息を整え
構え
抜刀
シィン!
振り切った所で静止
納刀
息を整え
構え
抜刀
シィン!
ひたすらこれを繰り返す。
これが、今やってる居合の構えだけが先生から唯一教えてもらったことだった。
他に教えてもらったことはない。基本の構えを教えられた後は自分のやり方でひたすら鍛えろと言われたのだ。あんだけ熱く語ってたのにまさかの投げっぱなしジャーマン状態。
だけど俺はこれをずっと続けているが、不思議と飽きてはこない。
どうも、先生のあの居合は予想以上に自分の根底を揺るがす物だったらしい。まさか前世からの悪癖が治るとは。人生なにがおこるかわからないものである。
さてはて、構えとあと刀を模した小太刀大の木刀(約1kg)を渡された俺はなにをすればいいか迷った。
先生が言うにはがむしゃらに振って振って、ただひたすらに見返すためだけを考え修行とも言えない修行を重ね(一部だけ聞いたが滝を斬る練習だったり崖の間にかけた固定してない丸太の上で居合だったり)ひたすら追い求めた結果だそうだ。
それを聞いて俺は最初悩みに悩んだ。
すでにある程度重さに慣れるために数ヶ月、居合ではなく普通に素振りをして充分に慣れてはいる。だが肝心の居合を鍛えるにはどうすればいいのか。
一時期無意味に様々な角度、構え方で振るってみたり、流れの速い川の上で足を取られつつ突如強襲する流木を避けながらやってみたり、輪っかを作った縄を吊り下げてそこに足を引っ掛け逆さ状態でやってみたりと曲芸じみたこともしたが成果はとくになかった。足腰を鍛え様々な状態から放つ訓練にはなったが。
がむしゃらにやっても効果が薄いと思った俺は、今度は記憶の中にある架空の人物を頼ることにした。
居合で思いつくのは鬼ぃちゃん、マタマモレナカッタ、ミストファイナー、ヒテンミツルギスタイル……誰も最終目標にすることはできてもどうやってあそこまでの強さになったかがわからない。
次に修行法が明確でわかりやすいのは亀仙流、正拳突き千手観音ぐらいか。亀仙流の教えは概要的にはできる(よく動き よく学び よく遊び よく食べて よく休む)が、漫画内で実際にやったあの修行を実践するには色々難しい物がある。正拳突き千手観音こと会長の修行はやるだけならどこでもできるが、正拳突きを極めて千手観音を呼びたいわけではないし……
と、そこでピンとくる。
会長のあの修行でやったのはようするに技一つを延々と繰り返すことで極限まで無駄をなくし、一つを極め続けたのだ。
ならば居合を極めんとする俺は修行内容を居合に変え互換するということを考えた。
会長がやった修行は実にシンプル。
気を整え
拝み
祈り
構え
突く
これの繰り返しを1日1万回行い、終わったら寝る。時間があるようなら自然に感謝(精神統一)する。それだけ。
これを居合に置き換えて自分風にアレンジしていってたどり着いたのが、
息を整え
目標(架空の人物)を夢想し
一つ前の自分より強く
抜刀し
納刀
これを時間がある限りなくひたすら繰り返した。さすがに学校や9時には寝る(夜でも構わず続けてたら木刀を取り上げられそうになった)関係上、とてもではないが1万回には程遠い回数だがそれでも普通の人から見ると異常なほどそれだけを続けた。今の時代娯楽が思ったより少なく他にやることもないというのもあるが。
結果、
「っ――――――」
抜刀 納刀抜刀 納刀抜刀 納刀
「ふむ……さすがと言わざる得ないな」
それは一息の間に三度の居合。速度も鋭さも到底先生に及ばないし抜刀後の硬直が長いが、それでも賭したもの、年月を考えれば破格の成果を言えよう。それにまだ小学生だ。成長の余地は有り余るほどある。
「私がそこまでたどり着くのにいったいどれだけの時間を犠牲にしたか……やはりお主は紛れもなく稀代の天才よ」
