ひねくれ凡夫ワンサマー   作:ユータボウ

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 どうも、少し多忙で遅れましたが更新です
 



10話 ワンサマー、思い知らされる

 『第一試合 セシリア・オルコット(一組) 対 凰鈴音(二組)』

 

 翌日放課後、俺を含む多くの生徒は掲示板に貼り出された一枚の紙に釘付けとなっていた。クラス別対抗戦──IS学園での生活において一番最初のイベント──の対戦表だ

 

 「まさか一発目に一番の目玉があるとはなぁ……」

 

 俺はしみじみといった具合に呟く。第一試合から専用機持ちの代表候補生同士が当たることになるとは……このクラス別対抗戦が大いに盛り上がることは間違いなさそうだ

 

 「むしろちょうど良いわ。あたし、あのイギリス女をぶっ飛ばしたくてしょうがなかったから」

 

 俺の隣で対戦表を見ていた鈴が自信ありげに笑う。過去に負けたことでもあるのかと聞けば「アンタがボコボコに負けたからに決まってるでしょ」と言われ、ついでに「あんな奴に一度でも負けるもんですか」と怒られてしまった

 

 「一夏、アンタこれからどうすんの?」

 

 「いつも通り特訓だな。今日はボーデヴィッヒが茶道部らしいから一人でだけど」

 

 コーチがいなくとも出来ることはある。俺だってただ言われることだけをやってた訳じゃねえんだから。すると鈴が思わぬ提案をしてくれた

 

 「手伝うわよ?あたし専用機持ちだし」

 

 「マジか、助かる」

 

 渡りに船とはまさにこの事。迷わず即答し、未だにざわめく人混みから離れて二人でアリーナへと向かう。部活で思い出したが、IS学園の校則には生徒は部活ないし生徒会に所属することが義務付けられていたような気がする。身近な人で言うならほーきちゃんは剣道部、ボーデヴィッヒは茶道部、布仏さんが生徒会といった感じだ

 やっぱり俺も何かしらの部活動に所属すべきなのだろうか。ただ一刻も早く専用機を使いこなせるようになりたい自分には、とても部活動なんてやっている余裕はねえ。そもそも俺って何やってもパッとしねえし……昔打ち込んでいた剣道だって離れて久しいのだ

 

 「鈴は部活とかやるのか?」  

 

 「ん~……確かやらなきゃいけないんでしょ?体を動かすのは嫌いじゃないけど……面倒は嫌いね。とりあえず一夏と同じ部活にするわ」

 

 ……嬉しいんだが今の俺にはなんとも困る返事だ。俺も鈴と同じならどこでもいいんだよなぁ……と、そんなことを考えている内にアリーナへと到着した。ここで俺達は一旦別れて更衣室へと向かう。ISスーツは既に着込んでいるから制服を脱ぎ捨てるだけでいい。実に簡単だ

 その後、ピットのカタパルトから飛び出してアリーナへと飛翔する。数週間前に比べれば随分とましになったもんだが、それでもまだまだ素人に毛が生えた程度だ。上達はしているようだが、そのスピードはお世辞にも早いとは言えない

 

 

 

 強くなりたい。千冬姉の弟の名に恥じぬよう、周りからの重圧に押し潰されぬよう、俺は強くなりたい。そんな想いだけが日に日に大きくなっていく

 

 

 

 「……はぁ」

 

 『お待たせ……って、どうしたの?』

 

 プライベートチャネルから届く声に顔を上げれば、そこには赤黒い装甲を身に纏った鈴の姿があった。視界の端っこに映し出される機体名は『甲龍(シェンロン)』。肩の横に浮かぶ棘付きの非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が存在感を放っている

 

 「大丈夫だ、なんでもねえ。んじゃ、早速始めるか」

 

 「……ええ、そうね」

 

 心配そうな鈴に向かって首を横に振り、小さく呟いて雪片をコールする。これが俺にとって唯一の武装。それを見た鈴もまた自身の得物を取り出した

 

 「ふぅん……いきなりやり合おうって訳?」

 

 「いや、その前に少し俺と打ち合って欲しい。俺が今から打ち込むから鈴はそれを……」

 

 「防げばいいのね?分かったわ、それじゃ全力で来なさい。でないとあたしに一撃当てるなんて絶対無理だから」

 

