艦上OVERDOSE   作:生カス

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Storyの境目…
ドラマはここから加速するのさ…

(要約:独自設定&急展開注意)


8 Born in the echoes

- AM00:40 大洗学園 正門前 -

 

「…何を…言っているんですか?」

 

言われたことの真意がわからず、だけどその言葉を言われた瞬間、全て考えられなくなった。

なぜかその言葉から逃げられる気がしない、こんな日に限って、閉じ込められているみたいに暗い夜だ。何も見えない狭い檻のような夜の中で、男とスープラだけが、ただ俺を見つめている。

 

「そのまんまの意味さ。惚れたんだろう?あのsxに?そうなってしまった以上もう止まれない…何を失っても、君は走り続ける。きっとね」

 

「……ッハハ、やめてくださいよ…冗談にしても笑えない…」

 

「限界以上で走った時のあの感覚は、もうないのかい?」

 

「……数日前のことなんだから、そりゃまだ覚えていますよ…」

 

「フーン…じゃ1ヶ月経てば?それとも1年?もしかして10年くらいしたら、忘れられると思うかい?」

 

「………」

 

「できやしないさ…逆に日が進むごとにその感覚は募り、いずれタガが外れる、それは君自身が一番よく分かっているだろう?」

 

「……なんでそう…言い切れるんです?」

 

「…もう5年くらい前になるのか」

 

「?」

 

ぽつりぽつりと、学園長は語り始めた

 

「走り仲間に2人の男がいてね…変わった奴らでなぁ…クルマ狂いで馬鹿みたいに走らせてるくせに、レースとかには全然興味ないんだ。特に片割れの方は競争っつーもんが苦手らしくてな。いっつもビリだったって言ってたよ……」

 

「その人は今、どうしてるんですか?」

 

「…死んだよ」

 

「!……」

 

「300km/h以上でぶっ飛ばしてた時に、もう1人のクルマを庇ってな……ホント、おかしな奴だったよ…自分よりも自分のクルマよりも…乗っていた友達よりも、友達のクルマに固執してたんだからな…」

 

「……」

 

「おんなじなんだよ」

 

「…え?」

 

「おんなじ目をしてるんだよ君は…死んだ彼と、いや……」

 

 

 

 

 

 

「sxに殺されたアイツと」

 

 

 

 

 

 

「……」

 

何となくだが、口ぶりと話すタイミングから、察しはついていた。やっぱり、sxのことだったんだ。詳しいことはともかく、その死んだ人は恐らく、俺と同じようにsxに心を奪われて、そして守って死んだのだろう……

だけど…だからって……

 

「殺されたって…なんでそんな言い方」

 

「だってそうだろう?あのクルマさえ奴の前に現れなかったら、あいつは死ぬことはなかったんだ。あのクルマに関わったやつはどいつも碌な目にあってない、いわくつき…死神なんだよあのsxは……」

 

「…クルマに責任なんかないですよ、クルマはただ、言われたことに応えてくれるだけだ……」

 

「……本当、言うことまでアイツにそっくりだな…」

 

「知りませんよ、そんなこと」

 

学園長相手だというのに、苛立ちか動揺か、自分の話し方が少し荒くなってきていた。

 

「結局、何が言いたいんですか?あのsxにはもう乗るなとでも?それともスクラップにしろと?」

 

「できないだろうね…君はきっと乗ることになる。スクラップにしようとしたところで、寸前で別の誰かの手に渡って復活するだろう…今までそうだった…今回もな。そしてその誰かがきっと殺される……そういうものなんだよあれは。まるで呪いだ…」

 

「…じゃあどうするんですか?あのメール通り二度と走れないくらいにぶっ壊すとでも?」

 

自嘲気味にそう問いかける。自分でも半ばヤケになっていることが分かった。

しかし学園長から返ってきた答えは、意外なものだった。

 

「逆だよ。あのクルマを走らせ続けるんだ」

 

「…え?」

 

「…見せたいものがある、隣に乗ってくれ……」

 

「乗れって…どういうことですか?それに見せたいものって…」

 

「なに、すぐにわかるさ…さぁさ、早くしないと夜が明けちゃうぞ」

 

「は、はあ…」

 

