艦上OVERDOSE   作:生カス

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普段よりだいぶ長くなっちまった…冗談じゃねえ…
今回からちょっと新展開入ります。


7 Thirst

- 昼休み 大洗学園 屋上 -

 

謝罪とは、謝るということである。

いきなり頭痛が痛いみたいなことを言って申し訳ない。けれど、呆れずにもう少し話に付き合ってほしい。人は何か悪いことをしたら、相手に謝る。多くの場合これは美徳とされているだろうし、俺自身も別に間違えているとは思わない。それに、謝ることができれば自身の罪悪感は薄まり、相手との友好関係を回復させることもできるかもしれない。だがここでちょっと待ってほしい。本当にそうだろうか?確かに謝罪をすれば罪悪感は薄まるだろう。だが本当にそれでいいのだろうか?

謝罪とは自分の罪悪感を薄くするためにするものではないし、まして相手に寛容になってもらうためにするわけでもない。謝罪とは、ただ相手に謝るためにする行為なのだと思う。いくら謝罪をしても自分のやったことは決して消えることはない。きっと謝るという行為は、自身にケジメをつけるためにあるのだと思う。

つまり何が言いたいのかというと

 

 

 

「めんご」

 

「は?」

 

 

 

 

謝っても許されないことってあるよね

 

 

「え?お前それで謝っているつもりなの?」

 

「うん、いや、うん…本当にすまん…。」

 

「……はぁ」

 

土下座をする俺を見て、小山が小さくため息をする。すんごい呆れたような顔しながら。

 

「…で、他には?」

 

「…フレンチクルーラとゴールデンチョコ3個ずつでどうでしょうか?」

 

「5個ずつだ。あと近くのケーキ屋のショートケーキと苺タルトもつけろ」

 

「おまっ!それはいくら何でも横b」

「あ?」

「謹んで捧げよう…」

 

「ハハハ…」

 

そういう場合許されるには別に対価が必要なんだと、乾いた笑いをしている土屋を横目に、思い知った。

 

 

 

--

 

 

 

「で、本当に大きい怪我はないんだな?」

 

「さっきも言ったけど、頭ちょっと切っただけで、それ以外は俺に怪我はないよ。」

 

「そうか…たく、だから昨日あんなに言ったじゃないか。事故ったって聞いたときはどうしてやろうかと思ったぜ?」

 

「ああ、マジごめん」

 

「ホントに反省してんのかね全く…土屋もごめんな?自主練休んでまでこんなアホのおもりしてもらって」

 

「大丈夫、私は全然気にしてないよ。むしろどんどん頼ってよ」

 

そういって土屋はにぱっとした笑顔を俺たちに向ける

 

「…よかったな雨水、優しいお方で」

 

「…俺もそう思うよ」

 

これが星野さんだったら俺は泣いたり笑ったりできなくなるかもしれない。別にあの人が某軍曹のように厳しいというわけではないが、sxの修理しているときの俺を見る目がえらい鋭かったのは記憶に新しい。中嶋さん曰く「あれがデフォだから大丈夫」らしいが、正直あの目で昼休み中見られると考えると生きた心地がしない。

ちなみに今どういう状況かというと、小山、土屋と一緒に昼飯を食べながら、土屋に自動車のメカニズムついて教えてもらっている最中だ。俺は入部時期的に他の新入部員(土屋だけだけど)と比べて自動車知識に遅れがあるらしく、ある程度別の時間で補わなければいけないらしい。本でも読んで自習しようかと思っていたところ、土屋が昼休みに教えると言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらったという訳だ。

 

「でも良いのか?しばらく自主練できなくなっちゃうだろうけど…」

 

「大丈夫だって、自主練て本来昼休みじゃなくて部活動中にやるもんだし、それにご飯食べる時間なくなるからそんなやりたいもんでもなかったし」

 

「そうか、それなら良かった…ん?じゃあなんであんなに昼休みにやってたんだ?別にやらなくてもいいんだろ?」

 

「え!?え、えーと…その…あ!ダイエット!そうそう、ダイエットでご飯抜いてたからついでにって感じで!うん!」

 

「そ、そうなのか…」

 

あからさまに焦る土屋を見て別の理由があるんだろうという察しがついたが、特に突っ込まないことにした。下手に探って地雷踏んでも嫌だし。小山も土屋をみて俺と同様に察したんだろう、何かに気づいたような顔をしていた。そしてなんでか俺のほうをじっと見たあと「まさかな…」とか言い出した。お前はどんな答えに行きついたんだ…

 

「それはそうと、お前のあのクルマ、ワンエイティだっけ?まだ修理してんの?」

 

