総てを切り裂く刃となるため   作:葬炎

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ーー3ーー

小学校に入学してからもう5年が経ち、今は小学6年生だ。

 

小学生になってからわかったことは、

 

『めぇぇぇん!』

『どぉぉぉぉ!』

 

バシッ! バシン!

 

特になかった。

 

ついでに言うと今俺がいるのは全国の剣道大会決勝である。

 

『こてぇぇぇぇ!』

 

バシッ!

 

『コテあり! 勝負あり!』

 

そしてどこにいるかと言うと、

 

「すまねえ! 負けちまった! 後は頼んだ―――総司!」

「ああ。任せとけ」

 

副将と入れ替えで俺がでる。

 

『あれが噂の____』

『天才____』

 

相手チームがざわめき、相手も大将が出てくる。

そう俺は―――全国の決勝で大将をやっていた。

 

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

 

 

この5年間俺がなにをしていたかおおまかに振り返りながら説明しよう。

まず当初の予定通りさっそく図書館に行った。悪目立ちはしたくないので絵本を隠し身にしながらできるだけ詳しく歴史や過去の事件なんか探ってみたが結果は芳しくなく、特に気になるところは見当たらなかった。

 

次に地名やら色々知ってる単語や漫画なんかの舞台となる場所を探してみた。前世では学生の頃小説や漫画を読むのを趣味としていたため、もしかしたらそういう世界に入り込んだ可能性もあるのでは? と思い至ったのだ。

 

だが結果は惨敗。

自分の知ってる架空の地名は存在しなかった。というか自分の知ってる限り前世と違う地名なのは今自分が住んでるところ以外見当たらない。さすがに市区町村を全部正確に覚えてたわけでもないので絶対とはいえないが、目立った変化はないように思える。

 

そして某ゾンビゲームに出てくる薬品会社とか他知ってる限りの危険な名前がとりあえず無かったのは心底安堵した。救いの無い世界で生きたくはない。

 

ひとまずの安心感を得た俺が次に考えたのは自分を鍛えること。

 

これまたアニメとかの知識だが、某選ばれし子どもたちがデジタルなワールドに行ったり、ゼロな少女の使い魔になったり、ようするに前世以外の平行世界とは別に異世界というものが存在する可能性を考えたのだ。

さすがにデジタルなワールドとかからの世界が危機に陥るほどの相手とかならどうもならないが、ゼロな世界みたいなのだったら相手はだいたい人間なので体を鍛えてたらどうにかなるかもしれない。

 

と色々考えたが、ようするに、

 

「必殺技とか欲しいなあ……」

 

厨二心が再発したのである。

やっぱ転生、強くてニューゲームなんていう特殊な状況になってしまったせいか冷静に思えて割とはっちゃけてるらしい。

剣道を始めた俺だが、前世では体育の授業のみの知識とはいえ基礎を知っていたので同年代を置いてガンガン成長していった。とはいっても早熟型なので一定まで伸びたら伸び代が悪くなるのだが、それでも一般からしたらものすごい勢いで成長する俺を神童とか天才とか持て囃すのは今も前世も変わっていなかった。前世ではそれに調子に乗って努力を怠り高校生になる頃には習得が早いだけの役立たずとか陰口言われてたが。

 

それはともかく。

 

通ってる剣道場で覚えれることを一通り覚えて、あとはそれを繰り返し体に馴染ませひたすら技を研磨していくという段階になった。―――小学3年生の頃に。

そしてそこで前世の俺の悪癖が出てくる。

 

「……飽きてきたなあ」

 

新しいことがない繰り返し作業が大っ嫌いな俺は、一通り覚えると飽きてくる。前世では真面目に武道をやったことの無い俺としては今まで新しいことばかりで、練習は苦しいが楽しくやっていられたのだがそれがなくなってしまったのだ。

先生から覚えることはもう特にない。ならば次に柔道やら空手やらに手を出そうかとしたその時、

 

「古刀!」

「……はい!」

 

道場の師範(以下先生)に呼び出されてすぐ前まで小走りで向かった。

すると先生は小難しい顔をしながらなにか悩んでいるようだ。

 

「先生。なんですか?」

「ふむ……」

 

話しかけても小難しい顔のままこちらをじーっと見つめている。

よくわからない行動に首を傾げていると、ふぅ。と一息吐いてから先生は口を開けた。

 

「古刀。お前には才能がある。それにとても聡い子だ」

「……? はい」

 

普段怒鳴ってばっかいる先生としては珍しく真っ直ぐな褒め言葉に照れるより先に疑問が浮かび上がる。いったいどうしたというのか。

 

「もう剣道としては教えれることが私にはないのだ。あとは反復練習に基礎を鍛えていけば、おそらく全国でも戦える立派な剣士になれるだろう」

「……はい」

 

少し申し訳なさそうに先生はそう告げる。

入門して役2年でもう教えれることがない。これはきっと異常なことなのだろう。だが俺は前世と言う名のズルをしてるから別に異常だとは思っていない。今までの経験である程度すでに学ぶための基礎、理解ができていたのだから。

 

