艦上OVERDOSE   作:生カス

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5000UA突破&あとちょっとでお気に入り40突破…読み続けてくれているWarrior達に、最大限の『R』を…




25 Bohemian rhapsody

- AM9:00 熊本の国道 side:雨水 -

 

「…」

 

「…」

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

「「……………………」」

 

 

 

 

…まいったな、まさかこんなことになるなんて…

娘さんは…ああ、そっちもすごい気まずそうね。いきなり知らない男と2人っきりになっちゃったらこうもなるよね……

 

 

 

…やっぱ断った方が良かったかねぇ?…

 

 

-

 

--

 

----

 

-…10分前 -

 

『…娘さんを戦車道の訓練場に、ですか』

 

『そう、この時間までにみほをここに送ってってくれ。遠いけど、車なら十分に間に合う距離だから』

 

『えーと…それは構いませんけど…』

 

『ね、ねえお父さん?いくら何でも、お客さんにそんな…』

 

『遅れると、母さんが怖い』

 

『お願いします雨水さん』

 

『はい』

 

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--

 

-

 

 

と、俺は娘さんからの迫真のお辞儀をもってのお願いに屈し、今に至る。今ワンエイティは助手席に西住さんの娘さんを乗せて、訓練所と呼ばれる場所に急行している真っ最中だ。

別に送っていくこと自体は構わない、けれどこの気まずい雰囲気は実際どうしたもんなんだろう。

 

こういう場合どういう対応をすればいいのかわからない。かわいい女の子と2人きりになるなんて経験が…あ、いや、でも土屋とか先輩たちとかとはたまにそうなるか…でもあの場合は間にクルマのことが入るから対して参考になんないしなあ…

…どーしたもんかな…このまま目的地まで押し黙ってるしかないか……

 

「あ、あの…」

 

「はい?」

 

諦め半分にものを考えていると、隣の娘さんが話しかけてきてくれた。正直これには助かった。この人もあまり間が持たない人らしい

 

「その、本当にごめんなさい、いきなりこんなご迷惑かけて…お父さん、何だか今日は強引で……」

 

「ああ、いや大丈夫っすよ。どっちみち帰り道ですし」

 

申し訳ないように彼女がそういうので、俺は気にしないでもらうようにそう答えた。これ以上ここの空気が重くなっても困るし

 

「で、でも……」

 

けれどまだ良心の呵責があるのか、まだ少し納得いってないらしい

 

「じゃあ、お父さんへのお礼替わりってことにしといてください」

 

そう答えると、娘さんは思い出したかのように、そして若干戸惑いながら俺に聞いてきた

 

「そういえば、聞きたかったんですけど…お父さんにどんなことを頼んだんですか?」

 

「…ただのクルマの整備ですよ。この車とは違うのですけど」

 

「…車の整備ですか?でも、それにしてはお父さんの態度が、その……」

 

「……あー」

 

普段の父親との態度の違いから、俺が何を頼んだのか気になったんだろう。どうするか、まあろくでもないこと頼んでいるのは事実なんだ。黙ってるのが無難だろう

 

「いやまあ…依頼した車がボロボロだったから、もっと大事にしろって言いたかったんですよ、きっと」

 

「ガラクタって言ってたような気がするんですけど…」

 

「…あーっと…それより、いいんですかこのまま行って?あんまり気のりしてないみたいですけど」

 

「…!」

 

話題をそらすために、苦し紛れにさっきから気になっていたことを素直に口にした。何故かこの人、目的地の練習場に近づくごとに顔がどんよりとしてしてきてる。こういう表情は行きたくない場所に行かなきゃいけない時の表情だ。こういうのは結構わかる。小山にたたき起こされて学校に行く月曜の朝の俺も全く同じ顔してるから。

 

それを口にした途端、娘さんは怯えたような顔をしてそのまま俯いてしまった。その反応を見て自分の言ったことに後悔した。初対面の俺が聞くべくことじゃなかっただろうと

 

「別に…そんな……」

 

「……」

 

…どうしよう、すごい空気重くなった。どうして俺はこう会話が壊滅的に下手なんだろうか…

 

 

 

 

「気のりしてないん……でしょうか…」

 

俯いたまま、か細い声で彼女は言う

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか私、わからなくなってきちゃったんです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- 同時刻 旅館 side:鈴木 -

 

「どこに行ったのさ、雨水ったら」

 

ちょっとだけ寝坊した午前、約1名を除いたみんなで遅めの朝ご飯を食べている時、中嶋はふくれっ面でそう言った。例えるんなら、おもちゃを取られて不機嫌な子供っていう感じ

 

「観光にでも行ったんじゃないの?アイツのワンエイティ、なかったし」

 

