ナムストーン   作:kirimonji

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予兆

太陽から何兆キロメートルも離れた冥王星の外太陽系宇宙の果てに

 

数千億個の彗星の巣があるという。

 

 

 

 

この太陽を中心とする一番外側の辺境の彗星雲オールトの中で

 

ほとんどの彗星のもととなる星が一生をかけて極寒の暗黒空間の中を

 

ゆっくりとゆっくりと太陽の周りを公転している。

 

 

 

 

今から230万年前のある日この中の一番大きな星がことりと太陽

 

に向かって落ち始めた。大宇宙の瞳が遠い地球という美しい星に

 

憐みの瞬きを送ったからだ。

 

 

 

 

この星は230万年の長旅を経てやっと惑星のいる領域にたどり着いた。

 

土星から木星にかけてその強力な引力で軌道が捻じ曲げられて、火星

 

から地球への直撃コースに定まった。

 

 

 

 

まだ地球上の誰も気が付かない。黙々と太陽接近への道のりを進んで

 

くる。この星が火星と木星間の小惑星群に突入したときはじめて探索機

 

に探知された。

 

 

 

 

そしてそれはじわじわと宇宙の光と影の中を縫うように地球に接近して

 

いた。地球の数十倍の容積を持つその巨大ガス状彗星は急速に濃縮拡散

 

を繰り返しながら、

 

 

 

 

あたかも天空のアメーバのように地球を目指していた。

 

その軌道は狂うことなく地球を一直線に貫いていたのだ。

 

 

 

 

6月に入って京都はうっとおしい梅雨に入った。

 

その日も蒸し暑い曇り空だった。

 

オサムオサナイは胸騒ぎを感じて石を見た。

 

今日の梅雨空のように暗く沈んでいる。

 

 

 

 

ナムストーンと囁くと申し訳なさそうに

 

僅かばかり明るくなるだけだ。そのとき、

 

ナセルからメールが入った。

 

 

 

 

「ハワイのキラウェア天文台に電話が通じません。

 

ハワイのメンバーに動いてもらってはどうでしょうか?」

 

「了解しました。すぐ連絡をとってみます」

 

 

 

 

確かにキラウェアには全く通じない。

 

ハワイにはすでに数十人のメンバーがいて

 

中心者のカメハメハはハワイ大学のメンバーとともに

 

5人で空中飛行をたびたび繰り返している。

 

 

 

 

キラウエアには光る石もある。さっそくカメハメハに

 

動いてもらったが、天文台はすでに米国海軍によって

 

封鎖されているとのことだった。

 

 

 

 

オサムオサナイは全世界200か国の中心メンバーと

 

大英博物館を通じて350か所の光る石所持者に向けて

 

緊急連絡第一号を発した。

 

 

 

 

「近いうちに地球規模での大事件が発生しますので、心して石を

 

見守っていてください。少しの変化でもあればみんなと連絡を

 

取り合い全世界にナムストーンの渦を巻き起こしていきましょう」

 

 

 

 

その頃世界各地の大型望遠鏡を持つ天文台はすべて各国の軍隊に

 

よって封鎖されていた。

 

 

 

 

アメリカ合衆国、ニューヨーク国連本部、ペンタゴン、ホワイトハウス

 

はこの日厳しい報道管制がしかれた。

 

 

 

 

「公式発表はまだ先だ。押さないで押さないで。今再分析中だから

 

発表までもう1日かかります。まだ不必要に騒がないでください!」

 

 

 

 

世界各国のマスコミは一様に息をひそめその時を待った。

 

丸一日がたった。6月10日未明、国連から全世界に向けて

 

重大発表がなされた。

 

 

 

 

「全世界の皆様へ緊急連絡です。こちらは国連事務総長のアナン

 

ムサバキです。これから全世界の良識ある皆様へ、驚くべき事実を

 

公開しなければなりません。どうか動揺することなく冷静に対処

 

していただきたいと思います」

 

 

 

 

全世界が注目する一大発表が始まった。

 

 

 

 

「ハワイキラウェア天文台が科学研究誌5月号に『3年後の8月25日、

 

巨大彗星がこの地球に衝突する確率は80%』と報告され、世界中の

 

天文学者が『何という無責任な重大発表を専門誌に流すのだ、至急訂正

 

しろ』という抗議の元再分析をした結果翌月に訂正記事を出しました」

 

 

 

 

ブラジルではサッカーの試合を中断し皆大型スクリーンにくぎ付けに

 

なった。ニューヨークの証券取引所も急落が続き緊急に取引を閉鎖した。

 

 

 

 

「全世界の有名天文台に再度詳細な分析をお願いしました。その集計結果が

 

本日出ましたので発表いたします。グリニッチ時刻8月15日午前1時

 

ガス状巨大彗星が月に衝突引き続き9時間後の午前10時に地球に衝突いた

 

します。確率は99%です。この彗星は濃縮拡散を周期的に繰り返す巨大

 

 

 

 

ガス状彗星で質量はほぼ地球と同じですが拡散したときは地球の10倍の

 

容積になります。計算では月面に衝突時の密度は地球の4倍、地球衝突時

 

が5倍位になります。地球通過時間は約30時間、衝突時にはどうなるか

 

との予測は全く不明であります。どの程度の被害が出るかもわかりません」

 

 

 

 

深夜の渋谷電光掲示板にニュースが流れる。人々は足を止め近くのモニター

 

画面に人垣ができる。バーもクラブも一瞬音楽が鳴りやんだ。

 

 

 

 

「がしかし対策はあります。この後米大統領に詳しい説明をしていただき

 

ますのでご安心ください。真実をありのままに今申し上げました。いまこそ

 

全人類大結束してこの彗星の通過に耐え抜こうではありませんか。それでは

 

引き続き万全なる対策マニュアルをブッシュ大統領にお願いいたします」

 


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