「撃って撃って撃ちまくれ!」
桃がそう無線で叫ぶ。
誰もが戦車の砲弾で簡単にゴジラが倒せないと分かっていた。
だが砲弾を沢山撃てば倒せるか追い払えるのでは?と希望を持っていた。
それを示すように那珂川の周辺に集まる戦車は次々に砲弾を放つ。
「止まらない・・・」
みほはゴジラが砲弾の直撃を受けても倒れずひたちなか市の目前に迫る。
「三宅さん!ゴジラを止められません!市街地での戦闘許可をください!」
みほは無線で求める。
その声は茨城県警本部に届く。
「ひたちなか市の東部と大洗町の北部の住民避難完了は確認できています」
県警本部では警備部長が住民の避難状況を三宅へ伝える。
避難完了した地域はみほ達が展開してゴジラと交戦している場所だ。
三宅は「その住民避難の状況は間違いないか?」と尋ねる。
「消防も同じ報告をしています。間違いないでしょう」
警備部長は現場の部隊と消防からの報告を受け取っていた。
「よし、戦車隊へ告げる。市街地の戦闘を許可する」
「了解しました」
みほは作戦の障害が少し減ったと思えた。しかし街に被害を出しながらの戦いになる事に苦い気分になる。
今までやった大洗市街で行った戦車道の試合とは違う。
砲弾の直撃で旅館を全壊させた時はしっかりした補償もあって試合での破壊も余興として住民は楽しんでいた。
この戦いで壊された家や建物は住民にとっての悲劇となる。
(でもやめる訳にはいかない)
みほは苦い気分を噛みしめながら市街戦へと移る覚悟を固める。
「大隊長車より各車へ、これよりゴジラと市街戦に入ります。ゴジラとは距離を開けて射撃をしてください」
みほの指示に皆が「了解」と返す。
市街戦に移る事に気後れはない。
それぞれの戦車はみほの指示通りにゴジラと距離をあけるべく陣地転換の動きを行う。
「近いと水平での射撃しかできないわね」
ひたちなか市へ前進した聖グロは戦車の主砲の射程距離を生かした射撃が出来ない。
ダージリンは出来る事を判断した。
ゴジラに近いからだ。
戦車の砲は上へ上がる角度が限られる。
そして市街と言う射界が限られる砲を水平に向けた射撃しかできない。
「グロリアーナの各車はゴジラの足へ射撃を集中しなさい」
ダージリンは聖グロの戦車各車へ伝える。
「しかし、黒森峰やプラウダの重戦車の砲撃にゴジラは耐えたんですよ。足に集中射撃をしても倒せる確率は低いです」
ダージリンの乗るチャーチル戦車で砲手を努めるアッサムが悲観していた。
彼女はデータ主義の考えを持つ。
戦車道の試合の勝敗もデータの確率から見る性格だ。
そんな彼女が勝てる確率の低さを言う。
「倒せなくても住民避難の時間稼ぎになればいいわ」
ダージリンにしろ誰もがゴジラを戦車の砲撃で倒せる自信は無くなっていた。
だが、与えられた住民を守ると言う使命を諦めていない。
「ゴジラ上陸!ゴジラが那珂港漁港に上陸!」
観測している自衛隊員が無線で喚くように報告する。
「大隊長車より各車へ、ゴジラが上陸しました。ゴジラの動きに注意しながら射撃を続けてください。アンツィオとグロリアーナ・継続の皆さんは後退しながら射撃をしてください」
みほはゴジラに近いアンツィオと聖グロリアーナ・継続のチームを戦いながら後退させる。
「なんだか旗色が悪くなって来たね」
BT-42の車内でアキが砲弾を装填しながら言う。
「でも諦めるものじゃない」
ミカは相変わらず車内でのんびりカンテレを弾いている。
「でも、このままでも勝てそうにないんだよ?」
「時を待つ。それも必要だよ」
ミカの謎かけかけのようないつもの返事にアキはあきれた。
「くっそう、機銃じゃ弾かれるばっかりだ」
ペパロニはCVー33でゴジラの足へ機銃での射撃を浴びせるがシャワーの噴射がぶつかるように機銃弾はゴジラの皮膚で四方八方に弾け飛ぶ。
「砲撃でもイマイチだな。みんな無理に攻めるなよ」
アンチョビは自分の乗るP-40の砲撃でもゴジラには何も感じていないと見えた。血気盛んな性格もあるアンツィオの面々がより攻撃的になってゴジラに迫るのをアンチョビは指示で止める。
「西隊長、上陸した敵はすぐに叩くべきじゃないでしょうか?」
玉田は知波単の隊長である西へ意見を述べる。
「そうです。総攻撃を!」
「一気に海へ叩き落としましょう!」
細見と池田が玉田に同調して意気盛んに総攻撃を西へ求める。
「待て、あの敵は危険過ぎる。無闇に動くな」
西は逸る3人を諫める。
これはいつもの戦車道の試合ではない。
西はチームメイトに流されまいとしていた。
3人は西の気迫もあって総攻撃の意見を引っ込める。
「ゴジラが進路を南へ変えました」
観測している自衛隊が報告する。
「ここままだとゴジラは大洗町へ向かいます」
予想される進路も共有される情報として流れる。
「なんでこっちに来るんだ!」
ゴジラの大洗侵攻予想を聞いた大洗町長は愕然として思わず町役場の対策室で叫んだ。
「もう!何で止まらないの!」
Ⅳ号戦車の車内で沙織がたまらず叫ぶ。大洗町が彼女の故郷だからだ。
「こちらアヒル!大隊長、攻撃に参加させて下さい!」
大洗のアヒルさんチームの磯辺典子がみほへ興奮した声で求める。
「気持ちは分かります。でも待機です」
みほは典子の心情は分かっていた。
アヒルさんチームの面々は近藤妙子が北茨城市だが他の3人はひたちなか市か大洗町の出身である。
ひたちなか市出身の河西忍と佐々木あけびは前のゴジラ上陸からゴジラを撃退する意欲が高まっていた。
そこへゴジラが大洗へ侵攻すると聞いて典子もよりゴジラへの攻撃を切望した。
元から熱血体育系のアヒルさんチームなのだから血気に逸る。
そんなアヒルさんチームの心情をみほは分かった上で制止する。
アヒルさんチームの八九式中戦車は火力が大きいとは言えない。重戦車の砲撃でも耐えるゴジラと戦わせるには荷が重いと判断したからだ。
「…分かりました」
典子はみほの指示に従った。
「くそ、何にもできないなんて!」
通信を終わり典子は肩を震わせる。
「悔しいよね。私もだよ」
忍が典子を慰める。
「チャンスボールは来るよ絶対」
あけびがそう言いながら典子の右肩に手を乗せ慰める。