艦上OVERDOSE   作:生カス

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書き溜めした分が尽きたのさ…。
どうしようかしらこれから…。


6 Lay your hands on me

- 深夜 学園艦工業区域 レッカー車内 -

 

「珍しいね」

 

「何が?」

 

雨水くんのワンエイティをレッカー車で学園のガレージに運んでいる最中、運転中の星野が突然そんなことを聞いてきた。

 

「中嶋がだよ。他人のクルマに興味持つのはいつものことだけど、あんな交渉してまで調べたいだなんて今までなかったんじゃない?」

 

「アハハ、言われてみればそうかも」

 

あの後、あのワンエイティを部の備品にしたいがため、雨水くんを自動車部に勧誘したが、あっさりと断られた。

じゃあ修理だけでもといったが、私の目論見はすっかりばれているみたいで、それも断られた。だがそれでも諦めきれなかった私は、最終手段としてワンエイティにかかる修理費(やや盛った)を見せつけて現実をたたきつけた後、自動車部ならロハだよといい、しばらくの壮絶な戦いを終え、ようやく雨水くんが陥落したのだ。やったね。

 

「そんなに良かったの、あれ?」

 

「いやあんまし、エンジンの組み方も雑だし、シャシーもガタガタ、ボディも雨水くん手入れはしてるんだろうけど、その前に随分長いこと放置されてたみたいで、結構大きいダメージ負ってる。極めつけに全体的な老朽化もひどい。正直、今まで走れてたのが不思議なくらいだよ。」

 

「もうボロボロ、か……。でもそれなら、どうしてあそこまで気に入ってるの?せっかくだから直してあげたい、ていうわけでもないでしょあの感じは?」

 

「…だから、不思議なんだよ」

 

「どういうこと?」

 

「あのワンエイティ、全開した私のFCに追いついてきたんだ。しかも工専(工業専用地域)の長いストレートで」

 

「…ほんとに?」

 

思わずなのか、ホシノがそんな声をあげた。無理もないだろう、私だって信じられない。

全開したチューンドFC、自動車部の秀作のひとつ、約250km/h以上の領域で、まっすぐ走り、しっかり曲がる。

それをあのガタガタの足回りで、最高速を経験したことのないドライバーと共に、走るのもやっとなはずのあのワンエイティは、追いついてきた。

 

それだけじゃない

いやむしろ、こっちが調べたいと思った理由だ。

 

雨水くんはワンエイティのことを話した時に、まるで生きているように感じるときがある、と言っていた。

火のような熱を感じるときがあると、生き物の声に聞こえる音があると言っていた。

それに笑うことも、呆れることも出来なかった。

だって私も一瞬、見てしまったのだ。

 

 

 

 

 

後ろから刹那で近づいてきたあのクルマに

 

 

 

 

 

ゾッとするような何かがまとわりついているのを

 

 

 

 

 

オカルトはあまり信じるタチじゃない、きっと何かあるはずだ。

あのワンエイティに何があるのか見てみたい、それに

 

「気になるのは、クルマだけじゃないしね…」

 

「それって雨水のこと?」

 

「うんそう、いい奴だよ!ちょっと危なっかしいとこもあるけど。」

 

「…ふーん、まあ確かに悪い奴ではなさそうだね」

 

そう、彼だ。彼がどうして、どうやってワンエイティを手に入れたのかそれも聞きたいし、何より、これから彼があのクルマにどうやって向き合っていくのか、興味がある。

彼のあのクルマに対するスタンスは少し特殊だ。

私はさっき、クルマが恋人みたいに大切なんだろうと彼に言った。でも、今は正確には少し違う気がしている。クルマを恋人や友達みたいに見立てて、あるいはあくまで機械として、大切にする人はたくさんいる。

でも雨水くんはどうにもそれには当てはまらない気がする。

見た感じ落ち着いてはいたけど、彼のあのクルマに対する執着は異常だ。

今思うと、動かなくなったワンエイティを見てる時の彼の姿は、

大切にしているというよりも、あのクルマに縋っているように見えた

 

「でもなあ、見た感じひょろっちいしぼーっとしてるっぽいし…自動車部入ってから泣き見なきゃいいけど…」

 

「あれ、星野のタイプじゃない?」

 

「え!?い、いや別にタイプとかそういう意味で言ってるわけじゃなくて…!」

 

「アハハハハ!冗談だってジョーダン!星野は相変わらずそういうの弱いねえ」

 

「もお…勘弁してよ中嶋…」

 

「大丈夫大丈夫!多分雨水くんもすぐ慣れて上達するって。星野は心配しすぎだよ」

 

「あんたが楽観的過ぎるんだよ…」

 

そうこうしているうちに、大洗学園に着いた。みんなこのワンエイティを見たらどう思うんだろうか?少し楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

- 深夜 大洗学園 ガレージ前 -

 

sxの中でレッカー車の振動と一緒に体を揺らしていると、学園の校門が見え、奥のほうから明かりが見えた。恐らくガレージの照明だろうか。カーブの遠心力を受けた後、レッカー車は止まった。

遠くにあった明かりが、今はすぐ近くに見える。どうやら着いたようだ。

 

「それじゃ降ろすから、しっかりつかまっててね」

 

「はい、お願いします。」

 

レッカー車の助手席から出てきた中嶋さんの言葉に応答し、その少し後、リフトが動き出す。

sxの搬入作業も無事終わり、中嶋さんから許可を貰ったので、シートベルトを外し、外に出て、

目の前の中嶋さんと話をした。

 

「ごめんねー閉じ込める形になっちゃって、だいぶ揺れたでしょ?」

 

「いえ全然、此方こそ直してもらうことになって有り難いです。必ずお礼は致しますので。」

 

