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さて、今回はあの子が出ます
IS学園入学初日、SHRが終われば学園案内のオリエンテーションが始まる……なんてことはなく、ごく普通に授業が始まった。教科はIS基礎理論、担当の先生は副担任の山田先生だ。このIS学園では基本的に座学は担任、及び副担任によって行われるようである。一人で複数ある教科を教えられるレベルまでマスターしておかなくてはならず、かつそれを生徒達が理解出来るように教えなければならないとは、教師という職業は想像以上に大変かつ責任のある仕事らしい
因みに山田先生の授業だったが大変分かりやすかった。電話帳並みに分厚い参考書を渡された時はまだ混乱していたこともあって、全力でゴミ箱へ突っ込みたくなったりもしたが、今になってあれを繰り返し読んでおいて本当に良かったと思う。何せこのIS学園の授業はかなり専門的なもので、入学以前から事前学習を行っていた他の女子生徒ならともかく、俺のようなトーシローが準備もせずについていける程甘いものではないからだ
……でもやっぱり難しいものは難しいので、放課後になったら個人的に聞きに行くことにしよう。これまで学校で習っていたようなことが欠片も役に立たないのは予想以上にキツい
「はぁ~……しんど……」
思いっきり脱力して背凭れに体を預ける。チラッと廊下が見えたのだが大量の生徒が
そんな時、一人の生徒が俺の方へと歩いてきたことに気付いた。凛とした雰囲気を纏ったポニーテールの生徒、千冬姉が現れた時に騒いでいなかった数少ないクラスメイトの一人だった。とうとう直接話し掛けてくるような生徒が現れたかと、内心で溜め息をつく
俺は女が好きではない。女の中でも女尊男卑の思想に染まった連中は男を顎で使うことに抵抗感も罪悪感も抱かない。自分のすること全てが許させると思っているのだ。そんなふざけた連中が、俺は大嫌いだ
さて、俺がどう対応してやろうかと考えている間に、件の彼女は周りの視線を集めながらも俺の方へとやって来ていた。そしてちょうど机の前で足を止め……不意に固まっていた表情を緩めた
「久しぶりだな、一夏」
……
…………
……………………ストップ、誰だこの子?
いやいやいやいや待て待て待て待て、一旦落ち着こう。え、この子今一夏っつったよな。何、知り合い?知り合いなの?俺の?いやいや、俺の知り合いにこんなポニーテールでスタイルのいい大和撫子はいねえ。いるのは八重歯が最高にキュートでミニマムなツインテールの中華娘だけだ。鈴のやつ、元気にしてっかな……っと違う違う。鈴は関係ない、今は目の前のこの子だよ。自己紹介も結局俺で終わったせいか、この子まで回っていないので名前も分からない。あれか、初対面なのに馴れ馴れしく接することで俺の勘違いを誘うタイプか
……ごめん、マジで誰?
「えっと……どちら様ですか?」
「なっ!?わ、私だ!覚えていないのか?」
申し訳ないけど覚えてねえよ
「いや……その……さーせん」
「っ~!箒、篠ノ之箒だ!小学校の四年生まで一緒にいたし、一緒に剣道もしただろう?思い出してくれ一夏」
ふむ、篠ノ之さん家の箒さんか。小学校の四年生まで同じ小学校……おまけに一緒に剣道……
って、あ"あ"!?篠ノ之箒だと!?
「ええ!?もしかして
「そ、そうだ。そのほーきちゃんだ。久しぶりだな、一夏」
うわぁ……ちょっと待って。確かに言われてみればうろ覚えな面影があるような気はするが……こんなに綺麗な子だったっけか……?
