ひねくれ凡夫ワンサマー   作:ユータボウ

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 こっそり更新。ようやく書けました……
 前回言ったスペースの件ですが、皆様より頂いた意見から考えた結果、1話からやってきた元々の形式でいきたいと思います。読みにくさを感じる方はお手数ですが、メニューの閲覧設定で調整をお願い致します


8話 ワンサマー、頼る

 ──私は出来損ないで、落ちこぼれの兵士だ

 

 以前、ラウラ・ボーデヴィッヒはそう語った。千冬姉の指導を受けて成長出来なかった自分をそう貶めた

 

 それを聞いて俺はこう思った

 

 ボーデヴィッヒはISの扱いが上手くないのかもしれねえ、と

 

 その考えは半分正解で、しかし半分が間違いだった。確かにボーデヴィッヒは特殊部隊黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)においては、彼女の言うように出来損ないの落ちこぼれだったのかもしれない。現に彼女は軍を辞めさせられ、このIS学園にやって来ているのだから

 しかしそれはあくまでも黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)内での話で、考えてみれば分かることだ。正真正銘の軍人であり何年も昔から日々訓練に明け暮れていた彼女が、一般の生徒程度に後れをとるだろうか?

 

 目の前で行われている戦いは、まさに一方的であった

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 ギィン!という音をたてて打鉄の日本刀がラファールの装甲を斬り裂く。呆然とする操縦者を横目にボーデヴィッヒは更に連続で得物を振るった。その一撃一撃は全て装甲の剥がれた部分を捉えており、ラファールの絶対防御が発動して大きくシールドエネルギーが減少した。トドメとばかりに繰り出された蹴りは的確に操縦者の胴体を直撃し、ボーデヴィッヒは蹴った時に生まれた反動を利用して別のラファールへと向かっていく

 無駄がない、それが最初に俺が抱いた感想だった。素人目だがボーデヴィッヒは何も特別な技術を使っている訳ではない筈。では何故あそこまで流れるような動きが出来るのか、俺はきっとこれまでに彼女が積み重ねてきた訓練の賜物なんだろうと思う。何百、何千、何万と繰り返してきた動きだからこそ、あんなにも無駄なくスムーズに行えているのではないだろうか

 

 「嘘……どうしてシールドエネルギーが減らないのよ!」

 

 ラファールの操縦者は半ばパニックになりながらアサルトライフルを撃ちまくる。しかしそれらの大半は打鉄に備えられている肩部のシールドによって防がれ、防がれたもの以外は全てかわされていた。どれだけ撃っても打鉄のシールドエネルギーが全く減っていないのは、ボーデヴィッヒの並外れた反射神経と操縦技術が理由だったのだ。金色の左目が獲物を見つけた肉食獣のようにギラリと光る

 

 「そこっ!」

 

 「きゃあ!?」

 

 そしてとうとう一気にスラスターを噴かして至近距離まで接近したボーデヴィッヒの()が、ラファールのアサルトライフルを両断した。慌ててブレードを取り出そうとするラファールだがそれは下策だ

 量子化した武装を取り出すには取り出す武装のイメージをまとめなければならない。イメージをまとめるということはつまりその作業に集中しなければならず、例え一秒にも満たない時間であっても隙が生まれるのだ。そして、ボーデヴィッヒ程の腕を持つ者が、その隙をみすみす見逃す訳もない

 

 「甘いっ!」

 

 「あぁ!」

 

 袈裟斬りを繰り出してからその勢いのまま薙ぎ払い、ガガガガッと最後にアサルトライフルで締める。その洗練された一連の流れに思わず見蕩れてしまった。シールドエネルギーがなくなったのか、ラファールは徐々に空から地へと墜ちていく。たった一機の打鉄に三機のラファールが全滅した瞬間だった

 

 「す……すげえ……」

 

 「……やはりISをファッション程度にしか認識していない連中では相手にならんな。三対一で私程度も倒せんようではまだまだ力不足だ」

 

 ほぼ無傷で圧勝したボーデヴィッヒが俺の近くへ降りてくる。私程度と彼女は言うが個人的にはかなり強いと思う。もしかしたらセシリア・オルコットを相手にしてもかなりやれるんじゃないのか?

