総てを切り裂く刃となるため   作:葬炎

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街中のような風景の修練場の中で、古刀は一人立っていた。相変わらず弧月は左手で軽く握るだけでほぼ棒立ちの状態で。

 

――――韋駄天!

 

と、次の瞬間には古刀の姿が消え、数メートル先にその姿はあった。ただし現れた時の格好はすでに様相を変え、腕を振り上げ足で地面を踏み抜く走り抜けた後のような姿だった。

 

そのまま勢いを殺すようにゆるやかに速度を落とし歩くほどの速さになった後、少し間を開け、走り出す。

 

――韋駄天!

 

今度は数十メートル先にその姿が現れた。しかし今度は速度を落とすことなくそのまま走り続ける。

そして、左手で腰に差している弧月を鞘ごと抜き、前方に思いっきりぶん投げる。くるくると回転しながら進むソレはあと少しで前にあるビルに当たる、といったところで

 

韋駄天!

 

古刀の姿が弧月の少し前に現れ、後ろに向かい振り上げた手で回転する弧月の柄を逆手に掴み、鞘を上空に跳ね飛ばすように抜刀。ビルの横をすり抜けるように走り抜けていった。

そして何かを振り払うように弧月を二度ほど振った後、逆手から順手に持ち直し、そのまま刃を上に向けるように腕を横に差し出す。すると、そこに抜刀した時に上に飛ばした鞘が落ちてきて――

 

チン!

 

弧月の刃が落ちてきた鞘に収まる。と、同時にビルが斜めに切り裂かれ倒壊した。大きなものが崩れる音と振動がするが、それに振り返ることもなく弧月を左脇に差し直す。

 

さあ、次の獲物はどいつだ。どんなヤツでも切り裂いてやる。

 

そう言わんばかりの眼光で周囲を見渡し、ちょうどいい巨大なマンションを見つけまたなにも構えてない棒立ちの状態となり足に力を入れ、駆け出す――

 

『いやー! すごいすごい! さすが古刀さん! アクション映画顔負けの迫力と格好良さだったよ!』

「ーーっっ!?」

 

――ビクゥ! と体が震え足に入れた力が爆発し盛大にすっ転ぶ。幸い韋駄天を使う直前だったためその場に転がるだけで済んだ。

 

『ありゃ? お邪魔しちゃったかな?』

 

古刀の耳に付いてる通信機から呑気な声が響く。そしてそれが現在いる場所の支部のオペレーター、宇佐美ちゃんであることを認識した瞬間時間が止まったかのように動きが止まり、石のように硬直した。

一瞬、しかし数時間に感じる時間を経て見られていたことを気づいてしまった古刀は絞り出すような声で質問を、した。してしまった。

 

「…………見てたのか?」

『そりゃもう最初から最後までばっちり!』

 

あ。録画もしてるよ。見る? それにしてもすごい動きだね。高速移動してる感じかな? 使ってるの弧月みたいだし新しい汎用オプショントリガー?

そんな声が耳元で響いているが古刀には届いていなかった。

思うことは一つ。消さねば。記録を全て。

 

「待っていろ」

『……なにが?』

「――いますぐそこの録画した記録機器全てを破壊してやる。一つ残らずだ」

『――っちょ!?』

 

なんでー!? と叫ぶ声が聞こえるが知ったことではない。ハイテンションの時に晒した痴態を後で見せられるほど恥ずかしいことはないのだ。他の輩にバレる前に消さなければ。ネタにされる。

と、そこで気付いたことがある。現在いる修練場はどこか。それは聞こえる声が宇佐美ちゃんなことからわかる通り、旧ボーダー本部、現玉狛支部である。そしてここには、1人とても厄介なやつがいるのだ。

 

自称実力派エリート、趣味が暗躍、その男の名は――

 

『おっと古刀さん。それは待ってもらっていいですか?』

「……いたのか。迅」

『そらもう。面白い未来――おっと。必要なことでしたから』

「なるほど。わかった。――首を差し出せ」

『おお怖い怖い。まあ念には念を入れですよ。お願いしたいことがありまして』

「……なんだ?」

 

いちいち弱みを握ってからされる頼みごとなんて嫌な予感しかしないが、古刀はここで断る選択はなかった。断った場合ここまでの一連の痴態をボーダー内に晒し上げられること待ったなしだからだ。あいつはそういうことをするやつだ。

