艦上OVERDOSE   作:生カス

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バレンタイン…俺には関係のないことさ…


16 More than a feeling

- PM4:00 郊外の倉庫 side:雨水 -

 

「…お、終わったあ…」

 

ぶっ続けでソアラの修理をして5,6時間。足回りだけとはいえ、さすがにパーツ全交換と整備のフルコースは、体力のない俺にとってはかなり堪えるものだった。

 

「お疲れさま。いやーホント助かったよ、私ひとりじゃどうしようもなかった」

 

「…俺はそうは思えませんけどね……」

 

この人はなんでこんなケロッとしているんだろうか。俺の数倍以上の仕事をこなしていたと思うんだけどな…

そういえばこの人が疲れているところって見たことないな、年がら年中クルマの整備をしてると体力がつくもんなんだろうか。それとも単に俺の体力がクソ雑魚なだけなんだろうか。

 

「それにしても、やっぱりすごいっすね。中嶋先輩」

 

さっきチラッと彼女が作業しているのを見たときは、正直度肝を抜かれた。彼女は俺なんかじゃ比較にならないくらいのスピードで、かつ機械みたいに、いや下手すれば機械より精密に部品の組み立て、交換、調整を行うのだ。この人が高校2年生っていうのが正直信じられなくなるくらいだ。

最初にsxを修理した時に、俺は業者さんが作業しているところを見ていたけど、こう言っちゃ何だが、腕前は中嶋先輩の方に軍配が上がるんじゃないかと思った。

…実は美少女の皮を被ったベテランチューナーのオッサン…なんてことはないよな…?

………ないよね?

 

「どうしたのさ、いきなり?褒めたって何にも出ないよ?」

 

「褒める、ていうよりは、ただの率直な感想ですよ。でも悪い気はしないでしょう?」

 

「まあね…」

 

そういって彼女は「ん~」と背を伸ばし、脱力した後こういった。

 

「じゃ、良い時間だし、学校いこっか!ツナギのまま行くから服そのままもってきて、私は簡単な点検しとくから」

 

「分かりました」

 

「あ、服、私のも持ってきてくれない?」

 

「はいよ…」

 

学校…か…行きたいような行きたくないような…なんだか複雑な気分だ……妙に気が重いよ…

 

「…あ、私の服、ちょっとだけ匂い嗅いでもいいよ?」

 

ニヤニヤしながら中嶋先輩はそんなことを突然言い出した。

何なのこの人?思春期の男子高校生をからかうのがそんなに楽しいの?生きがいにでもしてるの?

…このままやられっぱなしでいるのもそろそろ癪だな。

よし、たまにはカウンターをさせて頂こう。

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「……え?ほ、ホントにやるの?」

 

先程のニヤニヤとは打って変わって、彼女は赤面して狼狽している。この辺で終わらせても良かったけど、その反応が少し面白かったので、此方もつい突っかかってしまう。

 

「あれぇ?少しくらいならいいんじゃないんですかあ?それともやっぱり気持ち悪いすかね?」

 

「い、いや、そんなこと、お…思って…ない…けど……」

 

「嫌ですよね、そりゃあ」

 

「うぇ!?いや、別に嫌ってわけじゃ…ない…けど…あ!今のは違くて!だから…その…」

 

真っ赤な顔で、しどろもどろになりながら必死に弁明する先輩。この人カウンターに弱いんだな。

 

「……」

 

「…ええと、雨水……?」

 

「……ブフゥッ」

 

「…え?」

 

「ハハハ!い、いや、すいません。冗談すよ冗談(笑)。たまにはちょっと仕返ししてみたくて、まあ、先輩もいつもやってくるし、お相子ってことで、ハハハハハ!」

 

「……」

 

「ハハ、ハ……ハ…」

 

「あの…先輩?あれ、もしかして怒ってま…す……?」

 

「……」

 

おやぁ?どうしたんだろうか、いつもみたいに圧力のある笑顔で怒られると思っていたんだけど…あ、やべえ、なんか涙目になってる。そして拳を握りしめてプルプル震えている。どうしようかなマジなやつっぽいなあれ。やりすぎちゃった?あ、もしかして照れてるだけだったり……しねえなあれ、羞恥の顔じゃねえもんあれ、どう見ても憤怒に身をやつしたそれだものあれ。どうしようかしら、とりあえず謝罪した方がいいのかしら

 

「…雨水」

 

「ハイ」

 

「さっさと服もってきて」

 

「アッハイ」

 

拗ねたような声で出された彼女の命に従い、俺は脱兎のごとく服を取りに行き、ソアラを運転し、中嶋先輩と共に学校へと向かった。学校に行く途中、中嶋先輩はそっぽを向いて、一言たりとも喋ってくれなかった。

 

少しかわいいと思った、でもそれを言ったら今度こそ何されるかわからないので黙っていることにした。

 

 

 

- PM4:20 自動車部ガレージ side:土屋 -

 

「…ねえ星野」

 

「ん?どうしたの?」

 

「どうしたもこうしたもないよ。何か最近の星野変だよ?今日なんてずーっと上の空だしさ。…大丈夫なの?」

 

「ん…別に、何でもないよ。ただ、そういう気分の日もあるってだけさ」

 

