「目標距離1000!ヘルファイア発射!」
SH-60K対潜哨戒ヘリがヘルファイアⅡミサイルを放つ。
ゴジラの捜索で関東沖の太平洋に居た護衛艦「いずも」から発艦した哨戒ヘリはどれも対艦装備として海自が保有する対戦車ミサイルであるヘルファイアⅡを2発づつ持って大洗に急行した。
海自では小型船用の武器であるが対戦車ミサイルのヘルファイヤ
強固な装甲を打ち抜くミサイルだがゴジラの皮膚では貫くには足りない。
それでもヘルファイアを持つSH-60Kは発射し続ける。
「目標捕捉、誘導弾発射!奴にぶつけろ!」
厚木からのP-1対潜哨戒機もゴジラ攻撃に参加する。
1機で8発の91式空対艦誘導弾を装備したP-1は矢継ぎ早に抱える対艦ミサイルをゴジラへ向けて発射する。
木更津からのAH-1と三沢からのF-2も新着の機と入れ替わり攻撃を続けている。
「築城からも爆装したF-2が出撃」
「明野と八戸からAH-1が発進し急行中」
「護衛艦『たかなみ』と『はたかぜ』が間もなく作戦海域に到着」
「八戸から誘導弾装備のP-3Cが出撃」
「戦車教導隊の一部が水戸市に前進」
自衛隊は集められる戦力を次々に大洗へと結集させようとしていた。
しかしどのミサイル・爆弾・機関砲弾もゴジラの身体を貫くには至っていない。
でも大学選抜のカールが放つ自家製貫通弾に貫かれ傷を負うゴジラにとってはダメージを溜める効果があった。
みほにはゴジラが衰えているのが分かった。
(あと一押し)
止めが欲しい。
「愛里寿さん。貫通弾はあと何発ありますか?」
みほは愛里寿に
「2発です。今からその内の1発を撃ちます」
愛里寿がそう言った直後にカールから貫通弾が放たれる。
貫通弾はゴジラの腰の辺りを貫く。
ゴジラは悲鳴を上げながら姿勢をしゃがむように崩す。
ゴジラの重さに那珂川北岸の河岸は耐え切れず地盤が崩れる。
地滑りのように崩れる河岸に巻き込まれてゴジラは那珂川へ戻される。
崩れる河岸でゴジラは転び河の中で倒れ込む姿になってしまった。
「いいぞ!勝てるぞ!」
桃がはしゃぐ。
「思ったよりも弱いね」
「ゴジラだって所詮は生き物だからね」
「このままぶっ殺せー!」
M3に乗るウサギさんチームは倒れたゴジラに思うままの事を言い出す。
「西住さん。文科省から撤収の指示が来たわ。後は自衛隊に任せて」
蝶野がみほへ伝える。
自衛隊の部隊が続々と出動してゴジラと交戦に入った事で辻は駆除作戦を自衛隊へ移行させようと判断しての事だった。
「分かりました皆へ伝えます」
みほはゴジラへ止めを刺そうと思っていたが砲弾を撃ち尽くした戦車が次々に出ている事を思い出し承諾する。
「皆さん。文科省から撤収の指示が出ました。後は自衛隊に任せます」
みほの指示に皆はほっと肩の力を抜く。
倒せるか分からない得体の知れないゴジラとの自分達との戦いが終わり一同はほっとしていた。
血の気が多いローズヒップやペパロニに知波単の面々は「もう少し!」と食い下がってはいたがダージリンやアンチョビ・絹代が攻撃続行を認めず引き下がらせた。
でも最後の一撃を加えるところがあった。
大学選抜チームのカールだった。
貫通弾の最後の一発を放とうとしていた。
「この最後の射撃を終了したら即座に撤退してください」
愛里寿はカールを担当する学生達へ指示を出す。
「了解、これを撃ち終えたら移動します」
砲弾の装填に10分がかかるカール
ようやく込めた砲弾をカールが放つ。
「撤収だ!急げ!」