 それは挑発でもなんでもない事実だった。僅か一年の年月で専用機を手に入れた彼女がどれだけ優れているのかなど、わざわざ説明するまでもないだろう。故に、俺も全力で鈴を斬るつもりでいく

 

 「いくぞっ!」

 

 「掛かって来なさい!」

 

 俺はスラスターを噴かして一気に鈴へと突っ込んだ。白式は装甲が薄い分スピードを出せる。先手必勝と意気込んで振り下ろした一撃、しかしそれは甲龍の持つ青龍刀『双天牙月』によって難なく受け止められた。ならばと更にスラスターの勢いを上げて甲龍を押すが、ギチギチと金属音が鳴るだけで本体はびくともしない

 

 「くっ……!」

 

 「スピードはあるみたいだけど……それだけじゃこの甲龍は倒せないわよ!」

 

 「ちっ、だったら!」

 

 一度雪片と引き、今度は縦横斜めのあらゆるアングルから振るった。辺りに高音が立て続けに響く……が、俺の攻撃は全て双天牙月によって防がれており、甲龍のシールドエネルギーを減らすことは叶わなかった。ハイパーセンサーが鈴のまるで堪えていない涼しそうな顔を捉える

 

 「そんな雑な攻撃、効く訳ないでしょう!」

 

 そんな叫び声と共に放たれた素早い()()が俺に突き刺さる。腹部に走る衝撃に酸素が一気に吐き出された

 

 

 

 ……って、反撃されたぞおい!

 

 

 

 「がっ……!?」

 

 「まだまだぁ!」

 

 さっきと一転して守りに回った俺だが迫り来る二つの双天牙月に翻弄され、少しずつシールドエネルギーが削られていく。二つの得物という手数の多さに防御が遅れている。絶え間ない猛攻に息が乱れ始め、その遅れが更に顕著となってきた。最早「待ってくれ」と言える余裕はない

 

 「はぁ……!はぁ……!」

 

 「悪いけどこの程度じゃ終わらないわ。へばってる暇なんてないんだから!」

 

 隙を見てなんとか距離をとったものの、体勢を立て直す暇なくすぐに詰められた。振り下ろされた強烈な一撃を雪片で防ぎ、すぐさまやって来る二撃目を全力で回避する。パワーで押される以上防御は悪手、ならば避ける他に道はない。これまで倒れるくらい繰り返してきた動作面での特訓、その成果をここで出さなければ確実に負ける。俺は反撃を諦め回避に可能な限りの意識を集中させた

 

 

 

 速く、もっと速く反応しろ。先の動きを読め。目を見開いてよく見ろ。こんなんじゃ、いつまで経っても俺は……!

 

 

 

 「う、ぉおおおおお!!」

 

 「やぁああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どのくらい時間が……いや、大体二分から三分程度か。白式のシールドエネルギーは八割近く減少し、装甲のあちこちが凹み潰れていた。そして対する甲龍はほぼ無傷に等しい。まぁ途中から攻撃を諦めてたんだから当たり前っちゃ当たり前か。意識の大半を回避に向けていたし

 

 「……ごめん、訓練の内容忘れてた」

 

 「……だろうな」

 

 ゆっくりとアリーナの地面に降り立ち、展開していた雪片をしまう。全く、こうも歯が立たねえとはつくづく代表候補生ってのはとんでもねえ存在だ。まぁ俺が弱すぎるってのもあるが……手を抜かれていたとはいえ、一先ずはそんな存在と刃を交えるところまでいけた自分を褒めるべきか?

 

 「大丈夫、一夏?あたし、結構やりすぎちゃったかな……」

 

 「特訓なんだ、気にしないでくれ」

 

 暗い顔をした鈴へ平気だと笑った。特訓なんだがやっぱりあそこまで一方的にやられるとなかなかキツイ。ボーデヴィッヒのメニューをこなしていたのだし、驚かせることくらいは出来ると思ってたんだが……現実はそう甘くねえってことかよ

 

 「……こりゃ、反省会だな」

 

 重くなる気持ちを振り払うように飛び立ってピットへと戻る。ISの展開を解除すれば、操縦者保護機能によって誤魔化されていた疲労や不快感がどっと押し寄せてきた。頭痛と眩暈に足を止め、支えを求めて近くの壁に手をつく。金属の壁から伝わる冷たさがやけに痛い