「そう…?」

 

「そうそう。だから別に気にすることないよ…」

 

「…」

 

そういってホシノは、作ったような笑みを私に向けた。ここ最近の星野はずっとこんな調子だ。いつもだったらクルマを弄っているときでも、走っているときでも、目の前のことに全力で打ち込むような、そういう…なんていえばいいのか…そう、とにかく真っ直ぐな人っていうのが、私の星野に対する印象だ。

でも、今の星野は、はっきり言って変だ。何をやるにも集中できていないみたいで、まさに心ここに在らずって感じ。何かあったんじゃないかと思って聞いても、本人は「何でもない」の一点張りだけど……ううむ、寺田先輩とかだったら星野も素直に話してくれるんだろうか…?でも、今日は先輩、用事で部活出れないみたいだし、どうすれば……

 

「ホントになんでもなかったら、そうはなんないっしょ」

 

「鈴木…」

 

「…なんでもないったら、2人揃って心配しすぎだよ。ありがたいけどさ」

 

「そんなひっどい隈こさえた顔で言われても、説得力ないって」

 

鈴木の言う通り、今の星野は酷い顔をしている。目に隈ができているのもそうだし、目はどんよりとしている。何より、普段の星野からはまず出ないような、虚ろな表情をしていた。

 

「ただの寝不足。昨日ちょっと寝れなかったってだけ」

 

「そんなになるまで?」

 

「そうだよ。もういいでしょ?その話は。それより、中嶋はどうしたのさ?今日まだ見てないけど、サボリ?」

 

星野がそう聞くと、鈴木が少し意外そうな顔で、私と星野を交互に見て言った。

 

「あれ?中嶋から連絡きてると思うんだけど、きてない?」

 

「ああ、ゴメン。私学校では携帯の電源切ってるんだよ」

 

「ああ~…ごめん。私は普通に気付かなかったっぽい…」

 

急いでポケットから携帯を取り出し確認してみると、案の定新着メールが一件来ていた。メールの内容を確認してみると、確かに中嶋からのものだ。メールには、用事があるから、少し遅れてから部活に出る。という内容の文章が書かれていた。ただ、そこには少し気になることも書かれていた。

 

「ねえ鈴木…中嶋、今雨水と一緒にいるみたいだけど、なんでまた?」

 

「雨水…?」

 

雨水の名前に反応してか、星野は少しだけ眉を顰ませる。

 

「さあ?それが私にもよくわからなくってさ。用事って何?って返信しても、『まだ秘密』って言って教えてくれないし、2人で何してるんだか…」

 

鈴木は肩をすくめてそう言った。あの2人って、そこまで仲良かっただろうか?でも2人でいて用事があってしかもそれが秘密って……

そこまで考えて、昼休みに小山が言っていたことを思い出した。

 

(も、もしかしてホントにデ、デート…とか? )

 

考えて、でもすぐにその考えを振り払った。

 

(…や、ないないないない。あの2人にそんなのあるわけないって)

 

ない、ない…………ないよね……?

 

「ねえ土屋」

 

「うわっ!?な、何?」

 

不意に鈴木に話しかけられて、私は思わず声をあげてしまう。考え事してたから全然気づかなかった…考えてたこと、声に出たりとかしてないよね?

 

「わっ!急に大声出さないでよ。びっくりしたっしょ」

 

「あ、ゴメン…それで、どうしたの?」

 

「あれ」

 

「?」

 

鈴木がそういって指をさした方向に顔を向けると、やや遠くから此方に向かって走ってくるクルマを見かけた。

 

「…なんだろアレ?ソアラ?」

 

「みたいだね…あれ乗ってるの中嶋と雨水じゃない?」

 

星野がそう言ったのを聞いて、私は目を細めて座席の部分を見てみた。確かに、それらしい影が2つあるのが見える。

 

…もしかして、件の用事っていうのはこれのことかな?

なんだ、クルマ関連のことだったんなら、わざわざ秘密にしてくれなくたっていいのに…

雨水は…まあ、大方なにかの拍子に中嶋に捕まったんだろう。ご愁傷さま

ソアラが近づくにつれ、そのエンジン音もより鮮明に、明確に聞こえてくる。

 

 

 

あれ?この音、どっかで聞かなかったっけ?

 

 

 

- side:??? -

 

 

 

「ねえ雨水、このソアラさ、最初は土屋に乗ってみてもらおうと思ってるんだけど、どう思う?」

 

「…それは構いませんけど、なんでそう思ったんですか?」

 

「…えーと、それが私にもよくわかんないんだけどさ…なんだろう、性能云々とかじゃなくて…ただ一瞬、そうした方が良いんじゃないかって、なんでか思ってさ…理由になってないね。ゴメン、忘れて」

 

「…実はですね先輩、俺も全く同じことを思い浮かんだんですよ。でも…ちょっと、変なこと言いますけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思ったっていうより、どこかから、そう聞こえたような気がしたんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-…・--・・・-

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はBATTLEです。

また、まだしばらく後なのですが、そろそろ番外編みたいなのもやってみたいと思っています。なので、もしリクエストなどがありましたら、メッセージ等に頂ければと思いますので、よろしければどうぞ。

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