 

 「無様だな。あの程度の連中にしてやられるとは」

 

 ギロリと彼女のオッドアイが俺を射抜く。不甲斐ない自分が情けなくて俺は唇を噛んだ

 

 「……返す言葉もねえ。助かったよ、ボーデヴィッヒ」

 

 「ふん、礼など不要だ。私が邪魔だと思ったから片付けたに過ぎん」

 

 それでもだ。理由はどうであれ俺がボーデヴィッヒに助けられたことに変わりはねえ。もう一度深く頭を下げると彼女は呆れたように溜め息をついた

 

 「……まぁいい。で、いつまでそこにいるつもりだ?シールドエネルギーは残り僅か、おまけに機体も損傷だらけではろくに訓練も出来まい」

 

 「そうなんだよなぁ……くそが、随分派手にやらかしやがって」

 

 俺はボロボロになった白式の状態を確認する。機体損傷度は80%を越えており、スラスターの一部にも異常が出ている。この分では今日の訓練は切り上げざるを得なさそうだ。ISには自動で機体を修復する機能が備わっているが、これだけ激しく損傷していれば明日になっても直っているかどうか……妙な連中に絡まれた上に機体もやられるとは、今日はとんだ厄日だ

 

 「仕方ねえ……今日はもう大人しく寮に帰るとするか」

 

 「そうか、なら私も戻ろう」

 

 あれ?なんでボーデヴィッヒも一緒に戻るんだ?まだアリーナの利用時間はある筈なのに。そう尋ねると何故か睨まれてしまった

 

 「お前はあれだけの騒ぎの後でものうのうと訓練を再開しろと言うのか?今の私にはかつてのように自らを追い込んででも訓練をする必要はないが……」

 

 「マジごめん」

 

 確かにさっきの騒ぎの原因は俺にもあるしなぁ……喧嘩売ってきたのは向こうだけど

 その後俺達は制服に着替え、第三アリーナを後にした

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 「零落白夜……か。また凄まじい力を得たものだな、一夏」

 

 「こっちとしちゃありがた迷惑だよ。これじゃ千冬姉と比べてくれって言ってるようなもんじゃねえか」

 

 晩飯後の1025室、俺はほーきちゃんとボーデヴィッヒにそう愚痴りながらベッドに倒れる。寝心地抜群のベッドはそのままズブズブと沈んでいき、なんだかそのまま意識も手放したくなってきて……っと、まだ眠る時じゃねえっての

 俺は同室であり信用のおけるほーきちゃんとボーデヴィッヒの二人に雪片や零落白夜の存在を明かした。この二つは俺には手の余る代物であり、今はこれからどうすればいいかを相談しているところである

 

 「教官の弟である貴様に教官と同じ力と武器……か。何か作為的なものを感じるな」

 

 「その白式を開発したのは倉持技研……だったか?一夏が千冬さんの弟だと知って急遽手を加えたという可能性も考えられる」

 

 チラリと二人の目線が俺の右腕に集まる。そこに付けられた純白のガントレット、それが白式の待機形態だった。ISの待機形態ってアクセサリー系になるって参考書なんかには書いてあったんだが……やっぱ俺が男だからだろうか。俺は白式を撫でながら至極真剣な声で尋ねる

 

 「返品とか出来ると思う?」

 

 「「無理だろうな」」

 

 「ですよね~」

 

 やはりどう足掻いても俺がこの白式を使いこなせるようになるしか選択肢はないらしい。世界最強と同じように戦えなんざ、トーシローには随分とキツい要求だ。一体いつになれば出来るようになるのか想像もつかねえ

 というか一つだけ言わせてほしい。なんで俺はこんなに悩んでるんだ?俺が何か悪いことをしたのか?勝手にクラス代表に推薦されて、勝手に試合を決められて、勝手に欠陥品を押し付けられて、負けたらクズだの色々と罵られる。なんつーかあらためて考えると理不尽だよなぁ……

 

 「小学校時代に戻りてえ……」

 

 「……そこは中学校時代ではないのか?」

 

 「中学の頃はろくな思い出がなかったもんでね。戻るならやっぱ小学生だわ」

 

 あ、でもそれじゃあ弾の奴には会えねえな。それでも中学時代はもう懲り懲りだし……あぁ、このまま現実逃避して終わる頃には問題が全部解決してりゃいいのに。枕を抱き締めながら俺は溜め息を溢した

 

 「なぁボーデヴィッヒ……駄目元なんだけど俺にISを教えてくれねえか?この一週間自分なりにやってはみたんだが、どうも効率が悪いような気がしてならねえ。コーチ役が一人いてくれるとすげえ助かるんだけど……」

