四角く仕切られた空間の中、二人の人物が少し離れ対峙していた。
「今日こそ勝ちますよ」
「……そうか」
片方は黒いコートのようなものを着ている男性で、やる気を示すように両手に持った二本の光る剣を構え、もう片方の人物はTシャツにジーパンという格好でまったく動く気がないとでも言うように鞘に収まったままの剣を左手に棒立ちしていた。
「……はっ!」
「……」
気合一閃、黒いコートの男がその場から顔目掛けて横薙ぎに振るう剣。明らかに剣の長さと比べ届かない距離から放たれたそれは、刀身が伸びるという現象により斬撃となり相手に迫る。
「……」
しかし、それをされた側は至って冷静に歩くように前に進みながら頭を下げることにより伸びた剣を回避する。
「ーーそこっ!」
「……ふっ」
そう避けることがわかっていたのか、気づけば普通に剣が届く間合いまで近寄っていた男はもう片方の手に持っている剣をまっすぐ振り下ろす。そこに手加減はなく、当たれば人死にが出てもおかしくない速度、勢いでだ。
「が、甘い」
だが、それがどうしたとでも言わんばかりに振るわれた側は動揺も怯えもなく、振り下ろされる剣に対し目を逸らさずいまだ鞘に収まったままの剣を繰り出し、受け流し、去なす。剣がぶつかりあったには軽い音を立て、振り下ろされた剣は顔を掠るようにすり抜けていくのであった。
「―――知ってた」
「っー!?」
しかし一息つく間もなく突如目の前に現れる黒い物体―――膝が、下がったままの顔に向け迫る。
それが予想外だったのか、今までどこか気怠げだった表情は驚愕へと変わり、しかし人外染みた反応速度で膝の不意打ちをなにも持ってない右手で掴み抑える。
「ふっ!」
「ちっ」
前傾姿勢で右手が使えない状態でも相手は待ってくれることはない。すぐさま追撃と言わんばかりに最初の斬撃で振り切っていた腕を戻す勢いでそのまま胴に薙ぎはらうように振るう。
しかし、それは目の前の人物が突如消えていなくなるという結果により空振りとなった。
「へー。それが件の試作オプショントリガー……」
「そうだ。テレポーターというらしい。しかし、慣れないと使い辛いな」
いなくなったと思ったら背後にいてしかも首筋に鞘に入ったままとはいえ剣を突きつけられているという状態だが、二人はのんびりと会話をしていた。
「そうですか? 俺視点だといつ消えるかもわからないからかなり便利そうに見えますけど」
「どうやらこれは視線の先数メートルしかワープできないらしい。それにトリオンの消費が激しいな。トリオン量が普通の人間の場合、通常の戦闘で普段消費する量を加味して使いどころを考えると……1回の戦闘で2、3回使えればいいほうか。まあまだ試作品だからと言われればそれまでだが」
それを聞き納得したのか顎に手を当てうんうんと頷く。
「でも敵から目を離す危険があるとはいえ緊急回避とかに便利じゃないですか?」
「……お前の考えてることだから一瞬ですぐテレポートできると考えてるのだろうが、そこまで使い勝手はよくない。このテレポーターはな―――」
テレポーター
・目線に合わせてトリオンのビームのようなものが発射される
・そのトリオンビームの交差点を中心に球状のフィールドを形成
・フィールド内に障害物がなければテレポート
「―――っていう手順がある」
「へー。ようするに?」
「……目線で場所を指定した後テレポートするまでに若干のラグがあるってことだ」
「なるほ、ど!」
「おっと」
会話が終わるか終わらないかという絶妙なタイミングで、顎に当てていた手をそのまま自分の肩越しに背後に突き出し首元の剣をどかし、そのまま振り返りざまに剣を薙ぐ。
しかしそれは当たることなくバックステップで簡単に回避されることとなった。
「あっちゃー。今の不意打ちも回避されるかあ」
「油断はしてなかったからな。肩に力が入ったのを見てれば能力なんて使わずともあれくらい避けれる」
「力が入ってたって、俺コート着てて露出もしてないのにわかるもんですかね」
苦笑しつつも構えをとる。
二人の距離は最初と同じほど空いており、仕切り直しと言わんばかりだ。
「まあ、前までと違って剣だけにこだわらず体も使うようになってるんだから成長したんじゃないか?」
「できれば剣だけで勝ちたいんだけどなあ。まあ、それはまだ無理ってことでとりあえずなんでもいいから勝ちを狙いにいくことにしたわけですよ」
「そうか」
二本の剣を構えじりじり近づいてくる男に対し相変わらずただの棒立ちで動くこともなく待つ。
その姿はまさに挑戦する者とされる者の様相を呈していた。