 

『いえなに、ちょっと模擬戦に付き合ってもらっていいですか?』

「……それだけか?」

『もう一つありますが、まあそっちは無理にとは言わないですよ。とりあえず模擬戦してもらいたいんです』

「……いいだろう」

 

迅の言葉から普段感じられない真剣さを感じれたので今までのことは水に流し願いを聞くことにした。

今装備してるのは普通の弧月に試作オプションの韋駄天、併用実験のため入れているグラスホッパー、旋空、シールド×2で普段のトリガーとは異なっているのだが、今迅がきたということはそれでいいのだろう。すぐ準備するんで待ってくださいと言った迅を待つ少しの時間を利用し改めて数度弧月を振るい鞘に収めた後目をつむり精神統一をする。

 

数分待った後、気配を感じたので目を開けた。

そこには帯のようなものを纏った状態の風刃を構えた迅の姿があった。

 

「……なるほど。なにか大事があるのか?」

「ええ、まあ。でも未来を考えると必要なことです。思うことがないわけではありませんが、そんなことより俺は――」

 

模擬戦に風刃を持ち出した迅に近々なにかあると察しつつ言外に手伝えることがあるか? という意味を含め声をかけるが返ってくるのは要領の得ない言葉ばかり。

おそらく未来視で見たことが関係しているのだろう。そしてその未来をズラさないように言葉を選ぶため迅はこのように意味がわからない言葉しか言えないことがある。が、そこはあまり重要ではない。それよりも今必要な情報は、

 

風刃が必要であるほどのことが起きる。

 

それさえわかれば充分だ。必要なことがあれば向こうからなにかしら言ってくるだろうと思い弧月を構えた。

 

「なにか言うことはあるか?」

「あー。居合は止めて欲しいです。間合いに入った瞬間必殺だと練習にならないので」

「わかった。では――やろうか」

 

鞘から剣を抜き、構えることもなく棒立ちとなる。

それを確認した迅は風刃を構え、そして足に力を入れた、その瞬間。

 

古刀の少し後ろの地面から風刃の斬撃が飛び出てきた。

 

「ふむ……」

 

が、その斬撃届く前にすでに古刀は前に、迅に向かい走り動きだしていた。

 

ちらりと後ろを確認すると、斬撃は一軒家の塀を乗り越えやってきていた。どうやら完全に視界外から伝ってきたようだ。おそらく古刀に見えないよう家を壁にし回り込ませていたのだろう。

だが斬撃を使ったのにも変わらず風刃に纏わりつく斬撃の本数は変わっていない。であれば考えられるのは一つ。

 

「――戦闘開始前か」

「バレるのが早すぎますよ、っと!」

 

まあわかってたけど、と小さい声で呟かれるも止まることはない。

前方で迅から放たれた2本の斬撃と、左右から迫る視界端に移る2本、さらにまだ追ってきているだろう後ろから襲来する一本を回避するためグラスホッパーで空に逃げる。

すると、ある程度の高さでマンションの壁に足をつけようとしたところ、今度はマンションの中から窓を突き破り斬撃が飛んできた。明らかに迅の視界外でも発動するその斬撃に、更にもう一つわかることがあった。

 

「――宇佐美ちゃんも協力してるのか」

「あはは……」

『あちゃー。すぐばれちゃったねえ。迅さんの未来視じゃ3分ぐらい経ってからじゃないのー?』

「の、確率が一番高かったんだけどなあ」

 

タイミングがこの上なく完璧なその遠距離での斬撃はいくら迅とはいえオペレーターの協力なしでできるものではない。

あまりに用意周到なそれに、さすが暗躍得意な迅だと内心褒めてるのか貶しているのかわからない感想を抱く。

つまり迅は、予想だがあらかじめ宇佐美ちゃんに話を通し俺の練習を見させて監視してもらい、迅はその間風刃を設置し回っていた、そして風刃のリロードが終わる頃合いを見て話しかけさせた後自分もさも今来ましたみたいな演出をした、といったことだろう。

 

――だが、甘い。

 

周囲の時間が遅くなる。

当然遅くなったものの中には斬撃もあり、少しずつ迫るそれに弧月の向きを合わせ、反撃した。

 

