艦上OVERDOSE   作:生カス

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まさかよ~書き始めて1ヶ月くらいでUA1000突破なんてよ~思わなかったんだな~

皆さまいつも読んで頂きありがとうございます。
これからもお付き合いいただければ作者はとてもうれしいです。

読んでくださった皆様に…最大限の『R』を送るのさ…



9 Out of control

- 放課後 大洗学園 ガレージ -

 

「どういうことだってばよ…」

 

今、俺はわけのわからない状況にいる。階段を登っていたと思ったらいつの間にか降りていたやつくらいにわけのわからない状況にいる。昨日、俺は確かに学園長の家のガレージの中にsxがあるのを見た。ナンバープレートはなぜか違っていたが、あの色も消え切らなかった傷痕も、間違いなく俺のsxだった。

もう一度状況を確認しよう。ここは大洗学園、自動車部が使っているガレージ、そして俺のsxは学園長のガレージにあるのを昨日見た。

 

 

 

じゃあここにあるsxは何なんだ……?

 

 

 

そう、sxがもうひとつあるのだ。色も傷跡も内装も使っているパーツも全く一緒、昨日の奴との違いと言えばナンバープレートがちゃんと俺が登録した時のやつってことぐらい。どうなってんだ?まるで意味がわからんぞ。瞬間移動とか超スピードとかそんなちゃちなもんじゃあ断じてねえ…もっと恐ろしいものの片りんを…

 

「雨水?」

 

「ウォ!?」

 

気が付くと土屋が目の前にいて話しかけてきていた。

 

「どしたの?いつにもましてぼーっとして」

 

「あ、ああ…昨日ちょっと寝るのが遅くなってな…」

 

「そーなんだ、なんかあったの?」

 

「え?いや…何にも…ネットみてたらついね…ハハハ」

 

「?…ふーん」

 

「お、いかがわしいサイトでも見てたの?」

 

「あ、はい、そうですね…」

 

鈴木先輩がからかうように問いかけてきたけど、それに焦っていられるような心の余裕は今の俺にはなかった。それがいけなかったのか、鈴木先輩は怪訝に思ったようだ。

 

「?…ねえ、ホントに大丈夫?疲れてるんなら、少し横になったほうが…」

 

「す、すいません、ホントに大丈夫ですよ。さ、作業作業」

 

「「?」」

 

2人とも俺の行動を見て、よくわからないといった顔をしていた。俺も何が何だかわからない、どうしてsxがここに…

 

 

…?

 

 

…なんだろう?何か違和感が…まるで、sxから何かが抜け落ちたような…

 

 

そこまで考えて、俺の頭にある推測がよぎった。

思い出したのは、昨晩のこと、別れ際に学園長が俺に言った言葉

 

--

 

『大丈夫だよ、なくなってないから』

 

--

 

……あのオッサン…なんかしたな…

確証はないが昨日のあのセリフで、この違和感は学園長絡みであろうことは予想できた。

そして予測が間違ってなけらば、学園長はかなり手間と金のかかることをやったことになる。

でもどうしてここまで…

 

「おーい、雨水ー」

 

そんな考え事をしていると、寺田先輩に呼び出された。

 

「今良い?」

 

「え?はい、どうしました?」

 

「うん…実は…この学園艦、もうすぐ母港の大洗に寄港するじゃない?その時に雨水のsxが見たいっていう人がいてさ…もしよかったら見せてあげてもらえないかな?」

 

「それはいいですけど…いったい誰が?」

 

「ああ…私の姉だよ…ええと…そう、結構なクルマ好きでさ…あんたのクルマのこと話したら興味持っちゃって…」

 

「そうなんですか…じゃあ、それまではあまり弄らないようにしときますか?」

 

「じゃあ、そうしてもらえるかな?」

 

「分かりました」

 

「…うん、ありがと…話はこれだけだよ、ごめんね、作業中に」

 

それじゃあ、と言って寺田先輩は自分の作業に戻った。でも、わざわざ寄港日に寄ってまで見たいだなんて物好きな人だな。俺が言うのもアレかもしれないけど、上辺だけ見ればただの180sxだし、そんなに珍しいクルマでもないと思うんだけどなあ。

