艦上OVERDOSE   作:生カス

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最近更新が遅れてすまない……今の俺には謝ることしかできねえ……


12 The dark side of the moon

- AM0:50 艦上高速第1ブロック線 in33R side:星野 -

 

艦高(艦上高速)に来るのも久しぶりだな…高1のとき以来じゃないかな?あの時はまだ接続線が開通してなかったんだ。そのせいもあってか、あの頃に比べると、思っていたより随分と複雑になっているように思えた。

 

なんで今日久しぶりに艦高に来たのかっていうと、特にこれといった理由はない。本当にただなんとなくだ。真直ぐ帰る気にも不思議となれなかったから、この辺をぐるりと流してそれから帰ろうと思った。ただそれだけ。

 

(…のはずだったんだけどなあ)

 

すぐ帰るつもりだった。それこそ10分かそこらまで軽く走ってから、さっさと上の方に戻るつもりでいた。でもそう思いながらも、かれこれもう1時間近く経ってしまっている。

別にすぐに帰ってもいいんだけれど、私はそうしない

何か引っかかるものがあった

誰に言われたわけでも、私自身意識していたわけでもなかったけれど

私はこの場所で何か見つけようとしていた

 

 

そしてその願望は、あっけなく現れた

 

 

(……!?)

 

 

バックミラーに見えた、2台のクルマから発せられるヘッドライト

それだと認識した時には、すでに1台が私の横をパスしていた

 

(あれは…80スープラ……

こんな場所でバトルか……)

 

正直かなり驚いた。だけど実際のところ、危ないなあと思った程度で、まだ頭の中は大分冷静だったと思う。

 

問題なのはそのあと、もう1台のほうが私を横切った時

 

 

見た瞬間、何も考えられなくなった

 

滲んだような鋼色のワンエイティ

その中に一瞬見えた、ドライバーの影

 

(アイツは…)

 

見えたのはほんの一瞬、ただのシルエット

けど何故か、誰なのかはすぐにわかった

 

いや、顔を見たからじゃない

最初にアイツのクルマを見たときの感覚

それと同じ感覚が今あったんだ

 

街灯の明かりと、夜の闇に溶けていく

気づくと、いつの間にか遠くへ消えている

 

 

まるで亡霊のように

 

 

数秒経ち、我に返った時には、もうあのクルマはいなくなっていた。

 

見つけた

見つけてしまった

時間にすれば1秒にも満たない、一瞬の中にしかない世界

 

ずっとその場所に行きたかった

でもそのための何かが、私にはわからなかった

 

でも今、それは私の前に現れた

そこへ行くための何か

とてもおぼろげで、すぐに消えてしまうけれど

でもそれは確かに、私の手が届く場所にある

それがわかってしまった

 

待っていろ

今はまだ無理だけど、必ず追いついてみせる

 

必ず捕まえてやる

 

気づくと私の頭は、明日のことでいっぱいになっていた

色々とわからないことだらけだ。聞きたいことが山のようにある

 

(雨水…何を企んでいるの?)

 

そう思いながら、私は帰路についた

 

 

 

 

- 翌日 放課後 学園内 side:雨水 -

 

 

話がある、すぐに体育館裏に来て

 

           星野

 

 

部活用のツナギに着替えようとして自分のロッカーを開けると、そんなふうに書いている紙切れが置かれていた。いきなり呼び出しなんてどうしたんだろうか?

もしかしてカツアゲ?GET REWARDS(カツアゲ)なの?え、俺なんか気に障ることした?

内心ビクビクしながら体育館裏に行くと、制服姿の星野先輩がいた。何気にこの人の制服姿は初めて見たかもしれない。部活でいつも見ている健康的な日焼け肌とは対照的にスカートから伸びる脚は思っていたよりも白くて、それを見て妙にドギマギしてしまう。

 

「…どうしたの?変な顔して」

 

などと邪なコトを考えていると、どうやら顔に出ていたようで、先輩が訝しむようにそう聞いてきた。

 

「いえ、なんでもありません。本当に」

 

「そ、そうなんだ。ならいいけど…」

 

ごまかすようできる限り力強く答えたらそれがあだになったか、若干引かれた。文字通り引かれた。俺のheartがちょっとbreakしそうになったぜ…

 

「…まあいいや、それより聞きたいことがあるんだけど」

 

「聞きたいこと?」

 

「うん」

 

何だろうか?星野先輩が俺に聞きたいこと?いまいち検討がつかないけど…

 

 

「…昨日、夜中に艦高で走ったんだよ、33Rで」

 

 

それを聞いて、星野先輩の"聞きたいこと"が何なのか確信した。同時にいやな汗が出てくる。

 

「その時に、すごいスピードで走っているスープラとワンエイティに出くわしたんだよ…230km/hは出てたね、あれは……」

 

「…そりゃまた随分と、危ないことする奴もいたもんですね……」

 

