艦上OVERDOSE   作:生カス

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明けましておめでとうございます。(遅刻)

大分投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
それでも読んで下さっている皆様方にはただ感謝するばかりです。

これからもよろしくお願いいたします。


13 Weekend warrior

- AM0:40 B2(第2ブロック線) in33R side:星野 -

 

210km/h

7500rpm

次の左コーナーまで100mもない

もう少しでオーバーレブ

5速…

いやこのまま4速

左コーナーまで40m

3速

アクセルを緩める

左足でブレーキ

140km/h

カーブ

よし、良いラインだ。このまま…

 

(!?…しまった!)

 

前方に一般車

どうする…右…左……

右は…ダメ、曲がり切れなくなる

左だ

ブレーキをさっきより少し強く踏んだ

重いステアを強引に左に回す

何とか一般車をパス、車間距離は5cmあるかないか

 

危なかった…

もし、あのクルマがあと数メートル近かったら…

ステアを切るタイミングが、あとコンマ数秒遅れていたら…

そう思うとぞっとする

 

……何をしているんだろう、私は

こんな場所で、こんな猛スピードを出して…

ほんの僅かな差で、簡単に死んじゃうのに…

ついさっきだってそうだ、もう少しで関係ない人まで巻き込むところだった

頭がおかしいと言われればそれまでだ、それに異を唱える気はない

 

でも、そんな理性とは逆に、私はアクセルを踏み続ける

際限なくスピードを求める

だって…

 

 

赤く光るフォグランプ

それに応えわずかに反射する、鈍い鋼色

暗闇に溶けていって、消え入るように目の前を走って行く

生きた鳴き声のような音を、響かせながら

 

ワンエイティ

 

 

なんでアイツは、こんなに私を惹きつけるんだ

 

走る姿をもっと見たい

あのクルマの前を走りたい

あのクルマよりも速くなりたい

あのクルマと走りたい

 

気づけばもう、以前の迷いは無かった

何かが足りないあの感覚が、急にどうでもいいように思えてきた

これが私の求めていたものなんだろうか?

 

なあ、雨水

お前と走っていれば、何かがもっとわかるのかな

迷いは消えたけど

私はまだ、どこか渇いたままなんだ

 

 

- in180sx side:雨水 -

 

「やっぱ速いなあ、この場所じゃなかったらすぐに抜かれてたろうな、俺…」

 

バックミラーを見て、思わずそんなことをぼやいた。流石"大洗一速い女"。艦高を本気で走るのは初めてのはずなのに、もうここのリズムを掴み始めている。これじゃあすぐにでも抜かれるだろうな。

 

それにあの33R、星野先輩のウデを抜きにしても、本当に良いクルマだ

確か1.8ちょっとだったか…黄金比をだいぶ上回り、GT-Rの中でも特に高いトレッド比、大きくなったボディと長くなったホイールベースは、旋回性能を従来より低くし、誰が言ったか、全体的にダルい走りになったという。

本当にそうなんだろうか?

他の33Rは知らないけれど、少なくとも、今一緒に走っている33Rはとてもそういう風には見れない

全くぶれることなく、まっすぐと此方に向かって突進するように走る様は、驚くほどの力強さを呈していた。

走りを見てわかる

高い直進性、33Rの大きな特徴であろうそれを理解し、存分に伸ばす形で施されたチューニング。しかもただ伸ばすだけじゃない。そこから発生する更なるパワー、

 

それをクルマが受け止められるように、各パーツ強化とセッティングも恐ろしく精密に行われている。

あのクルマをノーマルから全部組み立てたっていうのか……改めてすげえな…星野先輩………

なるほど、いやにあの33Rが気になった理由が、なんとなくわかった気がする。

俺も、もしかしたらコイツも、一緒に、対等に走ってくれる奴が欲しかったんだろうか

 

「…できることなら、もうちょっと2人で走っていたかったけど…」

 

 

200km/h級のクルーズの中

はるか後方に映るヘッドライト

しかしバックミラーに映るそれは、みるみるうちに大きい光となっていく

 

「そうも言ってらんないわな……」

 

 

 

光が横切る

sxと33Rをパスし、

目の前に現れた。

ディープブルーのスープラ

 

(おいでなすったか…さて、ここからだ……)

 

-

 

--

 

----

 

『…そうか、星野君にばれたか……』

 

『ええ、どうします?』

 

『どうします、ね…君はどうしたいんだ?』

 

『…まあ、そりゃできれば、こんなアホなことには介入してほしくはないですよ。わざわざあの場所で走らなくったって、星野先輩にはもっと、ちゃんとした場所があるんですから………………でも……』

 

『…でも?』

 

『…なんでしょうね…本当はこんなこと思っちゃいけないんでしょうけど、嬉しいんですよ、なんか。彼女がsxを受け入れてくれたような気がして……お前はそれでいいんだと、言ってくれたような気がして』

 

『……』

 

『俺は星野先輩と走ってみたいです。理由とかはないですけど…ただ、走れば何かが分かる気がするから…』

 

