『IS/VS』のくだりは基本捏造設定です
六月、梅雨の季節だが雨など降らない快晴の空の下、俺と鈴はIS学園から出てとある男の家にお邪魔していた
五反田弾
赤い長髪にバンダナがトレードマークの少年。俺、織斑一夏にとって唯一の男友達であり、また文字通り命の恩人と言える奴である。弾、そして鈴には中学時代に色々とお世話になったのだが、説明すれば間違いなく長くなるので割愛させてもらう
「むむむ……!」
俺はゲームのコントローラーを握り締めながら、必死の形相で画面を睨み付けた。画面には二機のISが飛び交い、装備された武器でお互いに画面の端に表示された体力を削りあっている
一機はフランス製の二世代機『ラファール・リヴァイヴ』。IS学園でも生徒の訓練機として採用されているそれは、このゲーム『IS/VS』でも屈指の安定性を誇っており、また選択出来る武装の数も多岐に渡っている。そして現在俺の操作するISで、装備は近接ブレード、パイルバンカー、アサルトライフル、ロケットランチャーの四種類である
もう片方、弾の操るISはイタリア製の二世代機『テンペスタ』。このゲームでは防御力の低い半面、高い機動性と攻撃力を有している機体だ。装備もブレード二本にライフルと少ない代わりにブレードによる連撃がえげつなく、必殺ゲージがすぐにチャージされてしまう。そこから繰り出される無慈悲な必殺技は此方の体力を容赦なく削っていくのである
「オラオラ!どうした一夏!」
「くそ、動くんじゃねえよ畜生が!攻撃が当たらねえだろうが!」
熱中の余り、無意識の内に声が張り上げられる。俺は飛び回るテンペスタをアサルトライフルで狙いながら接近、ブレードに持ち変えて斬り掛かった。しかしそれは弾も同じで、素早くコントローラーを操作してラファールへと突っ込んで来る。だが、それは甘いぜ弾!
俺はギリギリまで弾を引き付け、必殺技を発動した。隣から避けようとボタンを連打するカチカチカチカチという音が聞こえるがもう遅い、テンペスタはラファールの斬撃、からの一斉射撃というド派手な演出の必殺技を一身に浴びて、四割程残っていたその体力を二割程度まで減らした。後ろから鈴の声が、そして隣から弾の慟哭が響く
「ヒューッ!やるわね一夏!」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!俺のテンペスタァ!」
「はっはっは!懺悔の用意は出来ているか
その言葉と共に放たれた命中難易度最大のロマン兵器、パイルバンカーがブレード両手に突っ込んで来たテンペスタを見事に捉えた。豪快な爆発音が轟き、画面に表示される『PLAYER - 2 WIN ‼』の文字に俺が勝鬨を上げ、弾がガクリと崩れ落ちる。どうだ、ざまぁみやがれ!
「ぐぉおおおおおお……!負けたぁ……!」
「勝った……!とっつき最っ高……!」
「いつも思うんだけど一夏ってとっつきを当てることに関してはプロよね~」
そりゃ練習したからな、と俺は自信満々に答える。ISという高速機動戦がメインであるこのゲームにおいて、有効距離が短いこの
が、ボタンを押してから使用までには若干のラグがあり、外せば大ダメージを受けることは想像するに難くない。当たり判定も小さくタイミングが酷くシビアなのも特徴だ。使いこなすことが出来れば最強の相棒となるが失敗すれば痛手を負う、パイルバンカーとはそういう武器なのである
「さて、じゃあ次は私の番ね」
「「──メイルシュトローム?」」
俺と弾は同時に声を上げた。メイルシュトロームといえばイギリスの二世代機で『IS/VS』内では技が弱い、コンボが微妙と愛がなければまず使わない機体ということで有名だ。『IS/VS』歴の長い鈴がそれを知らない訳がない。まさか舐めプか?
「どうしたの一夏?まさか怖じ気付いたの?」
……分かったぜ。そっちがそのつもりなら──
「──受けて立つぜ、鈴!」
俺はコントローラーを握った。カーソルを動かしてラファールに合わせ、武器を先程と同じ四種類に設定する。悪いな鈴、お前がいなくなってからマスターしたこの機体で負けたことは一度もねえ!
メイルシュトロームの武器は分かっている。ブレードにハンドガン、そして追尾ミサイルの三つだけだ。追尾ミサイルはそのホーミング性能こそ厄介だが、一発一発の威力は大したことない。他の二つも同様だ。そんな微妙な機体でこのラファールに勝てるものか!
「来なさい一夏!中国で鍛えた私の実力、見せてあげるわ!」
「強くなったのはお前だけじゃねえんだ、いくぜ鈴!」
『BATTLE START ‼』
俺達の誇りを賭けた戦いが、今始まる。野暮な突っ込みは禁止な!