 

 「……都合が合うときには考えておいてやる。あまり期待はするなよ」

 

 ……え、マジで?オッケーなの?完全に駄目元だったんだけどオッケーなのか?いや嬉しいんだけど、嬉しいんだけどなんかえらいあっさりだな。「貴様の頼みを聞く義理はない」みたいな感じで断られるもんだとてっきり。するとほーきちゃんが不思議そうな顔をした

 

 「ボーデヴィッヒはコーチ役など出来るのか?」

 

 「私はここに来るまで軍人でな、操縦技術だけはそれなりに自信があるつもりだ。まぁ、出来ることなど教官の真似事くらいだが……」

 

 軍人、その言葉にほーきちゃんは一度驚いた表情を作るがすぐに納得したように頷いた。確かにボーデヴィッヒが元軍人だって言われたら驚くよな。線は細いし小柄だし。でも言われたら納得出来るのも不思議だ

 何はともあれ、力になってくれるならこれだけ心強い存在もない。今日の戦いでどれだけ強いかは嫌ってくらい思い知った訳だし

 

 「ありがとうボーデヴィッヒ、マジで助かる」

 

 「言っておくが私の特訓は甘くないぞ?たかがISを動かせる程度の一般人が簡単についてこられるとは思わないことだ」

 

 「上等」

 

 俺はニヤリと笑った。素人が闇雲に動くより経験者から教えを乞う方がきっと上手くいく筈だ。今のままの俺を待っているのは恐らく嘲笑のみ、ならばどれだけ特訓が厳しくともやるしかなかった

 

 「一夏、専用機のない私ではあまり役に立てないかもしれないが、ISの使用許可が降りた時は是非手伝わせてくれ」

 

 「ほーきちゃん……ありがとう。こっちこそ宜しく頼む」

 

 俺は深く、深く二人に頭を下げる。この学園に来てから不快なことも多々あったが、この二人と出会えたことだけは本当に良かったと思う

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 時は少し進んで四月の下旬、俺達一組のメンバーは外に出てISの操縦訓練を行っている。ただ説明に時間を使いすぎたのか、せっかく外に出ても残り少ししかない訳だが……その辺りに関しては仕方がないと割り切るしかないだろう

 ただ、周りの生徒達は訓練ということで皆ISスーツを着用しているのだが、これが完全に思春期の男子高校生には毒だ。女は好きじゃねえが俺だって女体に興味が皆無な訳じゃねえんだぞ。だが悶々とする気持ちを態度に出せば待っているのは死のみ、故に全力で邪な考えを滅する

 

 「それでは最後に専用機持ちに実演してもらおう。織斑、オルコット、前に出ろ」

 

 名前を呼ばれたので素早く前に出る。千冬姉や俺のコーチ役をしてくれたボーデヴィッヒは行動の遅い奴が嫌いだ、さっさとしなければお叱りが飛んでくるだろう。しかも今は時間も押しているのだから尚更だ

 

 「ISを展開しろ。熟練の操縦者なら一秒も掛からんぞ」

 

 言われた通りISを展開する。待機形態となっていた白式へと意識を集め、爆発させるようなイメージを作ることが俺なりの展開方法だ。ボーデヴィッヒとの特訓で凄まじい回数練習したのでこの辺は滞りなく行える。隣を見ればセシリア・オルコットの奴も既にブルー・ティアーズを展開していた

 

 「よし、飛べ」

 

 そう指示が出された瞬間、ブルー・ティアーズが急上昇していく。負けじとそれを追ってみるがなかなか操縦が上手くいかねえ。そういえば急上昇の練習は初めてだつた。悔しいことに操縦技術では向こうの方がまだ遥かに上らしい。俺だってボーデヴィッヒとほーきちゃんのおかげで()()()()()()()()()()上達した筈なんだが……代表候補生ってのはやっぱりとんだエリートだな

 

 「上手いもんだな……」

 

 『この程度、代表候補生なら当たり前ですわ。侮らないでくださいまし』

 

 プライベートチャネルに通信が届く。別に馬鹿にしてなんかねえ、むしろ感心してるくらいなんだがな。ああいう動きは練習してりゃ分かるが一朝一夕で身に付くもんじゃねえ。セシリア・オルコットがこれまでに血の滲むような訓練をしてきたであろうことは間違いなかった。これで性格が最悪でなけりゃ良かったんだが……

