ちなみに、このssの自動車部にあるクルマは大体が業者から譲り受けたか、廃車をRestorerしたもの、という独自設定がある…ごま塩程度に覚えといてくれ……
- PM10:00 学園艦閉鎖道路 in 33R side:星野 -
「……はあ」
エンジンが止まったばかりのクルマ。部活の備品を持ち出している形にはなっているけれど、私がチューニングとテスト走行の大体を担っているため、ほぼ私のクルマと言っても言いくらいには愛着がある。そのステアリングにもたれかかりながら、思わずそんなため息が出た。
足りない
タイムの伸びも良いし、現状で満足しているわけではないけれど、特にこれといった不満があるわけじゃない。でも何か物足りない。もっと走りを今よりも先にある走りをするために必要な何か、それをきっと私は持っていない。そんな気がする
じゃあ足りないものって何だろう?テクニック?セッティング?それとも両方?
もちろんそれもあるだろう。けど、欠かせないものはもっと別にある気がする。テクニックやセッティングとは違う、もっと異質な何か。それが私にはないんじゃないだろうか。
それが何なのかなんてわからないけど、その何かみたいなものが確かに存在していることは、間違いない。
雨水のワンエイティ
あのクルマにはその何かがあった。不気味だけど、どこか心が惹かれるような、そんな何かが……
中嶋の言う通りかもしれない、あのクルマは少し普通じゃないかも。何故か今のワンエイティからは、その何かは感じないけれども、最初のあれは絶対に気のせいなんかじゃない。
あの何かが欲しい。あれを手に入れれば、もっと速くなることができる。そんな気がする
まだだ
こんなんじゃ全然足りない
もっと
もっと、スピードを
「--……-…----………」
「…?」
何だろう?今、話し声が聞こえたような…誰だろう、こんな場所で
でもあたりを見回してみても、誰もいなかった。何だか薄気味悪い…今日はそろそろ引き上げよう…。そう思い、クルマのエンジンをかけ、帰路についた。何だか今日は不思議な夜だ
静かで、閉じ込められたみたいに、真っ暗な夜
- 同時刻 学園艦ファミレス side:寺田陽花 -
大洗に寄港する数日間、私は雨水の180のことで千秋姉さんに連絡し、部活に遊びに来たという名目で180を見てもらった。寄港日だから学校としては休みだったけど部活は普通にやっていたので、結局こんな時間までかかってしまった。
「それで…どうだったの?姉さん」
「…間違い、ないと思う。あれは九十九のだったsxよ…」
「…やっぱり、そうなんだ……」
返答を聞いて、息が詰まった。
最初、雨水の180を見たとき、まさかとは思っていたけど、姉さんの言葉を聞いてそれは確信に変わった。
やっぱり、あの180だったんだ…
「…それなら、やっぱりやめさせないと」
「一回事故って死に目に会って、それでも直して走らせているんでしょう?…相当惚れ込んでるみたいだし、きっと、いくら止めても止まらないわ」
「でも…」
「それに、なんだか変な感じもするの……」
「…え?変な感じ?」
「ええ…あのクルマ、確かにsxのはずなんだけど、何て言えばいいのか…違和感みたいなものを感じるのよ、昔あったものがなくなっているような、そんな感じ…陽花は何か感じなかった?」
「ううん、私は何も…」
「そっか…まあ、違和感って言っても完全に感覚的なものだから、私の気のせいかもしれないけどね」
「違和感って、具体的にはどんな?」
