艦上OVERDOSE   作:生カス

5 / 32
醒めちまったこの街に…熱いのは…俺達のWRITING…

Poemはいいぞ(ステマ)


4 I might be wrong

- 昼休み 大洗学園 屋上 -

 

あのsxを見つけてから早2週間、修理、手続きも終わり、晴れて俺の元にそれは来てくれた。

それから更に数週間は、慣らしのためにすいた道路で流す形で乗っていた。

結論から言うと、実に乗りやすいクルマだった。運転している間は少しも負担を感じない。

学園艦を十数時間かけてドライブしてみたりしたが、集中力は少しも途切れることはなかった。

そこまでいろんなクルマに乗ったことはないが、それでも自分のsxは普通じゃないことが分かる。

最高だ、まさかここまでとは。

 

…--い…-すい…

 

今夜はついに全力で走らせてみよう。楽しみで仕方ない。

 

「おい!雨水!」

 

「ウォ!?…なんだ小山か、びっくりさせるなよ…」

 

「なんだじゃないだろ…大丈夫かよお前?いつもぼけーっとはしてたけど、最近特にひどいぞ」

 

「平気だよ、ぼーっとしてんのはいつものことだろ?」

 

「…またあのクルマか?」

 

「ああ、本当に良いぞあれ!そうだ!昨日慣らし終わって、今日ついに全開試すんだよ!

良かったらお前も一緒に…」

 

「雨水」

 

「お、おう…、どうした?」

 

「…お前もう、あのクルマに乗るのはやめろ」

 

神妙な顔で、突然小山はそんなことを言い出した。

 

「…なんだよ?藪から棒に」

 

「お前気づいているか?今日の授業中、何回か先生に注意されてたこと」

 

「…そうなのか?」

 

「ああ、上の空っていうか、気づく気力もない、て感じだったぞ」

 

「…でもだからって別に」

 

「そこじゃない」

 

「…なんだよ」

 

「一番問題なのは、お前がそのことに少しも自覚がないってことなんだよ。お前、そのうち本当に死ぬぞ?」

 

「……」

 

「なあ、あのクルマがどれだけいいのかはわからないけど、絶対お前には良くないよ。クルマもさ、あんなただでさえ先の短いボロにあんまり無理させるなよ?な?」

 

「…言いたいことはそれだけか?」

 

「雨水!」

 

「悪い、先に教室戻ってるわ。今日、少し冷えるしな」

 

「お前死ぬぞ!本当に!待て雨水!おい!」

 

小山の声にも振り返らず、俺は屋上を後にした。

あいつも心配性だな。無理なんかさせてるもんか、本当に最高なんだ、あのクルマは

 

 

 

 

- 深夜 学園艦 駐車場 -

 

この日がついに来た。待ちに待った全開解禁日だ、駐車場でsxを見つけ、

早速乗って、エンジンをかけてみる。ボオゥ、と、伸びのあるエンジン音。sxから、

srエンジンから発せられるその獣のような音に、俺は興奮を隠せないでいた。

 

今日は工業専用地域に行こうと思っている。工業専用地域とは言っても昔の話で、実際はかなり前にその役目を終えて稼働をはしておらず、半ば廃墟と化している。立ち入り禁止とされているけど、どうせ周辺には誰もいないので、そうそうばれることもない。

車道が広く、長いストレートからタイトコーナーまである。クルマの性能を試して下さいと言わんばかりの場所だ。

 

アイドリングと油圧を確認してから、発進させる。熱を感じた。

血が滾るとかではなく、体に直接火が灯ったような感覚。

すっかり俺は舞い上がってしまい、浮かれたまま目的地に向かった。

 

 

熱に埋もれて、再びあの音が聞こえた気がしたけれど、

その時は気にもとまらなかった。

 

 

- 深夜 学園艦工業専用地域 -

 

乗り回して、このsxの性能と特性が大体わかった。

0-100m約5秒、中速度域で特に安定した走りを見せ、老朽化は激しいものの全体的なボディのヨレはそれほど感じない。

限界速度はまだ確認していないが、今までの性能を見ると、リミッター解除で260km/hはいきそうだ。

性能は飛び抜けて良いというわけではないだろう。それでも俺はコイツが一番だ。

タイヤが地面を蹴る感触が、エキゾーストの音が、エンジンの振動が伝わるたびに、

どこまでも行ける気にさせてくれる。こんなクルマ、他のどこにあるというんだ。

 

それからしばらく走らせ、気づいたらガソリンのメーターが3分の1を下回っていた。なんだか、いつも以上に燃費が悪い。

 

「そろそろ帰るか…」

 