「いや、それはわかってるよ、書置きあったし。でもそういうことじゃなくてさ…」

 

隣にいる星野が言うと、中嶋はジト目で星野を見てそう言い返した。

 

ちなみ今どういう状況かって言うと、まず雨水がどっかいった。

確か、それがわかったのは8時半くらい。一番最初に起きた中嶋が、「観光に行ってきます 雨水」と書かれた書置きを見つけたことで判明した。

 

中嶋が、「この機会に、雨水に自動車知識をみっちり叩き込んでやるんだー」と昨日楽しそうに話していたのを考えると、あの不機嫌さMAXの顔の理由は大体察せる。

 

「鈴木は見たんだよね?雨水が出ていくとこ」

 

おっと、こっちにも火の粉が飛んできた。こんなことなら朝に雨水見たこと、黙っとくんだったなあ…

 

「あーうん…でも確かに観光に行くって感じのかっこではあったよ」

 

挙動は怪しさ全開だったけど

 

「でも5時か6時くらいのことでしょ?なんでそんな朝早くに…?」

 

「中嶋にめんどくさいこと言われる前に逃げようと思ったんじゃない?」

 

「土屋~何か言った~?」

 

土屋が冗談交じりにそう言うと、中嶋が唸り声を上げながら土屋のほっぺを引っ張る

 

「そんな生意気言うのはこの口か~?」

 

「いふぁいいふぁい!ふぉうはん!ふぉうはんやっへば!!」

 

「コラコラ、食事中に行儀悪いよ?」

 

寺田先輩の抑止も聞かず、中嶋は土屋のほっぺを引っ張る。土屋が何を言ってるのかよく聞き取れないけど、やめて欲しいのはまあ伝わる。しかし中嶋は面白くなってきたのか、土屋のほっぺたを引っ張ったり縮めたりしだして、それはそれは面白そうに弄っていた。

 

ひとしきり弄り倒して満足したのか、中嶋は土屋のほっぺを放した。

 

「ふう……よし!雨水を探しに行こう!」

 

と思ったら突然そんなことを言いだした。

 

「…あたしはパス。もう少し寝ていたい」

 

星野が、なんでかちょっとだけ気まずそうにする。ここ最近、なんでかは知らないけど、星野は雨水に関することなるとこんな感じだ。

 

「うーん、ゴメン私も…早めにクルマの点検済ませておきたいんだ」

 

「そうですか…土屋と鈴木は?」

 

寺田先輩にも拒否られて不安になったのか、中嶋は縋るように私たちの方を見て、聞いてきた。別に1人で行きゃいいのに…

 

「私は行こうかな、雨水がどこ行ったか気になるし…」

 

「私もいーよ。面白そうだし」

 

土屋と私の返答を聞いて、中嶋が嬉しそうに少しだけ笑った

 

「よし、じゃあご飯食べたらいこっか。せっかくだからソアラで行ってみよう」

 

「あれ、FCじゃなくていいの?」

 

「燃費が……」

 

「ああ……」

 

かくして、放浪する部活仲間を探す旅が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- 同時刻 side:みほ -

 

なんで見ず知らずの人に話す気になったのかは、わからない。もしかしたら、全く接点のない人だからこそ、話そうと思ったのかもしれない。

身の上話なんか、あんまり人に話すものじゃないとは思う。なのに私の口は堪えきれないように、言葉を発していった

 

「私の家って、ちょっと変わった家なんですよ。いわゆる、伝統芸能のなんとか流っていうので…」

 

「確か戦車道、で合ってます?」

 

「はい、そうです。それで、そんな感じの家柄だから、小さい頃から戦車道が身近なものだったんです。戦術とか、戦車の知識とか、そんなのばっかり教えられて…遊びに行くのにも、戦車に乗って行ったんですよ?」

 

「そりゃまた、パワフルな…」

 

「あはは…でも私も、その頃は戦車道もそんなに苦しいとは思わなかったんです。お母さんは厳しいけど優しいし、お父さんだって、それに…お姉ちゃん……だって……」

 

「…姉さんが、いるんですか……」

 

「…はい。勉強も運動も得意で、さっき言った戦車道なんて、誰よりも優秀で…みんなに尊敬されて…お母さんにも期待されて…それで……」

 

なんでだろう。どうして、お姉ちゃんの話をするだけで、こんなに苦しくなってくるんだろう…

 

「それで…誰かに疎まれたりしないで…七光りだなんてバカにされないで…誰にも…嫌われないで……」

 

どうして喋るたびに、口が震えてうまく言葉が発せなくなるんだろう

 

「だから…だから………」

 

どうして

 

 

 

 

 

「だからきっと、私の意味なんか、ないんだと思います…」

 