 

 「くそっ……」

 

 思わず悪態が飛び出た。この程度でへばってる訳にはいかねえってのに

 

 「大丈夫一夏、肩とか貸す?」

 

 「いや……いい。だいぶましになってきた」

 

 「……嘘ね。強がりは別にいいけどそんな様子じゃ説得力ないわよ。ほら、さっさと腕出して」

 

 止める間もなく鈴は俺の腕を肩へと持っていき、そのままゆっくりと歩き始める。仮にも男子高校生一人の体重を支えている筈なのだが、その足取りは異様なくらいしっかりしている。一体この小さな体のどこにそんな力があるんだか……

 

 「ねえ一夏」

 

 「……?」

 

 「あんまり、自分を追い詰めないでね。出来ないとか、情けないって責めるのは、凄く辛いことだから……」

 

 それは、昔から鈴がよく言っていた言葉だった。千冬姉と比べられ、結果を残せなかった俺への慰めの言葉。俺は俺であれ、千冬姉になる必要はないんだと、彼女はそう教えてくれた。今まで離れていたせいか、随分と久しぶりに聞いたような気がする

 

 「……ありがとう、鈴」

 

 ポツリと小さく呟く。それを聞いた鈴は少し驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻った

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 シャワーの音が室内に響く。強い勢いで流れ続けるそれを頭から浴びながら、俺はぼんやりとこれからのことを考えていた。今の自分に必要なものはなんなのか、そう考えた時真っ先に浮かんだ答えが、まるで漫画やアニメに出てくる噛ませ犬のようで思わず自嘲する

 

 「(強さ……か)」

 

 あらためて今の自分という存在を客観的に見てみる。ISを動かせる男であり千冬姉の弟。ISに乗る者なら誰もが憧れる専用機を持っているがその実力は低く、同じ専用機持ちのセシリア・オルコットや鈴に遠く及ばない。これじゃ生徒達のヘイトが集まるのも当然だ

 

 「(強く、なりたい……)」

 

 誰にも負けない力が、誰にも馬鹿にされない力が、大切な人達を守れる力が、その笑顔を守れる力が、俺が俺でいるための力が欲しい。いくら正論を並べたところで力がなければそれは戯れ言と同じだ。力なき者に一体何が出来る?

 

 「(……なら、何をすべきだ?)」

 

 強くなりたいと望むだけでは現実は変わらない。不貞腐れていたってしょうがない。強くなるため、俺に出来ることはなんだ?

 

 「(……駄目だ。練習とか訓練以外の選択肢が見つからねえ)」

 

 溜め息が溢れた。やはり近道はないらしい。あの天才の鈴ですら代表候補生となるまでに一年近い年月を有したのだ、まして特に才のない俺が数日で強くなろうなんざ、厚かましいことこの上ねえ話だ

 更衣室に備え付けられていたシャワー室から出て体を伝う水滴をタオルで拭き取っていると、シャワーを浴びるために外した待機形態の白式が目に入った。白いガントレットが電灯の光を浴びてキラリと輝く

 

 

 

 白式

 

 千冬姉と同じ剣と力を持つ俺の専用機。名の通り純白の装甲をした騎士を思わせる機体。どういう訳かその性能はセシリア・オルコットのブルー・ティアーズよりも高いらしいが、乗り手である俺の技量不足によりその性能を引き出すことは出来ていない

 

 

 

 確かに白式はピーキーな機体だ。ブレオンとか何事だよと思うし、とても素人が扱えるようなISではない。いや、素人でなくともこれを使いこなすことは難しいだろう。何せこいつは、あの千冬姉の力を持っているのだから。宝の持ち腐れもいいとこだ

 

 だがしかし、仮にその力を余すことなく使うことが出来たなら?

 

 かつてのモンド・グロッソで見た、千冬姉と同じ戦い方が出来たなら?

