艦上OVERDOSE   作:生カス

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もうそろそろここに書くことがなくなってきたのさ……

「じゃあ書かなきゃいいじゃんか」

しかしここでは前回のあらすじをEXPLAINしなければならない

「今まで一回もEXPLAINできちゃいねーヨ…そんなまえがきはPASSさ…」

冗談じゃねえ……



はい、始まります


15 White room

- AM10:15 町はずれのガレージ side:雨水 -

 

「ソアラ…ですか」

 

学園艦の町はずれにある、今はもう使われてないであろう寂れた倉庫の中。そこにあったのは、白のトヨタ・ソアラ。確かバブルに流行ったクルマだったろうか。若者に大層人気だったと、前に誰かから聞いたことがある。廃車と聞いていたけど、それは多少時代の流れを感じる程度のもので、随分ときれいだった。

 

「なんか、とても廃車には見えませんね」

 

「うん、でもここらの業者さんに聞いてみたら、もう十何年前からここにあるみたいだよ。ナンバープレートも外されてて、オーナーも結局わからずじまいだったみたいだし、車籍もあやふやなまま、いつの間にか廃車ってことになってたんだってさ」

 

「そりゃ、難儀なことですね……」

 

「ハハ、そうだね」

 

「でもそれにしちゃ綺麗ですね。中嶋先輩が掃除したんですか?」

 

「少しだけね。でも、私が見つけたときにはもうこんな感じだったんだよ。昨日私がやったことっていったら、せいぜいホコリを拭いたくらい。エンジンだって、きれいなもんでさ。見てみる?」

 

「あ、はい」

 

よしきた。そう言って彼女は、ドアを開けてオープンレバーに触れた。ガコン、という音と共に、ボンネットが少し動く。俺はボンネットを開け、ステーを付けてからエンジンを見てみた。

 

結論から言うと、エンジンはいたって綺麗だった。エンジンは7M-GTEU。汚れこそ少しあるものの、ぱっと見破損らしい破損はどこにも見当たらない。ラジエター系統、フューエルホースすら液漏れひとつない。十年以上も放置されているなんて信じられないくらいだ。強いて言えば、ベルトとオイルは一応交換した方が良いだろうか。そう思う程度だった。

 

「すごいな、エンジンだけなら新品だって言われたら信じちまいそうだ……」

 

このクルマにどういう背景があるかはわからないけど、こんな形で放置されるには、勿体ないくらいの代物だ。それとも盗難されてそのままなんだろうか?このクルマ。だとしたら運が悪かったな。このクルマも前のオーナーも……

 

そんな他人事にクルマのバックグラウンドを妄想していると、不意にあるものが目に入った。

 

「ん?先輩、これ……」

 

「気づいた?そうなんだよこれ。タービン2基がけしてるんだ」

 

「直列タイプのツインターボですね…しかもかなりきれいに組まれている」

 

なるほど、真面目そうな見た目に反して、中身は大分ごつく弄り回されたらしい。しかもこのタービン、何だか普通じゃない。純正品じゃないのはもちろんなんだけれど、一体どこのメーカーのものなのか皆目見当がつかない。これといって変わった外見はしていないけど、どこか怪しい雰囲気を漂わせていた。

 

…不思議なクルマだ。何だか、sxと少し似ている気がする。

コイツにも何かがあるんだろうか

sxにも感じた、ただの機械以上の何か

 

(…コイツ、走ってくれるかな)

 

もし、走ってくれるなら、誰を乗せて走るんだろうか。自動車部の誰かなんだろうけど。

その誰かは、コイツに乗って、どう感じるんだろうか。

…何故か俺はこのソアラがこれからどうなるのか、気になって仕方なかった。

もし、もし叶うならば、sxで、コイツと一緒に走りたいと思った。

……何が何でもレストアしたいな、コイツは

 

「…あれ?でも中嶋先輩、さっきレストアしたいって言ってましたよね?コイツのどこを修復する必要があるんですか?」

 

「…足回りを見てみな」

 

「…え?」

 

そう言って、中嶋先輩はどこから取り出したのか懐中電灯を俺に手渡し、ホイールを指さす。嫌な予感を感じながら、俺は恐る恐るリムの奥を見てみた。懐中電灯で照らしてみると

 

「……おぅふ」

 

思わずそんな声が出るような光景が目の前に広がっていた。

これはひどい。ブレーキディスクが錆まみれだ。パッドカスもひどいし、キャリパーにもひびが入っている。そしてちらっとだけダンパーが見えたけど、これに至ってはバネがちぎれてる。

 

「先輩、もしかしてほかのところも…?」

 

「…うん、ていうか、足回りは1から組み立てなきゃいけないと思うよ?」

 

「マジすか……」

 

「マジなんすよ……」

 

二人のため息を吐く音が、白い倉庫に響き渡る。あの破損具合だと、交換しなくちゃいけないだろうなあ。洗浄して交換してから、自走できる程度までセッティングして…部活行く前に終わらねえだろこれ……

