総てを切り裂く刃となるため   作:葬炎

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ようやく原作キャラ




ーー5ーー

木刀を無心に振る、振る、振る。

 

あの呆気なさすぎる剣道大会が終わってから数日、俺の日常は変わることがなかった。

強いて言えば前より素振りに手を抜いている気がする。振るのが終わっても今までとは違い全然疲れていないのだから。

しかしそんな自分を見ても注意する先生はいない。その先生は、

 

『ふむ……上出来だ。いや、出来すぎたというべきか、……少し待ってなさい』

 

と言ってなにかしてるのか道場にいないため大会後から顔を見ていない。

 

『総司〜ご飯よー』

「はーい」

 

母親の呼ぶ声に反応し素振りをやめ家の中に戻る。

別に大会が簡単すぎてショックとか、対戦相手が弱すぎて怒ってるとかはない。実際大会で対戦した子たちは大なり小なり差はあれど真剣にやっていた。真剣に、勝つ気で俺に斬りかかってきた。

 

だけど先生ほど現実離れしたモノを持つ人はいなかった。

 

初戦はまだわくわくしながら、相手は弱かったが一回戦目なんてこんなものかと思った。

中盤頃になってくるともうそろそろ強い人いるかなとまだ期待があった。

最後の決勝―――あったのは落胆だった。確かに初戦と比べるとなるほど、勝ち抜いただけあって相手の目は貪欲に、しかし純粋に勝利を狙って隙を見逃さんとばかりに輝いていた。お前に勝って優勝するのは俺だと今にも聞こえてきそうだった。その本気さはその時の俺には持ち得ないものだった。

 

だけどそれだけだ。

 

決勝の彼が悪いわけではない。小学生にしてその真剣に取り組む真っ直ぐな姿勢は賞賛されるべきものであり、実力もそれまでに戦った他の小学生の中では抜きん出たものだったのだろう。

 

だけど俺と戦うにはなにもかもが足りなかった。

 

力が足りない、速さが足りない、技が、緩急が、駆け引きが足りない。

 

―――やはりこの世界は普通なのか。

 

そう思いながら夕食は終わり寝て次の日となる。

今日からはまた本気で素振りを行う。前世と比べ異常なのは先生くらいとわかったのでもう迷うことはない。対人なんて必要であらず、究極の自己満足、全てを一刀で切り裂く居合を習得せんがために邁進することにした。

 

振るう、振るう、振るう、振る「総司」

 

気合を入れ大会のことを忘れんと無心になろうとしたところ、声をかけてくる人物がいた。

しばらくいなかった先生だ。

 

「はい」

「待たせてすまんかったの。調べ物を頼んだり行方を探すのに予想以上に時間がかかってしまってな」

 

そう言いながらこっちに歩いてくる先生の手には試合の時と同じく1枚の紙があった。それを俺は手渡される。

それは住所が書かれた紙だった。

 

「三日後、学校休みじゃろ? その日に尋ねるといい。既に先方には伝えてある。大丈夫か?」

「はい。問題ありません」

 

三日後の日曜日、特に予定はなかったので考えることもなく返事をする。

住所を見る限りどうやら隣町のようだ。行ったことはない場所なので少々不安になるが、まあなんとかなるだろうと深くは考えない。

 

「相手方には急な申し出を受けてもらっておる。失礼の無いようよろしく頼むぞ」

 

先生がうんうんと頷きながらそう言ってきたので思わず疑問を返す。

 

「あの……申し出ってなにか頼んだんですか?」

 

それを聞くと先生は口角を上げニヤリと笑いこう言い放った。

 

「なに、5年前の王者にちと挑戦を、との。思いっきりやってこい!」

 

そう言いながらバシンと強く背中を叩かれる。

 

頭の中は?でいっぱいだった。

 

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

「ここ……かな?」

 

大きい道場の前に立ち全貌を見るために見上げる。

俺の通ってる先生のいる道場もその付近では1番大きい道場なのだが、目の前の道場はさらに一回り大きく感じる。が、特に中から物音が聞こえないのでここで合ってるのか不安になってきた。

 

「あなたが古刀くんですね?」

「っ!?」

 

突然背後から話しかけられ道場に気を取られてた俺は思わずびくっ、と大きく身体を反応させてしまう。

恐る恐る後ろに振り向くと人の良さそうなおじいさんが一人立っていた。

 

「……はい。僕が古刀です。よろしくお願いします」

「おやおや。礼儀正しいですね。とてもあの大馬鹿者の教え子とは思えない」

 

ニコニコしながら吐かれる毒舌に曖昧に笑いながらありがとうございます。と返す。

あのあと先生に聞いた話しによると、どうやら先生の兄弟子にあたる人が先生をやってる道場だそうだ。だけど、先生は同門の人からは尽く嫌われており(居合しかやってなかったため)隣町という近さでもお互いのことは見て見ぬ振りをしてたそうな。それゆえに連絡手段がなく、場所もいまいちわかってなくて、結局先生が息子に過去の大会の資料を探させ見つかったらしい。どうりで時間かかったわけだ。

 

「ささ、どうぞお入りなさい。他の門下生は邪魔なので今日は休日にしてますのでご遠慮なさらず」

「は、はあ」

 

促されるまま道場の中に足を踏み入れる。

すると、道場の中心に正座をして精神統一をしてる人がいた。

 

「彼があなたの目当ての人物です。―――忍田! 自己紹介をしてあげなさい」

「はいっ!」

 

力の入った声と共にまっすぐ立ち上がり、俺の目の前まで来る。

 

