」

 「またあの子達が何かやるんじゃないかと」

 辻がそう言った時だった。

 辻の携帯電話が着信の音が鳴る。

 「はい。あ~はいはい。そちらへ行きます」

 いつもの平然とした様子で電話を切ると何処かへ向かおうとする辻

 「何かあったんですか?」

 蝶野が辻の背中を追うように尋ねる。

 「私の思った通りの事が起きました。これから対応に向かいます」

 

 学園艦の航行や艦内全体への電力・水道などエネルギー供給をコントロールする制御室に何者かが乱入した。

 自衛隊に制御室を引き渡す前なのでまだ船舶科の生徒達が居た。

 「ここはウチらが頂くよ」

 「さあ、出て行って貰おうか」

 そこへ船舶科と同じ制服を着た5人が制御室を占拠に現れた。元から居る船舶科の生徒達は彼女が何者か分かっていた。素直に従う。

 「どん底の生徒だと思う人達が5人来ました。はい制御室を取られました」

 出て行かされた制御室を出て行くが出てすぐにこの事態を携帯電話で伝えた。

 制御室を占拠したのはバーどん底の面々だった。

 「桃先輩これで学園艦は私達の物です」

 お銀が川嶋桃を誘う。

 桃だけではなく角谷杏や小山柚子も制御室に入る。

 「すまない。なこんな事をさせて」

 桃はお銀達に謝る。

 「いいんですよ。他人にいいようにされるなら奪う方がいい」

 「西住ちゃん、これからどうする?」

 角谷杏は背後を振り返る。そこにはみほが立っている。

 「ここには臨時の操舵装置がある筈です。これで学園艦を外洋へ出します」

 みほは制御室に入ると臨時操舵装置を探し始める。

 学園艦は正式な操舵の機能が何らかの事故で動かない場合に備えて臨時の操舵装置が何カ所もある。

 みほは艦の動力をも管理出来る制御室を占拠する事で学園艦を動かそうとしていた。

 その為に杏や桃へ相談し桃がどん底の面々を頼ったのだ。

 「でも動かし方を知っているのか?」

 「先輩これでも船舶科ですよ。船を動かすのは当たり前です」

 お銀は自信満々に言う。

 「頼むぞ。私達は船に関しては素人だ」

 桃が頼もしそうに言うとお銀は嬉し気に微笑む。

 みほが考え桃やどん底の面々をも巻き込んだこの企ては制御室を占拠して学園艦のコントロールを奪い学園艦を外洋へ出して対ゴジラ作戦に使わせないようにするのだ。

 「矢口さんの案は良いと思います。でもやはり学園艦は無事には済まないと思います。私はこの学園艦を遠くへ逃がしたいです」

 杏や桃・柚子へ頭を下げてみほは頼み込んだ。

 「西住ちゃん。本気で学園艦を乗っ取るの?」

 杏が覚悟を尋ねた。

 「はい」

 短い返事だがみほの眼は揺るがず真っ直ぐだった。逆に杏や桃・柚子が覚悟を決める正眼だった。

 こうしてみほに生徒会・どん底メンバーによる学園艦制御室を占拠する動きになったのだ。

 「おい、待て!ここは通さないぞ!」

 ムラカミがいきなり大声を上げる。

 「力づくとは感心しませんね」

 桃とみほにとって知っている声だった。辻だ。

 「やはりあなたですか」

 もほが辻とムラカミの脇から顔を出して対応する。

 「可能性が低いと思っていた予想が当たりましたよ」

 辻はムラカミから辻へ向き直る。

 「私達がこうすると予測していたんですか?」

 「最悪の事態を想定するのも私の仕事です」

 ムラカミの身体を挟んでみほから緊迫した空気が醸し出される。

 「西住さん。貴方には2度も大洗の廃校を阻止された。学園艦を存続させる為に貴方や大洗の生徒達が行動に出るのは予想していました」

 みほは黙っている。

 「2度も阻止された当時は正直貴方達を恨んだ。文科省で私は肩身の狭い思いになりましたからね。でも今は貴方達の行動力が美しく見える」

 思わぬ辻の言葉にみほ達は無言で驚く。

 「ここまで母校を愛して守ろうとする純粋な気持ちが私には美しいと見えた。大人になりしがらみがある私にはね」

 みほはこの辻の思いに緊張の糸を和らげる。

 「そんなお世辞を言って私達を翻意させる気だな」

 桃が皆へ警告するように言う。

 「河嶋先輩、ここは役人さんを信じましょう」

 「おい西住」

 桃が止めるように言う。

 「辻さん。私達をどうします?」

 杏がみほと並ぶ位置に進んで尋ねる。

 「このまま制御室を占拠するなら警察に通報します。ですがすぐに制御室を出てくれるなら何も無かった事にしましょう」

 辻の提案にみほは悩まし気な顔をする。

 「制御室を明け渡したら計画通りにゴジラへの作戦を決行するんですよね?」

 みほは辻へ尋ねる。

 「そうです」

 「作戦を決行すれば学園艦が被害を受けるはずです。私はそれが嫌なんです」

 みほは必死に訴える。

 自分にとっては故郷に等しい大洗の学園艦を守る為に。

 辻はみほに気圧されたが眼鏡に手をかけて気持ちを整理する。

 「機密なので本来なら言えないのですが。作戦はゴジラの体力を消耗させてから学園艦から戦車で血液凝固剤をゴジラへ撃ち込む段階で進みます。学園艦が被害を受ける可能性を低くしています」