篠ノ之箒。俺が小学校一年生の頃に出会った女の子で、当時千冬姉と俺が通っていた剣道場の娘さん、そしてかの天才篠ノ之束博士の妹である。小学生らしからぬ落ち着き振りと男勝りな性格からよくいじめっ子達にからかわれており、その現場に俺が乱入したのが仲良くなり始めた切っ掛けだ。そうそう、だんだん思い出してきたぞ
因みに、乱入したのはいいが当時からどうしようもなく弱かった俺はいじめっ子相手にすぐノックアウトされてしまった。ほーきちゃんは自力でいじめっ子を追い返せていたのに、我ながら情けなさすぎて今思い出しても恥ずかしい
まぁ乱入する勇気だけは認めてもらえて仲良くなった俺達は、彼女が四年生の時にとある事情で転校してしまうまでは竹刀を交えたり、よく一緒に遊んだりしたものだった。小学生の頃なんて性別の違いをそこまで意識したりするような時期でもなく、単なる友達くらいのつもりで一緒にいたのだが……まさかそんな彼女がこんな美少女にジョブチェンジしていたとは。そう言えばいつかの新聞に名前が載っていたような気もする……
「ははは……すまん、全然分からなかった」
「……まぁ何せ六年ぶりの再会だからな。すぐに分からないのも無理はないか」
そう言ってほーきちゃんは苦笑する
「いや本当に。ほーきちゃん、いつの間にそんな美人になったのさ?流石にそれは予想外だって」
「っ……ふん、そういうお前は随分と変わったな。私の知るお前はそこまで口が達者な男ではなかったぞ。……何にせよ、女相手にあまりそんな言葉は使うなよ?勘違いさせたらどう責任をとるつもりだ」
「心配いらねえよ。俺だって言う相手くらい弁えるし、勘違いするような奴がいるならそいつは頭ん中がお花畑になってる奴だけだ」
「ふふっ、まぁそうだな」
あぁ、他愛ない雑談がここまで心地いいのは生まれて初めてかもしれない。荒んでいた心が浄化されていくようだ。ほーきちゃんマジありがとう。女子しかいない学園生活とか完全にボッチ待ったなしのお先真っ暗だったが、ほーきちゃんという希望がいてくれるなら結構いけるんじゃね、的な気持ちになれそうだわ
「一夏、折角この学園で再会出来たのだ、これからも良ければ仲良くしてもらいたい」
「勿論。こっちこそ男一人で肩身の狭い思いしてたとこなんだ、こうしてなんてことない話が出来る人はほーきちゃんだけだし、是非友達になってくださいな」
お互いに握手を交わしてあらためて友達になる。その後、休み時間のギリギリまで俺達は雑談に耽って、少し前まで鬱陶しかった周りの視線もこの時間の内だけは忘れることが出来た
△▽△▽
「──であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ──」
流れるように教科書を音読する山田先生の声を聞きながら、参考書と教科書、そしてノートの三種の神器を駆使して授業を受ける。ただ眺めているだけではこの専門用語の樹海を乗り切ることは不可能、故にノートにペンを走らせてメモをとり、いまいち理解出来なかったところはチェックを入れて後で考える。先生に頼るのはその次だ、初めから誰かを頼りにしていては成長など出来やしない。正直、今の瞬間が人生の中で一番勉強している時間だと思う
「えっと……織斑君、ここまでで分からないところはありますか?」
ふと山田先生から声が掛かる。今までISなんぞ無縁だった俺がちゃんと授業についてきているか気になったのだろう。優しい先生である、中学校の糞教師共とは大違いだ
「大丈夫です。先生の授業は分かりやすいので助かります」
「そ、そうですか!良かったです~……」
それからは特に大したことも起こらないまま授業は終了した。中学時代と比べて一回一回の授業の質が高い為、集中力をずっと持続させていなければならないし、オアシスである休み時間になると生徒達からじろじろ見られる。気が休まる暇が全くないな、畜生
「大丈夫か、一夏……っと、聞くまでもなかったな」
机に突っ伏した俺に声を掛けてくれるのは現状このクラスで唯一の友達、ほーきちゃん。体勢的に彼女を見上げる形となるのだが、その大きな二つの山で顔がよく見えないぜ
「っべー、マジっべーわ。IS学園って目茶苦茶大変じゃねえか……参考書捨てなくて良かった」
「今少し聞き捨てならないことが聞こえたような気がするが……とりあえず頑張れ一夏」
激励の言葉が胸に染みる。やっぱ持つべきものは友だなと実感するが、しかしよく考えてみると俺ってかなり友達が少ないんじゃないのか?小学生の頃はほーきちゃんや鈴しかいなかったし、中学生になってからも親友だと胸を張れるような奴は弾がプラスされただけだ。うわっ、私の友人……いなさすぎ……?いかんいかん、目頭が熱くなってきた
「少し宜しくて……なんで泣いていますの?」
「自分の交遊関係のなさを自覚しただけさ……」
うわ情けな。カッコつけて言ってみたけど情けなさすぎて笑えねえわ。ほら、今話し掛けてきた金髪ロールの女の子も白い目で見て……誰だこの人!?