「ば……馬鹿なぁ……!」
「一夏ァ!しっかりしろォ!」
「はーっはっは!ざまぁないわね一夏!」
「弾……俺はもう駄目だ……!仇を……ガクッ」
「一夏ぁあああああああああああ!!」
「ふふん!一夏、勝利者権限としてアンタには一生私を幸せにすることを命令するわ!次は弾、アンタの番よ!」
「くっそォ!鈴なんかに絶対負けねえ!」
「……鈴には勝てなかったよ」
「
「あははははははは!代表候補生たる私に勝てるとでも思ったのかしら!さぁ弾、アンタにも一夏と同じことを命令するわ!二人揃って私を幸せにしなさい!」
「「イエス、マム!!」」
実はこのノリ、俺達の平常運転だったりする
△▽△▽
「お兄!さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに──」
俺と弾が鈴を幸せにすることを命令されてから約一時間後、乱暴に部屋の扉が開かれ一人の少女が姿を現した。弾と同じ赤い長髪に随分とラフな格好。が、全寮制の女子校同然のIS学園暮らしの俺にはもう見馴れた格好だ
彼女の名前は五反田蘭。弾の妹で、この辺では有名な私立女子校に通う中学三年生、つまり一つ下の女の子である。イケメンな弾に、そしてお母さんの蓮さんに似て美人さんだ
「よぉ蘭ちゃん、お邪魔してるぜ」
「久しぶりね、蘭」
俺にとっては五ヶ月ぶり、鈴にとっては一年半ぶりくらいだろうか、とにかく久しぶりだ。俺達二人がひらひらと手を振って挨拶をすると、蘭ちゃんは顔を赤らめ急いでこそこそと扉の陰に隠れてしまった。なんか可愛いな
「い、一夏さん……鈴さん……き、来てたんですね」
「おう、学園からの外出許可が漸く下りたんでな。元気にしてたか?」
「え、ええ……まぁ……」
しどろもどろ、といった具合に呟く蘭ちゃん。その視線は俺と鈴の間を行ったり来たりしている
「あの……その……鈴さん……」
「何?どうしたの蘭」
ニコリと満面の笑みを浮かべる鈴に蘭ちゃんはビクッと肩を震わせる。昔っから鈴が苦手っぽいんだよなぁ彼女。本人曰く、「私はあの人に負けたんで」とのこと。なんとなく分かるような気もするが合ってたら凄く気まずくなりそうなのでやめておこう。だって……ねぇ?
「あ……う……ご、ご飯が出来ましたよ!」
最後の方はもう涙目になって、蘭ちゃんはバタバタと自室のある方へ行ってしまった。その様子がどこか微笑ましくて俺は少しにやけていると、弾と鈴、左右からゴスッと肘打ちが入る。何故だ
「「浮気すな」」
「してねえっての……」
はぁ、と溜め息を溢し、とりあえず弾の後ろについていく。ご飯が出来たと彼女は言っていたし、何かしらの料理をご馳走してくれるんだろう。ありがたいことだ
一度裏口から出てから俺達は正面より入り直す。空いていた最寄りの席に俺、鈴、弾の順番に座れば、五反田食堂の大将にして一家の大黒柱、五反田厳さんが中華を片手に姿を現した。筋肉隆々で浅黒い肌はとても
「お久しぶりです、厳さん」
「お久しぶりです、お邪魔してます」
「おう。随分と久しぶりだな、坊主に嬢ちゃん。まぁゆっくりしてけや」
厳さんは満足そうに頷くとここの鉄板料理である『業火野菜炒め』を置いて厨房へと戻っていった。せっかくの料理を冷ましては失礼だ、俺達はすぐに手を合わせて箸を伸ばした。シャキシャキの野菜に肉の旨味が絡み合い、絶妙な美味さを引き出している。うん、やっぱ美味しい
「ん~!美味しいわ!さっすが厳さんね!」
「やっぱ厳さんには勝てねえわ……美味えなぁおい」
「噛みながら喋るなよ、鍋が飛んで来っからな」
弾の言葉に俺達はグッと親指を立てる。途中からは弾の盛ってきた白米、そしてカボチャの煮物も加わって文句なしの一時となった。ここの料理は味もそうだが、
「さぁ~て、ご飯も食べたしどこ行きましょうか?」
「やっぱカラオケは外せねえよな。後はゲーセン、そんでそんで!」
「はしゃぎすぎだろ一夏……まぁ久々だしな」
「当ったり前だろ!言ったじゃねえか、鈴の帰国祝いをしようぜってさぁ!俺、楽しみにしてたんだぜ?」
「わーったわーった!時間いっぱいまで付き合ってやるから落ち着けっての」
「なんかこんなに元気な一夏を見るのも久しぶりね~。ふふっ、じゃあ行きましょ!」
俺達の休日は、まだまだ終わらない
短いですがここまでです。お疲れさまでした
次回から二巻の内容に入ります。そしてオリキャラを一人出しますのでご了承ください
最後になりましたが、これからも宜しくお願い致します