先の会話を振り切るかのように小山が俺に聞いてくる。

 

「まあそりゃ、壊して修理始めたのが昨日…いや下手すりゃ今日の夜中だったからなあ…そりゃそんなすぐに終わんねえよ。まして、俺みたいな素人が自分で修理するんだ。時間もかかるさ」

 

そう、あのsxの修理担当は入部したての俺ということになっている。これは自動車部の方針らしく、修理でもなんでもとにかく自分の手を動かせとのことだ。自分で機械に触れてこそ、きちんとした技術を得ることに繋がり、自身のノウハウの基盤になるのだと。

まあ言っていることはわかるんだけども、だからっていきなり素人に任せるのはどうなんだろ?わからないところや技量的にまだできない部分は先輩方が手伝ってくれているとはいえ、やっぱり不安だ。

 

「ふーん、ま、そうだよな」

 

「それでも2,3日くらいで終わると思うよ?中嶋も言っていたけど、やることはパーツ交換とちょっとの板金、あとは塗装ぐらいだから、私たちも手伝うし、そんな難しいところはないと思う。あーでも、塗装はちょっと時間かかるかも、あまり見ないタイプの色だから新しいの調合しないと」

 

「ごめんね土屋、あんな変な色で」

 

「なんでお前が謝るのさ…あと変な色っていうな…」

 

小山の変な色発言を受けて内心少し落ち込む。結構気に入ってるんだけどな、あの色…。

 

「ま、結果的には良かったんじゃねえの、自動車部に入ってさ。これからあのクルマと付き合っていくんなら、そういうのも必要だろ」

 

「まあ、そうな」

 

「それに土屋さんにも運転教えてもらいやすくなっただろうし」

 

「え?私?」

 

「うん、雨水が土屋の運転みてるときにぼそっと『土屋に運転の仕方教えてもらおうかな』て言ってたんだよ」

 

あの時口に出してたのか…全然気づかなかった…

 

「……そうなの、雨水?」

 

「…土屋さえ良ければ、お願いしていいか?」

 

「…!うん!いいよ!」

 

そういって土屋は、満面の笑みを俺に向けた。

何故だか、妙にむず痒く感じた。そしたら小山がさっきのような顔で「やっぱりもしかして…」とかほざいていた。だからお前はどんな推理をしているんだよ…

 

そうこうしているうちに、昼休み終了のチャイムが鳴った。今日は雑談ばっかだったな…

 

「じゃ、そろそろ戻るか」

 

「ああ………雨水!」

 

「なんだ?」

 

「もうあんな運転するなよ?」

 

「……ああ、分かってるよ…」

 

「…土屋、雨水のこと、頼んだ。」

 

「…うん、頼まれた。」

 

 

そうさ…もうあんな無謀なことはしない。公道で猛スピードで鉄の塊を走らせ…一歩間違えればすべてが終わる。あんまりにも狂った行為だ。

もうあんなことはやめよう。誰が見たって間違えている。あんなセーブを忘れた走り方をしていれば、命がいくつあっても足りない…これからは、しっかりとセーブして走ろう、命を落とさない走り方をしよう…それが一番だ

 

 

 

 

 

 

そう決めたのに

 

 

 

 

 

 

 

それが正しいはずなのに

 

 

 

 

 

 

 

あのスピードの中で聞こえたあの声が

 

包み込まれるような熱の感覚が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺にこびりついて、離れないんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

- 深夜 学園艦内のアパート 自室 -

 

あれから数日、俺はsxの修理を終え、自宅に戻っていた。

家に着いた頃には時計の針は午後10時を回っていた。思ったより遅くなったみたいだ。

結局、自動車部のメンバーは最後までsxの修理に付き合ってくれた。あの人たちには当分頭が上がらないな…

そういえば部活動が終了した帰り際、寺田先輩に呼び止められた。何かと思って聞いてみたら、sxをどうやって手に入れたか気になったらしい。俺が手に入れたいきさつを話したら、寺田先輩は俺にこう言った。

 

-

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----

 

 

『なるほど…雨水、あのsx、随分大事にしているみたいだね』

 

『まあ、なんだかんだ自分の初めての愛車ですからね。愛着もわきますよ。』

 

『そうか…それはいいことだ。でも、気を付けてね?深入りしすぎないように……』

 

『…どういうことです?』

 

『そのまんまの意味だよ…クルマにのめり込みすぎて、スピードに溺れて、ろくでもない目にあった人を、私は知っている。』

 

『………』

 

『君には、そういう風になってほしくないってだけさ…分かってくれるかい?』

 

『は…はい……』

 

『フフ、それなら良いんだ。じゃ、気をつけてね。ご苦労さま』

 