 辻が説明をするがみほは納得し切れていない。

 辻が信用できるかどうかではない。みほが腑に落ちる何かが無い。

 「西住ちゃん」

 杏がみほへ何かを促すように言う。だがみほは黙っている。

 「西住殿!西住殿!」

 そこへ優花里やあんこうチームの面々が駆けつける。

 「何をしているんですか西住殿!」

 「私達抜きなんて酷いよ」

 「そうです。加勢しましたのに」

 優花里に沙織に華がみほへ制御室占拠の行動に自分達が居ないのを問う。

 「みんなまで巻き込む訳にはいけないと思って」

 みほはすまなそうに言う。

 「ここまで一蓮托生で来たじゃないか水臭いぞ」

 麻子がこういうとみほは俯く。

 「君達、説得に来たのかね?それとも応援に来たのかね?」

 辻はあきれ顔で尋ねる。

 「そういえばどうするんだっけ?」

 と沙織

 「秋山さんが『とにかく行きましょう』と言うので何も決めてないですね」

 と華

 「とにかく一大事なので早く駆けつけた方がいいとしか考えてなかったです」

 優花里は髪をかきながら苦笑いをする。

 「とりあえず、今はどうなっているんだ?」

 麻子がこう言うと辻は「制御室を明け渡すように説得しているところです」と答えた。

 杏が「ゴジラから学園艦を守る為に制御室を占拠して学園艦を外洋へ逃がしたい」と説明した。

 「ふむ」と麻子は状況把握に思案した。

 「西住さん。ゴジラを退治する作戦に参加したいのではないかな?」

 麻子の結論に誰もが疑問しか浮かばない。

 「麻子どういう事?」

 沙織が訊く。

 「今まで西住さんは諦めなかった。困難に立ち向かった。本当にしたいのはあのゴジラと戦う事じゃないのか?」

 麻子の意見にみほは心を突かれたような気持になる。

 「でもまた化け物相手になんて…」

 優花里がまさかと言う思いになる。

 自衛隊の攻撃が効かず逆に反撃して自衛隊機を撃ち落としたゴジラ

 そんな化け物とまたみほを戦わせたくないと優花里は思っていた。

 「そうかもしれない…」

 みほは呟く

 「戦車道とはいえ戦う術を知っている。出来るならあの化け物を倒すか追い払いたいと思っていた」

 みほの思いに戦車道をしている誰もが同意する。

 スポーツ競技とはいえ戦う技術だ。自分の故郷が襲われているならその外敵から守る為に立ち上がりたい気持ちは沸く。

 「西住殿気持ちは分かります。でも相手は戦車じゃありません。砲弾もミサイルも効かないゴジラなんですよ。無茶です無謀ですよ!」

 優花里はみほを止めようと必死になる。

 「でも血液凝固剤をゴジラの口に撃ち込めばゴジラを凍結できます。やるなら私がゴジラへ撃ち込みたいです」

 みほは熱意を語る優花里は首を振りみほの意見に否を示す。

 「西住さんの1両だけじゃ全弾撃ち込んでも足りないわよ」

 制御室前へやっと来れた蝶野が言う。

 「そうそう。みぽりん無理しちゃダメだよ」

 沙織が蝶野の言葉に乗るようにみほへ諭す。

 「いいえ。西住さんには今回の作戦に参加して貰おうと思います」

 「いいんですか?」

 蝶野の提案に辻が確認する。

 「いいんです。やめろと言っても収まらないでしょ」

 「確かに。この子達はそんなに素直じゃない」

 大人二人の会話にみほが苦笑いする。確かにそうだと。

 「作戦に私も参加します。ゴジラの口を狙うのは簡単じゃないですよ」

 華がみほや蝶野へ不敵な顔で言う。

 「わっ私も参加します!Ⅳ号には自動装填装置はありません!慣れた装填手が必要です!」

 優花里が慌てて参加を表明する。

 「操縦手が要るだろう。私も参加する」

 麻子も参加を示す。

 「もーみんなまで!じゃあ私も参加する!」

 最後に沙織も参加を示した。

 「生徒会カメさんチームも参加するよ!」

 杏が言うと桃が「会長」と言って少し驚く反応したが拒むことは無かった。

 「桃先輩、もうこの部屋は必要ないですね」

 お銀が場の空気が和むのを察して言う。

 「ああ。迷惑をかけた。退艦の準備に戻っていいぞ」

 「いや、私達も作戦に加わりたいと思うんですよ」

 お銀の思わぬ申し出に桃は「おい」と言うとお銀は小指を口の前に立てる。

 「分かった。だが大事になるような事はするなよ」

 