『…そうか……分かった。君がそうしたいんなら、そうすればいい。ただ、その日は、俺も参加させてはくれないか?』

 

『大丈夫ですか?星野先輩もいますけど…』

 

『別の場所から入って途中で合流するから問題ない。それに…その日はサポートで参加するわけじゃないから』

 

『え…?』

 

『その日は、俺も全開で行く。星野君もいるし、ちょうどいいだろう

 

 

そろそろ確かめる時だ…全力のsxを』

 

 

 

 

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--

 

-

 

きっと否定されると思っていた

それでいいと、むしろそうであるべきだとも、思っていた。

でもそうはならなかった

そしてそれが嬉しかった

 

星野先輩

どうしてあなたはsxを求めるんですか

珍しい車種でもない。特別なパーツが使われたわけでも、緻密なセッティングがされたわけでもない。何年も前に打ち捨てられた、いつ終わってもおかしくない。そんなクルマを

 

…分かってる。俺と同じだ。

コイツの中にしかない何かに

生き物と錯覚するようなそれに

彼女も気づき、求めている

俺も彼女も、その何かの正体を、知りたいんだ

 

そうさ…今日ではっきりさせる。

sxに眠る異質、それが本当にあるのか。その異質が一体何なのか。

 

B2北東高架橋、1000mストレート

 

そこで全て確かめる

 

見ててくれ、星野先輩

 

- in33R side:星野 -

 

「あのスープラ…」

 

間違いない。前にワンエイティと走っていた、あの青いスープラ。でも前見た時とは速さが段違いだ。あの時はセーブしてたってワケ?

何にしても、こんな場所であそこまで冷静に走らせているところを見ると、相当なウデの持ち主だってことは疑いようがない。

あのスープラ、雨水とはどういう関係なんだ?仲間か…ライバルか…

ひとつだけ確かなのは、あのスープラもワンエイティを狙ってるってことだけだ。

 

…雨水とワンエイティ………

 

不思議な奴らだ。

どうして私は、こんなにもアイツらが気になるのだろうか

私は、走るときはいつも、心の中で少なからず闘争心を燃やして走っていた

部活仲間と走る時も、一人でタイムアタックをするときも、いつもいつも、心の内が燃えていた。

 

だけど、今はその熱さはない

 

アイツらと走っている今、何故だか、酷く切ない

一緒に走れば走るほど、心がただただ渇いていく

今はただ、スピードが欲しい

 

どうした雨水

お前のワンエイティはその程度じゃないだろう?

あの日この場所で見たときは、もっと思い切り踏んでいたはずだ

何で抑えているの?

 

そう思っていると、ワンエイティはウインカーを出し、右に車線変更をした。私はその意図を読み取ってそのまま速度を維持し、ワンエイティをパスした。

先行させた?でもなんで?

このすぐ先のコースは、確か……

 

……そうか、あの場所でやる気なんだ

良いよ雨水、見せてくれ

そいつの本領を

 

 

- side:雨水 -

 

鼓動がはやい

不安と恐怖に押し潰されそうだ。

だけどそれ以上に、

期待と高揚に俺の脳は侵されていた

緩いカーブが終わり、目の前に広がる真っ直ぐな道

邪魔するものは何もない

 

ここで決める

この場所で

 

全て決まる

 

 

- side:星野 -

 

「来るか…!」

 

ワンエイティの音が変わった

さっきまでとはまるで違う

腹をすかせた獣のように、急加速して迫ってくる

上等…

 

「ここで逃げ切れば…私の勝ち!」

 

踏んだ

今までの全部を出し切るつもりで

目いっぱい踏んだ

あんたにも見せてあげるよ、雨水

私と、33Rの本気を

 

4速

240km/h

6000rpm

体に重力がのしかかる

目の前の空気が、巨大な壁となり障害となる

でもそんな障害をものともせず、33Rは速度を上げる

250…260…270…280…

290km/h

7500rpm

ここだ

 

5速

 

シートに体が押される

空を飛んでいるような感覚に襲われる

ここからだ

 

over300km/h

 

320…

いいよ、もっとだ

330…

もっと、もっと……

340…

 

350km/h

 

もっとスピードを……

 

 

 

 

 

 

--……-----…------………

 

 

 

 

「…!?」

 

声が聞こえた

あの時、一人のときに聞いた、あの声

でも聞こえたのは、前みたいに遠くからじゃない

すぐ後ろから、耳元で、囁かれたような

 

バックミラーを覗いてみると

 

 

 

ワンエイティが、後ろにぴったりと張り付いていた

 

 

 

(そんな…いくらなんでも…)

 

速すぎる

350以上で走ってるんだ

いくらなんでもワンエイティで、SRエンジンで出せる速度じゃない

何もかもが、もうボロボロのはずでしょうに

 

ワンエイティが、私に言っているような気がした

もっと速くと

もっとスピードをよこせと

もっともっと…

 

 

 

 

 