 

 「そこから急降下と完全停止に移れ。目標は地表から十センチだ」

 

 『先に行きますわ』

 

 そう言い残し、前方にいたブルー・ティアーズが視界から消える。慌ててハイパーセンサーの示す方向に意識を向けると、そこには華麗に急降下と完全停止をやってのけるセシリア・オルコットの姿があった。やっぱり、上手い

 俺も続かなければならなさそうだが、正直言って下手すりゃ地面に頭から突っ込むことになるだろう。穴なんて空けたら一人で整備する羽目にもなる。そんなのはごめんだ。スーっと遅すぎず速すぎない速度で降下し、意識を集中させてピタリと停止する。白式が叩き出した地面との距離は八十センチと少し、つまり完全な落第点だった

 

 「ふむ……オルコットはいい。織斑は練習を積むように。では次、武装を展開しろ」

 

 久々に食らう出席簿と共にありがたいお言葉を受ける。絶対防御があるから痛くはないが衝撃は殺せない。そして周りの奴等が笑っているのが無性に腹が立った

 で、次は武装か。俺は雪片を出す際にはさっきのISを展開した時とは異なり、名前をコールして展開する教科書通りのやり方を採用している。ただ、馬鹿正直に「雪片!」とか言えばまた騒ぎになることは目に見えている。故に──

 

 「──来い」

 

 この一言で済ませる。たった二文字の言葉で展開出来るようになったのはまさしく特訓の成果だ。加えて白式には武装が雪片しか存在しないためイメージ自体はかなりまとめやすい。時間にしても二秒と掛かっておらず、コーチ(ボーデヴィッヒ)からも初心者ならば上出来の一言をもらっているのだ

 ……実はこの武装の展開はかなり苦労した。俺の頭の中には無意識の内に『雪片=千冬姉の剣』という勝手な認識があったらしく、いまいち自分が雪片を使う姿がイメージが出来なかったのだ。最終的にはほーきちゃんの『雪片ではない無銘の刀を思い浮かべる』というアイデアによって改善はした

 

 「初心者にしてはまぁまぁだな。だがまだ遅い。一秒未満を目指すようにしろ。オルコットはそのポーズはやめるようにしろ。横に銃身を向けて誰を撃つ気だ?」

 

 チラリと横を確認すると奴のライフルの銃口が此方に向けられていた。危ねえ

 

 「しかしこれは私にとって必要なことで──」

 

 「直せ、反論は認めん」

 

 「──っ、はい……」

 

 叱られてしょぼんとした顔をするセシリア・オルコット。まだ言いたいことがありそうだが黙っている辺り、賢明な判断だと思う。千冬姉じゃ相手が悪かったとしか言えん

 

 「次、近接用の武装を出してみろ」

 

 「はい」

 

 気を取り直して次は近接武装……なのだが、なかなか展開が上手くいかない。それもその筈、セシリア・オルコットは近接戦闘が大の苦手なのだから。そしてとうとう焦れたのか、やけくそ気味に「インターセプター!」と叫んで展開した。代表候補生としてあるまじき失態であり、これは恥ずかしい

 

 「何秒掛かっている?お前は高速戦闘下において相手に待ってもらうつもりか?」

 

 「じ、実戦では使うまでもありませんわ!そもそもこの間合いまで相手を入れなければいいだけの話で──」

 

 「戯け、代表候補生ならば遠近の両方に対応出来て当たり前だ。武器の展開すらスムーズに行えんなら貴様は素人の織斑以下だぞ」

 

 えげつねえなぁ千冬姉。プライドの高いセシリア・オルコットに素人以下とか……まぁ奴も代表候補生なんだし展開くらいはキチンとしてなきゃ格好もつかんだろうに。ただでさえこいつは立候補した時に盛大にやらかしているのだから、これ以上の失態は流石に……ねぇ?