「……えっと、どなたですか?」
「ま、まぁ!?なんですのその御返事!私に話し掛けられること自体光栄なことなのですから、もっとそれ相応の態度というものがあるのではなくて?」
「……ちっ、そうっすね」
「なんですの、その態度は!」
金髪ロールはわざとらしくでかい声を上げた。この傲慢な態度に今の口振り、自分から話し掛けておいて俺にキレる一連の行動、間違いなくこいつは女尊男卑主義者だ。このような輩は基本的に会話が成立しないので無視するのが最善なのだが……どうやら彼女はその中でも特にしつこい部類に入るようだった
「俺はあんたが誰か知らねえし、んなこと言われたってなぁ……」
「知らない?イギリスの代表候補生にして実技試験首席の、このセシリア・オルコットを知らないとおっしゃいますの!?」
今度はポーズまで決めて驚きを露にする金髪ロール、もといセシリア・オルコット。代表候補生っていうとその文字の通り、国家代表の候補のことだ。国家代表がその国で一番強いのなら、代表候補生はそこに次ぐくらいの実力がある。とにかくISに関してはエリートといっても強ち間違いではない存在なのだ。そんな肩書きまで持っていて実技試験も首席だと言っているのだからISの腕は確かなのだろう。尤も、性格の方は最悪の一言に尽きるが
「生憎、最低限の知識を頭にぶちこむので精一杯だったんだ。それで?イギリスの代表候補生にして実技試験首席のセシリア・オルコットさんが一体どのような用件で?」
「唯一の男性操縦者と聞いて一体どのような方なのかと思っていましたが……これでは期待外れもいいところですわ。あなた、よくこの学園に入れましたわね」
「入れたんじゃねえ、入らざるを得なかったんだよ。期待外れなら、そりゃ悪かった。あ~あ、イギリスの代表候補生にして実技試験首席のセシリア・オルコットさんのお眼鏡に敵わなくて残念だな~」
「っ!私のことを馬鹿にして!」
実際俺に期待されても困るんだよ。男性操縦者だっつってもISを動かせるってだけで、それ以外はただのトーシローなんだから。自己紹介の時にも言った筈だぜ?実技試験の時だってISの動かし方もよく分からず、ただなんとなくで前進させていたところに山田先生が前方から凄まじい速度で突っ込んできて、そのまま仲良く頭を強く打ち付けて気絶したくらいなのだ。因みにこれは実技試験が始まってから約十秒間くらいの出来事である
そしてちょうどその時チャイムが鳴り響き、セシリア・オルコットは「また来ますわ!逃げないことね!」と捨て台詞を残して席へと戻っていった。別に来なくていい、というか来るなめんどくさい。で、それとほとんど同時に千冬姉が教科書片手に入ってきた。次の授業をするのは山田先生ではなく千冬姉らしい。姉の授業ということで少しだけわくわくしてきた
「席につけ、授業を始めるぞ。この時間では実践で使用する各種装備の特性について説明する。ノートに書くなどして聞き漏らしのないように……っと、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなくてはな」
不意に聞き慣れない単語が聞こえてきて首を傾げた。クラス対抗戦?代表者?一体なんだそれは?
「代表者とはこのクラスの代表、つまりクラス長のことを指している。クラス対抗戦は各クラスの代表が実際にISを使って試合をし、各クラスの実力推移を測るものだ。クラス代表者には今回行われるクラス対抗戦以外にも様々な仕事があり、一度決まれば余程特別なことでも起きない限り変更は認められない。一先ずはこんなところか、クラス代表者やクラス対抗戦について質問のある者はいるか?」
千冬姉の言葉に手を上げる者はいない。勿論、俺もだ
「ふむ、では代表者を決めるぞ。自薦他薦は問わん。我こそは、もしくはこいつこそ、と思う者がいれば手を上げて発言するように」
あ、これは推薦される流れだわ、間違いない。このクラスには世界唯一の男性操縦者なんていう絶好の生け贄があるのだ、
「はい!織斑君を推薦します!」
「私も!」
「私もで~す!」
案の定、あちこちから俺を推薦する声が上がり始める。トーシローだから過度な期待はやめてくれっつっただろうに……勘弁してくれっての。今日何度目かになる溜め息を溢す
「候補者は織斑一夏、他にはいないか?」
「織斑先生、辞退させてください」
「他薦された者に拒否権はない。お前は自分をわざわざ推薦した者の期待を裏切るつもりか?」
切なる願いがたった一言でばっさりと斬り捨てられる。期待なんて言うがそんな綺麗なもんでもなかろうよ。大方、面白そうだからだとか、厄介事を任せられるからとかに違いねえって。決して声には出さないが内心で悪態をつく
