総てを切り裂く刃となるため   作:葬炎

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ーー1ーー

『それじゃーみんなー、お昼寝の時間だよー!』

『『『『「はーい!!」』』』』

 

 

 

僕が俺と気づいたのはいつのことだったか。

 

それはまだ残暑が厳しいぐらいの頃だったのを覚えている。

 

『仲良くねー。他の子の布団取ったりしたらダメですよー』

『あ! ぼくのマクラー!』

「へっへー!」

『こら〜!』

 

その日は確か幼稚園でお料理会だとかの後にお昼寝とか、そんなことをしてた気がする。

朧げだが、やんちゃな子が隣の子の枕を奪って逃げるような、そんなどこにでもあること。

 

『かーえーしーてー!』

「いやだー!」

『こらー! ◯◯君が可愛そうでしょ! 枕を返してあげなきゃ―――』

『もーっ!』

「あっ」

『『あっ』』

 

ばっ! ガツンッ!

 

だが少し不幸なことがあった。

 

『……救急車ー! 早く救急車呼んでー!』

「あ……あ……」

『ああ……早く! 早く! なんとかしないと責任が……!』

 

あとから聞いたことだが、どうやら枕を奪い返そうとした子と引っ張りあって振り回された時に、そのまま手が離れた勢いで吹っ飛んでロッカーの角に頭をぶつけて血を流してたらしい。

頭に鋭く衝撃が走ったことはかろうじて覚えてる。

朦朧とする意識の中、慌てる二人の大人と呆然とこっちを見つめる子どもの前で、僕は意識を手放した。

 

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

 

目を覚ましたのは一面白い壁の部屋の中だった。

どうやら俺は寝てたらしく、起き上がると自分の体にかけられた布団が上から滑り落ち、それと同時に頭に鈍痛が響く。

 

「いっ……た……!」

 

わけもわからなく頭をおさえると、痛む頭の周りをぐるりと包帯がまかれてることがわかった。

 

「ぅあっ! あっ!」

 

痛みで布団に思いっきり倒れこむと、倒れた衝撃で一際激しく頭痛が頭を揺らす。それと同時に自分の声と思えないほど甲高く大きい悲鳴が辺りに響いた。

 

『あっ! 先生! ◯◯◯号室の患者の子が目を覚ましました! 痛みで頭を引っかいてるようです!』

『なに!? すぐ痛み止めを持っていく! その間暴れないように抑えてやってくれ!』

 

しばらく激しく動くこともできず痛みを抑えるために頭を強く引っかいてると、看護師さんが二人がかりで俺を羽交い締めにしてきた。

それでもなお続く鈍痛に喘いでいると、注射器に薬のような物を持った医者らしき人物が近寄ってくるのを見た。気がする。

 

『出来る限り動かないように抑えてくれ! そう、そう、痛くないからねー。チクっとするだけだから、いい子だから、そう。いい子だ』

 

いまだ治らない頭の痛みで暴れたいが、はっきり働かない頭の中でも医者が麻酔か痛み止めかをやろうとしてるのはわかっていたため出来る限り大人しくしようとする。できていたかはわからないが。

 

注射が終わった後もしばらく頭をめちゃくちゃに引っ掻きたい衝動で暴れるのを止めるため看護師に両腕を押さえつけられていると、しばらくしたら痛みがやわらいで眠くなっていくのを感じる。

抵抗する必要がないので瞼を閉じて今にも眠りそうなのを感じたのか抑えていた力がなくなるのを感じた。

 

『まさか鎮痛剤が切れる直後に起きるとはタイミングが悪いというか不幸と言うべきか……うむ』

『質問なのですが、激しく頭を打ったとのことですが処置した後もあんな頭痛が続くのですか?』

『ふぅむ……普通はそこまで、いや、もしかしたら別の症状が併発したのかもしれない。危険かもしれないしもう一度再検査を__』

 

 

そこからまた意識がぷっつりと途切れた。

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

 

『これで最後の検査は終わりです。念を入れ長めに入院していただいたため大丈夫と思われますが、しばらくは__君の様子をよく見てあげてください。__君がなにかしら普段と違う行動をしてれば後遺症の可能性があります。その時はお早めにまたお越しください』

『ありがとうございます先生! ささ、早く帰りましょ?』

 

(ぼく)は今、見知らぬ女性(ママ)が涙を浮かべながら医者に頭を下げ、こちらに笑顔で振り向いたのを横でぼーっとしながら見ていた。

 

「うん」

『よかった……! __が無事に帰ってきてくれて!』

 

成人(幼稚園児)(ぼく)の体がひょいと持ち上げられる。

そのまま抱っこされた状態で出入り口まできて、しばらく窓口でなにかの手続きをした後また抱っこで持ち上げられて外に出ることとなった。

外はもう残暑が感じられないほど涼しく、心地よい風が吹いていた。

 

「それじゃ帰りましょ―――総司」

「うん。ママ」

 

(ぼく)がいまだに呆然としてるのも気づかないまま、見知らぬ女性(実の母親)と一緒にタクシーに乗り、見覚えのない(よく知ってる)自分の家に向かうことになる。

 

 

 

 

 

 

そう、(ぼく)は―――前世の記憶を思い出していた。






しばらく主人公の幼少期が続きます

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