「……旋空」

 

斬撃に斬撃を合わせ相殺し、さらに上の階と下の階から時間差で押し寄せた斬撃はグラスホッパーで加速しながら迅のほうに吹っ飛ぶことで回避する。

と、同時に遅くなっていた周囲の時間が元に戻った。少し頭痛はするが必要経費と割り切り無視しながらさらに刀身を鞘に収めた後攻撃を仕掛ける。

 

「旋空、二段」

「ちょちょちょっ!?」

 

居合と同時に放たれるほぼ同時に襲いかかる二本の斬撃は迅の横合いから飛び出した風刃の斬撃によって防がれ、さらに抜いたままの弧月で襲いかかるも風刃に防がれてしまう。

しかし古刀はそのまま鍔迫り合いをすることはなくすぐさま地に足をつけ、迅の脇を駆け抜けるように弧月を仕舞い無手になった後韋駄天で駆け抜ける。

 

するとさっきまで古刀のいた場所をクロスするように風刃の斬撃が飛び出していた。

 

「……いやー。まさか仕込んだ風刃が全部回避されるとは思ってませんでしたよ」

「……いや、回避仕切れなかったな」

 

そう言い、脇腹を見ると切られた後があり、少しトリオンが漏れていた。

どうやら最後の弧月を仕舞うタイミングが少し遅れたらしく、その時に当たってしまったようだ。

 

それにしても一通りの流れで気になったことが一つある。

 

「なぜ迅も一緒にこなかったんだ?」

 

迅は風刃の斬撃ばっかで本人はほとんど動いてはいない。当然だが迅本人が弱いことはなく、斬撃と一緒に本人も動いていたらこの程度の損傷では済まされなかっただろう。

 

少し悩むように顎に手を当てた後、迅は返答した。

 

「あー、風刃の強さを、利便性をアピールする必要があるわけで」

「それであの斬撃メインにしてたわけか」

「ええ。まあ本番では風刃に任せて自分は動かないなんて言ってられないだろうから無意味と言えば無意味ですが、斬撃の複数同時制御はあまり経験がないので慣らしといて損はないのですよ」

「なるほどな」

 

会話しながらも周囲を警戒する。

さっき迅は仕込んだ風刃が全部回避されたと言っていたが、その言葉が真実だとは限らないからだ。というよりもそういう細かい誤魔化し、揺さぶりはあいつの得意とするところ。気を張りすぎるのはよくないが油断をしていい理由とはならない。

 

「…………それよりなんで居合使ったんですか。使わないで欲しいって言ったのに」

「なに、ここまで仕組まれたんだ。ちょっとした意趣返しだ。それに死んでないのだから誤差だろう」

「肝が冷えるんでやめてくださいよ。まったくもー」

 

会話をしながらお互い目線は相手から外さない。

そのまま数秒睨み合うが、一度硬直状態となった二人は迂闊に動けずにいた。

迅からしたら古刀は自身の手をよく知っており、且つ相手は未来予知が当たって先手を取れたとしてもその場その場でサイドエフェクトを使った超人的な反応速度で回避されるとても厄介な相手。

古刀からしたら迅は避けても避けても次の一手が途切れず、サイドエフェクトを使いすぎてその副作用により動きが止まれった瞬間死が確定しかねない厄介な相手。

 

両者総じて言えることは、一手のミスが死を招くことだった。

 

『……はっくしゅ!』

「「!」」

 

と、その時通信から聞こえたくしゃみを発端に場が動く。

 

古刀が韋駄天を使用し迫る、と見せかけ超短距離で韋駄天を解除し再びグラスホッパーにて低空を飛び襲いかかる。

その時迅は足首のあたりの高さから風刃の斬撃を飛び出させていた。どうやら韋駄天の特性(ある程度決まったコースしか走れない)を理解し古刀と自分の間のルート上に風刃を設置し足を斬るつもりだったようだ。そして案の定風刃に纏わりつく帯、残弾に変化がないことから仕掛けたのが全部発動したわけではなかったらしい。

そして古刀は風刃の刃がギリギリ届かない程度の高さで再びグラスホッパーを使い迅に迫る。

 

「旋空!」

「はっ!」

 

