Poemはいいぞ(ステマ)
- 昼休み 大洗学園 屋上 -
あのsxを見つけてから早2週間、修理、手続きも終わり、晴れて俺の元にそれは来てくれた。
それから更に数週間は、慣らしのためにすいた道路で流す形で乗っていた。
結論から言うと、実に乗りやすいクルマだった。運転している間は少しも負担を感じない。
学園艦を十数時間かけてドライブしてみたりしたが、集中力は少しも途切れることはなかった。
そこまでいろんなクルマに乗ったことはないが、それでも自分のsxは普通じゃないことが分かる。
最高だ、まさかここまでとは。
…--い…-すい…
今夜はついに全力で走らせてみよう。楽しみで仕方ない。
「おい!雨水!」
「ウォ!?…なんだ小山か、びっくりさせるなよ…」
「なんだじゃないだろ…大丈夫かよお前?いつもぼけーっとはしてたけど、最近特にひどいぞ」
「平気だよ、ぼーっとしてんのはいつものことだろ?」
「…またあのクルマか?」
「ああ、本当に良いぞあれ!そうだ!昨日慣らし終わって、今日ついに全開試すんだよ!
良かったらお前も一緒に…」
「雨水」
「お、おう…、どうした?」
「…お前もう、あのクルマに乗るのはやめろ」
神妙な顔で、突然小山はそんなことを言い出した。
「…なんだよ?藪から棒に」
「お前気づいているか?今日の授業中、何回か先生に注意されてたこと」
「…そうなのか?」
「ああ、上の空っていうか、気づく気力もない、て感じだったぞ」
「…でもだからって別に」
「そこじゃない」
「…なんだよ」
「一番問題なのは、お前がそのことに少しも自覚がないってことなんだよ。お前、そのうち本当に死ぬぞ?」
「……」
「なあ、あのクルマがどれだけいいのかはわからないけど、絶対お前には良くないよ。クルマもさ、あんなただでさえ先の短いボロにあんまり無理させるなよ?な?」
「…言いたいことはそれだけか?」
「雨水!」
「悪い、先に教室戻ってるわ。今日、少し冷えるしな」
「お前死ぬぞ!本当に!待て雨水!おい!」
小山の声にも振り返らず、俺は屋上を後にした。
あいつも心配性だな。無理なんかさせてるもんか、本当に最高なんだ、あのクルマは
- 深夜 学園艦 駐車場 -
この日がついに来た。待ちに待った全開解禁日だ、駐車場でsxを見つけ、
早速乗って、エンジンをかけてみる。ボオゥ、と、伸びのあるエンジン音。sxから、
srエンジンから発せられるその獣のような音に、俺は興奮を隠せないでいた。
今日は工業専用地域に行こうと思っている。工業専用地域とは言っても昔の話で、実際はかなり前にその役目を終えて稼働をはしておらず、半ば廃墟と化している。立ち入り禁止とされているけど、どうせ周辺には誰もいないので、そうそうばれることもない。
車道が広く、長いストレートからタイトコーナーまである。クルマの性能を試して下さいと言わんばかりの場所だ。
アイドリングと油圧を確認してから、発進させる。熱を感じた。
血が滾るとかではなく、体に直接火が灯ったような感覚。
すっかり俺は舞い上がってしまい、浮かれたまま目的地に向かった。
熱に埋もれて、再びあの音が聞こえた気がしたけれど、
その時は気にもとまらなかった。
- 深夜 学園艦工業専用地域 -
乗り回して、このsxの性能と特性が大体わかった。
0-100m約5秒、中速度域で特に安定した走りを見せ、老朽化は激しいものの全体的なボディのヨレはそれほど感じない。
限界速度はまだ確認していないが、今までの性能を見ると、リミッター解除で260km/hはいきそうだ。
性能は飛び抜けて良いというわけではないだろう。それでも俺はコイツが一番だ。
タイヤが地面を蹴る感触が、エキゾーストの音が、エンジンの振動が伝わるたびに、
どこまでも行ける気にさせてくれる。こんなクルマ、他のどこにあるというんだ。
それからしばらく走らせ、気づいたらガソリンのメーターが3分の1を下回っていた。なんだか、いつも以上に燃費が悪い。
「そろそろ帰るか…」
そう思った矢先、バックミラーに光が映った。
しかし一瞬の後、その光は俺を横切り、閃光のように過ぎていった。
光の正体はすぐにわかった。クルマのヘッドライトだ。しかも2台。
どうやらレースをしているようだ。
過ぎてゆく2つの閃光を見て、俺はある欲求に駆られた。
sxを試してみたい
気づいた時はもうアクセルを踏んでいた。
ハンドルを切る。
道を確認。長いストレート。
フルスロットル
タコメーターを見る。6000rpm前後
4速にシフトチェンジ
200km/h
更にアクセル
目の前のランプが近づいてくる。
250km/h
6500rpm
5速にシフトチェンジ
車種が分かる距離まで近づいた。
直線的なデザイン
この音
ロータリーサウンド
FCだ
白の
そしてその前を走っているのは、F40、色は赤。初めて生で見た。
不思議と、笑みがこぼれる。
260km/h
FCとの距離がだんだんと近づいてくる。
もうちょっとだ…
だけど
追いつく直前、FCとF40が突然加速しだした
さっきまでは本気じゃなかったのか?
