俺たちの冒険の書No.001〜ロトの血を引きし者〜   作:アドライデ

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番外:王の中の王

 

 我が名は竜王。気高き信念を持ち、全ての頂点に君臨する王の中の王。

人々が栄え、愚かにも衰退していく様を日々目にしてきた。高貴なる存在。

 

 人々は我を恐れ、機嫌を伺う。我が人間如きに左右される訳がないと言うに…。人間共に分かりやすく言うなれば、地べたで蠅が這いずり回っていることに意識を向けるか? 我の側でブンブン飛び回る事の方が目障りであると言うものだ。

蠅に機嫌を伺われて、良くなると思うか?

抑々が異なるのだ。そんな事を説明しなければいけない時点でこの討論の無意味さが分かるだろう。時間の無駄だ。

 

「…ワシに何か用か?」

 静かに見つめるは緑の鱗を持つ【ドラゴン】

先日何を考えたのかラダトームのお城の人間の姫君を捕獲し、幽閉した。

「貴方ハ、変ワラレタ。人間ヲ、畏レテイル」

「ワシが人間を? 面白い事を言う」

 喉の奥で笑う。手に転がすは数十年前に剥奪した光の玉。闇の衣に包まれてもなお、淡い光を帯びている。侵食を許さぬ力強さを垣間見る。

「アノ時、何ガ、アッタ?」

「あの時…何時の事だ」

 肘掛けに肘を置き、見下す。身体の大きな【ドラゴン】はこの人を模したような姿の竜王が小柄に見える。しかし、その背後から見え隠れする負のオーラが禍々しく、震える己の身体に叱咤する。

「何故、人間ト、交渉シ。町ヲ、滅ボシタ!」

 

 この場に町の名称を覚えているモノは居ない。人が付けた呼び名はドムドーラ、大陸で一番発展した都市メルキドと王の居る城を結ぶ物流の要。多くの商人がそこに店を構えていた。

 

「彼奴はワシと取り引きして、成立した。唯それだけだ」

 取り引きといえど、一方的な選択肢の開示をしたに過ぎない。しかし、取り引きの主は町を捨て、家族だけが生きる道を選択した。

「勇者ナノカ? 勇者ヲ、畏レテイルノカ?」

 取り引きの主が所持して居た防具。古の勇者が装備して居たと言う精霊ルビスの加護がある鎧。その鎧は、死して肉体が魔物化しても尚、その場に止まり、奪いくるモノを殺害するだけの哀れな躯に護られている。

「勇者か、それはどのような存在だ? 蠅が幾ら集まろうと五月蝿いだけぞ」

 実質、光の玉を盗まれた人間は幾度かこの城に取り返すべく乗り込んで来た。その都度、取り引きを楽しませてもらった。誰もが屈強で、そして愚かであった。この城にいる騎士の大半はその成れの果てである。闇に呑まれ、闇に染まりし躯だ。

「王ヨ。主ハ、何ヲ、考エテイル?」

 意味もなく町を滅ぼしたのだろうか。あの竜王が? 気高き孤高の精神を持つこの竜が、気紛れを起こしたと言うのだろうか。

「ワシの存在を言え」

 静かにしかし反抗を許さぬ声で命ずる。気をされた【ドラゴン】は思わず数歩下がり、見上げて居た視線を外す。

「……王ノ中ノ王」

 その返答に笑みを深め玉座から立ち上がり、ゆっくりと近づく。相も変わらず背後から漏れる闇の影が竜王に纏わりつく。

【ドラゴン】は思う。何時からだろう、この影が色濃く見えるようになったのは…。この闇を打開する光の玉の使用方法を熟知している人間が居るのだろうか。

「そうだ。お前が何を企んでおるのか。ワシは敢えて問わぬ。余計な詮索はせぬのが長生きの秘訣。そうだろう?」

 数十年前に主の心が変わった。変わったように感じた。しかし、予兆はその前からあったのではないだろうか。それは何時?

答えが見出せぬまま、【ドラゴン】は城を後にする。毒沼が広がるその洞窟へ、光の玉を継承して来た人間の姫が、打開方法を知って居る事を期待して…。

 

「古くから使えしモノは油断ならんな」

 逃げるように飛び去った【ドラゴン】を後目に竜王は笑う。弱肉強食、食うも食われるも自然界の摂理、生態系を壊すまでの破壊には興味はない。興味が無いはずである。

「勇者よ。ワシは待ちくたびれたぞ」

 世界が闇に染まり行く年が過ぎたか。

背後の闇は我を襲い食い尽くそうとする。絶望と破壊の申し子。勇者に敗れた怨念とも呼べる悪意の塊。

 

 例え、この体が朽ちようとも、我が心は誰にも渡さん。

我は誇り高き竜族の王。全ての頂点に君臨する王の中の王、竜王なるぞ。

 

END


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