 

 「(そうなったら……きっと……)」

 

 誰も俺を馬鹿にしない。誰も俺を「織斑千冬の付属品」と言わない。今みたいに惨めな気持ちになることもなければ、大切な人だって守れる。そんなもしものことを想像しながら俺は白式を右腕に装着し、水滴の残る腕で着替えへ伸ばした

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 五月第二週目、クラス別対抗戦当日、異様な程に賑わうアリーナの客席に俺は立ち尽くしていた。一年生のイベントだというのに二年生や三年生らしき姿もよく見つかる。そんな観客全員に言えることは、試合が始まることを今か今かと待っているということだろうか。ボサッとしてるとざわめく会場に圧倒されてしまいそうだ

 

 「おりむー!ここだよ~!」

 

 不意に俺を呼ぶ声の方を向けばいつものメンバーが既に席を確保してくれていた。ありがたい。俺は彼女達のところへ行くべく、人混みの中をなるべく慎重に進んだ。うっかり見知らぬ生徒の触ってはいけないところを触って騒ぎになるのはごめんだからな

 

 「お待たせ……って、おおっ!最前列とか特等席じゃんか!」

 

 「えへへ~、凄いでしょ~」

 

 得意気に笑う布仏さん。こんな一番いい場所を複数確保するなんて一体どんな手段を使ったのか。まぁ今はそのご厚意に甘えさせてもらおう。俺は彼女に礼を言ってから空いていた席に座った

 

 「それにしてもすげえ人の数だなぁ……」

 

 「それはそうだろう。今から行われるのは中国とイギリスの代表候補生同士の試合だ。しかもお互いに専用機持ち、学園の生徒なら気にならない方がおかしいくらいだ」

 

 何気なくぼやいた言葉にほーきちゃんの一言が突っ込まれる。そこに食いついたのは谷本さんだ

 

 「織斑君は凰さんとオルコットさん、どっちが勝つと思う?」

 

 「そりゃあ鈴……と言いたいところだが、果たしてどうなるのか分からんね。セシリア・オルコットも強いからな」

 

 やはりあのBT兵器、ビットは驚異だ。映像でしか見たことはないが、四方向から牙を剥くレーザーに対処出来なければ、流石の鈴であっても厳しい試合になるだろう。鈴には鈴で()()()()もあると言っていたが……それが鍵になるかもしれねえな。とまぁ、素人に聞かれてもよく分からんので詳しい人に聞いてみようか

 

 「ボーデヴィッヒはどっちが勝つと思う?」

 

 「……?」

 

 突然話題を振られたせいか、一瞬だけポカンとした表情をボーデヴィッヒは作った。なんだかんだで彼女も随分表情豊かになったな。少し過去を聞いた身からすれば嬉しい限りである

 

 「どうよ?」

 

 「む……簡単に言うなら接近すれば凰が勝ち、逆に接近させなければオルコットが勝つだろう。操縦技術に関しては二人にそこまで大きな差はないように思える、故にどちらが早く自分の得意な間合いに持っていくか、それ次第だと私は考える。ただ安定性重視の凰に比べ、オルコットのBT兵器は奴のイメージに依存している。何かしらの方法で動揺を誘われれば不利になるのはオルコットだな」

 

 おぉ~、と周りから関心の声が上がり、今度は少し気恥ずかしそうな顔をして咳払いをした。ホント表情豊かになったな、ボーデヴィッヒ

 

 「見ろ、オルコットだ」

 

 ほーきちゃんの一言に皆がアリーナの方を向く。まるで海のような蒼のカラーリングに備えられた大型のライフル。間違いない、セシリア・オルコットとその専用機、ブルー・ティアーズだ。その姿を見た瞬間、脳内に惨敗した記憶が蘇って思わず鳥肌が立つ

 程なくしてもう一人の主役、鈴もまたアリーナへと飛び出してきた。その顔つきはいつにも増して真剣だ。役者が揃ったことによりアリーナは一気に盛り上がり、あちこちから声援やらが飛び交うようになった

 

 『楽しみにしていましたわ、凰鈴音さん。今日この時を』

 

 セシリア・オルコットの声がアリーナに響き渡る。俺達にも聞こえていることからどうやら開放回線(オープン・チャネル)による会話のようだ。先程まで騒がしかったアリーナが嘘のように静まり返り、皆があいつの言葉に耳を傾ける

 

 『クラス代表同士、代表候補生同士、正々堂々と戦いましょう』

 

 『……あ、そう。どうでもいいわね、そんなこと』

 