結局、俺を推薦した生徒は二十人程まで増えていき、確実に断れない数にまで肥大した。支持率驚異の65%越えだ、全然嬉しくねえ。そしてこのままクラス代表者は俺に決定するかと思われたが……決定寸前にある意味で予想通りと言うべき人物が立ち上がった
「待ってください!納得いきませんわ!」
バァン!と机を叩いて勢いよく叫ぶ一人の生徒。先程まで俺と話していた金髪ロール、セシリア・オルコットだ
「そのような選出は認められません!大体男がクラス代表など恥さらしもいいところですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
なら自薦すりゃいいじゃん、とは言ってはいけない。きっとこいつは他薦されたかったんだろう
「実力的に考えれば私がクラス代表となるのは必然です。それを物珍しいというだけの理由で極東の猿にされては困りますわ!私はわざわざイギリスからここまでIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをするつもりなど毛頭ありません!」
……口は悪いが言っていることは正しいな。極東の猿って部分は訂正願いたいが……
「宜しいですか?クラス代表にはこのクラスで最も強い者がなるべきです!そしてそれはイギリスの代表候補生にして専用機持ちである、この私ですわ!」
再びバァン!と机を叩くセシリア・オルコット。その音で何人かの肩がビクッと跳ねる。あいつ、専用機なんて持ってたのか。なら実技試験で首席になれたのも合点がいくし、あのどこから来るのか分からない自信にも納得出来る
ISを動かすにはISコアと呼ばれる心臓が必要だ。そしてそのISコアは500個にも満たない数しか作られておらず、製造方法もISの生みの親である篠ノ之束博士しか知らない。そんな貴重なISコアを一個人に使う専用機など、国家あるいは企業に所属している余程優秀な者にしか与えられない。専用機持ちである、たったそれだけでセシリア・オルコットが如何に優れたIS乗りであるか想像するに難くないだろう
「大体、文化としても住んでいる人間としても後進的な島国で暮らすこと自体、私には耐え難い苦痛なのです!ですから──」
あ、流石にちょっとそれはまずい。今まで傍観していた、というか呆然となっていた生徒達が「何言ってんだこいつ」みたいな顔になり始め、山田先生が目を見開いて青くなっていく。あの千冬姉ですらよく見れば額に青筋が浮かんでおり鉄面皮を保とうとしていた
いくら代表候補生で専用機を持っていたとしても他国を貶めるような発言は認められていない。むしろ、なまじ発言力がある分、そんなことを言ってしまえば大変なことになるだろう。下手すりゃ国際問題だぞ。IS学園には世界中から生徒達が集まるが一番比率が多いのはやはり日本人だ。熱心な愛国者でなくとも自分の国を後進的な島国だとか、自分達のことを極東の猿呼ばわりされれば当然腹が立つし、面白くもない筈だ
そして極めつけは、それを言ったセシリア・オルコット自身が発言の意味を理解していないところだろう。誰だ、あんな奴を代表候補生に据えた馬鹿は
なんてことを考えていると、長かったセシリア・オルコットの演説も漸く終わったらしい。しかしよくもまぁあれだけの言葉が出てくるもんだ、逆に感心する。見習いたいとは思わないが
「……いいだろう、オルコットは自薦だな。他に自薦する者や他薦する者は?」
えぇ……千冬姉怖いよ、声低すぎだって。今後ろの方から「ひぃっ……!?」って聞こえたぞ。俺は馴れてるからいいとして他の生徒にはまずいから抑えてくれ
しかしこれでクラス代表の候補は俺とセシリア・オルコットの二人となった訳だが、これからどうするつもりなのだろう。中学校ではジャンケンか多数決か、はたまた女尊男卑の連中による理不尽な決定で決まっていたが……
「……なしか。ならば来週、織斑一夏とセシリア・オルコットによる試合を行い、勝者をクラス代表者とする。ここはIS学園だ、白黒つけるのならISでつけろ」
……なるほど、ISを使っての試合か。片方は世界で唯一の男性操縦者、もう片方はイギリスの代表候補生、なんとも盛り上がりそうなカードじゃないか。俺が第三者だったなら是が非でも見に行っていただろうが……残念ながら俺は主催者側だ。精々足掻かせてもらうとしよう
ざわめく声を背景にして俺は千冬姉以外に気付かれぬよう、一人小さく笑った
ということでほーきちゃんとセッシーの登場でした。セッシーはあんまり変えてませんがほーきちゃんは序盤、あまりに報われなさすぎてる気がするので親友ポジに移動になります。ファース党の皆様、ご了承下さい
キャラ紹介の時間
篠ノ之箒
一夏が小学生の頃に出会った少女。剣の道を往く侍ガール。一夏がいじめっ子に完敗したせいでかっこいいというより勇気があると思うようになる。一夏には異性としての好意はほとんどなく、友人やライバルといった感情が強い