 

対ゴジラ作戦が戦車道履修者の高校生から自衛隊へ移ると生徒達は母校へと帰還をしていた。

 西住まほも東京から逸見エリカなど皆を熊本へ連れて帰っていた。

 ゴジラと戦ったが誰もが無事で帰す事が出来たのは幸いだった。一応は病院で放射線を浴びていないか検査はされたが異常は無かった。

 しかし燃料が切れてまほのティーガーⅠとヤークトティーガーを大洗に置いたままになっている。

 取りに行こうにも休眠中のゴジラから出ている放射線のせいで大洗は立ち入りが禁じられた地域になっている。

 戦車以上に心配なのが妹であるみほだった。

 最初からあの化け物と対峙していた。

 それだけでも姉として感服するばかりだ。

 「政府は対ゴジラ作戦に大洗の学園艦を使用する事を決定しました。生徒とその家族をはじめ学園艦の関係者は全て退艦する事になりました」

 このニュースに触れてみほが熊本へ帰るのかと思った。

 だがみほからの連絡は無い。

 (みほはどうするのだろうか?)

 大洗の友人達と茨城県の高校へ転入するのだろうか?まほは気がかりだった。

 こういう時に母親であるしほと話せばいいのだがこの親子は家族である前に戦車道西住流の家元と後継者と言う師弟関係に近い上下関係がある。

 姉妹揃って戦車道を始めてから気安い会話ができる間柄ではなくなった。

 だが母親のしほが何か動いていたのはまほにも分かっていた。

 それはゴジラを戦うのを戦車道の生徒から自衛隊へ移すよう促す政治活動だった。

 その事についてもしほはまほへ語ってはない。

 「まほ」

 不意にしほが呼ぶ。

 上座へ座る家元へまほは正座して向き合う。

 「戦車を大洗に置いたままでしたね」

 「はい。立ち入り禁止の規制が解除されたら回収に行こうと思います」

 「近い内に解除があるかもしれないわ。準備をなさい」

 「分かりました」

 いつもと変わらない会話だった。

 「大洗へ行く時には我が家にある戦車を使いなさい。私のティーガーⅠも持って行きなさい」

 「え?」

 まほは耳を疑った。

 西住家には戦車道家元だけに戦車がある。

 まほもⅡ号戦車を自家用車のように使っている。それとは別にしほが昔乗っていたティーガーⅠが保管されている。

 しほのティーガーはさすがにまほは触れる事も無かった。

 しほが黒森峰で戦車道の選手として使っていた思い出の戦車だからだ。

 それを使っていいと言うのだ。まほは驚いた。

 「戦車を持って行くのはあくまでゴジラが迫った時の自衛の為よ」

 「分かりました」

 しほの言いたい事が分かりまほは弾んだ返事をする。

 妹を助けに行きなさいとしほは言っているのだ。

 

 総理官邸にある巨災対の本部では矢口ら主要な面々による会議が開かれていた。

 「全国の化学プラントを総動員して必要量の血液凝固剤を確保できました」

 巨災対のまとめ役と言える厚生労働省医政局研究開発振興課長の森文哉が報告する。

 血液凝固剤の生産は日本全国の化学メーカーに呼びかけ製造プラントを総動員して行われた。

 「ゴジラによる工業の被害がひたちなか市だけに留まったのが幸いでした。東京湾沿岸の工業地帯にあるプラントも動員できたので予定通りの生産ができました」

 経済産業省製造産業局局長の町田一晃が語る。

 血液凝固剤の生産は時間との勝負だった。

 多国籍軍による熱核攻撃までの期日に間に合わせなければならなかった。だが主要な工業地帯が無事であった為に期日に間に合ったのだ。

 「ところで、矢口プランの作戦に女子高生を参加させるのは本当ですか?」

 防衛省統合幕僚監部防衛計画部防衛課長の袖原泰司が矢口へ尋ねる。

 「そうだ。母校を守る為に大洗女子の生徒達が協力を申し出てくれた」

 矢口はそう答えた。

 「戦車道の履修者で戦車での戦闘ができるとはいえ彼女たちは未成年の民間人です。自衛隊の作戦に参加させるのはいかがなものかと」

 「私も同じ考えだったが彼女達は母校守りたい一心が強いと知って作戦参加を認めた」

 「しかし問題になるのでは?」

 森が案じて矢口に訊く。

 「既に政府の決めた作戦から外れて準備を進めている。一つ問題が増えても変わらないよ」

 「ですが事務局長の今後に影響しますよ」

 森は矢口の政治家としての生命を心配していた。

 「後悔を残さないのが僕の使命だと思っている。この作戦で悔いが残るようにはしたくないんだ」

 矢口の理念に森と袖原は納得した


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