 

「ハハハ…まあ、本格的な調整は学校でやるから、大丈夫だよ。ほら、時間もないし、早く始めよ?必要なパーツは昨日のうちに揃えたからさ」

 

「へーい……」

 

俺の生返事を皮切りに、俺と先輩は作業に取り掛かった。まあいいさ…俺がやることは変わらない。意地でも直してやるさ。

 

 

 

でも、ホント謎なクルマだ。足回りだけこんなに腐食しているのに、他の部分は傷ひとつない、エンジンに至っては、現役でもおかしくないレベルだ。そう、まるで、そこだけ時が止まっているみたいだ…

 

…あの時聞こえたあの音……ソアラから聞こえるように感じた。声のようなあの音……

あれは何だったのだろうか、結局よくわからず仕舞いだった。

ただ…なんだろう……

 

あの声は、俺に向けられたものじゃない気がした

ここにいない別の誰かを、呼んでいるような……

 

 

 

……ん?そういえば、やんなきゃいけないことがあったような…

 

 

「…あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そういえば、小山にさぼるって連絡すんの、忘れてた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- PM12:30 教室 side:土屋 -

 

「…あんのヴァカが……」

 

お昼休み中、一緒にご飯を食べていた小山君が携帯を取り出して画面を見るや否や、苦虫を噛み潰したような顔でそんなことを言っていた。今日は雨水はいない。無断欠席らしいけど、大方さぼりだろうな

 

「どうしたの?」

 

そう私が聞くと、彼は脱力したように、私に携帯の画面を見せてきた。どうやら雨水からメールが来ていたみたいだ。

メールの文面には…

 

 

『用事ができたからさぼるわ、悪いけど部活には出るって土屋に伝えといてくれないか?連絡遅れてゴメンネ☆』

 

 

…という文章が書かれていた。

 

「なにがゴメンネ☆だ。ご免なのはアイツの頭の残念さ具合だっつーの」

 

「本当、テキトーというか、のほほんとした人だよねえ…」

 

「まったく、少しは振り回されるこっちの身にもなってほしいもんだよ…」

 

「でも、用事って何だろうね?寝る口上とか」

 

「…いや、雨水は寝るときは普通に『今日は寝る』って言ってくるしなあ」

 

「もういっそ清々しいね…じゃあ何だろ?」

 

「さあな……ま、ふざけたメール打ってくるぐらいだし、学校行く途中に、何か面白いもんでも見つけたんじゃねーの?」

 

「学校さぼるレベルの?」

 

「大したもんじゃなくてもさぼるね、アイツなら」

 

「雨水ェ……」

 

自由だな、つくづく。寝坊かと思ってたけど、まさかいきなりさぼられるとは…小山君じゃないけど、確かにもうちょっとこっちのことも気にかけてほしいってのはあるなあ。今日はクルマの何を教えようかなーとか、何の話しよっかなーとか、結構楽しみだったんだけどな……

そっか…今日は雨水とは部活まで会えないわけか……

 

「…………私も一緒にさぼろうかな…」

 

「………フムン」

 

「………あ」

 

しまった……と思ったときにはもう遅い。小山君の方を見てみると、彼は何とも愉快なものを見るような目で私を見つめていた。

 

「……な、何?」

 

「いんやあ?別にい………?ああ、そういえば」

 

「?」

 

「なんだっけ……中嶋先輩?も今日さぼってるんだっけか?」

 

「う、うん…たまにあるみたいなんだよね。散歩だったり、寝坊だったり、理由はまちまちだけど。今日もなんか、用があるからーとか言って」

 

「…んで、雨水もさぼりと」

 

「………え?」

 

え?まさか…

え?ちょ、マジで?

 

「もしかして二人でデートとか……」

 

「え、そ、それはダメ……」

 

 

 

 

 

 

 

--・-----・-・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

…今、何か……

 

「…あれ、土屋さん?」

 

 

聞こえた、ような…

 

 

「…え?あ、あれ?」

 

「ど、どうしたの?大丈夫?」

 

「あ……う、うん…何でもない……」

 

「ならいいけど…さ、さっきの話ならほとんどジョーダンだからさ、あんま気にしないでくれな。第一、あの二人がそこまで仲良いとは思えねえし」

 

…小山君には、聞こえなかったんだろうか?

 

「あ、うん…大丈夫……」

 

「…飯、食っちまおうぜ…そろそろ昼休み終わっちまう……」

 

「……うん」

 

空耳?にしては、随分と耳にこびりつくような、そんな音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あの音は、一体……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




小山(何か地雷踏むようなこと言っちゃったかな…)

中嶋編とか言っておきながら話的に土屋に焦点が言ってる感じしますね、すいません……
中嶋さんはしばらくは走りよりも、作り手っていう形で活躍してもらうと思います。

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