 

 「……っと、どうやら時間のようだな。各自次の授業に遅れんよう素早く着替えを済ませるように。それでは解散!」

 

 おっと、どうやらもう終わりの時間のようだ。蜘蛛の子を散らすように去っていく生徒達を眺めながら白式から降りる。すると此方へやって来る子達が数人……いつもの二人に布仏さん、谷本さんに鏡さんだ

 

 「織斑君お疲れ様~」

 

 「おりむー、かっこよかったよ~!」

 

 「お疲れ様、織斑君」

 

 布仏さん中心の三人による労いの言葉が身に染みる。別に褒めて欲しくてやってる訳じゃねえが、それでも褒めてもらえるのは素直に嬉しい。昔っから千冬姉と比べられてばっかだったから、褒めてもらえる機会もなかなかなかった訳だし……

 

 「ありがと、皆。ほーきちゃん、ボーデヴィッヒ、どうだった?」

 

 三人に礼を言い、特訓に付き合ってくれた二人に感想を求める

 

 「私としては上手くやれていたと思うぞ。武装の展開も最初に比べれば随分速くなっている」

 

 「武装の展開については及第点だ。だが操縦系はまだまだ雑な部分も多い。今後の特訓にはさっきの急上昇と急降下、それに完全停止も加えるぞ」

 

 「……了解」

 

 こりゃまた厳しくなりそうだ。ボーデヴィッヒとする特訓は何も特別なことはしていない。基礎的な動きを繰り返し練習する、それだけだ。ただ、その繰り返す回数が想像よりも一桁多いのでかなりハードとなっているだけなのである

 はじめの頃はとにかく筋肉痛が酷いし、特訓後は気分悪くて食欲も出ないと散々だったが、最近になって漸く馴れ始めていた。そこに新しくメニューが追加されるとなると……おぅふ、考えるのも恐ろしい

 

 「えへへ~、ラウラウってなんだか織斑先生みたいだね~」

 

 「……私が、きょう……織斑先生と?」

 

 そう言いながら呆けた表情を作るボーデヴィッヒ。こいつがこんな顔をするなんて珍しいな、流石布仏さん

 

 「うん、おりむーに厳しいところとかそっくりだよ~」

 

 「うんうん、確かにそうかも!」

 

 「雰囲気とかなんとなく似てるよね」

 

 谷本さんと鏡さんも同意し、ボーデヴィッヒを囲んでキャイキャイとはしゃぎ始める。当人は迷惑そう、というより困惑したような様子だ。時折向けられる「なんとかしてくれ」と言わんばかりの視線に思わず頬が緩む

 

 「……楽しそうだな、ボーデヴィッヒは」

 

 いつの間にか隣に立っていたほーきちゃんがしみじみと呟く。彼女は成長する子供を見るような、とても優しい目をしていた

 

 「へぇ……俺には楽しそうってか困ってる感じに見えるけど?」

 

 「それはきっとどう接すればいいのか分からないだけだ。私には今のボーデヴィッヒの気持ちがなんとなくだが理解出来るよ」

 

 私も人付き合いはあまり得意ではないからな、とほーきちゃんは笑う。人と関わることに馴れていないからどう対応すべきなのか分からない、今のボーデヴィッヒを表すならこういうことなんだろう

 その後、本格的にボーデヴィッヒが助けを求めてくるまで、俺達は揉みくちゃになる彼女の様子を見守っていた

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 「……ここがIS学園」

 

 その夜、一人の少女がIS学園の正面ゲート前を訪れていた。時折吹く夜風に艶のあるツインテールが揺れる。その鋭い目には不安と期待が混じりあった複雑な感情が浮かんでおり、学園への一歩がなかなか踏み出せないでいた

 

 「えっと……受付、だっけ?」

 

 上着のポケットから一枚の紙切れを取り出しながら少女はぼやく。受け取った際に慌ててしまったせいか、紙には至るところにシワが出ていた

 

 「ん~……こんなんじゃよく分かんないわよ、もう。出迎えもないし自力で探すしかないか……」

 

 大きな溜め息を一つ溢し、観念したかのように学園への大きな一歩を踏み出す。敷地内を大股で歩きながら辺りを見回し、目的地である本校舎を探して移動していく。案内板の一つでも入口に置いときなさいよ、と少女は若干の苛立ちを込めて愚痴った

 

 「(……駄目ね。時間も時間だから生徒とかもいないし……)」

 

 時刻は既に八時過ぎ、生徒達は基本的に寮の部屋にいる時間帯である。とりあえず明かりのある校舎に行こうと少女は決める。そこで誰かを捕まえ案内してもらおう、我ながらいいアイデアじゃないかと彼女は一人得意顔を浮かべた