「ええとね…あのクルマ、5年前はもっとこう、機械にはない何かがあったの。それこそ、生物にしか感じられない時があるくらいの何かが」
「生物……それが今はなくなってるってこと?」
「まだわからないわ、5年の間に本当にそうなったのかもしれないし、私の方が見えなくなっただけかもしれない…そもそも理屈として考えるには曖昧過ぎるしね」
「………」
「とりあえず、今はこっちから動くよりも、しばらくは様子を見たほうが良いと思うわ。今のsxが昔とどう違うのかも、もう少し調べておきたいところだし」
「…分かった、じゃあ何かわかるまでは、とりあえず私が見ているよ」
「ええ、お願い。私はそろそろ陸に戻らなきゃだから、わかったことがあったら携帯に連絡して。それと、わかっているとは思うけど、あまり深入りはしないで…あの2人みたいに、戻れなくなるわ」
「……うん、わかってる」
あの2人、スピードに魅せられて、それぞれが別の、行ってはいけない場所に行ってしまった2人。そうなった原因があの180だというのなら、やはりどうにかしなければいけないのだろう。
雨水にも、自動車部の子たちには、あの2人のようにはなってほしくない。できるならあの子たちには関わってほしくない。。
あんな悲しいことが起こるのは、もうたくさんだから
そのあと会話はなく、私がジュースを飲みほしたところで、ファミレスを出た
結局お店では飲み物以外頼むことはなかった
- 翌日 部活動中 大洗学園ガレージ side:雨水 -
「…てなわけで、直4のエキマニのレイアウトは目的によって変わるんだよ。掃気効率なら4本、2本、1本の順番に集合する4-2-1レイアウト、排気効率なら4本からいきなり1本にする4-1レイアウト…ま、この2つが基本っしょ」
「なるほど…じゃあ、4-1レイアウトなら出力が上がったりするんですか?」
「うーん、出力が上がるっていうよりは、元々パワーのあるクルマの力を引き出すって感じかなー?まあやっぱりエンジンとの整合性が重要だと思うよ」
「ほーほー」
今、俺は鈴木先輩に排気系の基礎について教えてもらっている。sxの修理が終わってひと段落着いたので、そろそろ本格的にクルマ弄りをしていこうという訳だ。とりあえずは目下sxのSR20VETの形式である直4エンジンに適した技術を習得し、出来ればこっちのsxで試してみて、実際はどうなのか確かめてみる、といった流れでやることになっている。で、まずは何をやりたいかと聞かれたところ、俺が排気系をリクエストして今に至るっていう。
「そういえば、なんで最初に排気系がやりたかったの?何かこだわりがあるとか?」
説明がひと段落着くと、鈴木先輩はそんな質問を投げかけてきた
「えーと…まあ、単純に面白そうだなって思っただけなんですよ。あ、もちろん他のがつまらなさそうって言っているわけではないんですけど」
「へぇー、排気系に一番惹かれたわけだ。良い良い、実に良い傾向だぞ少年よ」
「ハハハ…」
もちろんそれもある。だけど一番の理由は別のところにあるんだ。
こっちのとは別の、俺のsxが時折聞かせるあの声、今でもほんのたまにしか聞こえないけども、もしかしたら音に係る機関を弄れば、もっと聞こえるようになるかも…と思ったんだ。といっても、あの声はそんな単純なものじゃないんだろう。何もしないよりは、何か変わればいいけど
「…ん?」
と、そんなことを考えているとある人が目についた
あれは星野先輩か、何だかいやに難しい顔をしているけど、どうしたんだろうか?