「……はぁっ!」
「ふっ」
ぶつかり合う鞘と剣。
その二人の戦いはまだまだ続く。
――――――――――――
「いやー! 負けた負けた!」
「約束通り挑戦を受け入れてやったんだ。そっちも約束守れよ」
服装が変わった先ほどの黒いコートの男性―――太刀川慶と同じく服装の変わった男性―――古刀総司が四角い空間、訓練室から出て会話をしながら廊下を歩いていた。
「いやー。試作オプショントリガーを試さなきゃいけないのと剣を抜かない条件でも勝てないかー。だったら次はどんな縛りで……素手? いや、さすがにそれは勝負としてどうかと思うし、じゃあ次は普通の弧月だけ……は、この前やったし、じゃ他には……鞘だけとか? ……そいや今日抜いてないから実質鞘だけじゃん。はー、他に勝てそうなのってーと」
色々思案しているのか早口に喋りながら歩く太刀川に古刀が口を挟む。
「次の模擬戦を考えて現実逃避もいいが、しっかり約束通り学校の課題終わらせろよ?」
「……いやー、その、多いんすよ。なかなか手が出ないかなーって」
「やれよ?」
「……手伝ってもらえません?」
「めんどい」
「……はー。やりたくねえなあ……」
さっきまでのハイテンションはどこへやら、萎れたように歩く速度を遅くしながら背中を丸める太刀川を傍目にずんずんと進んでいく。
しばらくそのままのポーズでいたが、自分のやる気出ないアピールが通用しないことがわかったのかすぐに歩く速度を上げ古刀に追いついた。
「かわいい後輩が落ち込んでるのに無視って酷くないっすか?」
「かわいい後輩は自分をかわいいなんて言わない。それにお前は別にかわいくない」
「これは酷い」
古刀は自称かわいい後輩の言葉を無視し自販機で自分の好きな飲み物ともう1本コーヒー缶を買って、1本を太刀川に渡す。
「これやるから早く自分の部屋に戻るんだな」
「ういーっす」
受け取った缶をその場で開け一気飲みし、飲みきったのか自販機の隣のゴミ箱に入れる太刀川を見て古刀は呆れたようにため息をつく。
「そいや気になってたんですけど」
「なんだ」
「なんでトリオン体の服装がジーパンにTシャツだったんですか?」
「この試作トリガー受け取った時に着てた服装をそのまま登録したからだ」
「……戦闘する格好としてダサくない?」
「俺は気にせん」
__________
「テレポーターの使用感と意見、欠点をまとめたレポートできたからここに置いておくぞ」
「ああ。早いですね。いつもありがとうございます」
太刀川が肩を落としつつ自室に向かった後、古刀はテレポーターを開発してる研究室に直行しテレポーターを装備してる試験用のトリガーを返してレポートを書いていた。その内容は主にネイバーとの戦いにどれほど使えそうであるか、需要があるかというもの。
既に太刀川との模擬戦の前にも数人の手合わせ、練習用のダミーネイバーとの模擬戦、周辺警備の時に出てきたネイバー相手にも実戦運用を済ませてあったのでその時に思ったこと、感じたことも含め書き連ねただけなのですぐに終わる。
「……ありがとうございます。対人に対しては使い方次第で有効、対ネイバーは難しいですか」
「そうだな。やはり目標地点に視線を動かすから隙になりやすいのと発動がわかりやすい。特に使用するのは近〜中距離だ。今のままでは奇襲ぐらいにしかあまり使えなさそうだ」
「ふーむ。視線をわざとそれっぽく動かしてフェイントとかには」
「1対1だったらまだしも多対多だったらあまり意味を感じれないな。目の前の一人を騙したところで少し離れた場所にいるやつには関係ない。それにフェイントする必要があるということは近接戦闘だろう。だったらそもテレポーターのタイムラグに斬られて終わる。余計な隙を生み出すだけだ」
「そこのタイムラグが致命傷になるなんて君たちアタッカー上位陣ぐらいだと思うが……」
「だが実力あれば意味がないというのは事実。まあ、回避に使えずとも奇襲という役割を持ってるから対人には使えると判断した」
そしてネイバーはレーダーで反応するしそんなので惑わすより普通に斬ったほうが早い。そう締めくくると研究者はレポートを読みながら額にシワを寄せ悩んでいるようだ。どう改良するか考えているのだろう。
「うーん、あらかじめポイントを決めておくことでタイムラグを無くして、いやいや状況が動き続ける戦場で特定のポイントからポイントまでしか移動できないってのは使い勝手が……いや、オペレーターに転送する座標を設定できるようにしてトリガーは起動と開始点としての機能だけするようにできればもしかしたら……」
