ゴジラ・ウォー!   作:葛城マサカズ

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第15話「ゴジラと戦います!」

 「麻子さん那珂川の近くまで進んでください」

 みほはⅣ号の操縦手である冷泉麻子へ指示する。

 「おう」と返事した麻子はⅣ号を港中央の駐車場から那珂川へと北上させる。

 「優花里さん砲弾を装填」

 「はい!」

 装填手の秋山優花里はⅣ号の75ミリ砲へ砲弾を込める。

 「華さん。ゴジラが見えたらゴジラの膝へ照準してください」

 「はい」

 砲手である五十鈴華はその姿が近くなるゴジラを砲の照準器に捉える。

 「沙織さん。他の皆の動きに異変があったらすぐに言ってください」

 「分かった」

 通信手の武部沙織は通信機での通信をやりつつタブレットPCで各チームの動きを見ていた。

 「ウサギさん、カバさん、アリクイさん私に付いて来て下さい。これより大隊長車も戦闘に加わります」

 みほは各チームへ宣言するように言った。

 「出番だよ!前進!」

 「出陣じゃ~!」

 「よし行くにゃ~」

 みほに指名された戦車は大急ぎでみほの下へ向かう。

 「ケイさん。大洗町にある戦車の指揮を任せます。私は那珂川での戦闘を指揮します」

 「OK!任せて」

 サンダースの隊長であるケイは気前よく引き受ける。

 射程が短く砲の火力が高いと言えず戦闘に参加していない大洗町にある戦車の指揮をみほはケイに任せた。

 「ナオミ、みほに付いて行って」

 「みほ、ウチのナオミをそちらに行かせたわ」

 「助かります」

 サンダースのチームが持つ最大の火力である17ポンド砲のファイヤフライも加えたみほの隊はゴジラ迎撃の前線指揮に向かう。

 ゴジラは進路を南に向かい、那珂川の海門橋へ近づいていた。

 アンツィオに継続と聖グロのチームは戦い続けていたものの、ゴジラに押されるように湊公園や海門町へと下がっていた。

 「みほさん。私とアンツィオに継続の皆さんはゴジラの背後から攻撃するのはいかがかしら?」

 ダージリンはみほに尋ねる。

 「はい、お願いします。那珂川でこちらと挟み撃ちにします」

 みほはダージリンの案を採用する。

 「背中を撃っても効くかな?」

 BT-42の車内で砲弾を装填しながらアキが言う。

 「それでもやるのさ。効くまでね」

 ミカはカンテレを弾きながら相変わらずだ。

 「ノンナ、川の南岸に下がって私と合流しなさい」

 カチューシャが海門橋にあるノンナのIS-2を下がらせる。

 プラウダのカチューシャが乗るT-34/85中戦車をはじめ移動して那珂川南岸に布陣していた。

 「ゴジラが那珂川に入ります」

 自衛隊の報告と同時にゴジラは那珂川へ足を付けた。

 海門橋の左をゴジラは川面を掘り返すような足取りで進む。

 「撃て!」

 那珂川南岸に到着するとみほはⅣ号でゴジラの攻撃に参加する。

 ウサギのM3中戦車やカバのⅢ号突撃砲、アリクイの三式中戦車、ナオミのファイヤフライも続けて撃つ。

 Ⅳ号のキューポラから上半身を出してみほはゴジラを見上げる。

 周囲の大洗や黒森峰・プラウダの戦車が砲撃を繰り返す爆風を体に感じながらも不気味な恐ろしさを感じていた。

 「アイツは痛くないのか?」

 17ポンド砲でゴジラの膝に何度も砲弾を命中させているナオミが悪態をつく。

 ゴジラの右足の膝はナオミ以外にも砲弾を撃ち込んでいたがゴジラの表情は変わらない。

 むしろゴジラは感情があるのか分からないほどに無表情だ。

 「このままじゃ突破される…」

 ゴジラは那珂川の中で前後から撃たれても進み続けている。

 「みほさん。大洗で遅滞戦闘をするべきよ」

 蝶野が無線でみほへ呼びかける。

 遅滞戦闘とは一気に退却するのではなく少しづつ後退しながら戦う戦術だ。

 (でも、それだと大洗の町が…)

