艦上OVERDOSE   作:生カス

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お気に入り登録数が徐々に増えてきて嬉しい今日この頃です。
毎度読んで頂きありがとうございます。
今回から中嶋編に突入します




14 Sweetest thing

『本当、使えないな』

 

 

 『なんでそんなこともできないの?』『役立たず』『どっか病気なんじゃない?』

『誰でも出来ることすらできないんだね』『生きてる意味あるの?』

   『いるだけで邪魔なんだよ』『ノロマ』『それってふざけてるの』

      『もう帰っていいよ』『無能』

 

 

 『いらないよ、お前』

 

 

ああ、まただ

周りが当たり前にできることができなくて、できてもひどく稚拙で遅くて

そして気づいたら、もう周りに誰もいない

もうみんな、俺よりずっと先に行っている

どこに行ったのかもわからないほどに

どこまでも愚鈍で、足手まといになって

だからいつも置いてけぼりだ

そして気づけば自分がどこにいるかさえわからなくなっている

 

 

…もし、もし俺が愚鈍でなければ、世界はどんなだっただろう

俺が白痴でなく、ちゃんと周りについていけたのならば、どれだけ迷惑をかけずに済んだのだろう

 

 

 

俺が俺じゃない別の誰かであれば、世界はどれだけ綺麗だったろう

 

 

もういい

 

もううんざりだ

 

どこか別の場所へ行きたい

どこか別の…

 

 

俺を消してくれるような、どこか……

 

 

 

 

-----……--…---

 

 

 

- AM07:00 男子寮 side:雨水 -

 

「……」

 

目を開けると、見慣れた天井が俺の視界にあった。カーテンがかかっているので部屋は薄暗いけれど、そのカーテンから漏れている光が、朝であることと、今日は晴れであることを教えてくれた。時計を見ると7時を回っており、起きる時間としてはちょうどいいくらいだった。

だけど

 

(やな夢だったなあ…)

 

妙に夢見が悪かったせいか、どうも眠れた感じがしない。まあ夜更かししたのもあるだろうけど。

昨日、あれから結局艦上を数周してから寮に帰り、床に就くころには既に東から日が出かかっている頃だった。そのため寝たのは実質2,3時間もないだろう。むしろ良く7時に起きれたもんだ。むしろこれは二度寝しても良いという神からの啓示ではないだろうか。

 

神は言っている。ここで起きる運命ではないと……

 

「おーい、うーすーいー」

 

と、そんなくだらないことを考えていると、玄関の方からノックと共にそんな声が聞こえてきた。俺はのそりと布団から這い出て、その声の主を迎えるために玄関に向かい戸を開けた。

 

「よー、おはよー小山」

 

「おはよう、起きてたか?」

 

「今起きたとこ。」

 

「そっか、ならちょうどいいな、朝飯出来てるぜ」

 

そういうと小山は皿にのったベーコントーストをこちらに差し出してきた。さっきからのいい匂いはこれか

 

小山はこんな具合に毎日朝飯を作ってくれる

 

大洗学園の男子寮は、女子寮のように最初から寮として造られたわけではない。そもそも絶対数の少ない男子のために女子寮と同じ規模の寮を建てるには当然ながら割に合わず、ではどうしたかというと、学園艦内にある格安な廃アパートを探して、急きょ寮として見繕ったのである。そのため管理人や業者なんてひとはおらず、形式上門限がある(意識したことないけど)以外はアパート暮らしと変わらない。

…まあ、小山はその形だけの門限を守らなかったおかげでひどい目にあったことがあるけれど

 

ともかく、そんな背景もあってか俺と小山で家事を分担して行っている。料理や洗濯は主に小山が、掃除やゴミ出しは主に俺がやっている。

 

そして今日も今日とて彼は俺より早起きして朝飯を作ってくれたのである。俺たちは居間へと移動し早速そのベーコンエッグをほおばりながら、俺は小山にこう言った。

 

「すまん、俺もうちょっと寝てから学校行くわ。悪いけど、先行っててくんない?」

 

「ええー、またかよ?お前最近ずっと遅刻ギリギリじゃないか」

 

「ごめんな」

 

「…たく、しょうがねえな…さぼんなよ?」

 

