艦上OVERDOSE   作:生カス

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久しぶりのContribution…
それを待っててくれる人がいる……

…誰かが言っていた…
…それは最高にグッドラックなことだって……


(要約:遅くなってすいませんでした。)


20 Come as you are

- AM1:12 旧工業区域 side:雨水 -

 

それはまるで、誘いを受けているようだった。俺たちにヘッドライトの光を後ろから浴びせ、その存在を誇示するように、しかし猛然としたスピードで迫ってくるそれを見て、どこかそれは、一緒に遊ぼうと言われているようにも思えた

 

…ライトとボディの色がスピードで溶けて混じる……

琥珀色の閃光を発するそれを…

……彼を…俺は知っていた……

 

 

 

 

 

 

アンバーカラーのカレラ…

 

…九十九さん…

 

 

 

 

 

 

「雨水…あれって…」

 

隣から、中嶋先輩が俺に効いてくる。まさかこんなところにポルシェが出てくるだなんて、思いもしなかったのだろう、驚いているのが見て取れる。

…けれど、彼女が俺に言いたいのはそういうことではないだろう

 

「ええ…どうやら目つけられたみたいですね…」

 

カレラが、九十九さんが、ワンエイティの隣を陣取り、そこからつかず離れずのまま走っている。そうまでされるといやでもわかる。やる気のようだ…

 

(……せっかくのお誘いだし、OKしたいところだけど……)

 

チラッと、中嶋先輩の方を見る。今このワンエイティに乗っているのが俺一人だけだったら良いが、今回は彼女がいる。出来ればあまり巻き込みたくはなかった。けれど、彼女は俺を見て察したのか、こう言った

 

「…いいよ雨水、やってみなよ」

 

「先輩、でも…」

 

「私も気になるしね、あのカレラが何なのか……でも、約束して、無理はしないって…」

 

「……」

 

九十九さんに目を向ける。すると彼も此方を見て、お互いの目が合う。彼の眼が何を物語っているのかはわからないけれど、どこかそれは、覚悟か執念か…あるいは似た何かが、見えた気がした…

 

「先輩…すいません…」

 

「うん…」

 

 

 

 

 

目を再び、前に向ける

 

それが合図になった

 

 

 

 

 

フルスロットル

 

 

 

エンジンの回転が上がっていく

甲高い音へと変わってゆく

先に前へと出た

 

長いストレート

 

7000rpm

ギアチェンジ

4速

体がグンと、前に押される

速度の重力が、俺を潰そうとする

 

 

200km/h…

5速

 

210…220…230…240…

 

250…

 

 

 

 

(!……)

 

 

 

目の前にカレラ

抜かれたか

 

やることは何も変わらない

ただ走るだけだ

 

こっから先、すぐそこにコーナー

ここをどう切り抜けるか…

 

カレラがコーナーに近づく

速度は、落としてない

まさか、減速せずに行くのか?

 

コーナーに入る

減速は…している様子はない

あの状態から曲がるつもりだ

 

カレラの後輪が滑る

ダメだ、吹っ飛ぶ…

 

 

 

 

飛ばない

パワースライドを必要最小限に抑える

体制を立て直してコーナーを抜ける

 

…狙ってやったってのか?

あのパワースライドまで全部…

 

(…分かってはいたけど、やっぱり桁違いだ…)

 

俺たちも続いて、コーナーに近づく

 

250…260…

まだだ…

263…

加速が鈍くなり始める

まだ…

 

一気に3速

ブレーキ

 

 

ステアは右に

アクセルは戻さない

コントロールがぶれ始める

パワースライド

タイミングを探る

 

3…2…1…

 

カウンター

 

ブレーキを離す

 

アクセル

加速

再びストレートへ

 

カレラは…だいぶ先だ…

さあて、どうしたもんかな……

 

 

 

 

- side:中嶋 -

 

(…すごい)

 

そんな、簡単な言葉しか頭に浮かばなかった

あの991のドライバー…かなりのウデだ。動きのひとつひとつに全く無駄が感じられない。いやそれどころか、ありとあらゆる要素を走るためのプラスにしているような、そんな感じさえする。

 

(すごいのに遭遇しちゃったな…いや、でもそれ以上に…)

 

雨水…

運転の仕方が、最初にあったころに比べてだいぶ変わった。

技術はもちろんそうだけど、それ以上に、雰囲気と呼べばいいのか…それが変わったような気がする…

 

隣に乗っているとわかる…

焦りや恐怖、あるいは高揚や興奮、そういう感情の波みたいなものが見えない。ただ落ち着いて、自然体で走っている。

さっきのだってそうだ。コーナーを曲がった時もそう…少なくとも、雨水の今のテクニックじゃ、かなりきついやり方だったはずだ。それを少しも力まずにやってのけた。

それはまるで…

 

…クルマのことを、体で直接感じているみたい…

 

当然、そんな感覚、一朝一夕で手に入るようなものじゃない。そんな能力、それこそ、長い年月をかけてようやく手に入るか入らないかだ。もし、短期間でそれを手に入れるというのなら…

