ひねくれ凡夫ワンサマー   作:ユータボウ

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 今年最後の更新となります。皆様、よいお年を



12話 ワンサマー、腕を振るう

 どうも、織斑一夏です。全くもって今日はとんだ厄日だった。鈴の試合を応援して終わる筈だったってのに……何をどう間違えたら謎のISに狙われ戦わねばならんのだ。クラス別対抗戦もそれ自体が中止になったらしいし……もう散々だ

 あの戦いが終わった後、俺と鈴、セシリア・オルコットの三人はすぐさま保健室に運び込まれた。幸いにも三人とも大事に至るような傷はなく、精々筋肉痛や青アザ止まりのものが幾つかあったくらいだった。やっぱりISの絶対防御っては凄いもんだなぁとあらためて実感する

 で、あの正体不明機だがやっぱり無人機だったらしい。学園側はこの情報を秘密にしたいらしく、交戦した俺達は揃いも揃って口外しないという誓約書を書かされることになった。破った場合のことは教えられなかったが、千冬姉が笑顔と共に「二度と日の出が見られなくなるかもな」と言っていた。悪いが俺はまだ死にたくない、大人しく千冬姉の言う通りにさせてもらおう

 

 

 

 で、現在俺達はというと──

 

 

 

 「あ、鈴ケチャップ取って」

 

 「はい」

 

 「サンキュ」

 

 厨房の一角を借り受け、晩飯を作っていた

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 そもそも何故俺と鈴が晩飯を作っているのか、それは無人機の一件についての事情聴取やら誓約書へのサイン、保健室での治療やらなんやらで解放されたのが八時過ぎだったことが原因だ。昼頃から何も食っていなかった俺達三人は当然空腹で、そして使える時間が六時から七時までの食堂は利用出来ない

 これはどうしたものかと途方に暮れていた俺達だったが、食堂のおばちゃん達や先生に相談した結果、なんとかこの一年生学生寮に備えられた食堂の厨房を使用する許可を貰うことが出来たのだ。ただ、やはり生徒だけでは使わせることは出来ないということで、偶然通り掛かった山田先生を説得して来てもらった。そして、現在に繋がるという訳である

 

 

 

 ん、セシリア・オルコットはどうしてるのかって?あいつはテーブルで待機させている。料理の出来ない者には厨房に立つ資格はないのだ

 

 

 

 「~♪」

 

 フライパンの上から香ばしい匂いが広がる。つーかこうして料理をするのも随分と久しぶりだ。学園に来てからは基本的に学食生活だったし。腕も鈍ってないみたいだし、これは味に期待が出来そうだ

 フライパンの上で薄く広げられたふわふわの卵を破かないように皿へ移し、その上に別のフライパンで作っていたケチャップライスを乗せる。そしてそれを卵で閉じ、その上から更にケチャップで文字を書いた

 

 

 

 完成

 

 織斑一夏特製ふわふわオムライス。因みに書いた文字は『俺』『鈴』『セシリア・オルコット』『山田先生』だ。カタカナの名前は初めて書いたような気がするな。一文字一文字が小さくなったが潰れてないしちゃんと読める。我ながら満足のいく出来だ

 

 

 

 二つの腕で四つの皿を運ぶという結構器用な技を披露し、食堂の端にある小さめのテーブルにそれらを並べる。それを見たセシリア・オルコットと山田先生が絶句する様子は、なかなか見ていて面白かった。男イコール家事が出来ないなんて思うなよ。そんなのは男より女が偉いと考えるくらい間違った発想だ

 

 「わぁ……!織斑君、凄いですね!」

 

 「これを……あなたが……?」

 

 「簡単な料理だけどな。あ、『男が作った料理なんて食べれませんわ!』なんて言うなら別に食わなくても構わねえから」

 

 食べ物を粗末にすることは俺が許さん。例えそれが代表候補生であってもだ。当然だが食べるつもりはあるようで、そこまでは言いませんわ、と言いながらセシリア・オルコットはスプーンを握った。山田先生はなんというか、非常に申し訳なさそうに此方を見てくる

 

 「ご、ごめんなさい織斑君。こんな美味しそうなご飯を用意してもらって……」

 

 「気にしないでください。ていうか、お礼を言うのは俺たちですよ」

 

 そもそも先生がいなければこうして晩飯を作ることすら出来なかったのだから、感謝するのはむしろ俺達の方である。そんなやり取りをし終えたそのタイミングで、鈴もまた料理を持って到着した