少し胡散臭い感じがしないでもなかったが、考えても仕方ない気がしたので、言わるままスープラの隣に乗った。すぐに学園長も運転席に乗り、スープラが動き出す。

 

「どこに行くんですか?」

 

「着いてからのお楽しみ」

 

…とりあえず、今日の帰りは遅くなるだろうな………

 

 

--

 

 

- AM1:00 大洗学園艦 郊外 -

 

「あの…かれこれ20分くらい走っているんですけど…」

 

「まあまあ、もうそろそろ…ほら、あれだよ」

 

そういって示した方向の先には、学園艦内にしては大きい邸宅があった。

 

「ご自宅ですか?」

 

「ああ、ここのガレージにあるんだ」

 

「ガレージ?てことは見せたいものって…」

 

「そう、クルマさ…」

 

「でもなんでまた?知っての通り俺にはもうsxがあるんですけど…」

 

「…ま、理由はすぐにわかるよ」

 

いまいち納得ができないまま、スープラにガレージへ連行される。入り口の形から察するに地下にあるのが分かった。入り口から少し走った後、広い空間に出た。どうやらここがガレージみたいだ。スープラを自動車同士の間に駐車し、エンジンが切られた。

 

「さ、着いたよ」

 

「あ、はい」

 

言われて、シートベルトを外し、外に出た。改めて周りにあるクルマを見渡してみると、車種が分かる。この間のF40はもちろん、ディーノ、テスタロッサ、あ、あっちに458もあるじゃないか。しかもイタリアとスパイダー両方、すげえ。フェラーリだけじゃない、AMGにランボルギーニ、アストンマーティンまである。高級車がズラリだ。どんだけクルマ持ってんだこの人……

 

「ハハハ、すごいだろう?苦労したんだぜここまで集めるの」

 

「すごいですね…あの、見せたいものっていうのは、これですか?」

 

「ん?まあこいつらも見せたいものではあったけどね…本命は別にあるんだ。ほら、こっちだ」

 

まだ何かあるようなので、言われるまま学園長についていく。どうやら、本命とやらはこの奥にあるようだ。ガレージを歩いて突き当りまでいくと、扉があった。物置かなんかだろうか?

 

「ここだよ」

 

 

言うと、学園長はその扉を開けた。

扉の先にあるものを見て、かなり驚いた。どうやら物置ではなく、ここもガレージだったようだ。それもさっきのような半ば駐車場のようなものではなく、多分整備用に設けられている。目に映る機材と工具が、それを物語っていた。

だが、驚いたのはそこではない、そこにあるはずのないものがあったからだ。

何故かナンバープレートが変わっていたが、すぐにわかった。

 

 

 

「…どうして…sxがここに…」

 

 

 

そう、俺の180sxが、そこにあった

 

「な、なんでここに?確か学校のガレージにあったはずじゃ…」

 

「俺が移動させたのさ。君が来る1時間くらい前に、レッカー車使ってちょこちょこっとね」

 

またレッカー車か。俺のクルマレッカー移動されすぎじゃない?いや、そんなことより

 

「でも、どうしてそんなことを…」

 

「言っただろう?走り続けるんだよ」

 

「だからそれってどういう」

 

「君がsxを最後まで走らせ続けるんだ。あれが全て吐き出し、力尽きるまで」

 

「!……」

 

「そのための力を俺が貸す。そのためにここにおいたのさ」

 

「力って…この設備とか、技術を教えてくれるとかですか?」

 

「設備はそうだが、知識と技術は自動車部の子たちに教えてもらいな。多分俺より上手いしな」

 

「じゃあなんでわざわざ?お言葉ですが、設備だって自動車部はここと同じくらい上等ですよ?」

 

「命を蝕みながら走るようなクルマを作るのを、彼女たちが許すと思うかい?君が、いや俺たちがやろうとしていることは、そういうものだ」

 

「……」

 

「でもそのくらいしないと、コイツの限界出す前に雨水くんが終わっちまうかもなあ」

 

くっくと笑いながら、彼はsxを見据えてそう言う。

やっぱりというか何というか…コイツはいわくつきなんだと、薄々と感じていたものに確信を持った。幾多の人を魅了し、スピードに溺れさせ、そして死なせた、呪われたクルマ…

