「アメリカ特使から連絡?何だそれは?」
三宅はこれからゴジラと戦おうとしている時に他国の特使から連絡が届き困惑する。
「外務省の仕事だろうに」と三宅は文句を言いつつアメリカ特使と繋がる回線の電話を取る。
「こんな非常時に時間を頂き感謝します」
もちろんアメリカ特使と言うのはカヨコだ。カヨコはまず電話を受け取った事に感謝を伝える。
「用件は手短に願いたい。非常時ですので」
三宅は丁寧に話すが内心は早く電話を切り上げたい苛立ちが募る。
「では用件を伝えます。もうすぐ大洗に空から援軍が来るわ。大洗公園の辺りの国道108号を空けて貰いたい」
カヨコの用件に三宅はより戸惑う。
「まさかアメリカ軍が来るのか?」
「違うわ。だけど援軍になるのは確かよ。すぐに空けてください」
三宅は要領を得ない答えに困りながらもアメリカが何か助けてくれるんだろうと判断した。
「日本政府や関係する機関は承知ですか?」
組織の人間として聞かねばならない点だ。勝手に動いたと言われない為にだ。
「既に通達済みよ」
カヨコの返答に三宅は納得した。
「了解した。すぐに現場の警官へ国道108号を空けるように伝える」
「県警本部より国道108号で警備にあたる警官へ告ぐ、大洗公園前を中心に108号から車輛など障害物となる物をどけよ。空から増援が到着する」
県警から発せられる無線でみほは何かが来ると知った。
「何が来るんでしょう?」
優花里がみほが何か知っているのではと尋ねる。
「私も増援が来るなんて初めて聞いた」
「黒森峰やプラウダが来ればいいんですけどねえ」
「そうだね。黒森峰の重戦車が来れば心強いけど」
そう会話しているとキューポラから上半身を出しているみほの視界に何かが映る。低空で南から大洗へ進入する空の影が幾つも。
「来た?」
みほが空を見上げると小さい機影は飛行機としての形をはっきりさせた。
「あれはC-5ですよ。サンダースが持っているのと同じものです」
優花里は砲塔の左側面にある出入り口を空け半身を出すと双眼鏡で機影を確認した。
文科省により廃校が一時は決定された時に大洗の戦車をサンダースへ預けた時にサンダース附属高校が持つ大型輸送機Cー5で運んだ時があった。
その時に飛来したのと同じ機体が幾つも大洗に近づいていた。
「あのC-5はアメリカ軍の標識ですよ!」
優花里は頭上を通過したC-5の機体に描かれたどこの所属かを示す標識、いわゆるマークを見た。
そこには円に白い星が描かれ左右に長方形の模様もあるアメリカ軍である事を示す標識が描かれていた。
「どうなっているんだ?米軍が助けに来たのか?」
桃はヘッツァーのキューポラから外を見た。
大洗公園の上空に低空で近づくC-5は後部のカーゴを開けると何かを投下していた。
「戦車?あれはティーガーⅠって事は黒森峰か」
磯崎神社で様子を眺めていたナカジマが投下物を双眼鏡で見た。それは全国戦車道高校生大会の決勝で見た戦車だ。57トンの巨体がパラシュート付きの板に乗り国道108号に降下する。
「ティーガー1にヤークトパンターですよ!あーヤークトティーガーまで空挺降下させてます!」
優花里は空から頼もしい戦車たちが降りて来るのを無邪気にはしゃいだ。
みほはティーガー1が来たと聞いて姉のまほが来たのかと思った。
そんな時に無線からその姉の声が聞こえた。
「みほ、聞こえるか?」
「お姉ちゃん!」
「すぐそちらに着く。私達もゴジラと戦う」
「ありがとう」
わだかまりが消えた姉妹
みほは素直に感謝した。
大洗からの転校手続きの書類を母親のしほを通さず印鑑を押してくれた事
大学選抜との試合で真っ先にエリカと共に味方として駆けつけてくれた事
みほは姉まほの存在が頼れる存在として大きくなっていた。
「みほさん。黒森峰だけじゃなくてよ」
無線に今度は聖グロリアーナの隊長であるダージリンが出た。
「ダージリンさんも!」
「ヘイ!みほ!私も来たよ!」
今度はサンダースの隊長であるケイの声も聞こえる。
「すごい!みんな来てくれたんだ!」