 

 「お待たせ~、出来たわよ~」

 

 ゴトン、と音を立てて大皿がテーブルの真ん中に置かれる。そこからいかにも美味(うま)そうな匂いを漂わせているのは、衣をつけて揚げた豚肉や野菜に甘酢あんを絡めた料理。とどのつまり酢豚である。中華料理屋の娘が一番得意とする料理だ、その味は推して然るべきだろう

 オムライス、酢豚、そしておまけ程度に中華スープ。学生の晩飯にしてみればなかなかに豪華な献立が並んだ。鈴が席に着くのを確認してから俺は手を合わせる。鈴と山田先生もまた同じように手を合わせ、それを見たセシリア・オルコットがスプーンを慌てて置き、俺達を真似た

 

 「「「いただきます」」」

 

 「い、いただきますわ」

 

 ささやかな晩餐が、こうして始まった

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 「「「「ご馳走さまでした」」」」

 

 それなりに量のあった筈の料理は空腹だった俺達の前に呆気なく食い尽くされてしまった。料理は自作のオムライスを含めてどれもかなり美味く、食べ終わるのに十分と掛からなかった程だ。特に鈴の酢豚、あれは思い出補整等々もあって神憑り的な美味さを誇っており、四人で分けあったことで一番最初になくなってしまった。やっぱり鈴の料理は最高だ

 唯一心配だったのがセシリア・オルコットが飯を食わないかもしれないということだったんだが……やはり空腹には勝てなかったんだろうな。最初は恐る恐るといった具合に手をつけていた料理は全て彼女の胃に収まっていた。あれだけ美味そうに食べてくれたなら料理人冥利に尽きるというものだ

 

 「ふぁああ~……」

 

 スポンジで食器を洗っているとつい欠伸が出た。空腹を満たすことが出来たせいか、先程から襲ってくる眠気が半端ではない。肉体的にも精神的にも、今日はかなりハードだった。しかし今は皿洗い中、落として割ったとなれば大変なことになることは想像するに難くない。集中せねば

 

 「あぁもう疲れた……今日はさっさと寝たいわ……」

 

 「同感ですわ。流石に私も少々草臥(くたび)れてしまいました……」

 

 同じように皿を洗っていた二人もまた随分と疲れた様子を見せている。しかしよくもまぁ無事で済んだもんだ。一歩間違えれば大怪我を、最悪命を落としていたかもしれない戦いで何事もなく目的を果たせたのは、なんだかんだ言いつつも三人で協力した結果だろう。もしこのメンバーの一人でも欠けていれば……いや、やめておこう

 

 「あんなことがありましたし、皆さん今日はゆっくり休んでくださいね。明日もまだ学校がありますから……」

 

 山田先生の一言に三人揃って頷く。先生も後始末に追われて大変だろうに……

 

 「……ま、皆お疲れさんって感じだな。正直、今日だけで十年は寿命が縮んだぜ。あんなのはもう勘弁だ」

 

 「全く。ていうか、私達よく戦えたわよね。三人で戦う練習とか一回もなかったのに」

 

 「もう一度やれと言われても出来る自信がありませんわ……」

 

 色々とぼやきながらもテキパキ食器を片付けていき、全てが終わった時にはもう九時を回っていた。食堂を出て窓から空を見れば沢山の星が見える。五月の中頃ということもあって気温も丁度いい、疲れがなければもう少しのんびりと眺めていたいくらいだ

 

 「それでは皆さんお休みなさい。寄り道なんてしちゃいけませんよ?」

 

 山田先生は笑顔と共にそう言い残して、食堂の鍵を片手に校舎の方へと戻っていった。教師ってのも大変だなぁ。勿論、IS学園の教師が特別だってことも理解はしているが。学園を襲撃する存在が現れたってだけでもヤバイことなのに、それが無人機ともなれば尚更のことなんだろう。今頃どうこの事態に対応するか、お偉いさんが会議でも開いているんだろうか?