「………………………………………………ああ」

 

「なにその間」

 

ため息をしながら小山は立ち上がり、「じゃあ、いってくる」とだけ言い、その場を後にした。多分、いったん部屋に戻り支度をしてから学校に行くんだろうな。

 

そんなことを考えながら、俺は朝飯の残りを平らげ、二度寝した

 

 

 

 

 

- AM9:40 通学路 -

 

はい、寝坊しました。いやあ睡魔は強敵でしたね

現在、時刻は9時40分過ぎ、1時間目はとっくに終わってしまっているだろう。そして2時間目まではあと10分足らず、そして俺のいる場所は寮から出て間もないところ。歩いて行ったら2時間目までには確実に間に合わないだろう。しかし、走った場合は別かもしれない。そう思えた。

 

なら、俺のとる行動は決まっている……

 

 

 

 

 

「よし、今日は帰って寝よう」

 

 

 

 

 

SA☆BO☆RU

ここまできたらもうさぼるしかねえ…そもそも走ったって間に合うかどうかもわかんねえんだ……

……そうさ……俺は……

 

……100m22秒の男……

 

小山には後で連絡しておこう。さあ、そうと決まれば話は早い。俺は三度寝をするために踵を返し、寮へともど

 

「帰るの?」

「…わぁ」

 

ろうとしたら目の前に私服姿の中嶋先輩がいた。この時俺はどんな顔をしていただろうか、多分アホ面であったことは間違いないだろう。

 

「驚くにしてももうちょっとましなリアクションがあるでしょうに…」

 

「…中嶋先輩、どうしてここに?先輩も遅刻ですか?」

 

「ん…まあ、昨日ちょっと夜更かししちゃってさ」

 

「へえ」

 

「それで?」

 

「え?」

 

「学校だよ、学校。さぼるの?」

 

「…止めたりとかはしないんですか?」

 

「んー、まあ、いいんじゃない?たまにはさ」

 

「そうすか…」

 

遅刻のことと言い、随分おおらかというか、気にしない人だな。俺も人のことは言えないだろうけど

 

「あ、部活はどうするの?今日テスト走行の日だけど…」

 

「あー、ええと…」

 

そうか、すっかり忘れていた。今日も普通に部活あるんだよな。どうして忘れていたんだろう。

当然、星野先輩もいるんだろう。昨日の今日だし、行きづらいなぁ…

 

「……」

 

「どうしたのさ?何か行きたくない理由でもあるの?あ、まさか星野あたりとケンカしたとか?」

 

「ち…違いますよ」

 

遠からず、ではあるけれど

 

「なーんか怪しいなー」

 

「…何にもありませんよ、ホントに……」

 

そうだ、本当に大したことじゃない。それこそ、ケンカなんて言う上等なものなんかじゃない。

 

 

 

 

 

彼女が、あの時あの場所で求めたものは、彼女とは相いれないものだった。

彼女は俺とはちがう。もっとちゃんとした、明るい場所にいる人

だから彼女が本当に欲しいものは、もっと別の形で表れて、そして彼女はそれを手に入れるだろう。

 

大勢の称賛と共に

 

 

 

 

 

昨日それがわかって、そしてそれが気に入らなくて、拗ねているだけだ。我ながらガキそのものだなとは思う。自分のそういうところが昔から好きになれなかった。

 

「…ふーん?」

 

「ああ、大丈夫ですよ。部活にはいきますから」

 

行きづらいけれど、今日行かなかったらこれからずっと行けなくなる気がするし。

 

「……んー…」

 

中嶋先輩を見てみると、何やら考え事をしているようだった。指を顎に当ててうーんと唸っている。何か似たようなことが前にもあったな。デジャヴ?

