ゴジラ・ウォー!   作:葛城マサカズ

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第13話「ゴジラへ射撃開始です!」

 「目標!ゴジラ!距離1800!」

 まほは自分の乗るティーガーⅠとヤークトティーガーへ命じた。

 ティーガーⅠとヤークトティーガーは大洗水族館の南側にある駐車場に展開して1800m先のゴジラへ狙いを定める。

 「照準良し!」

 「撃て!」

 2両の重量級戦闘車輌から撃ち出される砲撃は駐車場にあるパトカーや残る一般の自動車を揺らす衝撃波を広げた。

 実はこの駐車場にはもう1両の重戦車が居た。

 レオポンチームのポルシェ・ティーガーだ。

 レオポンのポルシェ・ティーガーはゴジラへの射撃位置を確保すべく磯前神社から移動し黒森峰が展開する大洗水族館の駐車場に来てまほが射撃命令を下すと同時に88ミリ砲を撃った。

 「すげえ。これが重戦車の砲撃か」

 3両の重戦闘車輌の128ミリ砲と88ミリ砲の射撃を間近で見た警官は衝撃波で砂埃を浴びながら驚嘆した。

 ノンナの乗るIS-2の122ミリ砲から撃ち出す砲撃もコンクリートと鋼材で作られた海門橋を橋の上部にある半月状のアーチ部分も含めて大きく揺らした。

 大洗に展開する戦車道の戦車では射程が長く威力の大きい4発の砲撃はひたちなか市の那珂湊漁協市場の方へ向かう会場のゴジラへ向けて伸びて行く。

 「続けて撃て!」

 「連続して射撃する」

 「続けて撃つよ!」

 初弾の命中を確認する前にまほやノンナ・ナカジマは連続しての射撃を指示する。

 100mを越える化け物には128ミリや122ミリの巨砲でも1発では無理だと見えるからだ。

 「全弾命中!」

 大洗水族館やひたちなか市の湊公園に展開している陸自の観測班が戦車の砲撃がゴジラの胸部や腹部に命中したのを確認した。

 「どうだ?効いたか?」

 三宅は砲撃がゴジラにダメージを与えたのか気になり部下へ尋ねる。

 一方でみほは双眼鏡でゴジラの方を黙って見つめていた。

 「蝶野さん。戦車をひたちなか市か那珂川南岸に移動させるべきかもしれません」

 みほは無線を通じて蝶野に意見を伝える。

 「そうね。だけど混雑する心配がるわ。まず聖グロを那珂川南岸に移動させましょう。それからプラウダかみほさんが動くか決めましょう」

 蝶野は慎重だった。いきなり何十輌もの戦車が一度に動けば広いとは言い難い道路で戦車の渋滞が起こりかねない。

 「分かりました。ダージリンさん。海門橋の前まで前進して下さい。カチューシャさんもいつでも動けるようにして下さい」

 「分かったわ」

 「こっちはいつでも行けるわよ」

 みほの指示に二人とも返事をする。

 その声はなんとも頼もしい。

 みほは思わず口元に笑みが浮かぶ。ライバルの頼もしさを感じたからだ。

 「アンチョビだ。ゴジラが全然止まらないぞ。あと500m近づいたら継続と一緒に射撃を始めていいか?」

 アンチョビが言う通りゴジラは重戦車の砲撃を受けても進路を変えずひたちなか市に迫っている。もう上陸するまであと1300mほどまで近づいている。

 「はい。射程距離に入ったら海上への射撃を開始してください」

 「了解した。けど市街ですぐに戦闘になるぞ」

 アンチョビはみほへ市街での戦闘許可を促す。

 「市街地での戦闘はまだ県警から許可が出ていません。でも許可は求め続けます」

 「分かった。海上でなんとかやっつける」

 みほの固い声色でアンチョビは察した。

 「パンター射撃開始!」

 ゴジラとの距離が1000mになったところでまほはパンターを射撃に加える。

 「Ⅲ号突撃砲は射撃開始」

 ミカはⅢ号突撃砲G型に射撃を指示して継続高校もゴジラとの火蓋を切る。

 「こちらも行くぞ。セベモンテ射撃開始!」

 継続高校の射撃が始まった少し後でアンチョビはセベモンテ自走砲に射撃開始を命じる。