「しかしなにも教えれないというのは私が私を認めれない。それは教える者として、な」

「はい」

「ゆえに古刀。お前、私の技を覚えてみるか?」

「……はい?」

 

よくわからない提案だった。だが先生が真面目に入ってるのがわかるため受け入れるか考える。

―――答えはすぐ出た。

 

「……お願いします!」

「……うむ。あいわかった」

 

もともと目新しさもなければ道場内に惹かれる者、いわゆる本物の天才なんかもいなかった。護身術と守る強さが欲しく、また、剣道ってかっこよくね? と思い始めた剣道だが、やる気が削がれている今いくら練習したところで上達の早さは牛歩のごとくだろう。

ならば面白そうな方向に進むまで。

 

「それでは稽古が終わったあとに教える。練習に戻りなさい」

「はい!」

 

その日の鍛錬は期待でいつもより一層力の入ったものとなった。

 

 

 

 

 

 

気合が入りすぎて竹刀を壁に叩きつけ折ってしまったが些細なことだろう。きっと老朽化してて寿命だったに違いない(震え声)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……きたか。では行くぞ」

「はい」

 

いつもの練習が終わり片付けが終わったあと先生のところに行くと、どこかに電話で連絡してた先生は終わり次第すぐ立ち上がって外に向かって行く。

 

「道場を閉めるのは息子に任せたしお前の帰りが遅くなるのはさっき連絡して了承はもらった。だから安心しろ」

「はい」

 

今更だが先生は見た目屈強な老人だ。たしかもう今年で74歳にもなる。道場で実演して教えるのは彼の息子の仕事で、先生は基本口出しをするだけである。

それなのにその先生の息子がおらず俺に教えることができるのだろうか。そう疑問を感じながら俺は先生のあとについていく。

道場を出て歩いて10分ほどの距離にある先生の家の前についた。

 

「少しそこで待っておれ」

「はい」

 

先生が家に入りしばらく待ってると、鞘付きの木刀を持って外に出てくる。

 

「中庭に行く。ついてきなさい」

「……はい!」

 

その木刀がやけに刃の部分が反っていることに気を取られてた俺は、少し返事が遅れるも歩き出す先生に小走りでついていく。

すると広い庭に出た。

 

「見てなさい」

「はい!」

 

先生が庭の隅に置いてあった丸太を固定せずただ立てた。直径は約20〜30cmといったところだろうか。

先生はその丸太の前に立つと、足を肩幅に広げ棒立ちになり、左手で刃にあたる部分を持ち右手で柄を軽く握る。

 

―――カチャリ、と金属特有の音が聞こえた。

 

「あっ―――」

「……ふっ!!」

 

それに気づき声をあげようとする間もなく先生が鋭い呼吸、踏み込みと同時に、

 

チキッ シィン!

 

―――銀色の線が丸太を斜めに通り過ぎるのを見た。

 

思わず息が止まる。

 

銀色の線―――刀が振り下ろされた状態で止まっていた。

 

そして丸太は、ゆっくりと線が通った場所からずり落ちていく。

 

音もなく落ちた丸太の上半分が地面に落ち乾いた音をたてた。

それを確認した先生が刀を払うように一振りした後静かに鞘に戻す。

 

「……」

 

声が出ない。

あの老体から繰り出されたその技のあまりの鋭さ、美しさに、心が奪われたのだ。

 

「―――どうだ。これが私がこれまでの人生、ほとんどをかけて習得した唯一の技だ」

「……はえ?」

 

思わず気の抜けた返事をしてしまった。それほど先ほどまでの光景が目に焼き付いて離れない。

 

「私は幼い頃、決して天才ではなかった。むしろ凡人以下で、年下と戦おうがある程度学んだ者に勝った試しがない」

 

そんな俺の状態を知ってか知らずか先生は語り始める。

 

「だから私は思ったのだ。普通にやって勝てないなら自分だけの特別を、自分だけの武器を身につけてそれで勝ってやろうって。

 

それで居合切りを選んだのは、まあ当時の憧れというやつか。強く、かっこいいと思ってたんだろう。まだ若かったからな

 

だが当時通っていた道場の師範に無理言って教えてもらって覚えてみると、驚いた。実に汎用性も利便性もない技なのだ。

 

そもそもとして不意打ちや、相手が動き出す前に制する技なので当たり前っちゃ当たり前。正面からぶつかりあって戦うことを想定していないのだからな。

 

―――だが私は教えてもらって以降、これだけを鍛えた。

 

雨の日も、雪の日も、庭や道場でただひたすら居合のみをし続けた。今まで私を馬鹿にしてきたやつらを見返すためにな。

 

まあ、私に成長の余地無しと言ってきた師範や(ともがら)に対する諦めたくない意地もあったのだろうよ。

 

ついには流派に見向きもしないことで師範が怒り破門されてしまったが、それでも続けた。

 

そして続けていくうちに一つの結論に達した。

 

私の剣術は全盛期でも(つたな)い。おそらく今のお前にも劣るだろう。

 

だけど私は負けず嫌いだ。どうしても勝ちたかった。だから、」

 