たとえ、全部壊れても

 

 

 

 

 

 

 

背筋に悪寒が走った

ワンエイティの発する音がさっきとはまるで違う

泣き叫んでいるような不協和音

だけど何故か聴き入ってしまう音で

聞いてるうちに気が狂いそうになる

今までの恐怖とは違う種類の怖さを感じた

 

嫌だ、こんなの・・・

私は、こんなものが見たかったわけじゃない

こんな狂ったものが欲しかったんじゃない

 

あれは、触れちゃいけないものだ

そっとしておくべきだったんだ

 

あのクルマはやばい

 

速いとか遅いとか、もうそういう問題じゃない

あのワンエイティは危険だ

今のまま一緒にいたら、こっちまで気が狂う

 

スピードに、溺れる

 

 

(だめだ…これ以上は)

 

 

これ以上は、もう戻れない

 

 

 

そう思うと私は、車線を変更して、ブレーキを踏んだ

 

ワンエイティはただ私の横を通り過ぎて、スープラと共に、闇に消えていった

それを見た瞬間、さっきまでの悪寒は嘘のように消え、体が軽くなった

 

…だめだ、雨水

そのクルマは、あんたを殺す

なのにどうして、そのクルマにそこまで固執する?

どうしてそこまで走ろうとする?

 

私にはわからないよ、雨水

 

 

 

 

- side:織戸(学園長) -

 

やはり星野君は止まったか、

賢明だな、正直ほっとした

こういうことには、彼女たちをあまり巻き込みたくはないからな

 

それにしても…

あのsx

僅かずつだが、雨水君というドライバーを得て覚醒してきている

徐々に周りにも影響を及ぼし始めているな

今回の一件でそれを確認できた

 

(さて、俺は一足先に帰らせてもらうか…)

 

そろそろ新しいパーツのカタログでも用意してやるか

今のままじゃそろそろ限界だろう

 

ここからだぜ…雨水君……

 

この先どうなるか、全ては君次第だ

 

 

- AM2:30 東口PA side:雨水 -

 

「……なんで、あの時減速を?」

 

俺たち以外誰もいない。不気味なくらいに静かなパーキングエリアで、星野先輩にそんな質問を投げかけた。なんであの時、車線変更をして減速したのか、聞いたけど理由はなんとなくわかっていた。ただそれを認めたくなかった

 

「…雨水」

 

「……」

 

「あのクルマは危険だ。もう乗るのはやめた方が良い」

 

結局否定されるのがいやで、そんな自分の子供みたいなわがままに気づくのがいやで、認めたくなかったんだ

 

「…何故です?」

 

そう言い返すと、彼女は真剣なまなざしでこう言ってくる

 

「何故?あんたが知らないはずないだろう?あのクルマがどんな代物か」

 

ああそうか、この人も声を聞いたんだ。そして分かったんだろう、あのsxがどんなものか

そうさ、あのクルマは危険だ。関わる奴はみんな碌な目に合わない

 

でもそれでも

 

「知ってますよ。だから俺はアイツなんです」

 

「…相当、惚れ込んでるみたいだね」

 

「ええ…すいません…」

 

「…そう」

 

しばしの沈黙

重く、どこか酔いそうになる

 

「…わからないよ」

 

そう言うと彼女は、どこか悲しそうな目で俺を見つめる

そしてとても苦しそうに、ゆっくりとその続きを紡いだ

 

「ごめんね、雨水…今の私にはわからないんだよ…」

 

「……」

 

「…悪いけど、先に帰るね。また明日………」

 

「……ええ、また明日」

 

そして彼女はクルマに乗り、低いエンジン音を小さく響かせながら、その場を去った

そしてそこには、俺以外に誰もいなくなった

 

 

わかっていたじゃないか、こうなることくらい

あたりまえじゃないか

こんな誰も何も得ることができないようなこと、

こんな何の意味もないようなこと、俺だって理解できない

星野先輩が言っていることが正しい

俺だって、これで何か手に入るとは思っていない

これに何かの意味を求めているわけじゃない

 

 

 

でもそれでも

 

 

 

 

「…もう一周して帰るか」

 

 

 

 

それでも俺は走るんだろうな

多分、俺の意思で

 

 

 

- side:星野 -

 

わからない

雨水が何を思ってあのワンエイティに乗り続けているのか

あんな恐怖を感じたのは初めてだった

あのクルマに関わるのは危険だ

何故か直感で、それを理解することはできた

正直な話、あのクルマにも、あのクルマに中てられた雨水にも、あまり関わるべきじゃないだろうと思った。

 

なのに、雨水のあの目が、私の頭から離れない

あのワンエイティと一緒にいるときのあいつの顔が

どこかにいなくなってしまいそうなあいつの雰囲気が

 

何故か雨水のことが、気になって仕方なかった

 

 

結局私はその日からしばらく、雨水とワンエイティのことを忘れることができなかった。

 

 

 

 




はい、星野編でした
次の構想まだ決まってません、どうしよう…

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