ゴジラ・ウォー!   作:葛城マサカズ

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第16話「自衛隊も出動です!」

 「足は止めた。もう少し押せばゴジラも戦意を失うかも」

 愛寿里はセンチュリオンの砲塔に上半身を出してゴジラを見つめる。

 県立那珂湊高校の校庭に布陣したカール自走臼砲がゴジラの頭や背中を痛打しているおかげかゴジラはその歩みを止めている。

 しかもゴジラはカールの60センチ砲弾が命中すると痛みを感じたのか呻くような鳴き声を漏らしている。

 愛寿里はゴジラへ確実にダメージを与えていると確信していた。

 「大隊長車へ。みほさん。あと一押しです、頑張りましょう」

 「こちら大隊長、救援感謝します。おかげで流れが変わりました」

 愛寿里の大学チームの参戦はみほを勇気づけていた。

 「大隊長車より各車へ、ケイさんが指揮する戦車以外はゴジラへの射撃を続行してください。カールの砲撃で弱ったゴジラを追いこみます」

 明らかに生気を取り戻したみほの指示に皆も気分が明るくなる。

 それは皆それぞれが言う了解の返事で分かるほどだった。

 「もう少しパンチが欲しいかな。カールがもう1門あればいいんだけど」

 杏はゴジラの様子を見ながらぽつりと言った。

 確かにゴジラの足は止まったがそれ以上が進まない。

 杏はまた一つ大きな火力をゴジラにぶつける必要があると感じていた。

 だがもはや戦車道で繰り出せる火力はもはや最大限に達している。

 