忍田(しのだ)真史(まさふみ)だ。そちらの先生から話しを聞いてから今日を楽しみにしてた。よろしく頼む」

「古刀総司です! よろしくお願いします!」

 

そう言って笑顔で差し出された右手に応じ握手をする。

 

―――わかる。この人は強い。

 

握手したその硬い掌、動いてもぶれないまるで根を張っているかのような安定した体幹、笑顔でありながらこっちの一挙一動を観察してる眼。

その一つ一つがこの人は強いと、今の俺が通じるかわからないと言う。

 

―――試したい。

 

同年代では相手にならなかった。大会の前に練習として年上相手に模擬戦もしたがはっきり強いと思える人はいなかった。

 

―――この人なら。

 

と、そう考えていると忍田さんが右肩をぽん、と叩いてくる。

 

「緊張してるね。手、掴んだままだよ」

「あ」

 

はっ、となり慌てて握手してた右手を離す。

自分の手の平はじっとりと汗をかいていた。

 

「はっはっは。どうだ、忍田。古刀くんは強いかね?」

「はい。これは本気でいかないと負けるかもしれません」

 

自分を落ち着かせるために深呼吸をしていると聞こえてくるそんな声。冗談めかすように軽い口調で話してるが、その表情は至って真面目。真剣に、まるで本気で言ってるかのようだった。

 

「ああ、古刀君。少しいいかな?」

 

忍田さんが落ち着いたタイミングで話しかけてくる。

 

「はい」

「実は今日、剣道の模擬戦ってことで来てもらったと思うんだけど」

 

そう、今日俺は先生に言われ剣道の模擬戦をするために隣町のこの道場まで足を運んだのだ。

先生曰く、相手は5年前に先生の息子の教え子が出る大会に彗星の如く現れた天才。剣道の申し子。勝つために生まれた存在。そう思えるほど強かったそうだ。ただし小学生の頃一回公式の大会に出てそれっきりだったため有名にはなっていないらしい。

それが目の前にいる忍田さんなのだ。

大会の経験もあってあまり期待はしてなかったが、実際に会ってみるとなるほど。と思ってしまうものを感じ取れる。

 

「実は今日は剣道、竹刀の打ち合いではなく―――これを使って模擬戦がしたい」

 

そう言って忍田さんが倉庫であろう場所に向かい、そこから持ってきたのは―――二本の木刀。

 

「これ、で?」

「そうだ。もともと君が教えてもらってるのは居合、木刀だろう?」

 

手渡された木刀を手に思わず聞き返す。が、どうやら忍田さんはやる気みたいで木刀を手に数度素振りをしてる。

 

「知ってるんですか?」

「ああ。君の先生から話を聞いた時にね。思いっきり真正面から破ってやってくれって」

 

弟子の惨敗を望む先生がどこにいるのか。思わずそう思い言い放ちそうになったがこの言葉をぶつける相手はこの場にいないので飲み込む。

 

「残念ながら鞘はないが、それでも竹刀より木刀のほうがマシだろう?」

「はい」

「寸止めはできるかい?」

「当たる手前数mmで止める自信があります」

 

木刀を手に馴染ませるように自分も素振りしながら答える。すると、質問してた忍田さんのほうから小さく低い笑い声が聞こえてきた。

自信満々でもなく当然のように言い切ったから呆れでもしたのかなと思いそっちを見ると、

 

「楽しみだ」

 

―――寒気を感じ思わず身構える。

笑っている。口角を上げ、目を見開き、心底楽しそうに。

俺が剣先を向けてもその眼は揺れることなく俺を貫く。まるで俺の本質を見極めんとするかのように。

 

「……そろそろいいですかな」

 

この道場の先生が今にも斬り合い始めそうな雰囲気を出す俺と忍田さんの間に割って入る。笑顔のまま。

目は忍田さんから逸らさない。耳を意識の片隅で先生の発する言葉に傾ける。

 

「こういうことですよ。これから行われるのは模擬戦といえど実戦に近い。正々堂々の安全なルールがある剣道ではない。ゆえに他の門下生には休みとさせました。いたら邪魔ですしね。私は端のほうで見てますので思う存分やってください。終了はあなたたちが満足したらです。危なくなったら割って入りますが、まあ、大丈夫でしょう」

 

言いたいことを言ったのかそのまま視界からいなくなる。

 

「さあ、古刀君。合図はいらない。いつでもかかってくるんだ」

 

忍田さんが今まで右手に木刀を持ったまま下ろしてた腕を持ち上げ剣道の基本の構えである正眼の構えをとる。

それに対し俺も正眼に木刀を構えすり足で横に移動する。

移動に合わせて忍田さんも構えながら静かに自分に体の方向を合わせる。

 

―――隙が、ない。

 

「さぁ―――

 

こいっ!!」

 

忍田さんから発せられた声と共に俺は飛び出した。




むろん忍田さんが剣道やってるとか大会に一度だけで優勝してるとか全部捏造設定です。
口調及び性格も若い頃ということで割と違います。

あと今の所名前ありのオリキャラは主人公以外出すつもりはありません。可能性があるとしたらチームをどうするかですね。オリキャラで作ったチームにするか既存のチームに入るかはたまたその他か。支部長とかにするつもりはないです。戦えないですし

次回、戦闘。大会と違って省略しないよ。

あと主人公の設定(原作時のステータス。予定)を始まり(プロローグ)の前に上げときます。ネタバレいっぱいなのでそれが嫌な方はご注意

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