ナムストーン   作:kirimonji

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ケムンアタテュリュク

ケムン アタテュリュク。

ケムンはトルコ建国の父ケマル アタテュリュクの遠い親戚に当たる。

 

ケマルのおかげでトルコは列強に占領されることなく旧イスラム体制

を倒して独立を勝ち取った。文化政策ではアルファベットを取り入れ

一大民主国家として再生することができた。

 

ケムンの父は元軍人で今だいろんな分野の人脈に通じている。

ケムンはその5人兄弟の末っ子であった。学問が好きで将来は

大学で歴史の教授になるのが夢だ。

 

実家は首都アンカラの近郊だが歴史そのものの町イスタンブール大学で

歴史を学ぶことを決めていた。イスタンブール。東西要衝の地。

 

遠くはビザンティン、東ローマ帝国の時代からアレキサンダー、ペルシャ、

イスラムオスマントルコ。アジアとヨーロッパとの接点。

 

ロシア南下政策とのしのぎあい。キリスト教徒とイスラム教徒の戦いの跡。

東西冷戦のハザマ。この町ほど歴史に大変動の連続があった町はない。

 

あまりの歴史の重さに書物に疲れたときにケムンは、

ブルーモスク近くの壊れかけた砲台跡にたたずむ。

 

ここからはガラタ橋がよく見える。ボスボラス海峡を

挟んで橋の向こうがウシュクダラ、アジアだ。

 

シシカバブといわしのから揚げをほおばりながら

じっと海を見つめる。またコーランが鳴り響き始めた。

 

そうしたある日、いつものようにケムンは砲台跡にたたずんで

じっと海を眺めていた。曇り空で今にも雨が降りそうだ。

 

黒雲に稲妻が走った。まちがいなく雨が降ると分かっている

のに不思議と走って教室に戻る気持ちにはならなかった。

蒸し暑い初夏のせいでもあったのか。

 

 

全市街に鳴り響いていたコーランの声が鳴り止んで雷鳴が轟いた。

アジアの地から稲妻が西に走る。降ってきた、ぽたぽたぽた、大粒の雨が。

 

そして一気に降り注いできた。雨粒が体に痛い。カッターシャツがびっしょり

と濡れて体にへばりつく。頭髪も大雨に打たれて目口鼻まで雨水が降り入る。

 

滝のように流れる雨、全身びしょぬれだ。体がズーンと重たくなって金縛りに

あったみたいだ。手足を動かすのが禁を破るほど罪深く思えた。

 

しばし頭こうべをたれて大粒の豪雨の中にたたずむ。

吸い込む息さえ雨水の如しだ。身も心もすっかりと洗い流されて心の底から

何か熱き思いがじわっと湧き上がって来た。

 

さあわが人生頑張るぞと不思議なエネルギーが体の隅々までみなぎってきた。

手足を思い切り伸ばし大きく深く息を吸い込んでゆっくりときびすを返した。

 

ケムンは寮に戻るとシャワーを浴びて全部着替えた。さっぱりとした

気持ちで机に座る。ふと右のポケットに手を入れると何かがある。

 

着替えたばかりで何もないはずなのに?

「石だ?へんな形の奇妙な石だ。薄紫色に光っている」

 

ケムンはあまりの美しさにしばし見とれてしまった。

「これは宝石だ。大切にしまっておこう」

 

時々机をあけてみるといつも石の色が違うのに気がついた。

それから数日後。

「アンビリーバブルストーン、ドンチュウノウ?」

 

日本発のツイッターだ。もしやと思ってアクセスすると、

間違いない。ナムストーンと言うそうだ。

 

早速ケムンはオサムオサナイにメールを送った。


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