『…はい、お疲れさまでした……』

 

 

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-

 

あの時の寺田先輩の、どこか哀しそうな目が、ひどく印象に残った。

もし、

もしあのまま事故らずに走っていたら、どこまでいけたんだろうか

もうあんな走りはしないと決めたのに、そんなどうしようもない考えが、俺の脳に居座っていた。

 

 

--

 

 

時計が12時を指すころ、借りていた中嶋さんのハンカチを洗ったまま放置していたことを思い出し、しわになっていないかを確認していると、電話からメールの着信音がした。小山か?と思いながらメールを確認してみると、差出人不明、件名なしと、何とも気味の悪いメールだった。それだけなら無視しようとも思ったが、本文を見てそうも言ってられなくなった

 

 

大洗学園正門前にいる

 

180sxを壊されたくなければすぐに来い

 

 

誰なんだコイツ、なんでsxのことを知っている?

正直かなり怖かったが、何よりsxが心配だったので、俺はすぐに家を出て大洗学園に行った。

 

 

- AM00:30 大洗学園 正門前 -

 

さすがにこの時間帯になると学校にはだれもおらず、門ももちろん閉まっている。

言われた通りに正門前に来たが人の姿が見えない。もしかしてもうsxのあるガレージに行ってしまったのか?

 

が、どうやら違うらしい

後ろから、唸り声のようなエンジン音が聞こえたんだ。

振り返ってみたら、そこにいたものに思わず息をのんだ

 

 

丸みを帯びたフォルム

ハイパワーに耐えるjzエンジンの咆哮

 

青い80スープラが、俺の後ろに佇んでいた

 

あっけにとられていると、エンジンをかけっぱなしで、運転席から誰か降りてきた。ライトの逆光でよく見えないが、長身の男性のようだ。

それを見た俺は思わず身構える。だけど次の瞬間、俺はまた虚を突かれてしまった。

 

「やあ、雨水くん、メール届いたみたいだね。あの事故の後、怪我はないとは聞いていたけど、本当みたいで安心したよ。」

 

「え…あ、はあ……」

 

「様子見に行ってやれなくてごめんね。立場上、生徒と一緒に夜遊びしてるのがばれたらまずいからさ…」

 

「あ、あの…どうして俺のこと…?」

 

「あれ?わからないかい?入学式とかで見たと思うんだけど…」

 

「す、すいません…」

 

「うーん、じゃあそうだなあ…これ名刺、ケータイのライトかなんかで見てみて」

 

「は、はあ」

 

そういって、名刺をもらう

 

「えーと…大洗学園学園長……学園長!?」

 

「そ、よろしく」

 

「で、でもなんで俺の事故のこと知ってるんですか?あれどこにも情報出てなかったと思うんですけど…」

 

「ああ、それはね、俺も一緒に走ってたからだよ」

 

一緒に?一緒に走ってたのって中嶋先輩のFCとあとF40くらいだし…あ…!

 

「もしかして、あのF40?」

 

「そうそう!速かっただろう?おっと、でも本命はあのスープラなんだぜ?」

 

「は、はあ…あ、あの、それより、なんで俺をここに?」

 

「…ああ、そうだね、そろそろ本題に入ろうか」

 

そこまで言うと、学園長は今までとは少し違う雰囲気で、俺にこう言った。

 

「君のsxが直った、このタイミングで君に質問したいことがあったんだ…単刀直入に聞こう、君はあのsxで、これからどう走りたいんだい?」

 

「どう…というのは?」

 

「前の工業専用地域でのレース…あの後、君はどうしたいと思った?」

 

「…どうもこうも、あんな走り方をするのは二度とごめんですよ……」

 

「ほう…」

 

「あんな、一歩間違えれば命を落とすようなことはもうしないって決めたんですよ。他の先輩たちみたいに、きちんと自分の技量と車を理解して、決して無理はしない。スピードにのめり込みすぎないように、セーブを覚えて走るって、決めたんです。」

 

「フッ、なるほど、よくわかった……でもね雨水くん

 

 

 

 

 

 

 

君はもう…それはできない」

 

 

 

 

 

 

 

俺はその言葉を聞いて、ひどく動揺してしまった。

だかそんなことは意に介さず、学園長はつづけた。

 

 

 

「もう君は、あのクルマにある何かを見て、それに魅入られてしまった。そうなった以上いくら御託を並べても意味はない。もう君は、いけるところまでいくことしか、できなくなってしまったんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たとえ、全てをなくしてしまったとしても……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




しかし学園長ってF40なりディーノなりよくPONG☆と買えますよね。
それともどこかでレースしてGET REWARDSしてるのか…?

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