理解できてても、わかってても避けれない、全てを切り捨てる技を求めた。

 

そう言い放ち、今度は特に力を入れた様子もなく、少しだけ鞘から刃を覗かせた状態から抜刀する。

 

―――一閃。

 

今度ははっきりと刃を視認できる速さで抜かれた刀が未だ立つ丸太の下半分に斬ることなくめり込み、そのまま上に弾き飛ばした。

 

そしてここで先生が初めて構えを取る。

右足を大きく前に出し、重心を後ろに残したまま右半身を大きく後ろに捻り、柄をしっかりと、しかし軽く握りしめ、屈強な体にギチギチと鳴りそうなほど力が込められていくのがわかる。

 

そこへ落ちてきた丸太が先生の間合いに入った。

 

「―――うぅぅるるぅおおおぉぁあ!!!」

 

―――閃 閃 閃 閃 閃

 

踏み込みと同時に繰り出される抜刀、納刀、抜刀、納刀、抜刀、納刀。その都度5回。

目にも留まらぬ速さで行われたソレは、全て丸太に当たり切り裂いていったように見えた。

しかし丸太はなにもされてないかのように元の姿のまま地面に落下し―――

 

「……」

「……ふぅ」

 

―――着地と同時にばらけた。

その斬撃は木片を散らすこともなく、切断面もとても綺麗なものだった。

 

あまりの速さ、あまりの鋭さ、あまりの力強さ。

それらが全て脳内に強烈な衝撃と共に駆け抜けていく。なんだあれは。本当に人間ができることなのか。

あまりにも現実離れした光景に思わず自分で自分を殴って確かめるが、痛い。これは自分の妄想が見せた幻でも夢でもないらしい。

 

「……と、これが生涯突き詰めた居合の、私の全力だ。だが私にとってこれはまだ未完成なのだ」

 

先生は言う。自分が愚才なばかりに生涯かけてもこの程度にしかなれなかったと。

―――これでもまだ満足してないのか。いったい何を目指しているんだ。心底そう思った。少なくとも今自分はあまりのことにある種感動し、自分には辿り着けない領域だと思っている。

 

「ゆえに私の思いを引き継ぎ完成させてくれる人間を探しておった。だが常人ではとても成し遂げれるとは思えん。ゆえに探していたのだ」

 

自分の技を引き継げる者を。

先生は俺を見ながらそう言った。

 

「……俺ですか?」

「そうだ」

「……俺、飽きっぽいですよ?」

 

とてもではないが先ほどの光景を作り出すのにいったいどれだけの時間がかかるのか、それを自分に耐えれるとは到底思えなかったので否定気味に声を上げる。

 

「それは先が、完成系が見えていないからだ」

「完成……?」

「そうだ」

 

先生は肩を揉みながらぐるぐる回し、調子を確かめ終わると縁側に座りそう言った。

 

「だれも終わりが見えない道を走り続けたいなどと思わん。そしてお前はどこか自分が才能がないと諦めているな?」

 

思わずぴくりと体が反応する。しかし先生はそれを無視して話し続ける。

 

「なぜそんな年齢でそこまで達観し諦めた目をしているかわからんが、その自信のなさがお前の成長を阻害している」

 

手招きされたので俺の先生の隣に座るとぽん、と頭の上に手を乗せられた。

 

「お前は目標を低く設定し、その目標を達したらこれ以上は無理だと決めつけている。そしてこれ以上努力しても無駄だからとやらない」

 

責めるような声とは別に優しく頭を撫でられる。

 

「おそらくお前をそうしたのは周囲の環境だろうな。同級生になにか言われたか、妬みでなにかされたか、それはまあわからんし聞いたとこでどうにかできるわけでもないから聞かん」

 

先生は続ける。

 

「少なくとも私はお前の動きの中に才能の輝きを見た。それに自分では気づいてないと思うが、反応速度もおかしいしな」

 

そう言うと、不意に自分の目の前に拳が突如現れた。ように見えた。

思わず避けようとするもいつの間にか頭は撫でてた手で押さえられ、仕方ないので両手を目の前に出しゆっくりと(・・・・・)迫る拳を掴む。

スパン! と、軽い衝撃と痛みが手の平を打つ。

 

「そら、誰が不意打ちで打たれた大人の拳を受け止められるか。力は込めてなかったができるだけ速く、寸止めもする気なく打ったんだぞ」

 

驚きで固まってる俺を再度撫でながら先生は言う。だけど自分でも驚いていた。

目の前に迫った拳を見た時、一瞬拳が止まって見えたのだ。

反応が遅れ固まっているとゆっくりとだが自分の顔目掛けて迫ってきた。それは自分が拳を受け止めるまで続いており、またその中では自分の動きもとても遅かったのを確認している。

 

「その反応速度に才能があるんなら私の目標であった居合に辿り着けるのではないかと思っている。そう」

 

理解してても決して防げず、一刀の元全てを切り裂く居合をな。

 

そう言い放つ先生に思わずこくりと頷く。

 

さっきの遅くなったのはなんだったのだろうかと、なぜか少し痛む頭に手を当て考えながら。


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