俺とsxに合わせていた?
なめるなよ
270km/h
まだ加速は終わらない。
280…
290…
離れた2台に、再び距離を詰めていく
FCがすぐ横にいた
抜いてやる…
295…
300…!
まだだ、まだいける
このクルマなら、どこまでだって
どんな遠くにだって
聞いたことのない音が、聞こえた
純粋にそうなのか、いろんな音と混じることでそうなったのか
子どもが泣いているような声が、聞こえた気がした
後輪がスリップを起こした。
目の前にガードレール
とっさにブレーキを踏み、ハンドルを切った。
ブレーキも、ステアリングも反応しなかった。
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……どこだっけ、ここ?
…公園?
…なんで、だれもいないんだろう?
ああ、思い出した。
またおいてかれたんだ
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「--…?」
気を失っていたんだろうか?変な夢を見た気がする
気づくとクルマは止まっていた。
頭から生暖かいものが滴ってくる。頭をぶつけて切ったのだろう。
傷を手で押さえながらクルマから出て、外からクルマの様子を見る。
バンパーが潰れている、だけどボディのダメージ自体は大したものではなかった。
擦り傷が酷い。ヘッドライトも壊れ、ドアミラーにいたっては片方完全に折れてしまっている。
自走はできそうだった。でも、sxがいつも以上に静かな気がして、
その姿を見ていると、何故だか消えかかっているように見えて、
自走させる気にはなれなかった。
血が抜けて、すっかり冷めた頭で、やっていたことの恐ろしさを確認する。
しかしそれ以上に、自分の中には後悔の念が渦巻いていた。
気づきたくなかった
最初から知っていたはずだ。それなのに、俺は目を背けた。
気づく機会はいくらでも与えられたのに、俺のエゴで、コイツに浮かれるばかりで、
コイツがもう長くない事実に、気づきたくなかったんだ。
きっと裏切ったのだろう。俺はこいつを
接し方とかそういうのではなく
もっと深い単純なところで、
俺は裏切ってしまった。
「うわー、やっちゃったねぇ」
突然、後ろからそんな声がした。振り向いてみると、小柄な少女が、さっきのFCにもたれかかっていた。さっきまで一緒に走っていた人だろう。わざわざ様子を見にきてくれたのだろうか。
「…て、雨水くん頭怪我してるね、大丈夫?ほらハンカチ」
そういってその人は、ポケットからハンカチを出して、俺に差し出してきた。
「…え?ああ、大丈夫ですよ、すいません…」
ありがとうございます。そう言おうとしたが、その前に、その少女の言葉にある違和感を覚えた。
「…なんで、俺の名前を?」
「ん?だって結構目立つもん。やっぱ2人だけ真っ黒な学ランだとさ」
2人?学ラン?何の話だ…?
確かに俺の制服は学ランだけど…
あ……!
「…もしかして大洗の?」
「そ!名前は中嶋、2年生だよ」
やっと原作のキャラ出せた……最後だけ
ナカジマのクルマがFCなのは特に深い意味はありません。
元ネタの御方がロータリークーペ乗っていた話を聞いて何となく連想しただけです。
次回は会話オンリーでお送りします。