隣にいる中嶋先輩も気になったのだろう。心配そうな顔で星野先輩と話している。
「どしたのさ星野?なんか雰囲気おっかないよ?」
「ん…いや、大したことじゃないんだけどさ…ただちょっと、走らせ方で行き詰ってる感じがして…」
「タイムが伸びないとか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど…なんて言うか、どうもしっくりこないというか…」
「う~ん…ここ最近おんなじ走り方ばっかしてたから、マンネリになっちゃってるとか?あ、そんじゃさ、今度みんなで一緒に走らない?何かわかるかもよ」
「…うん、そうだね…ありがとう」
「雨水も出なよー!いい機会だからみっちりしごいてあげる♪」
「お手柔らかに頼みますよ…」
そんなわけで突如練習メニューが追加されてしまった。いや、別にいいけどさ…
しかし、あんな星野先輩見るのは何気に初めてかもな、ああいう一面もあるっていうのは、失礼かもしれないけど、少し意外だった。
走らせ方か…今日は艦上高速では、どうやって走らせようか…早いとこ、学園長に頼らずに、1人で走れるようになりたいよな…そのためにもいろいろ知らなくちゃな、あそこで死なないように、死なせないようにするためにも
そんなこんなで時間は過ぎ、部活も流れ解散になった。ちなみにこの部活、流れ解散になった後も、部活動自体は夜12時前までやっている。この時間は整備以外にも、テスト走行をしたり、ただだべったりする自由時間だ。俺もそのご多分に漏れず、8時くらいまで整備の練習を続けた。もう少しやっていたかったけど、俺は最近入ったバイトがあるのでその旨を中嶋先輩に伝えて帰った。
帰る直前、星野先輩が、虚ろな目でこっちを見ていた。どうしたのかと聞こうかと思ったけど、どうしてか聞いてはいけない気がしたので、俺は「お疲れさまでした」と軽い会釈だけしてその場を後にした。その目は、どこか俺を不安にした。何に不安を感じているのかは、自分にも分らなかったけれど
それは今夜、わかることになる…
- PM12:00 学園艦閉鎖道路 side:星野 -
マンネリ、か……
確かにそうかもしれない。このところ、ずっと何かが足りない気がして、ひたすら夜中に走っていたけど…逆にそれが良くなかったのかも。中嶋の言う通り、たまにはみんなでっていうのも悪くないな。特に、雨水の走りを見るのは初めてだし、ワンエイティをどう走らせるのかも気になる。
……もしかしたら、それで何かわかるかもしれない
「…っと、もうこんな時間か……」
いつの間にか部活の終了時間だ。もう他のメンバーはみんな帰っちゃってるだろうな…まあ、今日のガレージのカギ閉めは私が担当だし、遅れても問題ないだろうけど…
どうしよう…もうちょっと走っていくか…きりも良いしもう帰るか…
「…-----……-」
…まただ、またこの音……
昨日も聞いたけど、何なんだろう、この音は…
音っていうより、声のような、まるでこっちに話しかけているような、そんな感じがした
…ああ、そうだ昨日も声が聞こえたときは、こんな夜だった
酷く静かで暗い、まるで檻のような、別のどこかへ逃げ出したくなるような
そんな……
「---……… … ・・ ・- - - 」
そんなことを考えているうちに、あの音はフェードアウトして、ついに聞こえなくなった。一体、何だったんだろう、あれは?
完全に聞こえなくなってすぐに、何故か、とある場所が思い浮かんだ。なんで今この場所を思い出したんだろうか?
まあ、でも、ちょうどいいかもしれない…物思いにふけっているうちに、また妙に走り足りない気分になっちゃったし、最後に気分転換に流すくらいには、いい場所でしょ。
艦上高速ね…たまには行ってみるのも悪くないかな
寺田 陽花(てらだ はるか)
18歳、自動車部現部長であり、自動車部で唯一5年前の事故を知っている。sxについて知っている事情が事情なだけに、その渦中にいる雨水にどう接していいのか悩んでいる。
寺田 千秋(てらだ ちあき)
23歳、元々は走り屋だったが、5年前の事故をきっかけに引退、その過去を振り払うかのように猛勉強をし、文科省所属の秘書にまでなった。sxの復活の話を聞き、走り続けようとする雨水と決着をつけようとする九十九を止めたいと思っている。
なんで星野のクルマがGT-Rなのかって……?
元ネタさんの息子さんがNISMO GT-RでSuper GTに出たらしいからさ…
え?なんでわざわざ33Rなのかって…?
単純に作者が一番好きなGT-Rというだけです。ごめんなさい