だが魅了され、溺れかけているからこそ分かる。

人を引き寄せたその力は、決して上っ面だけのものじゃない。

その力の奥に絶対に何かあるんだ

 

「それに、設備だけじゃない…俺が君にしてやれることが、もう一つだけある。」

 

「…何ですか?」

 

「…経験だよ」

 

「経験?」

 

「ああ…艦上高速は知ってるかい」

 

「ええ、まあ一応」

 

艦上高速、それはこの学園艦の第2甲板にある高速道路エリアだ。他の学園艦は知らないが、大洗学園は基本的にブロックを繋げているような構造で、それ故に隣接するブロックに直接行き来することができない。なので一旦甲板に上がりそこから移動しなければいけない。等の理由により、ブロック間の移動をより効率的に行える場所が必要となった。それが艦上高速だ。つまり、学園艦で一番さっさと移動できるエリアという訳だ。

 

「でも、そこが一体?」

 

「…そこを走るんだ。全開で、このsxで……」

 

「な!?」

 

悪い冗談だと思った。あそこは前の旧工業専用地域とは違う。一般車だって普通に走っているんだ。

 

「なに考えているんですか?そんなとこ全開で走ったら、それこそ事故じゃすみませんよ」

 

「そう、そういう場所だからこそだよ…」

 

理由を、彼は静かに語り始めた

 

「この話を聞いて、君は怖いと思ったか」

 

「そりゃ…まあ…」

 

「ああ、それで良い。じゃあ、旧工業地で走っていた時は?その怖さはあったか?」

 

「……それは…」

 

…そうだ、あの時、心の中にあったものは恐怖じゃなかった。ただひたすら、スピードの快楽に溺れていた気がする。今改めて考えると、その時の自分にゾッとする。

 

「それがスピードだ。本来の危険度が増すにつれ、それに反比例するように恐怖を感じなくなる。誰が言ったか、麻薬なんてピッタリな例えがあるくらいだ。そして、その麻薬の快楽も、感じなくなってしまう恐怖も、一番大きいのが、あの艦上高速なのさ」

 

「……」

 

「本当のスピードがどんなものかを知り、その快楽を受け入れ、そしてその快楽に隠れている恐怖を自覚する…それができなければ、全開したsxは、君に牙をむける…」

 

「……」

 

「事故を起こしたら、今度こそ怪我じゃすまないかもしれない。最悪死ぬ可能性もある。それだけじゃない、一般車を巻き込んで関係ない人まで死なせてしまうかもしれない…ここから先はもう戻れない…今ならまだ、さっき言ったみたいに、sxを捨てて後の誰かに任せるってこともできる」

 

「……」

 

「…どうする?やめるなら今だ。」

 

「……」

 

そうだ、やめるなら今だ。あんなスピードで人の走っている公道なんで、正気の沙汰じゃない。決めたじゃないか、セーブして走るんだって…もうあんな、自ら死にに行くような走り方はしないって、小山にも土屋にも約束したじゃないか。やめるべきなんだ。それが一番正しいんだ。

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

「俺は…」

 

 

 

 

 

 

それでも

 

 

 

 

 

 

 

 

「走りますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はsxが良いんだ

 

 

 

 

 

 

 

俺が走る意思を示すと、学園長は悲しそうな、でもどこか納得したような顔をしてこう言った。

 

「1週間後、また正門前に来てくれ。詳しい時間は後日で教える…すっかり遅くなったな、悪かった。今日はもう送るよ」

 

「…ありがとうございます」

 

もしかしたら今日、俺の人生はもう修正できないところまでずれてしまったのかもしれない。

でもそれは、俺が自分で決めたことなんだ。

 

 

- AM3:00 帰路にて -

 

 

「そういえば、自動車部の人達にはどう説明するんです?さすがにいきなりsxがガレージからなくなったら怪しむでしょうに」

 

「大丈夫だよ、なくなってないから」

 

「…え?どういうことですか?」

 

「ま、明日学校に行けばわかるさ」

 

大丈夫かな…明日何にもなければいいけど…

 




この辺から独自設定が多くなってきます…
許してほしいのさ…

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