 

 「では、私はここで」

 

 おっと、いつの間にかセシリア・オルコットの部屋の辺りまで来ていたらしい。食堂は寮に備え付けられているだけあって、部屋までの距離もかなり短いからな。俺と鈴はそのまま適当に言葉を交わして彼女と別れる……と思いきや、いきなり声を掛けられて足を止めた

 

 「織斑さん、凰さん」

 

 「「……?」」

 

 「今日は本当に助かりました。それに夕食まで戴いて、感謝の言葉しかありませんわ」

 

 そう言ってセシリア・オルコットは恭しく頭を下げた。なんだなんだ、急にこんなことをして。いつもの傲慢とも捉えられる態度はどこへいったんだよ。あまりにも意外過ぎる言葉に頭がフリーズしかかった

 

 「……なんだよ、急にそんなこと言い出して」

 

 「このセシリア・オルコット、恩を受けておきながらそれを蔑ろにするような真似は致しませんわ」

 

 それに、と彼女は一旦言葉を区切る

 

 「今日の一件であなたを少しだけ見直しました。勿論、素人が戦場に飛び出してくるなど言語道断です。が、的確な観察眼や緊急時の判断力、この二つは評価致しましょう」

 

 光栄にお思いくださいまし、とセシリア・オルコットは腰に手を当てたいつものポーズを決めた。なんでだろうな、褒められている筈なのに全然嬉しくねえ。そしてその上から目線の物言いにむっとした鈴が突っ掛かった

 

 「何よその言い方は。私達は三人であの無人機を相手したからこそこうして今もいられるんだ、とか思わないの?」

 

 「それくらい分かっていますわ。だからこうしてお礼を言っているのです」

 

 ……つまり、今の言い方が精一杯譲歩した結果だと言う訳か。鈴は納得いってない、って顔をしてるが……これがセシリア・オルコットという奴だと理解していれば、存外にすんなりと受け入れられた。こいつにとって女尊男卑、いや、男嫌いはデフォルトなんだろう

 俺は鈴を制して頭を下げた。上から目線の物言いは確かに聞いてて気持ちのいいもんじゃない。というかぶっちゃけ気に食わないが、それ以上に正鵠を射ていることが多い。セシリア・オルコットが俺達に助けられたというように、俺達もまた彼女に助けられているのだから

 

 「セシリア・オルコット、礼を言うのは俺の方こそだ。あの無人機は俺と鈴だけじゃ多分敵わなかった。此方こそ助かった、ありがとう」

 

 「……癪だけどアンタの実力の高さは理解出来たわ。今回のことはあたしも礼を言う、オルコット」

 

 「ええ。凰さん、今日の試合は無効となってしまったことですし、いずれ決着をつけたいものです。それでは失礼致しますわ」

 

 最後に洗練された動きで礼をすると、セシリア・オルコットは自室へと戻っていった。ああいう動きを見ると奴が貴族の生まれだということにも納得がいくなぁ。尤も、気に食わないことに変わりはないが

 

 「さぁ鈴、俺達も──」

 

 そう言った俺の言葉はいきなり飛び付いてきた鈴によって掻き消された。胸の辺りから下に暖かな体温を感じ、突然のことに倒れそうになるのを堪える

 

 「鈴……?」

 

 「ごめん一夏。ちょっとだけ、もうちょっとだけでいいから──このままでいさせて?」

 

 途切れそうなくらいか細い声で呟いた彼女の頭を、俺は壊れ物を扱うようにしながら胸に抱く。すると途端に、今まで目を背けていた恐怖だとかそういった感情が一斉に襲い掛かってきた。ぞくりと、今まで感じたこともない程の寒気に全身が震える

 

 

 

 怖い

 

 一歩間違えれば死んでいたかもしれないという事実が

 

 怖い

 

 もしかすると鈴を失っていたかもしれないという事実が

 

 そして何より、嬉しい

 

 今、こうしてお互いに生きているという事実が

 

 

 

 「一夏……生きてるよね、私達」

 

 「あぁ、生きてる。生きてるよ」

 

 「うん、うん。そうだよね──」

 

 よかった、と

 

 鈴は最後にほっと、胸を撫で下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして時は流れ──六月

 

 俺達の前に、新たなる災厄が現れる

 




 遅くなった上に内容が薄くて申し訳ありません。セシリアがライバル的な立ち位置に落ち着きました、なんとなく新鮮だ

 この後、閑話として弾との休日を挟んでから二巻の内容に入ります
 予告としてはラウラポジションのオリキャラを一名出そうと思っております。ただ、このキャラは二巻の内容が終了した時点でいなくなりますので、完全にヘイトを集めるだけの役になります。オリキャラが苦手、嫌いという方は申し訳ありません

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