修羅場をくぐるしかない。気が違うくらいに、何度も…

あと一歩で死ぬ…そんなことを何十回、何百回と繰り返せば、あるいは…

 

(……)

 

考えただけで悪寒が走る。できるわけない、そんなこと。意味も何もない、ただただ狂っている…そんなこと、雨水はしない…できないはず…

 

(…雨水)

 

不安をなるべく表に出さないように、私は雨水の方を見た。その時に見たものを、多分私は忘れることができないと思う……

雨水の、その眼……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

温度のない、優しい眼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- side:雨水 -

 

(…ダメだ……)

 

コーナーを出て、またストレートへと舞い戻る

カレラのテールランプが、小さく目に映る

 

 

 

 

 

追いつけない…そう悟るまで、時間はかからなかった

 

 

 

 

 

 

ずっと、フルスロットルだった…でもそれでも、カレラの明かりが近づいてくることはなかった。どんどん遠ざかって行って…

気づけば、景色の一部になるくらいに離れていった。

どうやら、あのストレートは出口に繋がっていたらしい。そのまま帰ったみたいだ。

 

(…さすがとしか、言いようがない)

 

アクセルを緩める

今日はもうこれ以上は走れない。そんな気がした

ギアダウン

制動力が、体に伝わる

エンジンブレーキがかかり、回転数が落ちる音がするのを聞いた

普通の巡行に移る

体の重力が軽くなったのを感じながら、少しだけ、深く息を吸う

 

 

…終わった

 

中嶋先輩が、緊張していたのか息を大きく吐き、俺の方を向いた

 

「…すごかったね……」

 

「ええホントに…気持ち悪いくらい速かったっすね」

 

「まさかあんな凄腕がこんな場所にいるなんてね…もしかして、知り合い?」

 

「…どうして、また?」

 

「さっき、お互い目を合わせてたとき、そんな感じだったから」

 

「…まあ、知り合いってほどのもんでもないすよ…ほんの少し、面識があるくらいです」

 

「そうなんだ…雨水ってさ、結構謎だよね」

 

「はあ…」

 

「…ねえ、雨水。これからどっか食べに行かない?今日のことで、いろいろ話したいこともあるしさ…」

 

「ええ…いいですよ」

 

腹減ったのかな?そんなことを考えながら、俺はそのまま出口へと向かって行った。

俺も、何だかのどが渇いた。どこかで何か飲んでいこう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-…10分後-

 

 

 

 

 

 

 

「…まだ開いてる店、ありますかね?」

 

「さあ…でも一個くらいは…あ、あそこは?」

 

先輩が指した場所には、まだ建物の明かりがついている、少し小さめのファミリーレストランだった。停まっている車もちらほらあるし、まだやってるみたいだ。学園艦にもこういう場所があるっていうのは、少し意外だった。

 

「じゃあ、ここにします?」

 

「そうしよう。何食べよっかなー」

 

店の駐車場に入って、ワンエイティを停めた。外に出て、店の入り口に向かう。

ここ高くないよな…?そんなことを思いながら

 

「……」

 

「あれ?…先輩、どうしたんです?」

 

「雨水、あれ…」

 

「え…あ…」

 

彼女が見るその方向、その先に、さっきまで一緒に走っていたあのカレラがあった。俺も先輩も互いに顔を見合わせる。まさかこんなところで会うとは思わなんだ。

 

「…当然、ここにいるってことだよね?」

 

「そりゃ、まあ…」

 

「…行ってみよう」

 

さっきとは違い、緊張した顔で彼女はそう言う。俺も同じような感じで、店の中へと足を運んだ。店に入り、少し店内を見回すと、その人はいた。コーヒーと、小さめのケーキを食べているようだった。先輩も気づいたようだ。

店員さんが席案内をするために来てくれたけど、「友達が先に来ているんです」みたいなことを言ってから、九十九さんの席に近づいた。

 

「…やあ、久しぶり…でもないか」

 

「…どうも、ご一緒しても?」

 

「どうぞ」

 

そう言われ、彼の向かいの席に座る。先輩も俺に続いて、隣に座った。

 

「…そちらは?」

 

「あ…すいません…初めまして、中嶋と言います」

 

「九十九です。どうも」

 

「あの…雨水とは、知り合いなんですか?」

 

「うん…まあ、ちょっとした縁でね…」

 

「はあ…」

 

「それにしても、意外でしたよ。九十九さんが、あんなとこで走ってるなんて」

 

「仕事でね…俺も会えるとは思わなかったよ、雨水君。まあ…デートの邪魔しちゃったみたいだけど…」

 

「「デート?」」

 

俺と先輩の声が被る。デートって?