 蝶野の作戦は大洗の町をゴジラとの戦いの戦場にする事を意味している。

 みほには躊躇があった。

 だがこのまま留まってもゴジラに潰される危険がある。

 「分かりました蝶野さん」

 みほが大洗での戦闘を決意した時だった。

 「ゴジラが進路を変えた。西へ転進!」

 「え?」

 思わぬ展開にみほは呆けてしまう。

 だがすぐに気を取り直す。

 「ケイさん!川又町へ大洗に残る戦車を連れて移動してください!」

 「分かったわ!さあみんなハリーアップ!」

 意表を突かれた格好になった。大洗から別方向へゴジラは進み出したのだ。

 慌ててみほは大洗の隣にある町へ大洗町に残る戦車を移動させる指示を下す。

 「マズイぞ!川又町にはまだ避難者が居る」

 三宅はゴジラの新たな進路におののく。

 大洗町からの避難を優先させた為に川又町の住民も避難できていない。また大洗からの避難者が川又町には居た。

 「避難誘導を急がせろ!」

 「いや間に合わない…」

 「なんとかならんか!」

 ひたちなか市や茨城県の対策本部ではゴジラの動きにとうとう混乱が生じていた。

 「このままじゃ、このままじゃ」

 自分の手が届かない所へ向かうゴジラにみほは焦りの言葉が口に出る。

 「落ち着けみほ」

 まほが無線で妹へ言う。

 「焦っては何もできない。まずは深呼吸してみろ」

 みほには毅然とした姉の声が頼もしく聞こえた。

 まほの言われた通りにみほは一呼吸する。

 「ありがとうお姉ちゃん」

 「うん」

 姉の助言にみほは落ち着いた。

 「三宅さん。ゴジラの進路上にある川又町やひたちなか市の市街での戦闘許可を求めます」

 まず県警本部長の三宅へみほは要請する。

 「その地域の避難はまだ完了していない。戦闘は許可できない」

 三宅は苦い声で言った。

 「戦車の展開はしても構いませんか?」

 みほは三宅へ更に要請する。

 「展開までなら良いだろう」

 「ありがとうございます!」

 「大隊長車より皆さん。ゴジラは進路を変えました。那珂川の両岸にある戦車はゴジラを追います。聖グロ・アンツィオ・継続の皆さんはひたちなか市の市街からゴジラへ攻撃を続行してください。ここ那珂川南岸のプラウダや黒森峰などの戦車は川又町へ移動します」

 みほの指示が終わるとそれぞれのチームから「了解」の返事が来る。

 「戦車隊へゴジラが那珂川に居る間なら攻撃を許可する」

 三宅からの追伸が来た。

 「大隊長車よりゴジラが川の中に居る間だけ射撃を続行してください」

 攻撃の機会が与えられたとはいえゴジラは相変わらず歩みが止まらない。

 「もう少し攻撃力があれば…」

 みほはより大きな戦力があればと思った。

 もはや持てる戦力だけではゴジラを倒すには限界が生じているのでは?とみほは思えた。

 しかし望む戦力をみほが出せる訳では無い。

 「今ある力でやるしかない」

 みほがそう決心を改めた時だった。

 ゴジラの背中が大きく爆発した。

 「何だアレは?」

 「姐さん。あんな派手に爆発する砲弾ウチにありましたっけ?」

 「あれは戦車の砲弾の爆発じゃないですよ」

 アンツィオの三人がコントのようなやり取りをしていた。

 だがあの爆発を見た他の皆を同じような会話をする程に大きな爆発が起きた。

 「まさかアレは!」

 みほには憶えがあった。

 大学選抜チームとの戦いで苦しめられたあの巨大な爆炎と似ていた。

 「やってやるや~ってやるぜ嫌なアイツをボコボコにい~♪」

 「愛里寿さん!」

 「間に合いましたねみほさん」

 「おいらボコだぜ」の歌を歌いながら無線に現れたのは大学選抜チームの隊長である島田愛里寿だ。

 「島田さんが来たと言う事はカールでゴジラを撃っているんですね。凄い!」

 優花里が言うカールとはカール自走臼砲だ。

 大学選抜チームとの試合ではひまわり中隊を山から60センチの巨弾により追い出している。

 あの60センチ砲でゴジラを撃つのだから分かる優花里はそんな状況に燃えていた。

 「ゴジラの移動速度が低下しています」

 観測していた自衛隊員が報告する。

 「さすがブレスト・リトフスクやセバストポリの要塞を撃破した60センチ砲の威力だなゴジラも痛いだろう」

 Ⅲ号突撃砲から砲隊鏡でゴジラを見つめるエルヴィンが自分で言って自分で納得する。

 エルヴィンが言う要塞はどれもカール自走臼砲が攻略に参加したソ連の要塞の名前である。

 「みほさん。こちらは那珂湊マリーナから射撃をします」

 「了解しました」

 愛里寿は大学からセンチュリオンやパーシングを引き連れて来ていた。

 重戦車クラスのこれらの戦車には愛里寿の傍に居るメグミ・アズミ・ルミも来ている。

 「高校生にばかり任せてられないわ」

 「さあ、大学生の力をゴジラに見せましょ」

 「では始めましょうか」

 カールの砲撃を背中や頭部に受けながらゴジラはセンチュリオンとパーシングの砲撃が更に見舞われる。

 「これはイケルぞ!」

 カメさんチームの川嶋桃が大学チームの参戦に希望が見えた。

 ゴジラは次々に降る60センチ砲弾を受けて悲鳴のような鳴き声を上げる。

 この様子を見て誰もが桃のような勝つ予感を抱き始めた。

 


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