 心底どうでもよさそうな鈴の様子に俺は昔を思い出す。気に入ったことにはとことん夢中になる彼女だが、逆にどうでもいいことには本当に興味を抱かないのだ。当たり前のことかもしれないが、鈴の場合はそれが顕著だった。今頃鈴はあの鋭い目でセシリア・オルコットを睨み付けていることだろう

 

 『あたしがやることはたった一つ。アンタに負けた一夏の代わりにアンタを倒す、そんだけよ。代表候補生だとか、そんなの関係ない』

 

 『一夏……あぁ、あの男ですか。分かりませんわね、あの男のどこに執着する理由があるのか。私には到底理解出来ませんわ』

 

 『別に理解しなくてもいいわよ。してほしくもないし』

 

 そう言いながら鈴は双天牙月を両手に構えた。こんな皆が見てる前で話題に出されると恥ずかしいな。まぁ今更な気もするけど……

 

 『そうですか……では……』

 

 セシリア・オルコットのライフル、スターライトmkⅢが鈴を捉える。そのタイミングで、見計らったかのように試合開始を告げるブザーが鳴った

 

 『お別れですわね!』

 

 俺の時と全く同じ、始まりと同時に奴のライフルが放たれる。両者の間にある距離は僅か五メートル、一秒足らずでアリーナの端から端に到達するライフルの前には無いに等しい距離だ。蒼い光のレーザーが甲龍に突き刺さる……寸前、鈴は素早く機体を旋回させて直撃を免れた。その凄まじい反射神経だ、俺を含め、そしてボーデヴィッヒを除いた皆が唖然とする

 

 『やぁああああああああああ!!』

 

 『ブルー・ティアーズに近接武器で挑むとは!代表候補生が聞いて呆れますわ!』 

 

 アリーナを縦横無尽に飛び回りながらライフルを撃ちまくるセシリア・オルコット。対する鈴は迫り来るレーザーをかわし、そして双天牙月で斬り払いながら追いかける。それらの応酬には一瞬の隙もなく、また無駄もなかった

 

 

 

 レベルが違いすぎる、俺は目の前の光景を見ながら戦慄した

 

 

 

 「(それが専用機の動きだと……?じゃあ俺はなんだ?俺がしてきたことは……一体……)」

 

 俺が愕然としている間にも試合は続く。このままライフルを撃ちまくるだけでは倒せないと判断したのか、ついに切り札たるBT兵器を開放した。肩の辺りに浮かんでいた非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が動き出し、複雑な軌道を描いて鈴に襲い掛かる。その数、合計で四基だ

 

 『さぁ踊りなさい!ブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!』

 

 『お断りね!一人で踊っときなさい!』

 

 四方向から降り注ぐレーザーの雨、下手な操縦者ならば一瞬で蜂の巣になるそれを、鈴はこれまでの経験と持ち前の直感を生かして避けていく。ただ完全に避けることは彼女でも難しいのか、アリーナの電工掲示板に表示されたシールドエネルギー残量が少しずつ減っていく。よく見れば表情にも先程まであった余裕が消え失せていた

 

 『っ!ちょこまか動いて……!』

 

 『無駄口を叩く余裕がありまして!』

 

 ビットの間を縫うようにしてセシリアのライフルによる一撃が放たれる。端から見ている分にはビットに包囲され、更にセシリア・オルコット自身からも攻撃を受けている鈴が圧倒的に不利だ

 状況が変わらぬまま五分が経過する。馴れてきたのか被弾率自体は減っているものの、それでも鈴のシールドエネルギーは削られ続けて残量はおよそ半分になってしまっていた。対するセシリア・オルコットはビット操作に集中しながらもライフルで鈴を狙っている。時々笑みを浮かべる様子がモニターに映されており、鈴よりも余裕があるようだった

 

 『ふふふっ、そちらのエネルギーは残り半分、降伏するなら今のうちですわよ?』

 

 『はっ、笑わせるわ!冗談じゃないっての。これくらいの弾幕、中国(向こう)じゃ散々受けたわよ』

 

 『なるほど、ですがどうやってこの包囲網を破るおつもりです?自爆覚悟で突っ込んで来ますか?』

 

 『それも悪くないわね。ま、それじゃそろそろ……』

 

 

 

 ニヤリと鈴が笑う。同時に、彼女の真後ろにあったビットが()()()()()墜ちた

 

 

 

 『……なっ!?』

 

 「「「「「……え?」」」」」

 