 

そして彼女は何やら思いついたようで、手をポンと叩いて俺の方を見た。マンガなら頭で豆電球が良い感じの輝きを放っていることだろう。あ、なんかヤな予感

 

「ねえ雨水、どうせ今日部活以外はさぼるんでしょ?」

 

「いやさぼると決めたわけじゃ」

「さっき、帰って寝ようって言ってたね?」

 

「……」

 

「もしさぼるんなら、ちょーっと手伝ってほしいことがあるんだけどさ」

 

…三度寝は諦めよう。こうなったらもうこの人の言うことを聞くほかないんだ。毎回聞いちゃう俺も俺なんだろうけれど

 

「……仰せのままに」

 

「うん!ありがと!」

 

「…先輩はいいんすか?学校」

 

「大丈夫、私はもともとさぼる気でいたから」

 

ああ、なんで私服なのかとさっきから気になってたけど、そういうことだったのか。大物だなあ、この人。

 

「…それで?俺は何をすればいいんですか?」

 

「ああ、それなんだけどね…デートしよっか、私と」

 

「はあ…

 

 

 

 

 

 

……は?」

 

 

 

 

 

- AM10:00 学園艦内 町はずれ -

 

「デートって言うから何かと思えば…」

 

最初はその言葉にびっくりしたけど、聞いてみたらなんてことはない。最近ある倉庫で見つけた廃車があるからレストアに手を貸せ、ということだ。

 

 

「残念だった?」

 

「ええ、まあ正直……」

 

「え……!?そ、そなんだ……」

 

言って、中嶋先輩はバツが悪そうに顔をそらした。こういうことを言われ慣れていないんだろうか?何気にこの人がうろたえているのを見るのは初めてな気がする。

 

「…あ、着いた着いた!あそこだよ、ほら!」

 

どこか誤魔化そうとしているようなオーバーリアクションで向こうに指をさす中嶋先輩。指をさしたその先には、古びた倉庫がぽつんとあった。

 

「あの中に?」

 

「うん、最低限必要な工具とかは、昨日のうちに用意しといたから」

 

「…さっき言ってた夜更かしって………」

 

「うん、まあ、これが原因」

 

「さいですか…でも、学校に搬送してから修理じゃダメなんですか?」

 

「それでもいいんだけど、この辺、道がちょっと複雑だし、狭かったでしょ?だからキャリアカー持ってくるの骨なんだよ。それにあれ、事故ったときとか緊急時なら省かせてくれるけど、普段は申請して認可させなきゃいけないから、結構めんどくさいんだよね」

 

「なるほど。要はその場で直して自走させた方が楽ってことすか」

 

「そゆこと。ま、場所が倉庫っていうのはラッキーだったかな」

 

他愛のない会話をしながら足を進め、倉庫の扉を開けようとした。

その時だ

 

 

 

----…………--…--

 

 

 

「……!?」

 

思わずドアノブから手を放してしまった。

 

(今の音は………)

 

不思議な感じだった。どこからか、子どもの声のような音が聞こえた

聞いたことがある。この音を、いや正確にはこれと似たような音を、俺は聞いたことがある。

でも違う。アイツのそれとは決定的に違う

なんて言えばいいのかは、わからないけれど

 

「雨水?」

 

「あ…」

 

長いこと上の空だったんだろうか。中嶋先輩の声がして、ようやく我に返ることができた

 

「大丈夫?どっか、具合悪いの?」

 

「あ、いえ…なんでも……」

 

「ならいいけど…ほら、入ろうよ」

 

「あ、はい…」

 

そうして言われるがままに、俺は倉庫の扉を開けて、中に入った。小さい窓から差し込む陽の光以外に光源はなく、全体的に薄暗い。倉庫の中は、さび付いた床と壁、さっき中嶋先輩が言っていた工具もある、

そして

 

「…あれは……………」

 

 

 

そこにあったのは、直線的なフォルム、廃車とは思えないほどの、雪のように白いクルマ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソアラが、そこにあった。

 

 

 

 

 

 

 




・180sx
雨水が乗る車種。後期型、sr20VETエンジン搭載。セッティングやパーツも普遍的であり、劣化もだいぶ進んでしまっているが、稀に声ともとれる不可解な音を発し、そういう時にはありえない速度にまで行くことがある。ヤンデレ

・ソアラ3000gt
原作劇場版にも登場したZ20型。中嶋が見つけたときにはすでに倉庫の中にあったという、由縁のわからないクルマ。別にRB26に換装されているわけではないので、前のオーナーがセルシオに乗り換えたわけでは多分ないだろうと思われる。きっとツンデレ

ちなみに100m22秒は作者よりは大分マシ

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