「いいってお礼なんて~、……sx共々部に入ってくれるんでしょ?」

 

「……記憶にございませn」

「雨水くん?」

 

「……」

 

ちきしょうめぇ。やっぱりごまかすのは無理か。

中嶋さん、怒らせると絶対怖いタイプだ。

 

「諦めなよ雨水、中嶋は一度言ったら聞かないんだ。」

 

「あ、えーと…」

 

「私は星野、中嶋と同じ2年、よろしく」

 

「分かりました、星野先輩」

 

「これからわかんないことだらけだろうけど、挫けないで何かあったら聞きなよ。…ちなみここに来た以上、毎日必ず家に帰れるとは考えないほうが良いよ」

 

「ありがとうござ…え?…すいません、え?」

 

すごい業の深いことが聞こえたんですけれど…だから部活は入りたくなかったんだ。だから部活は入りたくなかったんだ!労基は大事だって古事記にも書いてあるじゃないか!いや、違うな、古事記に書いてあることはアイサツが大事ってことだけだ。古事記にもそう書かれて…

 

「へえ~、君が件のsxの持ち主?」

 

「ん!?」

 

と、あほなことを考えている間に突然意識してない横から話かけられ、思わず変な声が出てしまう。

 

「ハハ!!今のいいね、面白い!雨水だっけ?鈴木だよ!よろしくね。」

 

鈴木さんか…。褐色の肌に癖の多い黒髪、まるいな目はどこか猫を彷彿とさせる。

なんか全体的にさわやかな雰囲気の人だな。

 

「よろしくお願いします…。」

 

「うん、どーも。直ったら、走ってるとこ見せてよ!」

 

「ええ、それは是非…」

 

「まだいるんだけど、今席外してるみたいだからちょっと待っててね。あ、ちなみに、1人は君とおんなじ1年だよ」

 

中嶋さんにそういわれ俺はふと、あることを思い出したので、聞いてみることにした。

 

「たしか…土屋でしたっけ?」

 

「あれ?土屋のこと知ってるの?」

 

「あっはい、面識は…まあ、あるっちゃあるんですけど…。いつも昼休みに校庭でドリフト練習してますよね?86で」

 

「お、見てたんだ!すごいでしょ!土屋のドリフト技術!」

 

「ええ、開いた口が塞がりませんでした。」

 

「でしょでしょ!あ、それはそうと、面識があるっちゃあるってのは?」

 

「ああ、俺いつも友達と屋上で飯食べてるんですけど、そん時に土屋がドリフト練習してるの見かけるんですよ。んで、たまに手振ったりするとこっちに気づいて振り返してくれたりすんですけど…これ面識あるって言えますかね?」

 

「……ほほー」

 

中嶋さんが途端ににやけ面になった。え、何なの一体…?

 

「そっかそっかー、最近昼休みに張り切って自主練してたのはそういうことかー。へー、へ~」

 

さらにニヤニヤした顔になり、からかうような口ぶりの中嶋さん。どういう答えに行きついたのかしら…。

気にはなったが、何となく聞かないほうが良い気がしたので何も言わなった。

 

とそんなことを考えていると、外のほうから足音が聞こえた。どうやら走っているようだ。

 

「おお、噂をすれば、だね」

 

中嶋さんがそういった直後、ガレージの扉のほうを見ると、開いている部分からひょっこりと、あのくせ毛がにぱっとした笑顔で入ってくるのが見えた。

 

「ただいま~。いや~もう5月だっていうのにまだまだ寒…」

 

「よう」

 

「………へ?」

 

「……」

 

「え?あれ?…どうして雨水がここに?」

 

「あれ?俺土屋に名前言ったっけ?」

 

「いやだって中学から一緒じゃん…」

 

やっぱり中学からの同級生って覚えてるものなの?小山にもおんなじリアクションされたし…

……小山か、アイツにも謝っとかなきゃな…。変に八つ当たりしちゃったし…。

今度お詫びにケーキか何か奢ろうかな…。

 

「いやそうじゃなくて、どうしてここに?」

 

「おっと、そうだそうだ、それはな」

「今日から自動車部に入るんだよ、ね?」

 

「アッハイ」

 

なんか俺に対して押し強くないすかねナカジマ=サン…

 

「おぉ…!そ、そうなんだ…」

 

「ああ、やっぱ迷惑だろ?いきなり良く知らないやつが入部するなんて…」

 

「え!?あ、いや全然そんなことないよ!大丈夫大丈夫!」

 

「お、おう…?」

 

なんかいやに必死だな…何だろう、ここも部員不足に悩まされているんだろうか?最近ただでさえ生徒不足らしいからなこの高校

 

「さて、あとは…土屋、寺田先輩は?」

 

「ん?ああ、先輩なら、テスト走行に出てるよ。もうしばらくかかるっぽい」

 

「おっけー、わかった。じゃ顔合わせはとりあえず、先輩が帰ってきてから再開するとして、さっそくワンエイティの修理に取り掛かろうか。ほら、雨水くん、このツナギに着替えて、私服のままだと危ないから。」

 

「あ、ホントだワンエイティがある。どしたのこれ?」

 

「ああ土屋には言ってなかったっけ?まあ後で説明するよ」

 

「あの…俺板金ってやったことないんすけど…」

 

「やりながら教えるからだいじょーぶ!」

 

「は、はぁ…」

 

「よし、それじゃ改めて」

 

中嶋さんが、コホンと咳払いをする

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ!自動車部へ!」

 

 

 

 

 

 




手元に自動車部の資料がないから先輩が寺田先輩しかわからない…
もし知っている方いれば教えて頂けないでしょうか?

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