「はっ……はっ……」
数度の全力居合ですでに息は上がっているが、それ以上に高揚感を感じていた。
今まで修行で数年間ひたすら振ってきた成果が間違いなく出てる。まだ弱いが、それでも空想のそれに片足突っ込む勢いの出来だ。このまま行けば先生に追いつけるかもしれないと―――
「ふむ……自信がついてきたようだな。本来なら増長しないよう釘を刺すところだが、お主なら問題なかろう」
―――普通なら思うかもしれない。だが俺には前世という経験がある。それは才能あれど、その才能ゆえに挫折も多かった人生だった。
勘違い、慢心、妬み、色んな人からくだらない理由から自業自得の結果まで、様々なことで望まずともけっこう色々なことを体験したのだ。一般人なのに死にそうになったことも何度かあった。
「さてはて、相変わらずお主は年不相応に成熟しておるな。
……その顔を見るにやはり私が言うべきことはなにもあるまい。日々鍛錬あるのみ、このまま精進していけばいずれは私なんぞ軽く超え、もしかしたらその先、あるいは一つの果てを見つけ出せるであろう」
思わず意識が過去に飛んでいたのを引き戻すと、先生が空を見上げながらなにか小言で呟いていたようだ。最初の褒め言葉? しか聞き取れなかったが。
「ふむ。……そろそろか」
「なにがですか?」
乱れてた息が整ってきたのでストレッチをしていると先生が1枚の紙を手渡してくる。
それは剣道大会の日程や場所が書かれたものだった。
「修行はこの先一人でいくらでも続けれるだろうがまず一区切りとして、どれほど自分が力を身につけたのか同年代相手に試すがいい。どれほど伸びたのか、またどこまで自分が通じるのかわかれば、それがやる気へと繋がるだろう」
「はい」
紙を手に取り内容を読みながら返事をする。
今まで道場内の他の子たちと立会いをするのはいくらでもあったが、それは所詮模擬戦。真剣でやってるつもりでいてもどこか気を抜いてやっていることが否めない。
だがこれは試合。負ければ次がないもの。であればなにか新しい発見があるかもしれないし、道場内では負けなしの俺が手も足も出ない相手がいるかもしれない。
―――そう思うと迸ってきた。
「……やる気のようだな」
「はいっ」
まだ見ぬ強敵に心が打ち震える。
それからまだ少し遠い大会の日を心待ちにしながら一層深く居合に力を、鋭さを求め日が経つのを待つこと幾許か。
ついに大会が始まった。
―――のだか。
『勝者、古刀総司!』
今俺の目の前には唖然としてるのか腕を振り上げたまま固まってる相手。
俺がやったことは至極単純。数回打ち合った後面をしようと相手が腕を振り上げたところを小手試しに軽く胴をしただけ。
―――相手は何も反応できなかった。
小手試しのつもりだったため居合(刀身部分を持つことはルール上できないため居合擬きとなるが)を披露することもなく、呆気なく全国大会の決勝大将戦は俺の勝利で終わる。
『さすが総司だぜ!』
『お前ならやってくれると思ってた!』
『さすが我ら四天王を倒しチャンピオンとなった男』
『くくく、我がらいばるよ。よくぞやった』
あまりの呆気なさに呆然としていると意識が飛んでいたのかいつの間にか大会は終わっており、同じ道場のチームメイトたちが背中をびしばし叩きながら言葉をかけてくる。
―――これが全国レベル?
その頭のもやもやは家に帰っても晴れることはなかった。
さて。
原作までの大まかな流れはできてるが書きだめはもうこれで終わったぞ……
さあ次話はあるのでしょうか。それはやる気に左右される。
後今の所決まってるヒロインはこなみんです。年齢が一回り違いますが。
感想・批評いつでも待ってます。
あと剣道とかはやってたわけじゃないのでおかしい描写があったら教えてもらえると助かります。