 

 

まあ今はそんなことより、1週間後のことだ。

 

 

艦上高速…俺だけじゃない、他のクルマだって走っている一般的な高速道路

そこを、全てを失う速度で走る。どう考えたって狂った行為だ。

だけど、そこでしかわからないことがあると言うならば

どうしたって、俺は走るんだろう

 

それにあのオッサンに聞きたいこともある。

とりあえずその時までは、こっちのsxにお世話になることにしよう

 

 

 

 

 

 

- 同時刻 ある喫茶店 -

 

sxについて話がある

 

愛里寿お嬢様をご自宅に送った後、昔の知り合いからそんな電話が来た。いまさらそんな話、とも思ったが、あのクルマがまだ生きているとなれば、放っておくわけにもいかない。結局、仕事帰りに行くことにした。

喫茶店に入り、件の人物を探していると、奥の方から手を振っている女性が見えた。手招きされるままに、その女性に対面する形で席に座った。彼女が頼んでおいたのだろう、テーブルの上に2つあるコーヒーの内ひとつを渡された。

 

「久しぶり、九十九」

 

「そうだね、寺田。もう5年ぶりくらいになるのかな」

 

「へえ、もうそんなになるの…今は良家の専属運転手だっけ?良いとこに就いちゃってまあ」

 

「君こそ、その年で文科省の秘書官だろ?俺達の中では一番出世してるじゃないか?すごいよね」

 

彼女の名前は寺田千秋(てらだ ちあき)、古い知り合いであり、昔一緒に走っていた仲間の一人だ。

 

「適当な感じね、どうでもいいって思ってるでしょ」

 

「まあ、今日はその話をしに来たわけじゃないから…寺田」

 

「…うん、わかってる、sxのことでしょ?」

 

「…ああ、頼む……」

 

そして、5年前のあの事故の当事者の一人でもある。

 

「…妹の陽香(はるか)は、知ってるよね?」

 

「ああ、昔は君がいつも連れてきてたね、よく覚えているよ…もしかして、彼女が見たのか?」

 

「うん…あの子今、大洗の学園艦で自動車部に所属しているんだけど…そこに最近入部した子が、持っていたらしいの。黒鉄のような色をした180sxを…ナンバーは、多摩019の『は』2003-05……どう…?」

 

「……間違いない…あのsxだ…その子はどうやって手に入れたのか、何か聞いた?」

 

「なんでも、学園艦の郊外の空き地で、不法投棄されているのを引き取ったらしくて…スクラップになる寸前だったのを、修理して走らせてる…て話よ」

 

「また…甦ったのか…」

 

冗談じゃない…これじゃ本当にあの人の言う通り、タチの悪い呪いじゃないか…

どこまで走るんだ…お前は……人を破滅に追い込み、自分すら蝕んでまで、どうしてそこまで走ろうとするんだ…

 

 

 

sx…お前は何を求めているんだ…

 

 

 

「…次、学園艦がどこに寄港するか、知っているか?」

 

「……近いうちに、母港の大洗町に数日間寄港するらしいわ。正確な日取りは、調べれば出てくるでしょ」

 

「分かった。ありがとう」

 

「…やる気なの?」

 

「確認したいだけだよ…」

 

「そう…ねえ九十九…」

 

「ん?なんだい?」

 

「……そんなことしても、島田はもう戻ってこないよ…」

 

「…そんなんじゃないよ、ただ、あのsxがこれ以上誰かを不幸にするのは、もう見たくない」

 

「……」

 

「…コーヒー代、ここに置くよ。それじゃあ…」

 

そういって、足早に喫茶店から出た。

 

なんでsxはそこまで走ろうとするんだ。どうしてその引き取った子は、そうまでしてsxを欲したんだ。

……なあ島田、お前もそうだったよな

 

 

息絶える最後の最後に、お前はsxを見て、笑ったんだ

 

 

お前も、その引き取った子も、sxの何を見たんだ?