 ゴジラは戦車の砲撃が増えたとはいえあまり歩みに鈍さは見られない。

 「こちらダージリン、海門橋の手前まで来たわ」

 「了解しました。橋を渡ってひたちなか市へ向かって戦闘に加わって下さい」

 みほはゴジラの様子からすぐに加勢が必要だと感じた。

 射撃戦はアンツィオがアンチョビが乗るP-40重戦車が加わり、継続高校がKV-1が撃ち始めていた。

 ここは火力を強化する為に聖グロのチームをひたちなか市へとみほは向かわせる。

 「さて、私達も始めるとしよう」

 BT-42の車内でカンテレの弦に手を乗せ撫でながらミカが同乗しているアキとミッコへ言う。

 「黒森峰の128ミリ砲でも効かないのにウチの114ミリ砲で効くかな?」

 アキは不安そうに砲塔をゴジラへ向ける。

 BT-42はKV-1重戦車の車体にイギリス製114ミリ榴弾砲が入る砲塔を乗せた戦車である。ソ連重戦車をアウトレンジで撃破する事を目的としたヤークトティーガーの砲とは威力が違うものがある。

 「アキ、人生には無理だと思ってもやらなければならない時がある」

 ミカがそう言うとアキはまたかと思いつつその通りだとも思った。

 あのゴジラを倒すなり追い出すなりしないと多くの人達が危険に会うのだから。

「こちらダージリン、ひたちなか市の海洋高校前に到着したわ。これより戦闘を開始する」「了解しました」

海門橋からひたちなか市に入った聖グロのチームは茨城県立海洋高校の前に到着した。そこからは漁港が近くに在り海がすぐ傍の地点だ。付近は港の整備によって作られたであろう空き地が広くある。そこには既にアンツィオや継続高校の戦車が展開していた。

 「ゴジラ、いざ尋常に勝負!」

 クルセーダー巡航戦車に乗るローズヒップが漁港の辺りを走り回りゴジラへの射撃位置へ着く。

 「全車発砲、撃て」

 ダージリンは自分の乗るチャーチル歩兵戦車やクルセーダーにマチルダ歩兵戦車が漁港で配置に就くのを確認すると射撃を命じた。

 漁港やその周辺ではアンツィオ・継続・聖グロの全ての戦車が射撃をゴジラに浴びせる。

 「射撃は頭部と足に集中しなさい」

 ダージリンは距離が800mになっているので精密に狙う射撃を命じた。

 それに応えるようにチャーチルの砲手であるアッサムはゴジラの頭部、眉間に75ミリ砲弾を命中させる。

 「こんなに撃っても効かないの?」

 みほはゴジラの撃たれ強さに驚嘆した。ゴジラは戦車の砲撃を受けて炸裂を身体中に浴びていたが痛がる様子も弱っていく様子も見られない。

 「みほさん。まだ全力を挙げての攻撃じゃないわ。まだこれからよ」

 蝶野がみほを気落ちさせないように言う。

 「そうですね」

 みほは蝶野の言葉に納得した返事をするが何かがひっかかる。

 「西住殿」

 蝶野との交信を終えたてすぐに優花里がみほを呼ぶ。

 「秋山さんどうしたの?」

 「もしかしたらなんですけど。砲弾が榴弾だから効果が薄いのでは?」

 装填手であり砲弾をよく見ている優花里ならではの意見だった。

 「貫通力が無いから…」

 優花里の指摘する意味をみほはすぐに理解した。

 榴弾は当たるとすぐに炸裂する仕組みの砲弾だ。だが装甲の固い戦車ではある程度のダメージは与えられるが装甲を貫く威力が無いので戦車を撃破できる砲弾では無い。

 「ゴジラも固い装甲のような皮膚だったら榴弾は厳しいかもしれないです」

 優花里の意見にみほは絶句を禁じ得ない。

 戦車道を履修できる学校では特殊事項により実弾を配布しているが榴弾しか置いていない。これは害獣駆除や治安出動までを想定していて他国軍隊が日本に着上陸して起きた有事における戦車戦は想定してないからだ。

 「でも、少しでもあの化け物を押し返せるなら撃ち続けないと」

 みほは失望しかける感情を押し潰してゴジラとの戦いを続ける気持ちを奮い立たせる。

 

 


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