 足取りが軽くなった少女だが、不意に幾つかの生徒らしき人影が前を歩いていることに気が付いた。手から下げられた袋から何かを買いに出ていたのだろうか。なんにせよ校舎まで行く手間が省けたと少女はニヤリと笑い、此方に気付いていない生徒に声を掛けようとして……聞こえてきた言葉に足を止めた

 

 「ていうか、あれってまだ学園にいるの?」

 

 「あれ?」

 

 「例の男よ。千冬様の弟なのにびっくりするぐらい弱くて生意気な奴。なんでさっさと退学しないのかしら?」

 

 「やっぱりあれじゃない?世界で唯一男でISを動かせるから……」

 

 「男がISなんて使えなくていいわ。さっさとモルモットになるなりして消えちゃえばいいのに。そうすれば学園の皆が喜ぶんだからさ」

 

 「流石にそれって言い過ぎじゃない?学園の皆ってそんなに嫌われてるの?」

 

 「知らないの?クラス代表を決める試合では相手のシールドエネルギーを1も削れずに惨敗、アリーナで毎日練習してるみたいだけどかなり下手くそで、見てる方がムカつくくらいなの。あんなのが弟だなんて千冬様が可哀想だ、って皆言ってるわ。そのくせに専用機なんて持ってるし……百害あって一理なしの存在よ、あの男は」

 

 「嘘~!ありえないって~」

 

 「(どういう……ことよ……!?)」

 

 少女は絶句してその場に立ち尽くした。我に返った時には既に先程の生徒達はいなくなっており、辺りは異様なまでに静まっていた

 少女の頭にはある一人の少年が浮かんでいた。いつもなんでもないようなヘラヘラとした笑みを張り付けた、それなりに整った顔つきの少年だ。数年前までいつも行動を共にしており、およそ一月前に世界中を震撼させた少年

 

 少女にとって、この世で何よりも大切な存在

 

 そして、予想が間違っていなければ先程話題となっていた男のことだった

 

 少女は優れた身体能力で一目散に目的地へ駆け込んでいた。奇跡的にも一度も迷うことなく、である。そして転校の手続きなどお構いなしに、酷く狼狽した様子で事務員の女性に詰め寄った

 

 「あのっ!()()()()に何があったんですか!?」

 

 詰め寄られた事務員の女性はその慌てぶりに当然困惑する。だがそこは大人の対応で一度少女を落ち着かせ、それから織斑一夏の話に移った。指を一つずつ折り曲げて思い出すように少女に語る。少女の願い通り、知っていることを包み隠さずに

 

 

 

 彼が一年一組の所属であること

 

 世界で唯一ISを動かせる男でありまた織斑千冬の弟でもあるため、瞬く間に学園中の生徒の注目の的となったこと

 

 クラス代表に推薦され、自薦したイギリスの代表候補生とISバトルをすることとなったこと

 

 当日になって専用機が渡されたこと

 

 だがその試合ではまともに移動することすら出来ず、相手のシールドエネルギーを1も削れずに惨敗したこと

 

 それ以来、生徒達の彼を見る目が好奇のものから嘲りのそれに変わったこと

 

 「織斑先生の面汚し」、「出来損ない」等の言葉を受けていること

 

 いくら先生が注意しても全くそれらの消える気配がなく、実際に彼への虐めを行う者もいること

 

 

 

 全てを聞き終えた少女はボロボロと大粒の涙を流した。()()()()()()()()()()()()。受付の前で彼女は泣きじゃくりながら何度も訴えた。一夏は悪くない、出来損ないなんかじゃない、姉の付属品でもないと。それを聞く女性もまた彼女の言葉に何度も頷いた

 結局、少女が泣き止んで手続きを終える頃には九時前となっていた。手続きは完了しました、頑張ってくださいね。そう言って微笑む女性に少女は赤く腫れた目も隠さずに尋ねた。二組のクラス代表は誰なのか、と。女性は質問の意図を理解出来ず、首を傾げて理由を問う

 

 少女は……凰鈴音は答えた

 

 「変わってもらうんですよ。一夏の仇は……私が討ちます」

 

 その言葉に、腕につけられた黒のブレスレットが鈍く光った

 

 




 長くなっちった。もう少し短くまとめられたらなぁ

 という訳で鈴ちゃんの登場です。セカン党の皆様、お待たせ致しましたァ!暗い話が多いのでのろけ話の一つでも書きたいもんですね……リンチャンカワイイ

 感想、ご意見等お待ちしております

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