 

「ん?違った?雨水君の彼女なんだろう?中嶋さんって」

 

「え?は…?ええ…!?」

 

言われて、中嶋先輩が困ったか顔をしてあたふたする。…そこまで嫌がんなくたって良いでしょうに…九十九さんも、真顔でおくびもなくそういうこと言ってくるとは、読めない人だ…

 

「ち、違いますよ。私と雨水はそんなんじゃ…」

 

「そうなのかい?」

 

「ええ、全く違いますよ。この人は部活の先輩ですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」

 

「……」

 

…あれ?なんで先輩はあんな不機嫌そうな目で俺をにらみつけてくるんだ?何か俺失礼なこと言った?そうこうしているうちに、店員さんが来たので、俺たちはとりあえずドリンクバーを注文した。

 

「…ええと先輩、何かとってきます?」

 

「……コーラ」

 

「わかりました」

 

だからなんでそんな拗ねているんだ?ホントわかんねえこの人…

 

「…俺もちょっと、コーヒー淹れてくるよ」

 

言って、九十九さんも俺と一緒にドリンクバーコーナーへ向かう。席がある程度離れたところで、歩きながら、彼は俺に話しかけてきた。

 

「…で、あのワンエイティはどういうつもりだい?」

 

「……」

 

まあ、気づくわなそりゃ…

 

「まあ、大方予想はつくさ…織戸さんが絡んでるんだろう」

 

「……あの、出来れば、SXの話は、中嶋先輩の前では…というより、俺の他に誰かいるときは、伏せといてもらえませんか?」

 

「秘密にしてるのか…まあ、無理もないな。別に構わないよ…わざわざ話す意義もない」

 

「すいません…」

 

ドリンクバーについて、お目当ての飲み物をコップに入れる

 

「…どちらにせよ、ばれるのは時間の問題だと思うけどね」

 

「え?」

 

ふいに、九十九さんはそんなことを俺に言ってきた。

 

「わかっているだろう?あんなことやっているんだ。いくら巧妙にやったとしても、いつまでも隠し通せるものじゃない…」

 

「……ええ、でしょうね」

 

「そして、もしばれたときに、なおSXを手放さないというなら…きっと君は、全部失うことになる。大事なもの、全部ね…」

 

「……」

 

俺は、何も言葉を返さず、ただ黙って九十九さんの方を見た。今の俺は、どんな眼をしているんだろうか。自分でもわからない…

ただ、九十九さんがその時の俺を見て、何かに気づいたように、少し目を見開いていた。気のせいかもしれないけれど、その表情がどこか寂しげに見えたのが、俺にとっても意外だった。

 

「君は…」

 

「…?」

 

「……いや、なんでもない…急ごう、女の子をいつまでも一人にしとくもんじゃない…」

 

「ああ、そうだ。急がなきゃ」

 

言われて、少し早歩きで席に戻る。戻ると案の定、中嶋先輩が待ちくたびれていた。

 

「すいません。遅くなって」

 

そう言って、彼女にコーラを渡す。

 

「ん…いいよ、別に。ありがと」

 

それからは特に変わったことがあるわけでもなく、ファミレスでのひと時を過ごした。

…まあ、先輩があのカレラについて、九十九さんに根掘り葉掘り聞いて、終わるころには九十九さんがげんなりしてたのが、少し面白かったけれど…

 

 

 

 

 

 

- AM2:10 ファミレス駐車場 side:九十九 -

 

「どうもありがとうございましたー!」

 

中嶋先輩と雨水君に呼ばれていた娘が、そう言って俺に手を振った。まさかああまで質問攻めにあうとは…彼女も思った以上にクルマ好きらしい……

 

「あ、ああ…じゃあ、雨水君もまた…」

 

「ええ…また……」

 

すると、雨水君は微笑み、軽くお辞儀をしてくれた後。さっきの中嶋さんと一緒に、ワンエイティの方へと向かっていった。

 

「さて、と…」

 

それを少しばかり見届けたあと、俺もすぐにカレラに乗り、駐車場を後にした。

 

 

(…雨水君の、あの目……)

 

そして、あの雰囲気…

 

昔から知ってる。あの感じ…

 

あの目をした彼を見たとき、

 

俺は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SXを見たときと、同じものを感じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(彼は…)

 

もしかして、彼はもう…

 

 

 

 

 

本当の意味で、取り返しのつかないところまで来てるのかもしれない…

 

 

 

 

 

 

そこまで考えて、すぐに考えるのを中断した。こんなことを考えても仕方がない。どちらにしろ、彼とSXに対して、俺がすることはひとつだけなんだから…

 

すぐに頭を仕事のことに切り替えることにした。ただ仕事とは言っても奥様から個人的に頼まれたことで、数年後、愛里寿お嬢様が高校に行く予定なので、一通り調べておいてくれとのことだ。その間の送り迎えはどうするんですかと聞いたら、それは臨時を雇うので心配しなくていいと言われた。

 

(大学行ってるんだから高校行く必要もないと思うんだがな…)

 

雇い主の意向に逆らう気もないけれど…

そう思いながら、手元にある資料を確認する。大洗学園は大体調べ終わり、情報もまとめた。そろそろ次の場所に行かなくてはならない。

ええと、次は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「継続高校か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

さて、次回は少しだけ大洗学園から離れて、継続高校が舞台になります。継続高校側にもオリキャラとクルマを出す予定ですので、お付き合いいただければ嬉しい限りです。

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