「うん、全くね…それで、その2台が私をパスしていったんだけど…その時にね…見えたんだよ…ワンエイティのドライバーの顔が…」

 

「………へぇ、よくわかりましたね。艦高って言ったら、結構暗いでしょうに」

 

「いやあ、私、夜目が利くから…それで何がびっくりしたって、そいつは私が知っている奴だったんだよ…」

 

まずい

まずいぞ

まさかこんなに早く気づかれるなんて…

でも待てよ…いくら夜目が利くからってあの速度でドライバーの顔が見えるとは考えにくい…カマかけている可能性も捨てきれないし…どっちにしても、とりあえずここは限界までしらばっくれて、さっさと退散した方が良いか……

 

「…そ、それはホントにびっくりですね…でもなんでそれを俺に話すんd」

「まだ白をきるの?」

 

「……」

 

ダメだわ、カマかけるどころかギロチン首にかけてきたもの。もうなんか完全にばれてるもの。

……これ以上はもう誤魔化せないか…

 

「…まあいいさ、あんたを呼んだのは別に説教するためじゃないんだ…ただひとつだけ、伝えたいことがあるの」

 

だけど聞かされた言葉は、予想とは違うものだった。少し面食らってしまい、言われたことを何のひねりもなくそのまま聞き返す。

 

「伝えたいこと?」

 

「…3日後…の午前0時半、艦高B2(第2ブロック線)北口PAで」

 

「……」

 

星野先輩が言った日時と場所、それだけでこの人が何を言いたいのか、俺に何を伝えたかったかが、驚くほど明確に理解できた。

 

ああ、そうだな

 

この人にはこれ以上、偽る意味もないかもしれない

 

「…わかりました」

 

「…うん」

 

この人も、もう手遅れだろうから

 

「…さて、私はそろそろ行くわ。あんまり遅れると中嶋がうるさいし」

 

「ええ……」

 

「……雨水も、早く来なよ?」

 

「もう少ししたら、行きますよ…」

 

「ん…」

 

できることなら、少なくとも、俺の周りの人には関わってほしくはなかった。

得るものなんか何もないのに、失うものがあまりにも大きいから、一歩間違えれば、全てが終わってしまうから

 

でももう、止まらない

彼女もまた、魅せられてしまったみたいだから

 

あの夜彼女と、あの場所ですれ違ったのは偶然なんだろうか

それとも

 

sx

 

あの時、33Rとすれ違ったとき、珍しい音を出してたな

カレラと走っいた時とも違う、楽しそうな、子供がはしゃいでいるような声

 

なあsx、もしかして

 

 

 

 

 

 

 

お前が呼んだのか?彼女を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--…-…-……-------……

-……………---…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- 3日後 AM0:28 北口PA side:雨水 -

 

時間帯のためか、広さの割に停めている自動車が極端に少ない駐車場

そしてそこにいるのは俺と、俺に対面している星野先輩だけだった

遠くからのように聞こえる自動車の走行音

でもそれすら、sxと33Rのエンジン音にかき消されて、その存在が薄れて行く

 

ちなみにここにはまだ学園長はいない。あのスープラが学園長だって星野先輩に知られたくないから、あとで合流すると言っていた。

 

飲み込まれそうな暗闇の中、目に入る光はいくつかの街灯と、2台のクルマのヘッドライトのみ

そんな中で先輩は、覚悟を決めたように、口を開いた

 

「じゃあ…そろそろ行こう」

 

「そうですね…時間も限られてる……」

 

そう言って、俺がsxに乗ろうとするけど、彼女の「ちょっと待って」という言葉で俺は動きを止めた

 

「ルールはどうする?」

 

「ルール?勝ち負けの条件ってことですか?」

 

「ああ」

 

「無しでいいんじゃないですか?俺は勝負するつもりはないですよ」

 

「私は勝負するつもりで来たんだけど……」

 

「大丈夫ですよ。一緒に走っただけでも、何となくわかると思いますよ」

 

「……そう」

 

俺の言葉が予想通りだったのか、彼女は俺を見て微笑した。街灯に照らされたその顔は綺麗で、だけど儚げで、俺は少しだけ見惚れてしまっていた。

 

「よし、行こうか…前は雨水が走って。私が後を追うから」

 

「あ、はい…分かりました」

 

見惚れていたのを悟られないよう、なるべく平静を保って改めてsxに乗る

 

油圧……アイドル……水温……すべてOK

 

シートに身を預けると、またあの声が聞こえた

前と同じ、子供がはしゃいでいるような無邪気な声

 

 

わかってるよsx

 

 

一緒に遊ぼう

 

 

PAを出て、その身を高速へと投げ打つ

今日も俺を連れてってくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の、あの世界へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




- 走る少し前の会話 -

「最初、星野先輩に呼ばれたとき、俺追い剥ぎされるのかと思ってました」

「お前は私をなんだと思ってるんだ」

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