今回、短いです……
鶴見留美の現状を解決する為の作戦は決まった。あとはそれぞれが自分の役割を果たすのみ。
舞台は小学生たちの林間学校二日目最後のイベントである肝試し。そこで鶴見留美を取り巻くクラスの環境を破壊する。
筋書きは、俺が口走った「グループ全員の本性を暴いて互いに人間不信になってもらってバラバラにしちゃおう大作戦」を叩き台にして作られた。つかタイトル長い。
さて。
集団 vs 個。
これが多くのイジメの構図である。ならばその集団を破壊して、すべてを個にしてしまえばいい。
この案を提示したときは葉山たちリア充どもは反対したが、何故か陣雷支部長の「面白えな、それ」という鶴の、もとい熊のひと声で可決された。
肝試しの時刻は迫っていた。
俺たち総武高校ボランティアスタッフは、班を三つに分けた。
一つはスタッフ班。肝試しの手伝いをする係である。ここには龍造寺、戸塚、川崎が参加している。
もう一つは脅かし役。
これは、通常のお化け役の他に鶴見留美の班を破壊する任務も担っている。
これには葉山、戸部、三浦、海老名さんの四名が森の中でスタンばっている。
残るは俺たち奉仕部だ。
俺たちの役目は、脅かし役のサポートとなる。詳しくいえば、由比ヶ浜が誘導係、俺は雑用、雪ノ下は状況を見て予定を調節する頭脳労働担当だ。
肝試しは滞りなく進み、残るは鶴見留美の所属する班のみとなる。
さあ、皆々様。ここからが正念場だ。
各自奮闘を期待する。
──以上。
「──何を傍観者気取りでぬぼーっとしているのかしら。行くわよ。早くなさい」
あ、やっぱり俺も働くのね。
* * *
木々の間から葉山たちのいるポイントを覗き見ると、最終組となる鶴見留美たちのグループ五人は既に辿り着いていた。
「あれー、普通の格好だー」
「もっとやる気出してよー、全然こわくないしー」
今声を上げた二人がグループの核をなす女子か。
さて、本当の恐怖はこれからだ。覚悟しろよ、小学生ども。
小学生達の前にいるのは戸部だ。その斜め後ろ側に三浦、その更に後ろに葉山が控えている。この布陣は俺が指示したものだ。
戸部は下っ端として振る舞い、三浦が傍若無人な言動で小学生達を黙らせる。葉山はあくまで後ろに控えてラスボス感を出す。戸部は下っ端だ。
大事なことでも無いのに二回も言ってしまう程に下っ端の戸部の下っ端感は素晴らしかった。どうでもいいけど。
「葉山さぁん、こいつらどーします?」
うん。下っ端の見本として図鑑に載せたいくらいに様になっている。普段ならデカいのや童貞風見鶏がいるから目立たないが、やはり戸部は下っ端顔だ。
ベストオブ下っ端。キングオブ下っ端である。
その下っ端キングは獄炎の女王をも焚き付ける。
「優美子ぉ、どーすっか」
さすが下っ端キング。自分で判断せずにお伺いを立てるような言い回しが本当に様になる。
「つーかさぁ、さっきあーしらに文句言ってたの、誰?」
うはぁ、超こわっ。こちらもさすがだ。精神的圧迫にかけては三浦の右に出る者はいな……いや、すぐ隣にいたな。
「……随分と失礼なことを考えている様だけれど、あの子達が予想通りの行動をしなかった場合は、どう対処するのかしら」
おっと、心を読むなよ雪ノ下。あとその不穏な空気醸し出すの、やめてね。
「大丈夫だ。たとえ上手くいかなくても、互いの不信感は生じる筈だ。目的はそれで達成だ」
物理的に分裂しなくとも良い。大事なのは、あの班全体的に不信感の種を植え付るのが目的なのだ。
「この中の半分だけ許してやろう」
小学生グループに動きがあった。
俺が葉山たちに出した指示はこうだ。
『いちゃもんをつけて、グループの半数の小学生を犠牲にさせろ』
……我ながら最低最悪な案だな。
予想通り、真っ先に切り捨てられたのは鶴見留美だ。
まずは異端を犠牲にする。いつの世も変わらない人間の本性だ。
さて、ここからが本番だ。誰を切り捨てても禍根が残る状況。さあ、小学生たちはどう切り抜けるのか。
「ご、ごめんなさい……」
ふむ。やはり許しを乞うてきたか。
だがそれも織り込み済みだ。と、ここで驚かし役の由比ヶ浜も合流、小学生たちを見守る。
「謝罪をしろとは言っていない。半分ここに残れ、と言っているんだ」
正直、俺でも反吐がでる程嫌なこの役を葉山が買って出た時には驚いた。
「みんな仲良く」
これをお題目にする葉山隼人が何故、とも思ったが、葉山は葉山で考えがあった。
『俺みたいなのがやる方が、インパクトあるだろう』
確かにその通りだ。
葉山は正確に自分の評判や立場を理解している。だが、その爽やかな表情はどこか能面のようであり、その面の下では常に他の何かに思いを馳せているようにも感じられる。
だが、その時の葉山の表情は違った。
自分から嫌われ役を買って出たというのに、何故そんな「後悔」をしているような顔をするのか。
「あの……」
小学生の声で思考の海から上がる。
声を発したのは鶴見留美だ。その声に反応した葉山たちの視線が留美に向いたところで、留美の手にあるデジカメのフラッシュが光った。
「──走って!」
閃光に目が眩んだ葉山たちを後に、留美の号令一下小学生たちが走り出す。
ああ、お前もお人好しなんだな。もしくは物好きか。
グループのメンバーが走り出すのを見届けた後、目眩しの追加とばかりに再びデジカメのフラッシュが光った。
すぐさま留美自身も身を翻して走り出す。が、走り出した瞬間に「何か」に当たって尻餅をついた。
その「何か」は「誰か」であった。
身長は葉山や戸部よりも低く見えるその「誰か」は、鶴見留美を優しく抱き起こす。
が、その姿は異形そのものだ。柔道か空手か、白い道着を着込んでいるのだが、何より不気味なのはその頭部を覆う黒い覆面だ。
あの顔面いっぱいに白抜きで大きく書かれているのは……梵字ってやつか?
「──へぇ、総武高校の生徒さんは小学生をいじめる様な外道なのかよ」
梵字の下から響く聞き慣れない声に緊張が走る。誰だ、誰なんだ。
だが肝心のその姿は葉山達の影に隠れて見えなかったが、くぐもった声だけは耳に届いた。
「おい、比企谷八幡はどこだ」
お読みくださいましてありがとうございます。
……実はですね、この話を含めて書き溜めていたプロットや下書きが、全て消えてしまいまして。
という不幸な出来事(凡ミス)の為に、今後の投稿がかなり遅くなるかも知れません。
どうかご容赦ください。