 

 

 

教えてくれよ、島田…

結局俺は、今もわからないままなんだ

 

 

 

- 1週間後 AM0:30 大洗学園 正門前 -

 

「…待たせたかい?」

 

「いえ…」

 

今日は母港である大洗町に寄港しているため、大半の学生や住人は陸に帰省か旅行に行っている。

そのせいか、酷く静かな夜だ。あたりに見えるのはせいぜい街灯の明かり程度で、潮風が耳に触る音がいやに大きく聞こえた。

そんな中だからか、俺を迎えに来た彼とスープラに、妙な存在感があった気がした。

前と同じように俺はスープラの助手席に乗り、そしてあのガレージに向かってスープラは動き出した。

 

「学校のガレージ、見たかい?」

 

「ええ、正直驚きましたよ…どうしてあそこにsxが?」

 

「なんでだと思う?」

 

 

 

「……あれ、違うやつでしょ?」

 

 

 

「…ハハハ、ご名答」

 

どうやら俺の推測は当たっていたようだ。

そう、学校で見たsxは俺が言ったように、昨日学園長のガレージで見たものとは違うもの…つまり学校と学園長宅、合わせて2つあったらしい、そして俺のsxは学園長宅の方だろう。学校のは乗った時に何か違う感じがしたので、すぐわかった。

 

「にしても、どうしたんですか、あれ?」

 

「君がレースで事故った日があったろ?あの時にもうひとつ180sxを用意して、友達の整備士グループに頼んでそれを君のsxそっくりに改造してもらったのさ…」

 

「何者なんですかその人達って……」

 

4,5日で何もかもを俺のsxそっくりにしてすり替えたっていうのか…?しかも全く気付かれずに…?人が死ぬノートを一晩ですり替えた人もびっくりな所業だな…

 

「でも、さすがに気づかれませんか?自動車部の人達もクルマのことはかなり良く見てますし…」

 

「違和感は感じるかもしれない、だが確証には至らないだろう。決定的な何かがない限りはね。そのくらい再現率が高いし、あの子たちはまだそこまであのsxを知っているわけでもないだろうからね、まあ、ばれたらばれたで、それまでの話さ…」

 

「……」

 

「そんな心配しなくても大丈夫だよ…ほら、着いたぞ」

 

言われて、シートベルトを外し、ドアを開けた。

クルマの外に出て、例のガレージへと足を運ぶ。

ガレージの扉を開けると、やはりそこには俺のsxがあった。

 

しかし

 

「…あれ?」

 

そこにあったのは確かにあのsxだ

なのだけれど、色々なところが変わっていた。

 

まず、色があの黒鉄のような色から、それよりは少し明るめの灰色になっている。そしてフロントバンパーも変わっており、リア部分はついていた純正ウイングではなく、薄いリアスポイラーになっていた。

 

「ああ、それな、なるべく身元バレしたくないから、色とエアロは弄らせてもらったよ。ま、エアロはダウンフォースも目的だけどね。無断でやったのは許してくれ」

 

「…まあ、これからすることがすることですから、いいんですけど…」

 

でも、sxのレプリカと言い、どうしてここまでしてくれるんだ?

 

「…これ後で恐ろしいレベルの請求とか来ませんよね…?」

 

「金は請求しないよ、その代わり、今度何かしらの手伝いをしてもらえればそれで良い」

 

「は、はあ……」

 

手伝いという不明瞭な単語がいささか不安だが、ここまでしてくれたのだ。できるだけのことは手伝おう。

 

「さて…じゃあ」

 

学園長は息を大きく吐いてから、言った

 

 

 

 

 

 

 

「準備はいいか?」

 

 

 

 

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに向かう、艦上高速へ

 

 

 

 

 

 

 

 

- 同時刻 艦上高速 北口PA -

 

出会うとしたら、きっと艦上高速(ここ)だろう。

予感がする。

きっとアイツは俺の前に現れる

この夜、この場所で

 

 

 

 

「…行くか」

 

 

 

 

sx

 

 

 

もういい

もう終わらせよう

俺と、このカレラが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前を撃墜(おと)

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく次回はバトル突入さ…

やっとメインである艦上高速を舞台にできました。
導入に9話も使って申し訳ない…

作中に出てきたクルマのナンバーは実在するナンバーと被らないようにしただけで、特に深い意味はありません。

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