「非常呼集!非常呼集!ただちに全員起床!」
午前4時15分に柚子はパジャマのまま緊急の放送をする。その放送は大洗女子学園の面々が眠る旧小学校の校舎全域に響き渡る。
「ゴジラですね」
放送を聴いて飛び起きた優花里が同じくすぐに起きたみほへ言う。みほは「うん」と言い頷く。
「ほら、起きて!」
一方で沙織は早起きができない麻子をなんとか起こそうと布団をどけ身体を揺らす。
「ゴジラめ恨んでやる」
沙織に文字通り叩き起こされた麻子は低い声でゴジラへの恨みを口にする。
「早く着替えろ!すぐに戦車を動かせるようにしておけ!」
制服とタンクジャケットに着替えた桃が校舎を見回り皆が起きているか確認に回っている。
スピーカーから流れる放送と桃の見回りで嫌でも起きた皆は寝ぼけながらも着替えて校庭にある自分達の戦車のところへ向かう
「う~さむう」
「戦車も冷え冷え」
10月の早朝4時半はまだ陽が出ていない。ウサギさんチームの皆はその寒さに震えながらエンジン起動や各部のチェックに回る。
他のチームも同じく冷たい戦車のエンジンをかけ暖機運転を行い外側と内側で点検を行う。
「こちら蝶野、無線のテストをする。各戦車は今の交信がちゃんと聞こえるか返事をして」
蝶野は軽装甲機動車から無線通信のテストをしている。
「こちらあんこう。感度良好です」
「アンチョビも感度良好だ」
「カバさんチームも感度良好」
「アヒルチーム良く聞こえます」
こんな感じで全部の無線の状態が確認される。
「ついさっき、ゴジラがこの大洗へ向かっていると連絡があったわ。今度は前のように逃げるとは限らないわ」
蝶野の言葉に皆の目に少し険しさが入る。
前のゴジラ上陸の時は戦車が攻撃を開始したと同時にゴジラは海へ逃走した。だが今度も同じとは限らない。逆に反撃されるかもしれない。
「攻撃も大事だけど自分達の安全も第一に、車長のみんなは危険だと判断したら回避できるように考えて動いて」
「了解です」
「分かりました」
車長それぞれの返事はいつもの戦車道をしている時とは違い自分らしさを出さず真面目だった。
「たった今、文科省より総監督官から出動要請が来たわ。これより出動します」
蝶野は自衛隊の無線機で辻からの要請を受けた。
「作戦は以前話した通りです。作戦の配置通りに動いてください」
みほが隊長として無線で呼びかける。
既に大洗の皆でゴジラ襲来の時に備えての迎撃作戦計画を立てて皆へ説明をしていた。
部隊編成としては大洗部隊とアンツィオ部隊に分かれている。その二つをみほが大洗部隊の部隊長を兼ねて指揮を執る事になった。
「ではアンツィオ部隊はひたちなか市へ向かう」
アンチョビはアンツィオの部隊をひたちなか市へ向かう。ゴジラが大洗へ来る可能性が高いとはいえひたちなか市へまた上陸する可能性もあるからだ。
「こちらは防災大洗です。ゴジラ襲来警報が発令されました。住民の皆さんは指定の避難所へ向かってください」
大洗市内では防災無線が録音してある警報を繰り返し流していた。その警報やテレビに携帯電話に通知される警報もあって住民は学校などの避難所へ向かう。
その避難民を県警が誘導し戦車の通り道を空けている。その道をみほ達は県警のパトカーに誘導されて大洗の町中を移動する。
「駆除作戦の計画はそちらの案で行う。銃器対策部隊と放水部隊を掩護に向かわせている」
「了解しました。掩護ありがとうございます」
みほは茨城県警本部長の三宅からの指示を受ける。この迎撃作戦を統括して指揮しているのは茨城県警のままである。
「こちらレオポン、磯前神社へ到着」
みほの耳にレオポンチームからの報告が入る。レオポンチームはポルシェ・ティーガーに乗っているチームだ。
ポルシェ・ティーガーは自動車で有名なポルシェ社が作った重戦車でヘンシェル社と競うティーガーⅠになる重戦車のコンペに出品された戦車だ。しかし駆動系が比較的シンプルなヘンシェル社の方が選ばれた悲運の戦車でもある。
しかし火力はティーガーⅠと同じく88ミリ砲であり大洗女子の戦車隊では最強の火力だ。しかも長距離の射撃ができるので小高い丘にある磯前神社にポルシェ・ティーガーが展開した。ゴジラが射程内に入ればまずレオポンチームが射撃を開始する計画になっている。
「西住ちゃん。大洗公園に到着したよ」
杏が報告する。その言葉はいつも通りだ。
杏のカメさんチームはウサギさんチームと共に大洗公園の駐車場に展開した。
「戦車隊へ港中央の駐車場を確保した」
「了解しました」
県警は大洗港の港中央にある広い駐車場を戦車と警察車輌の展開要地として警官を出して確保していた。
みほや蝶野の居る大洗部隊主力は港中央の駐車場に展開する。とりあえず港中央に戦車を配置しゴジラがどこへ上陸しても動ける態勢にするのが作戦計画である。
「こちらカモさんチーム大洗サンビーチ駐車場に到着したわ」
風紀委員のカモさんチームとゲーマ三人組のアリクイリームさんは港中央より南西にある大洗サンビーチの駐車場に展開した。
こうして大洗の戦車隊は四箇所に配置を完了した。
「後はゴジラが来るだけ」
皆が配置に着いたと分かるとみほはキューポラから半身を出し双眼鏡で港の向こうに広がる太平洋に視線を向ける。
防波堤があり水平線すら見えず昇ったばかりの朝日が眩しく見える。
まだ静かな光景がゴジラが来る実感を薄める。
だがあの防波堤を越えてゴジラが現れるのを想像するとみほの背筋は寒くなった。
「みぽりん」
沙織が突然みほを呼ぶ。
「大丈夫だって、いざとなったら麻子の操縦テクニックで逃げられるからさ」
緊張しているみほを心配した沙織が声をかけたのだ。
「ありがとう沙織さん。だけど逃げるより華さんの射撃で仕留めたいな」
みほが笑みを見せながら言うと華は「勿論、今度こそ必中です」と自信を見せる。
「西住殿、これならゴジラもイチコロですよ」
優花里がおどけて言うとみほの緊張は少し和らいだ。
「みんな。頑張ろう」
「はい!」
ゴジラの襲来を前にあんこうチームは気持ちをより高めた。