東京にある総理官邸では総理大臣をはじめ閣僚全てがゴジラに対応する対策本部に集まっていた。

 対策本部の置かれた官邸地下にある危機管理センターには大洗町に迫るゴジラと戦車道の女子高生と女子大生が戦う様子が大型モニターに映し出されていた。

 「大学生もやっているのか」

 総理大臣の大河内は島田愛里寿が戦車道をする大学生達を引き連れて戦う様子に感心していた。

 だがその様子を苦々しく見る者が居た。

 文部科学大臣の関口悟朗である。

 金井防災大臣の気まぐれな発言から戦車道のをしている高校生達を指導する立場になっていた。

 関口からすれば面倒を押しつけられたものの、自分の職域で首都防衛を主に考えた防衛態勢を作り上げた。

 それがいつの間にか女子高生達が勝手に戦車を大洗へ持ち出しゴジラと戦っている。しかもアメリカが協力していて大きな声で文句が言えない。

 仕方なく関口は戦車道のチームを監督している学園艦総局長の辻へ八つ当たりをした。

 だがそうしている内に今度は大学生が勝手に動いた。

 「文科省は飾りか!勝手にやりやがって!」

 関口は心の中でそう憤懣をたぎらせる。

 ケイやまほに愛里寿らの動きは関口からすれば自分を無視した失礼な動きに見えて腹が立つのだ。

 閣僚達はそんな関口の心境は理解していたが同情の声をかける事はない。問題は関口のメンツでは無いのだ。

 「総理、ゴジラがこのままあの地域で暴れていると別の危険があります」

 内閣危機管理監の郡山肇が大河内へ言う。

 「どんな危険だ?」

 「大洗には原子力の研究施設があります。そこには研究用の原子炉がありゴジラによって破壊されると原子力災害も併発する危険があるのです」

 大洗には日本原子力研究開発機構の大洗研究開発センターがある。

 原子炉としては高速増殖炉の実験炉である常陽と材料試験炉のJMTRが置かれている。

 「本当か!?そんな事知らなかったぞ!」

 大河内は驚きの声を上げる。原発を所管する経済産業大臣の葉山が思わず背後の経産省の官僚や秘書へ「どうなっているんだ!?」と声を荒げる。

 「ゴジラなら原発を壊すぐらい簡単だ・・・マズイぞ」

 環境大臣の菊川はゴジラが原子炉格納容器を建屋ごと破壊する様を想像した。

 「総理、戦車道の高校生と大学生は健闘していますが撃退にしろ倒すにしろ決定打を与えられません。このまま彼女達に任せて良いでしょうか?」

 巨災対の矢口がいつもの断定的な物腰で提言する。

 「だがな見て見ろ、ゴジラは動きを止めたぞ。このままなら弱らせて倒せるんじゃないか?」

 金井が矢口へ異論を唱える。

 確かに那珂川でゴジラはカールからの巨弾を浴びて動きを止めていた。

 「しかしゴジラがこのまま倒される保証はありません」

 矢口は金井の言い分を正面から否定する。

 さすがに金井は不機嫌な顔を隠さない。

 「ではどうするのが良いだ?」

 大河内は矢口に尋ねる。

 「自衛隊を出動させてゴジラを駆除すべきです」

 矢口の意見に閣僚がざわつく。

 自衛隊が出動して武力行使をするのはゴジラが出現した当初に「周辺諸国の感情を刺激する」として却下されていた。

 「戦車道による駆除でも一部の国から非難が出ている。自衛隊の出動となれば非難はより強くなるだろう」

 外務大臣の国平はそうぽつりと言う。

 「お言葉ですが」と矢口が言おうとした時に総理大臣補佐官の赤坂秀樹が口を開いた。

 「総理、もはや事態は他国の感情を気にしている時ではありません。我が国の国民の生命と財産を守る事を第一に考えるべきです」

 内閣では密かな重鎮と言える赤坂の発言に国平も金井も二の句が続かない。現実主義者で理論家の赤坂を説き伏せる言葉が無いからだ。

 「総理、自衛隊はいつでも出動できる準備はできています」

 防衛大臣の花森はすかざず言った。

 大河内はもう少し様子を見て決断すべきではないかと想った。

 ふと一人の男の言葉を思い出す。

 「総理、そろそろ自衛隊の出動をさせる時です。娘さんが戦車道をやっている親御さんもいつ自衛隊が出るのかと私や議員の皆さんへ連日陳情に来られています。そろそろ抑えられませんよ」

 官邸危機管理センターに入る直前に泉修一政調副会長が強引に面会してこう告げた。

 泉の言う通りに戦車道をやっている高校がある地域の選挙区の議員には自衛隊を出動させてほしいと言う陳情が連日ある。

 また政財界の要人も大河内や他の閣僚へ自衛隊出動を勧めて来ている。

 それでも大河内は迷った。

 そんな大河内の心の内を察する男が居た。

 官房長官の東竜太だった。

 「総理、時間がありません。今ここで決断を」

 東に促され大河内は一呼吸置く。

 「分かった。自衛隊をゴジラ駆除に出動させよう」

 

 「やっと大河内さんが決心したか」

 泉は秘書から大河内が自衛隊の出動を決心したと携帯電話で聞いた。

 この自衛隊出動決心の裏側には泉の動きがあった。

 泉はしほの約束通りに政府への説得に動いていた。

 総理である大河内へは一言だけ言ったに過ぎないが政府内に自衛隊出動へ向けて流れる裏工作をしていた。

 特に郡山が大洗町の原子力関連施設をゴジラが破壊する懸念を持ち出すきっかけになったのは泉が持ち込んだ資料による。

 また家元であるしほと千代は人脈から要人への陳情や戦車道をやっている娘の保護者達へ働きかけていた。

 泉にしほ・千代の三人の努力が実ってようやく大河内内閣から自衛隊出動を引き出せたのだ。

 

 東京市ヶ谷の防衛省内にある中央指揮所では統合幕僚監部がゴジラ駆除作戦への自衛隊出動について動き出していた。

 「政府から自衛隊によるゴジラの駆除作戦実行が下命された」

 矢島統幕副長が統幕の面々に切り出す。

 本来であれば統幕長の財前が仕切るところだが財前は政府の危機管理センターにあり統幕は今は矢島が代わり取り仕切っている。

 「治安出動だが武器使用は無制限だ」

 この自衛隊出動の法的根拠を一時は防衛出動にすべきとの意見が政府内にあったがそこで「周辺諸国への刺激」が考慮され治安出動と言う事になった。

 「大洗には戦車道の部隊を支援する少数の陸自隊員を派遣していますが実戦部隊ではありません。第1師団や第6師団に富士教導団は出動しましたがすぐに作戦行動はできません」

 石倉陸上幕僚長が現状を報告する。

 自衛隊の部隊のほとんどがゴジラの捜索や警戒以外は出動しておらず政府から出動の命令が下ってもすぐに戦車や火砲が大洗に駆けつけられる状況では無かった。

 「やはり航空戦力しかないな。空自のF-2と陸自の対戦ヘリをまずは大洗へ急行させよう」

 矢島がそう作戦方針をまとめる。

 この作戦に従い青森県の三沢基地から爆弾を搭載したF-2戦闘機が出撃し、千葉県木更津基地からはAH-1対戦車攻撃ヘリコプターが出撃した。


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