 

 

 

 

どうしてこんな風に、考えるようになったんだろう

 

 

「……」

 

 

その人は何もしゃべらない。ただ黙って、私の話を聞いてくれていた

 

 

 

「分からなくなっちゃったんです…どうすればいいのかが……そんなのはただの弱音だって、逃げちゃダメだってわかってるんです。それでも…」

 

「……」

 

「…あの、あなたなら、どうすればいいと、思いますか……?」

 

「…わかりませんよ、俺に聞かれても……」

 

「…ごめんなさい、変なこと聞いて……」

 

「いいえ…あ、あそこみたいですね。もう着きますよ」

 

前を見れば、練習場の看板が目に映った。荷物をもって、降りる準備をすると、車は看板の横に止まってくれた。

 

「じゃあ、ここで」

 

「は、はい。あの、送ってくださりありがとうございました。あと、ごめんなさい…変な話、聞かせて……」

 

「いいえ…それじゃあ」

 

「はい…」

 

そう言って、私は車から降りて、入り口に向かう。

…何で、あんなこと話したんだろう?あんなの、迷惑だって分かってるのに…

 

 

 

「西住さん」

 

 

 

「え、は、はい?」

 

呼ばれて振り返ると、その人は、私を見据えて、言った

 

「俺ならどうするって、言ってましたよね?」

 

「…はい…」

 

「多分、どうすればいいのかわからないまま、なんかしでかちゃうと思いますよ」

 

「…え?えーと…」

 

…何だろう、多分さっき聞いたことに答えてくれているんだろうけれど、いまいち意味が分からなかった。申し訳ないけど…

 

「あ、いやだから、あんまり深く考えない方がいいかもよって感じで…別に逃げたきゃ逃げりゃいいし、そんな力まないでいったほうが良い気が…するな…ちょ、ごめんなさい…自分でも何言いたいのかわからなくなってきた…えーと何だっけ…あーと…」

 

「…プ…フフッ」

 

何だろう、励ましてくれているのはわかる。わかるんだけれど、そして励ましてくれてるのにものすごく申し訳ないんだけど笑ってしまった。いや、だって何か、さっきの重い空気との落差で余計に…

 

「フフ…フフフフ…」

 

「……」

 

「フフ…あ!ご、ごめんなさい…」

 

気付くと、その人はきょとんとした顔で私の方を見ていた。何だか、今日は御免なさいばかり言ってる気がする…

 

「ああ、いえ…それよりその、時間は大丈夫なんですか?」

 

「あ…!い、急がなきゃ!雨水さん、本当にありがとうございました!」

 

「ええ、それじゃ、さよなら」

 

「はい…また…」

 

最後にそう言って、私たちは別れた。

 

そうかもしれない、あれこれ深く考えても仕方ない。必要以上に自分を追い込む必要もない。まずは力まずに、目の前にあるものを見てみよう。

 

 

 

たまになら、そんなふうでもいいかもしれないな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- …2時間後 AM11:00 街のファミレス side:雨水 -

 

なんで俺はあーいう時くらいかっこつけられないのか

 

「ハア…」

 

ジュースをすすりながらそんなことを考える。しかしまあ、見た感じ娘さんも元気にはなってたみたいだし良かった…のかね?

悩みを話されたときは正直どうしようかと思ったが、何とかはなったらしい

 

(しかし、不思議な雰囲気の娘だったな…)

 

何というか、底のしれないような何かがあるような感じで、それが少し怖いけれど、どこかどうしようもなく惹きつけられるようで…

 

 

 

…そう、初めてアイツを見たときみたいな、そんな感じだった

 

 

 

「しかも抜群にカワイイ娘ときたもんだ。アドレスくらい交換しときゃよかったかな…」

 

「へぇ~そんなにカワイイ女の子だったんだ~」

 

「ええもう、美少女っていうのはああいう娘のことを言うんだ…な…と……」

 

「……」

 

 

…振り返るとそこには、中嶋先輩がいた。

 

 

「な、中嶋先輩…」

 

「ふーんそっかー、どこ行ったのかなと思ったら女の子ナンパしに行ってたのかーへーそっかー」

 

ヤバイ、顔はニコニコしてるのに目が笑ってない。ヤバイ、何がヤバイってマジヤバイ

 

「雨水…」

 

「アハハー、ご愁傷さまっしょ」

 

そして後ろには何故かむくれ面の土屋と、めちゃくちゃ面白がってそうな鈴木先輩もいた。

 

 

 

「さ、詳しく聞こうか?」

 

「…ハイ」

 

 

 

 

…俺の場合は、もうちょっと考えて行動した方がいいかもしれないと、中嶋先輩の顔を見ながら、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 


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