そう思った矢先、バックミラーに光が映った。

しかし一瞬の後、その光は俺を横切り、閃光のように過ぎていった。

光の正体はすぐにわかった。クルマのヘッドライトだ。しかも2台。

どうやらレースをしているようだ。

 

過ぎてゆく2つの閃光を見て、俺はある欲求に駆られた。

sxを試してみたい

気づいた時はもうアクセルを踏んでいた。

 

ハンドルを切る。

道を確認。長いストレート。

フルスロットル

タコメーターを見る。6000rpm前後

4速にシフトチェンジ

200km/h

更にアクセル

目の前のランプが近づいてくる。

250km/h

6500rpm

5速にシフトチェンジ

車種が分かる距離まで近づいた。

 

直線的なデザイン

この音

ロータリーサウンド

FCだ

白の

 

そしてその前を走っているのは、F40、色は赤。初めて生で見た。

不思議と、笑みがこぼれる。

 

260km/h

 

FCとの距離がだんだんと近づいてくる。

もうちょっとだ…

 

 

だけど

 

追いつく直前、FCとF40が突然加速しだした

さっきまでは本気じゃなかったのか?

俺とsxに合わせていた?

 

 

 

なめるなよ

 

 

 

 

270km/h

 

まだ加速は終わらない。

 

280…

290…

 

離れた2台に、再び距離を詰めていく

FCがすぐ横にいた

抜いてやる…

 

295…

 

 

300…!

 

 

 

まだだ、まだいける

 

このクルマなら、どこまでだって

 

 

 

 

 

どんな遠くにだって

 

 

 

 

 

聞いたことのない音が、聞こえた

純粋にそうなのか、いろんな音と混じることでそうなったのか

子どもが泣いているような声が、聞こえた気がした

 

 

後輪がスリップを起こした。

目の前にガードレール

とっさにブレーキを踏み、ハンドルを切った。

 

ブレーキも、ステアリングも反応しなかった。

 

-

--

----

 

 

 

 

……どこだっけ、ここ?

 

…公園?

 

…なんで、だれもいないんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

ああ、思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またおいてかれたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----

--

-

 

 

 

「--…?」

気を失っていたんだろうか?変な夢を見た気がする

 

気づくとクルマは止まっていた。

頭から生暖かいものが滴ってくる。頭をぶつけて切ったのだろう。

傷を手で押さえながらクルマから出て、外からクルマの様子を見る。

バンパーが潰れている、だけどボディのダメージ自体は大したものではなかった。

擦り傷が酷い。ヘッドライトも壊れ、ドアミラーにいたっては片方完全に折れてしまっている。

自走はできそうだった。でも、sxがいつも以上に静かな気がして、

その姿を見ていると、何故だか消えかかっているように見えて、

自走させる気にはなれなかった。

 

血が抜けて、すっかり冷めた頭で、やっていたことの恐ろしさを確認する。

しかしそれ以上に、自分の中には後悔の念が渦巻いていた。

 

気づきたくなかった

 

最初から知っていたはずだ。それなのに、俺は目を背けた。

気づく機会はいくらでも与えられたのに、俺のエゴで、コイツに浮かれるばかりで、

コイツがもう長くない事実に、気づきたくなかったんだ。

 

きっと裏切ったのだろう。俺はこいつを

 

接し方とかそういうのではなく

もっと深い単純なところで、

俺は裏切ってしまった。

 

「うわー、やっちゃったねぇ」

 

突然、後ろからそんな声がした。振り向いてみると、小柄な少女が、さっきのFCにもたれかかっていた。さっきまで一緒に走っていた人だろう。わざわざ様子を見にきてくれたのだろうか。

 

「…て、雨水くん頭怪我してるね、大丈夫?ほらハンカチ」

 

そういってその人は、ポケットからハンカチを出して、俺に差し出してきた。

 

「…え?ああ、大丈夫ですよ、すいません…」

 

ありがとうございます。そう言おうとしたが、その前に、その少女の言葉にある違和感を覚えた。

 

「…なんで、俺の名前を?」

 

「ん?だって結構目立つもん。やっぱ2人だけ真っ黒な学ランだとさ」

 

2人?学ラン?何の話だ…?

確かに俺の制服は学ランだけど…

あ……!

 

「…もしかして大洗の?」

 

「そ!名前は中嶋、2年生だよ」

 

 

 




やっと原作のキャラ出せた……最後だけ
ナカジマのクルマがFCなのは特に深い意味はありません。
元ネタの御方がロータリークーペ乗っていた話を聞いて何となく連想しただけです。

次回は会話オンリーでお送りします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。