まずは牽制に一発、空の踏ん張りの効かない状態から繰り出された旋空は片膝をつくようにしゃがむことによって回避される。

そしてそのまま迅は駆け出し古刀に向け風刃を放つ。

 

「っちっ」

「っ!」

 

壁を伝い空中の古刀に迫る高速の斬撃は、当然のように普通の弧月により切り捨てられるも動揺することなく風刃本体で切り結ぶ。

まだ足が地につかない古刀は抵抗する間も無く迅に押し切られた。

 

「っは!」

「くっ」

 

かに見えた。

が、あっさりと弧月を手放し鞘を抜き喉に向けて刺突する。

それはわかっていたのか回避される。しかし体制は崩れた。

 

その隙に宙に放り出された状態の弧月を掴み、地面に斜めに設置するようにグラスホッパーを使い着地の隙を消し勢いよく迅に向かって駆ける。

 

「っっ!」

「――」

 

超至近距離のそのやり取りの末、迅の首に弧月の刃が襲う。

 

「――はい、未来かくて――」

「と思うじゃん?」

 

迅の腹から風刃の斬撃が飛び出す。どうやら自分ごと道連れにするつもりだったらしい。

だが、目の前には既に古刀がいなかった。古刀がいたのは、

 

「……あっはは。いくらなんでも無理矢理すぎですよ?」

「勝てばいいんだよ勝てば」

 

迅の背後だった。

 

――しかし古刀の下半身は攻撃を受けていないのにも関わらずすでにトリオン体が崩壊寸前となっていた。

どうにも地面に残る跡から考えるに韋駄天を限界を超えた角度で使い回りこんでようで、これ以上は動けないだろう。

 

しかし古刀は迅の首元に刃を押し付け、迅は自分で損傷させた腹から大量のトリオンを放出していたため倒れる寸前、この勝敗はどう見ても明らかだった。

 

「引き分け、だな」

「引き分け、ですね」

 

そう、引き分け。

一見古刀がチェックメイトをかけてるように見えるが、古刀はこれ以上動けなかった。動けていたのであれば寸止めなどせずすでに迅の首は飛んでいただろう。

迅は言わずもがな最後の自滅攻撃ですぐにでもトリオン体が崩壊するだろう。つまり両者脱落、引き分けなのだ。

 

「ここまで準備して引き分けになったのってなんでですかね」

「そんなの当たり前だ。"風刃"を"風刃として"使うのにこだわりすぎてる。必要の無いことに思考を割き、いつもの動きとはかけ離れたことをしすぎだ。そんなぎこちない動きで倒せると思ったのなら大間違いだぞ」

「あはは。きびしー」

「だが、いい経験にはなっただろう」

「そうですねー」

 

二人ともトリオン体が修復されるが戦闘続行することはなく、迅は寝っころがり、古刀はその隣に座り込む。

しばらくは二人とも無言だったが、迅が風刃を空に掲げ、呟いた。

 

「割り切れはしない、さ。ただ、そのほうが……」

「……」

 

どこか眩しいモノでも見るような、寂しいような、そんな言葉に、

 

古刀は何も言わなかった。




戦闘描写、長すぎたかな……

原作読み返してて思ったんですけど風刃の斬撃って放った後は方向転換とか操作できないんですかねえ……?
んでもオペレーター協力の元超遠距離攻撃とかしてたし完全に真っ直ぐいくとしたらどんだけ偏差射撃(偏差斬撃?)が正確だったんだっていう。でもだからと言って実際はちょっと曲げれる程度だったりしてこんな小説に書いてるようにぐにゃぐにゃ曲がるとは限らないのですが。

まあこの小説では風刃の斬撃は放った後も操作できると考えてください。そして間違っていたら教えて欲しいです。書き直しますので。普段それをしないのは操作に思考を割く必要があるし普通に真っ直ぐとばしたほうが速いしってことで。
あ、それなら複数同時に斬撃操ってた時に迅がほとんど動いてなかった理由にできるじゃん。やったぜ。

つまり複数斬撃操作に思考を割いていたため迅は動けなかったんです。最初からそういう設定でした。


そいやヨーコちゃんと主人公(前世)って設定似てましたね。主人公の構想自体はかなり前からあったので完全に偶然ですが驚きました

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