 『反撃させてもらうとするわ!』

 

 鈴の声と共に甲龍が加速し、もう一つのビットへ双天牙月を振るう。突然の出来事に操縦者が動揺したせいか、その動きはあまりに遅い。案の定、ビットはばっさりと斬り裂かれて爆散した。一瞬にしてビットの数が半分になったことで、セシリア・オルコットが焦りを見せ始める

 

 『まずは二つ。どうかしら、龍咆の力は?』

 

 『くっ、それが衝撃砲ですか……!』

 

 してやったりと笑う鈴に苦々しそうに呟くセシリア・オルコット。一方、俺達は聞き馴れない単語に揃って首を傾げていた

 

 「衝撃砲……?」

 

 「空間自体に圧力を掛けて砲身を生成、余剰で生じる衝撃自体を砲弾として打ち出す兵器だ。一直線の弾道だが非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)として搭載してある関係で射角は無制限、前後や上下のあらゆる角度に向けて使えるようだ。おまけに弾数は無限、砲弾や砲身が見えないとなると……」

 

 「かわすことは至難の技、ということか。しかも今凰が狙っているのはオルコット本人ではなくビットの方、自分でないものを操って見えぬ攻撃から守るのは困難だぞ」

 

 ボーデヴィッヒの解説にほーきちゃんが付け足しをする。なるほど、鈴の後ろにあったビットがひしゃげたのは、この衝撃砲によって圧縮された空気の弾丸を受けたからか。砲弾が見えずあらゆる角度に対応するとかとんでもねえ武装だな

 衝撃砲の仕組みが分かったことで試合に意識を戻す。やはりたった二つのビットでは鈴は止められないらしく、一転して鈴が試合の流れを掴み始めた。ビット目掛けて衝撃砲が何度も唸り、その度にセシリア・オルコットの動きが止まる。鈴は奴がビットと機体を同時に操ることが出来ないことに気付いているようだ。衝撃砲を囮として一気に接近するつもりだろう。そこまで考えた時、鈴が動いた。セシリア・オルコット目掛けて一直線に、凄まじい加速で一気に突っ込む

 

 『そ、それは……!』

 

 『はぁあああああああああああああああ!!』

 

 一瞬で懐に潜り込まれたことにセシリア・オルコットが目を見開く。だがその速さ故に鈴も得物を使う余裕はない。繰り出すのは棘付き装甲(スパイク・アーマー)を利用した強烈なタックルだ。ガギィン!と金属音がアリーナに木霊し、同時にセシリア・オルコットのシールドエネルギーが大きく減少する

 

 「ね、ねえおりむー……今のりんりんがしたのって……」

 

 「……瞬時加速(イグニッション・ブースト)だ」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)。スラスターから放出したエネルギーを再び取り込み、二回分のエネルギーを用いて直線加速を行う、ISに於ける加速機動技術の一つ。分かりやすく例えるならゲームの溜めダッシュのようなものだ。その名の通り相手との間合いを瞬時に詰めることが出来るがその難度は高く、また基本的に直線移動しか出来ないために動きを読まれることもある。つまり、使いどころが難しいテクニックなのである

 鈴はセシリア・オルコットがビット操作に気をとられている隙をついたのだろう。状況の判断能力、瞬時加速を成功させる技術、それに度胸、どれか一つでも欠けていれば出来なかった筈だ。だが、鈴はそれをやってのけた。形勢が逆転した

 

 『ぐぅ……!やってくれましたわね……!』

 

 『まだまだ勝負はこれからよ!舐めた真似してるともう一発叩き込んだげるから』

 

 十メートル以上逃げるように距離をとったセシリア・オルコットが息絶え絶えといった具合に唸る。あのタックルを受けた状態からすぐに立て直すのか、やはりあいつも相当な乗り手だ

 誰もが手に汗握る白熱した試合。シールドエネルギーもほぼ同じだ。十メートル程距離を開けた両者が静かに睨み合い、スラスターを噴かした、その瞬間

 

 

 

 ()()は、突然現れた

 

 




 一夏君ワンダフルボディ化。弱すぎてどうにかしなきゃと思うんだけど急に強くしすぎると違和感も出るとかいうジレンマ

 活動報告の方にちょっとしたアイデアを落としてます。見てもらえて、何か言って頂ければ嬉しいです

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