「……それはそうと、また試作オプショントリガーができたんじゃなかったのか?」
「あ。すみません古刀さん。そうですそうです、これの試験運用をお願いします」
いつまでも研究者の考え事が終わらなそうなのであらかじめ伝えられていた要件を話すと、研究者は忘れてたと言わんばかりにさきほどのテレポーターが装備されたのとは違うトリガーを渡される。
古刀の手にそのトリガーが握られたのを見て研究者は嬉々としてそのトリガーについて話し始めた。
「今回は自信作ですよ」
「毎回自信作と言ってるじゃないか」
「それは全部自信作だからです! じゃなくてですね、今度は本当の本当に自信作なんですよ!」
大きく両腕を上にあげどれくらい自信があるかを体全体で表そうとする研究者にため息をつく。自信を持つのは悪いことじゃないが、ここの研究者はよく突拍子のない発想でとんでもない物を作ることがあるから油断できない。例えば戦艦級の大きさのネイバーが出てきた時のための全長30mに及ぶ巨大な剣とか、戦闘体を構成するトリオンをペイルアウトに必要分以外は全部弾丸に変えて全方位にばらまく自爆オプションだったりとか、色々だ。
「それfはですね、前々から構想自体はあった高速起動を可能とするオプショントリガー、仮称韋駄天です!」
「ほう」
「まあ簡単に言ってしまえばグラスホッパーを足裏に張り付くように1枚、踏み込み用に1枚、計2枚展開して反発させることで高速起動するってやつなんだけどね」
「……? それだけ聞くとすぐに開発できそうなものだが」
というか普通にグラスホッパーでいいんじゃ、そう疑問を口にすると、よく聞いてくれたと言わんばかりに頷いて説明をする。
「なに、簡単だよ。グラスホッパー以上の速さを出すためさ!」
「……それって制御できなくないか?」
「ああ。人間の知覚能力じゃまず無理だろうね。古刀さんの思考加速を使ってもあまりの加速度に体を制御できないでしょう。というか制御できるレベルの思考加速をしたら、ボンっ! ですよ」
そう言って頭の上で手を開く。ようするに爆発すると言いたいのだろう。若干変顔をしてるからバカにされてる気がするが気にしても仕方ないのでスルーする。
「まあ、だからグラスホッパーじゃなくて別のオプショントリガーとして生み出したわけですよ。トリオン体が崩壊しないように出力を調整する必要もありますし。機動力を上げるというコンセプトは似てても用途が全然変わってくるので」
「へー」
「グラスホッパーは簡単に言えばジャンプ台をどこにでも設置できるものですが、この韋駄天は完全に走る専用。しかもあまりの殺人的加速度なため急停止できない、一定以上の角度でカーブすると足が崩壊するなど他にも欠点はありますが、その代わり速さはその名の通り目に止まらぬなんとやら、実際視認できない速さで駆け抜けることができます」
「ほーん。無制限に?」
「いえ、その速さで姿勢を崩したり足を踏み外したりしたらものすごい勢いで転倒および場合によっては戦闘体の破損となるので加速中は完全に韋駄天が制御します。なのでいくつかの設定されてるルート、距離を選択して使用する形ですね」
「……使い辛くない?」
「そこを使いこなすのがプロでしょ」
「……」
あまりにも無責任な言葉に思わず絶句する。それでいいのか。というかこの研究者のことだからまたなんかの漫画とかの影響だろ。バカか。そんな言葉が思い浮かんでは消えていく。古刀さんは大人なので相手が不快に思うようなことは極力言わないのだ。そう、大人なのだから。それにこいつだってきっと役に立つって信じて作ったに違いない。事実使い所を考えればとても有効に使えなくも「速さが足りない!」……
――斬る。
1つの研究室で悲鳴が上がったが、誰も気にする者はいなかった。室長の鬼怒田曰く「またあいつか。いつものことだな」と目を向けることもなかったそうな。
この時間に投稿しときゃ期間空いたのバレへんやろ……
はいすみません。ゲームやってました。FGOとかFGOとかFGOとか……
本当はもっと長くするつもりでしたがこのままずっと待たせるのもあれかなと思い投稿。とりあえず今話で書きたかったのは太刀川がいるくらいには時間が飛んだよ。ということだけなので。
まあ、マイペースに書いていきます。2年半ほど放置してる執筆中の小説もあるのですが(目逸らし)
太刀川の口調が納得いかない……
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韋駄天についてキリのいいとこまで書いたら短かったのでこっちに追加しました。