無線を聞いて沙織が感激する。
大洗公園前の国道108号は黒森峰・聖グロリアーナ・サンダースの戦車が集まる形になった。
それぞれの戦車へ乗るまほやダージリン・ケイなどは米軍のMV-22オスプレイに乗って大洗公園に来ていた。
「急いで。それぞれの戦車に乗りエンジン始動!」
「じゃあみんな、ハリアーップ」
まほやダージリンにケイはオスプレイから降りると皆を戦車へと走らせる。
「頼もしい援軍だね」
杏は降りてきた戦車を眺めていた。
「東京を守る戦車を回すなんて気が利きますね」
桃は素直にそう思った。
「それはどうかな」
杏はそう辻が気を利かせているなんて思えなかった。
「大洗に行けといつ言った?アメリカからの要請?なんだそれは?」
辻はTVの映像で大洗へ東京防衛に配置させていたはずの黒森峰やサンダースの戦車が来ているのを知った。
辻はすぐに黒森峰の指揮所に電話をかける。
電話に出たのは黒森峰の副隊長である逸見エリカだ。
「知らないんですか?私は知っていると思っていました」
「初耳だ。まったく勝手な事を。ともかくすぐに戻るように伝えたまえ」
「ですがもうすぐ大洗にゴジラが来ますよ?」
「東京を空にする訳にはいかん」
「東京には黒森峰の主力が残っています。東京を守る戦力はあります」
エリカが言うとおりに黒森峰の戦車のほとんどは残っていた。
大洗へ向かったのはティーガー1とヤークトティーガー・ヤークトパンターが1両づつにパンターが2両の5両だけだからだ。
「だが勝手な行動をした事は後で何らかの処分が下ると覚悟しておきたまえ」
辻はそう言うとエリカとの通話を終える。
「全く、どいつもこいつも私を困らせる」
無理矢理押しつけられた総監と言う立場になり、家元や保護者からの突き上げを受け勝手に動く者が現れ辻の頭を痛めた。
そこへ辻の机に置かれた電話が鳴る。
「西住流の家元が?」
しほからの電話を受けた事務員からの問いかけに辻は電話を受けると決めた。
「これは家元、どうされました?」
「お忙しいところ申し訳ありません。実は私の娘についてです」
「お姉さんの方ですか?」
「はい。無断で持ち場を離れたと聞きまして。娘の不始末を電話からですが謝罪します。申し訳ありません」
いつもの隙がない強気な態度ではなく、しおらしい態度でしほは辻へ謝る。
辻はいつもと違う声色のしほに逆に恐縮する。
「無断での行動は困ります。せめて相談をしてくれれば」
しほへ優しく辻は一応の非難はする。
「はい。そうした事ができない不躾な娘に私が育ててしまい申し訳ありません。母親として恥ずかしく思います」
電話口の向こうで頭を下げているかのような声をしほはしている。
辻はこれが母親なのかと感心していた。
「文科省や関係する所へ迷惑をかけましたので責任を取り戦車道のプロリーグ設置の委員を辞退します」
しほは続けてこう言った。
さすがに辻は驚く。
「いっいえいえ、そこまでならなくても結構ですよ」
「しかし娘の不始末は親が責任を負わねばなりません」
宥める辻だったがしほは頑固に辞任すると言い続ける。
「いえいえ結果的に大洗防衛の戦力が強化できましたので良しとしていた所ですよ」
辻はとうとうここまで言った。
「本当ですか?」
「はい本当ですよ。これでゴジラが倒す事ができれば満足です」
「では、しほや他の生徒の皆さんに責任を追及する事はないのですね?」
「そうです。その通り」
辻はこの時しまったと思った。
「優しい御配慮ありがとうございます。西住家と西住流を代表して感謝を申し上げます」
しほはそう告げてから電話を切った。
「まったく、みんな自分勝手だ・・・」
辻はまたぼやいた。
しほがまほ達が勝手に動いた件で辞任すると高校生にゴジラと戦わせている監督者である辻にも責任追及が及ぶだろう。
「大洗を助けに行った娘の母親が責任を負っているのに」
と省内で言われるのは確実だろう。
それを辻は回避する為にしほを許したのだ。
「俺も勝手にやりたいもんだよ。まったく」
辻は自分が居るデスクを思わず蹴った。