カールの撤収支援をしているルミがパーシングの車上から呼びかける。
撃った砲弾が命中したかどうか見る暇無くカールの撤収作業を皆で行う。
誰もが見てなくても当たる。
命中してゴジラの致命傷となるだろうと自信があった。
だがその確定している筈の結果は覆る。
那珂川で横向きに倒れたゴジラは自衛隊の攻撃を浴びつつ寝返りを打つようにうつ伏せの姿勢になった。
もはや力尽きる前の姿に見える。
ゴジラがこんな姿になったのを見て政府と文科省はゴジラの駆除を自衛隊主体に移行しても良いだろうと判断したのだ。
弱っていると思われるゴジラに異変が起きる。
ゴジラの背ビレが光り出したのだ。
「何の光?」
みほはゴジラの放つ光に不気味さを感じた。
「みほ、急げ」
悪い予感を感じたまほが無線で撤収を急ぐように促す。
「なんという化け物ぶり…」
さっきまで血気盛んに止めの攻撃を主張していた知波単の面々はゴジラの放つ光の不気味さに色を失う。
「何が起きるか分からないぞ。撤収急げ」
絹代がこう言うと皆は素直に戦車を走らせゴジラから離れる。
「カチューシャ、すぐにゴジラから離れて!」
ノンナが強い口調でカチューシャへ言う。
カチューシャは「分かってるわよ!」と答える。
異常さにカチューシャも気づいていて乗っているT-34をゴジラから離れるように走らせていた。
「番狂わせが起きたようね」
ダージリンは言う。
「ゴジラに負けるという事ですか?」
オレンジペコが不安げに訊く。
「そうかもしれない。何かが起きるわ」
ダージリンの核心に満ちたような発言は現実になる。
カールから撃たれた最後の貫通弾はゴジラの光源へ向かうように落下する。
このまま行けばゴジラの背中のど真ん中に着弾する。
だが着弾できなかった。
ゴジラの背中から光線が伸びた。
その光線は同時に幾つも出て対空砲火の如く那珂川の上空に放たれた。
「砲弾が撃ち落とされた!?」
蝶野が思わず叫んだ。
ゴジラは背ビレから放つ光線でカールの砲弾を撃墜したのだ。
カールの砲弾を撃ち落としたゴジラはゆっくりと起き上がる。
口の中が光に満ちていた。
「カールは放棄!すぐに逃げて!」
愛里寿はとっさに命じる。
「カールは捨てる!こっちに来い!逃げるぞ!」
ルミはカールを移動させる作業をしている生徒達を呼び寄せ戦車や砲弾を輸送したトラックに急いで乗せた。
「みんな乗せたらすぐ行け!」
カールの面々を乗せた車両は急発進で出発する。
カールから離れてすぐカールが爆発した。
「くそ、化け物め!」
ルミは悪態をつく。
ゴジラはカールへ口からの光線を一閃浴びせてカールを破壊した。
「目標が活動を再開!口や背ビレから光線での射撃を始めた!」
自衛隊はゴジラの異変をそう報告する。
「攻撃続行だ!下にはまだ戦車道の女の子達が居る。彼女たちの撤収を掩護する!」
AH-1の小隊を率いる隊長は決心する。
みほ達がゴジラから十分に離れるまで攻撃を続けるつもりだった。
AH-1が攻撃を続行するとSH-60KやP-1も攻撃を続行する。F-2もゴジラの頭上へ再度の進出をした。
「西住さん!早く遠くへ逃げて!ゴジラから離れて!」
蝶野が怒鳴るような大声でみほへ退避を促す。
誰もがゴジラの異変を恐ろしいと分かっていた。
だが手負いだ。まだ押せば倒せるかもしれない。
そんな思いで自衛隊のパイロット達や指揮官は攻撃を続ける。
しかしゴジラはそんな人間の希望を砕くように口や背ビレから光線を放つ。
