総てを切り裂く刃となるため   作:葬炎

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俺の名前は古刀(ことう)総司(そうじ)。どこにでもいる普通の4歳児だ。

あの第一次枕対戦から実に1年も経過したのでそろそろ現状を整理しようと思う。

 

僕が俺になったのはあの入院してる途中から、特に頭痛が酷い時のことだった。頭に強い衝撃を受けたのが原因なのか、おそらく自分の前世と思われる記憶が全て思い起こされた。前世の名前は―――言わないでおこう。どうせもう二度と使われないだろう名前だ。言っても意味がない。

 

前世を思い出した俺が前世の自分に思ったこと。それは―――くっそつまらねえ人生だな。それだけ。

特に目標もやりたいこともなかったためあっちへふらふらこっちへぶらぶら、そして天才とまでは言えなくとも運動、勉学、その他もろもろ全てにおいてグループ内の4、5番目ぐらいになれる程度の万能な秀才だった俺はどこに行ってもある程度のことはできた。色々なことに手を出してはすぐやめるやつだったので周りからしたらすごく鬱陶しいやつだったんだろなと今なら思える。自分のことではあるが客観的に全て再び最初から見せさせられたことで理解できたことだ。

 

さて、前世の記憶を思い出したなら元の幼稚園児の俺はどうなったのか。

 

それは簡単だ。

 

「総司ー! 夕食できたわよー!」

「うきゃあああ!」

 

……

 

「美味しい?」

「うん! おいしーっ!」

 

…………

 

「食べたら歯磨きしましょうねー」

「はーい! あっ! いちご味だ!」

「あっ! 飲み込んじゃダメ! ペッしなさいペッ!」

 

このまんま子どもが俺である。

もちろん演技だ。演技……なんかちょっと楽しいのはそういう趣味だからとかじゃない。決してない。

というのも前世を一通り見て色々知って性格的にも前と似た感じになってきてはいるのだけど、それでもやっぱ魂が体にひっぱられてると言うのか、特に意識していなければ本能のまま行動してしまうのだ。心はどうでも体は正直ね。というやつである。

無論別に体が制御できないわけでも前世の自分が某スタ◯ドみたいに背後に立ってるわけでもなく、ただ流されるまま行動してるとこうなっている。わざとらしさが出てないだろうからありがたいっちゃありがたいが、もしかしたら自分の前世は気づいてないだけでそういう性癖があったんじゃないかと思うと不安で不安でたまらない。

 

「それじゃ、お父さんが帰ってくるまで『"ガチャッ"ただいまー』絵本でも、ってちょうどよく帰って「うきゃああぁぁぁぁ……"ぼふっ"」『あっはっは! ただいま!』あらあら……」

 

それとは別で悩み事も一つある。

 

「ママ、ただいまー」

「ただいまっ!」

「お帰りなさいあなた。総司もただいまじゃなくてお父さんにお帰りなさい、でしょ?」

「うーん、……ただいま?」

「いや今帰ってきた俺に向かって言われても」

「うふふ……ほら総司、お父さんのスーツがしわくちゃになっちゃうから離れて?」

「はーい!」

 

ここって普通の世界なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

 

 

僕が俺になってこの1年、俺はなにが起こってるのかあまりわからずただ俺になる前と同じく幼稚園と自宅を行き来してた。

幸いあの入院前の記憶も穴だらけだけど誰が知り合いで誰をどう呼んでいたのか、また自分が普段なにをしていたのかも記憶に残っていたから今のところ誰にも怪しまれてはいないと思う。

ただ自分の身になにが起こってるのか探るため考える時間が欲しく、前の普通の子どもだった頃に比べ一人でいることが多くなったのを幼稚園の先生が心配そうに自分を見てきているのを何度か確認していた。

 

一つ確かなのは今の自分が子どもであること。

そして前世の最後の記憶が会社からの帰り道であること。

 

いくら思い出した記憶を辿っても前世の最後はいつも通り代わり映えの無い普通の帰り道なはずだった。だけど現状から考えるにタンクローラーに轢かれるなり隕石が降ってきたなりなんなりで死んだ可能性が高いのだろう。

 

ショックは―――特になかった。

 

家族はすでにおらず、彼女も、ましてや彼氏もいないし、前世の心残りと言えば部屋に山ほどあるエロ本にPCの中身と数人いる友達が悲しまないかぐらいだ。エロ本の処分=PCの中身=友達の心配が同レベルなことは突っ込んではいけない。

仕事場は可もなく不可もなくで通してたので特に仲良い人物とかもいないし思うことは特に―――訂正。部長はハゲろ。俺の担当じゃない仕事割り振りまくりやがって。本人は気づかれてないと思ってるかもしんないけど頭頂部がカツラで隠してるけどハゲなのバレバレなんだよ。

 

うっうん、話を戻そう。ハゲのことなんかどうでもいい。あのクソハゲめ。

 

で、まあ今の今まで特になにもなく過ごしてきてわかったことがいくつかある。問題はそれだ。

 

どうも―――自分の前世の最後の記憶と比べると年代が古い。

 

記憶が確かなら前世じゃ2014年だったはず。だけど今は、

 

「1989年……えー……」

 

目の前にある見慣れた物に比べ古いテレビから聞こえてくるのは、ニュースと共に今が1989年であること。おかしい。

 

()世があるのになぜ過去なのだ。

 

最初は精神と記憶だけ子どもの頃に逆行してきたのかとも考えたが、残念ながら両親が違うし自分の名前も違うし住んでる市も地図的には同じ場所なのだが市の名前が全然違うし。そこで考えついた結論が一つ。

 

もしかしてここは俗に言われる平行世界とかではないのだろうか?

 

俺の言う平行世界とはようするにIF、もしもの世界。もしも◯◯をした世界をA、しなかった場合の世界はB、とかそういうやつだ。どういうもしもがあれば市の名前が変わるのか皆目見当もつかないがこれが一番しっくりくる。

 

なにが言いたいかというとようするに他にもいっぱい前世と違うことがあるかもしれない。

 

そしてそれは面白いことかもしれないし危険なことかもしれない。

 

それがわかった俺は前世との違いを探すことにした。


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