その光線は飛行するAH-1やSH‐60Kを薙ぎ払い
F-2を投下した爆弾ごと撃ち落とした。
P-1が撃ち込む対艦ミサイルもことごとく四散する。
「こんなのアリか…」
アヒルさんチームの磯辺典子は自衛隊の攻撃を迎撃するゴジラに呆然とする。
バレー部の熱血部長もゴジラの異常な力に無力さを実感する。
「皆さんゴジラから早く離れて!自衛隊の攻撃がいつまで続くかわかりません!」
みほは自衛隊の攻撃がゴジラに通用しなくなっていると認めた。
いつ自衛隊も撤収するか分からないと判断した。
「全車全速!ハリアープ!」
ケイはジョークや気遣いの言葉が出ないほどになっていた。
どの戦車も残る燃料を気にせず全速でゴジラから離れる。
だが燃費の悪いまたは機関に難のある重戦車が途上で停車してしまい他の戦車に乗り移り退避を続ける。
まほもティーガーⅠを全速で続けて走らせたせいで履帯が外れてしまい停車してしまった。
「お姉ちゃんこっち!」
まほとティーガーⅠの乗員をみほはⅣ号戦車の車上に乗せる。
まほは砲塔の上でみほの肩に手を置き「ありがとう」と感謝する。
ティーガーを置き撃墜される自衛隊機やミサイルの爆音の音が遠くなる。
大洗サンビーチの辺りまで下がった所で一同は停車する。
「こんなに…」
Ⅳ号戦車を停止させたみほはゴジラの方を見る。
ゴジラは那珂川にまだ居た。
だがゴジラの周囲は撃墜された自衛隊機やミサイルによる炎と煙が幾つも上がっている。
ここまでの損害が自衛隊に出た事にみほは絶句する。
「西住さん。自衛隊に攻撃中止の命令が出たわ。まだ遠くへ避難して。戦車の燃料が無くて避難できないならこちらで車輌かヘリを迎えに行かせるわ」
蝶野からの無線が入る。
自衛隊に損害が出て攻撃が通じないと分かると大河内総理は攻撃中止を命じたのだ。
「分かりました。燃料が乏しいので移動手段の手配をお願いします。大洗総合運動公園まで戦車で行きます」
そうやり取りを終えた時だった。
ゴジラは再び光を放ち始める。
その姿にみほもまほも思わず身を固くして見つめてしまう。
体内で光源を充填したゴジラは再び口から光線を撃ち始める。
ゴジラは身体を四方に振るように動かしながら光線を出し続ける。
「町が!大洗の町が!」
ゴジラの光線は那珂川をはさむひたちなか市と大洗町に撃ち込まれた。
大洗町では大洗水族館が粉砕された。
瓦礫となった水族館を踏みつぶしてゴジラは大洗町へと進む。
「皆さん!すぐに移動します!行き先は大洗総合運動公園!」
みほは火が付いたように叫んで指示を出す。
まだ燃料がある戦車が指示に従い発進する。
その間にもゴジラは大洗の町へ光線を撃ち込み炎上させる。
「優花里さん。残弾は?」
みほが装填手の優花里に尋ねる。
その声はなんだか冷たく恐ろしい。
「残り3発」だと優花里が言おうとした時にまほがみほの肩を掴む。
みほは振り返る。
「みほ、ダメだ。これ以上戦ってはいけない」
振り返ったみほは姉の険しい顔を見た。
黒森峰でもまほの怖い顔は何度か見たが今は有無を言わせない気迫がある。
「みほ。お前は十分に戦った。これ以上はいいんだ。もう、いいんだよ」
まほは感情が止まるみほの右手を取り今度は優しい目で苦労を労う。
みほは少し間を置いて冷静になる。
「麻子さん。運動公園へ行きましょう」
みほは退避する戦車の列にⅣ号戦車を合流させた。
「お姉ちゃんありがとう…」
無線で拾えない小声でみほはまほへ言った。